夏のシーズン中、登山客であふれ返す富士山。ひと頃の「山ガール」なんて言葉がはやった時に比べれば、幾分おさまった感のある富士登山ブームであるが、2013年6月、世界文化遺産となってからは、外国からの観光を兼ねた登山者が増え、昼夜を問わず相変わらずにぎわっている。

富士登山の4つある主要ルートのひとつ、富士南麓に位置する富士宮ルート。この富士宮ルートへの玄関口であり、裾野市が管理運営する水ヶ塚公園駐車場には、夏のシーズン、大きなリュックを背負い、分厚い靴底の登山靴を履いた人たちでゴッタがえす。優に1000台は止められるであろう広い駐車スペースには、夏の間は主人を待つ車で埋め尽くされる。日本の最高峰の頂きに立つことを目標に、これからの数時間、疲労と薄い空気と自分の萎えそうな気持と格闘しながら、ひたすら頂上を目指す… シーズンならここに車を止め、標高2400m地点にある五合目登山口まで行くシャトルバスに乗るための中継地点に過ぎない場所であるが、今は初冬、その人影はみられない…

富士山麓に本格的な冬が訪れる頃には、深い雪が降り積もり、容易に人を寄せつけなくなる。

そうなる前に、もう一度、富士の樹海をたずねてみよう…
ここ水ヶ塚公園で車を降り、その先に広がる富士の樹海の中へ足を踏み入れてみることにする。

シーズン中であっても、ここから富士山頂を目指す人は一部の健脚者以外ほとんど見かけない。

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富士山に一度でも訪れたことがある人ならお分かりだと思うが、五合目から上は、ほとんど生い茂る木もない荒涼とした溶岩の山だ。しかしここは違う…
一歩足を踏み入れたら「あの岩だらけの富士山」のイメージが覆される瞬間である。

豊かな土壌でしか育たないブナやカエデ、ミズナラといった落葉広葉樹の森が広がる。

スコリアが敷き詰められた五合目から上の硬く滑りやすい登山道とは違い、落葉によってできた軟らかい道が続く。

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更に森の奥へと進めば、車道を通る車のエンジン音もいつしか遠のき、ふと歩みを止めてみると、ただただ自然が作り出す音のみが耳に届き、時折、精霊たちの話し声でも聞こえてきそうである。

そして、五感を研ぎ澄ますことにより、更に感じられるものが増えてくる。

登山道にうっすらと積もった雪の上には、よく見るとシカや小動物の足跡が散らばり、いつしか脇のケモノ道へとそれてゆく。

ふと何かの視線を感じ、森の奥に目を凝らしてみると、そこには森と同化しかけたカモシカが、微動だにせずこちらの様子をうかがっていた。 ここまで来る間にも、もしかしたら〝森の侵入者″を樹々の間からジッと観察していたのかもしれない…

その時ふと気が付いた。
ここはもう、いつもとは違う空間、非日常の世界なのだと…

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