2023年6月に学術雑誌『Nature Communications』に掲載された研究で、北極海の海氷は早ければ2030年代の9月中に完全消滅する可能性があると発表されました。これまでの予測よりも10年以上も前倒しとなる予測で、地球温暖化による危機が迫っていると科学者たちは警告しています。今回は「The Arctic could be ice-free in the summer by the 2030s. What experts say it could mean.」と「The Arctic may be sea ice-free in summer by the 2030s, new study warns」の記事を参考に、研究結果の概要と北極圏の海氷の重要性を紹介します。

予測はなぜ早まったのか?

これまでの研究では北極圏の海氷は2050年の夏までに消失すると予測されていました。しかし、なぜそれが10年以上も早まったのでしょうか。これまでは気候条件やそれに関連する要因を元に、コンピュータプログラムを使用して将来の気候や気象パターンを推測していました。これが気候モデルです。しかし、『Nature Communications』に掲載された新しい研究では、研究者たちは1979年から2019年までの衛星画像と既存の気候モデルを比較、分析することで北極海の海氷がどのように変化しているかを評価しました。

その結果、衛星画像は気候モデルが予測するよりも北極の氷の減少が顕著であることを示していました。著者の一人であるカナダの環境・気候変動科学者ネイサン・ジレット氏は、「これまでの気候モデルは、海氷の減少を ”著しく” 過小評価していた」と述べています。そして、著者らは今後人類が温室効果ガスの排出を大幅に削減したとしても2030年代までにほぼ北極圏の海氷は完全に消失する可能性があると予測しました。

北極圏の海氷はなぜ重要なのか?

北極海の海氷が消失すると、地球にはさまざまな影響が生じます。海氷は、氷上で生活するホッキョクグマやアザラシ、氷の下で生活するクジラなど多くの生物にとって重要な生息地や餌場となっています。そのため、海氷が減少したり消失したりすれば、食物連鎖や生態系のバランスに変化が起き、一部の種の生存に影響を及ぼす可能性があります。

また、北極圏の海氷は、太陽光を反射して地球の気温を下げる役割も果たしています。明るい氷は暗い海よりも反射率が高いためです。しかし、海氷が減少すると反射効果が低下し、海水や陸地の熱吸収が増えるため、地球全体の気温上昇をさらに促進する可能性があります。

研究の筆頭著者である韓国の浦項工科大学校のミン・スンギ教授は、「北極の温暖化は、北半球の中高緯度地域に熱波、山火事、洪水などの異常気象をもたらすことを示唆している。氷のない北極が予測よりも早く始まることは、極端な現象が予測よりも早く発生することを同時に意味している」と述べています。そして、ミン氏はこうも言っています。「今回の調査結果は北極圏が ”深刻な病気” に陥ろうとしていることを示している」と。

(参考)
The Arctic could be ice-free in the summer by the 2030s. What experts say it could mean.
The Arctic may be sea ice-free in summer by the 2030s, new study warns

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