25年という歳月を、捜索・救助レンジャーとしてグランドキャニオン(米アリゾナ州)で過ごしてきたBil Vandergraff氏。ハイカーたちの旅を見守り、時にアクシデントに見舞われた人々を助けてきた。
今回は、グランドキャニオンという大自然を知り尽くす彼が、引退を前に語った8つのサバイバルTIPのなかからいくつかを厳選してお届けしたい。
自分の頭で考え、そして打開せよ
グランドキャニオンのような大自然を旅するには身体的トレーニングだけでなく、さまざまな知識の習得が必要である。しかし、それと同じくらい、旅を自力で成し遂げようとする心構えも必要だという。
例えばこんなことが実際にあるという。グランドキャニオンの自然に足を踏み入れたはいいが、「戻ることができない」「進むことができない」という救助要請がくる。だが、状況を確認してみると、ハイカーの手足は動く。呼吸も問題ない。では問題は何なのか。それは頭だけ、すなわち思考だけが停止していることがあるそうだ。どんな状況に陥ろうと、まずは自らの頭で考え、打開しようとする精神的な強さ、そういったものを常に持ち続けて旅に臨んで欲しいと彼はいう。
臨機応変に対応せよ
山歩きの服装として、透湿性・速乾性の低い綿素材はタブー視されている。しかし、グランドキャニオンを知り尽くしたVandergraff氏は、それは時と場合によると言っている。例を挙げるなら、グランドキャニオンの日中気温が38℃を超すような真夏日。こういった日は、綿素材の衣類を身につけ、しかも常に濡れた状態に保ちながら歩くことをすすめているそうだ。
もちろん、綿素材をすすめる条件は限定的であるが、一般に知られるハイキング知識は、時として無意味になることもある。彼が言いたいのは、自然には1つとして同じ環境はないのだから、その環境に合わせたハイキングスタイルやテクニックを身につける適応能力こそが重要ということなのだ。
欲張ることなかれ
ある時Vandergraff氏は、谷底にあるロッジを目指す家族連れに出会った。驚いたことに、父親はローラー付きの大きなスーツケースを引いていおり、グランドキャニオンの谷底までそのスーツケースを持って行こうとしていた。スーツケースは既にボロボロで、空中分解寸前の状態。危険と判断した彼はその家族を引き返させたそうだ。
少しでも豪華なキャンプ暮らしを楽しもうと、その家族は容量の多いスーツケースいっぱいに荷物を詰め込んできたようだが、その欲が裏目に出てしまった。とにかく欲張り過ぎない。それが大切だという。そして、この欲張らないという考え方は、旅のスケジュールを立てる際にも役立てて欲しいという。
その他にも彼は、自然災害に対する注意点や、知識不足や過信が招くケガや病気、アクシデントなどについても触れており、これらに対しても十分な対策を講じて出かけて欲しいとアドバイスしている。
Nature Service では自然に入ることを皆さまにおすすめしているが、やはり予測不能なことも起こり得るのが自然というもの。これから年末年始にかけて旅の予定を立てている人もいると思うが、もう一度旅程や装備、目的などを見直し、無理のない安全な旅をぜひとも楽しんでいただきたい。
今回の記事に関して全文を知りたい方は、下記サイト(英文)よりご覧ください。
8 Survival Tips From a Grand Canyon Rescue Ranger|BACKPACKER
Annette McGivney (意訳:菊地薫)
Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。