日本には「湯治」という文化があります。

おじいちゃん、おばあちゃんが、朝風呂に入っておしゃべりして、畳でごろごろ……というイメージかもしれませんが、実は、とびきり楽しい旅のスタイルだったのです。

私が以前、経験したすばらしい旅をご紹介しましょう。

場所は秋田県湯沢市の秋の宮温泉郷。ちょとマイナーですが、源泉が50箇所もあり、アルカリ性単純泉やナトリウム塩化物泉、単純硫黄泉と、違う泉質の湯に浸かりまくることができる、お湯の良さは間違いなしの温泉郷です。

10軒ある宿の中から、自炊設備のある宿を選びました。湯治は、この「自炊」がキーワード。朝市で地元の方とおしゃべりしながら野菜を買い、新鮮な土地のものを自分の好きな時間に好きな量を好きな味付けで調理して食す。地元の方におすすめの調理法を聞いたり、ほかの宿泊者とおかずの交換をするのも楽しみです。自炊宿は鍋やお皿、包丁などはすべて貸してもらえるので、荷物の心配はいりません。炊飯器もあります。私は秋田名物のきりたんぽ鍋や、朝市で買ったきのこをどっさり入れたきのこうどんを作りました。

さて、食事を作る以外は何もすることがありません。温泉に飽きるほど入るだけです。朝は目覚ましにひとっ風呂、昼は気分転換にひとっ風呂、夕方は汗を流すためにひとっ風呂、そして寝る前にもひとっ風呂。もう、指先も頭もふにゃふにゃです。でもいいんです。湯治ですから。日頃の面倒くさいことはすべて流れていきました。泊まっている宿だけではなく、ほかの宿に外来入浴して湯めぐりを楽しむこともできます。

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あとは、気の向くままにお散歩へ。川を眺めながらぼーっとしたり、生活道路を歩いてノスタルジックな商店をのぞいたり、無人野菜直売所を物色したり……。ちなみに私は地図をたよりに、源泉のひとつを探して林へ入りました。ただし、危険なのでみなさんにはオススメできません。

秋の宮温泉郷ならではの楽しみをご紹介すると、河原に温泉が湧いているので、自らスコップで石を掻き分けてマイ風呂を作れることです。野趣あふれる入浴を満喫できますよ。

長く滞在していると地元の方と顔なじみになることもしばしば。方言で話しかけてもらうと、なんだか心が和みますね。

ーなんにもしない旅行。

たまには、こんな旅もよいではありませんか?


私はこの秋の宮温泉郷に、最初は取材の仕事で訪れたのですが、気にいったのでプライベートで登山仲間と再訪して虎毛山に登り、さらに翌年は家族とも訪れ、計3回も行きました。

お世話になった自炊宿はこちら。
元禄15年(1702年)開業。”延命泉”と呼ばれて人気があり、地元の方も入りに来る「新五郎湯」(2021年1月閉店)

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