「ごみのない美しい海をながめながらコーヒーを飲みたい」

2024年11月に設立された一般社団法人ブルー・ガーディアンズ(本社:神奈川県平塚市)の代表理事である清水昌也氏が語った、創業のきっかけです。シンプルですが、誰もが共感できる願いではないでしょうか。

提供:ブルー・ガーディアンズ

しかし、その当たり前の願いが、今、危機に瀕しています。海洋プラスチックによる海の汚染は、年々深刻さを増しています。特に目に見えないマイクロプラスチックは、すでに私たちの食卓に上る魚にも影響を及ぼし始めているのです。

さらに深刻なのは、この問題に対する有効なソリューションが存在していないことです。

「多くの企業や団体が、マイクロプラスチックの回収を諦めています」

共同代表理事の中島伸二氏は、問題の本質をこう指摘します。5ミリ以下の微細なプラスチックであるマイクロプラスチックは、その回収の困難さから、多くの企業や団体が対策を断念しているのが現状なのです。

ブルー・ガーディアンズは、この困難な課題に『統合型ソリューション』というアプローチで挑もうとしています。今回、清水氏と中島氏にお話を伺い、その革新的な取り組みについてお伝えします。

海洋プラスチック問題に日本が取り組む意義

海洋プラスチック問題は、世界中のどの国にとっても重要な課題です。しかし、日本はとりわけ深刻な状況に直面しています。

中島氏は、その現状をこう説明します。「日本の近海の調査では、1立方メートルあたりのマイクロプラスチックの量が世界平均の27倍にも達しています」1

なぜ、これほどまでに日本近海の状況は深刻なのでしょうか。その理由は、アジアの海流と地理的な位置関係にあります。「世界の海洋プラスチックの約8割がアジア地域から流出しています。そして、その多くが海流に乗って日本近海に到達するのです」と中島氏は説明します。

各画像の中央左上が日本(出典:Plastic Pollution in the World’s Oceans: More than 5 Trillion Plastic Pieces Weighing over 250,000 Tons Afloat at Sea

これは、古くから魚や海産物を日々の食卓に取り入れている日本にとって重大な危機と言えます。私たちの食卓に上る魚は、すでにマイクロプラスチックの影響を受け始めています。イタリアのラファエレ・マルフェッラ教授の研究2においては、体内に取り込まれたマイクロプラスチックが大病を引き起こす可能性が指摘されています。水産大国であり、豊かな食文化を持つ日本だからこそ、この問題に真摯に向き合う必要があるのです。

ブルー・ガーディアンズの設立背景

ブルー・ガーディアンズの始まりは、とてもシンプルな願いからでした。

「私は約3年間、個人でビーチクリーン活動を続けてきました。美しい海を眺めながら、ごみのないビーチでコーヒーを飲みたい。その想いが原点です。」と清水氏は語ります。

提供:ブルー・ガーディアンズ
提供:ブルー・ガーディアンズ

しかし、活動を続けるうちに、個人の活動だけでは太刀打ちできない現実に直面します。「このまま5年、10年経てば、海はごみだらけになってしまうのではないか。」その危機感が、組織立ち上げの契機となりました。

一方、中島氏は、30年以上にわたりエネルギー分野の最前線で活躍してきました。二酸化炭素削減に向けた取り組みを通じて、環境問題の本質的な解決のためには、現在の大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムのままでは難しいことをひしひしと感じていました。

提供:ブルー・ガーディアンズ

中島氏が目指すのは、持続可能な資源循環の仕組み、すなわちサーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現です。そもそも使用量を減らす、長く使う、近い場所でリサイクルする、地球に自然に還るもので作るといった原則を社会に根付かせる必要があります。

提供:ブルー・ガーディアンズ

そしてその仕組みを作るためには、技術開発だけでなく、国や企業を含めた包括的な枠組み作りが不可欠です。海洋プラスチック問題においても、技術と多様な関係者との連携なくしては真の解決は成し得ないと実感している、と中島氏は言います。

そんな中、清水氏の熱い志と出会い、これまでの経験を海洋プラスチック問題、とりわけマイクロプラスチック問題に生かしたいと考え、技術と連携を軸とした新しいアプローチで取り組もうと決意したのです。

海洋プラスチック処理の難しさ

海洋プラスチックの処理は、一般的なプラスチックのリサイクルとは比較にならないほど困難だと言います。

提供:ブルー・ガーディアンズ

「通常のプラスチックのリサイクル(焼却除く)はまだまだ25%程度ですが、徐々には取組みが進んできています。例えばペットボトルだけ見れば9割近くがリサイクルされています」(中島氏)しかし、海洋プラスチックは全く異なる課題を抱えています。

その課題は主に3つあります。
一つ目は、さまざまな種類のプラスチックが混ざり合っていること。
二つ目は、プラスチックの劣化度合いが均一でないこと。
そして三つ目は、海中の有害物質を吸着している可能性があることです。

特に深刻なのが、マイクロプラスチックの問題です。5ミリ以下の微細なプラスチックを効率的に回収・分解・再生化する技術とビジネスモデルは、運搬方法も含めてまだ確立されていません。「そのため多くの企業や団体が回収を諦めているのが現状です」と中島氏は指摘します。

青く囲っている箇所がマイクロプラスチック(提供:ブルー・ガーディアンズ)

提供:ブルー・ガーディアンズ
提供:ブルー・ガーディアンズ

複雑な課題を抱える海洋プラスチック問題。だからこそ、ブルー・ガーディアンズは『統合型ソリューション』という新しいアプローチを提案しています。

ブルー・ガーディアンズが提案する『統合型ソリューション』

清水氏は「海洋プラスチックのネットゼロを目指しています」と言い切ります。これは、海洋プラスチック問題に取り組む企業の中でも、特に意欲的な目標です。

この目標に向けて、ブルー・ガーディアンズは「統合型ソリューション」という新しいアプローチを提案しています。これは、「回収」「分解」「再生」をそれぞれ個別に取り組むのではなく、回収から再生までの一連の過程に、一貫して取り組む包括的な解決を目指しています。

具体的には、3つの技術開発が軸となります。一つ目は海洋プラスチックの回収。二つ目は回収したプラスチックの分解。そして三つ目が再生です。「これらの技術を統合することで、持続可能な循環の仕組みを作り上げたいと考えています」と清水氏は説明します。

ブルー・ガーディアンズ(BG)の統合型ソリューション概念図(提供:ブルー・ガーディアンズ)

しかし、前述の通り、海洋プラスチックの処理は極めて困難です。そこでブルー・ガーディアンズは、「ブルーパーク構想」という大胆なビジョンを描いています。これは、海洋プラスチック問題に関する最新技術が集積する研究開発の拠点となるものです。

「このパークを通じて、企業、研究機関、行政が連携し、共に解決策を見いだしていける場を作りたい」と清水氏は語ります。

ブルーパーク構想イメージ(提供:ブルー・ガーディアンズ)

このビジョンの実現に向けて、ブルー・ガーディアンズは3つのタイプのパートナーシップを求めています。

一つ目は、最先端の回収・分解・再生技術を持つ企業、大学、団体等との連携です。

二つ目は、環境負荷低減に向けて代替素材の活用を検討している企業とのパートナーシップです。「EUでは最近、2031年までに新車の生産に必要なプラスチックの25%以上を再生プラスチックにすることが義務付けられました」(中島氏)このような国際的な規制強化の流れもあり、代替素材へのニーズは確実に高まっています。

三つ目は、サーキュラーエコノミーの実現を目指す企業、行政との連携です。ブルー・ガーディアンズは、こうした企業や自治体に対してコンサルティングやアドバイザリーの形での協力を視野に入れています。

「この課題は一社では解決できません。技術と知見を結集してこそ、実現できるものです」ブルー・ガーディアンズの挑戦は、まさに始まったばかりです。

共に創る持続可能な未来 – 意識改革から行動変容へ

海洋プラスチック問題の解決には、技術開発だけでなく、私たち一人ひとりの意識と行動の変容が不可欠です。同社では、2025年春から企業や個人を対象とした新しい取り組みを始めます。

提供:ブルー・ガーディアンズ

企業向けには、環境問題を「自分ごと」として捉えてもらうためのプログラム提供を開始します。「企業向けのオンライン講座もそうですが、オフサイトミーティング等を活用して環境について学んでいただき、さらに実際にその場でビーチクリーンも体験していただく。その体験を通じて、個々人が自らの事業活動や日常生活の中で何ができるかを考えるきっかけにしてほしい」(清水氏)

プログラム一例(提供:ブルー・ガーディアンズ)

提供:ブルー・ガーディアンズ

個人や家族向けには、気軽にビーチクリーンを楽しむための情報提供サービスを計画しています。「ビーチに限らず家の近くの岩場の海岸や、旅行先で行った海岸等で清掃活動をしたくても、今はどうすればできるのか分からないケースが多い。そんな時に我々のサイトにアクセスしてもらえれば、どこにどのようなごみが多いのか、また自治体や団体のどこにアクセスすれば拾ったごみを回収してもらえるのか、などの情報が一目で分かるサービスを提供していきたい」(中島氏)

「企業も個人もこれらの問題についてもっと身近に感じ、気軽に参加や行動ができるインフラを整えていければ、意識改革や行動変容につながると思います」(清水氏)

「最終的には人がウェルビーイングな状態で豊かな生活を送れることを目指しています」と清水氏は語ります。それは、美しい海を次世代に残すことであり、私たちの食の安全を守ることでもあります。これらの課題の解決には、技術開発から意識改革まで、さまざまなレベルでの協力が必要です。

「私たちは、世界一熱い想いを持ってこの問題に取り組んでいます」

清水氏と中島氏のこの言葉からは、揺るぎない決意が感じられます。技術を集積し、新しい枠組みを作り上げ、そこに熱い想いを注ぎ込む。多くの企業や団体が諦めているこの課題に、ブルー・ガーディアンズは真正面から挑もうとしているのです。

技術開発、企業連携、環境教育など、さまざまな形での協力を歓迎しています。詳しくは、ブルー・ガーディアンズ(info@blueguardians.jp)までご連絡ください。

■企業概要

  • 一般社団法人BLUE GUARDIANS
  • 代表理事:清水昌也 / 中島伸二
  • 所在地:神奈川県平塚市めぐみが丘2-9-29

事業内容

  • テクノロジーを最大限活用した海洋プラスチックゴミの回収・削減
  • 海洋環境に関するデータの収集と分析
  • 海洋環境保全および循環型社会に関する啓発活動および教育プログラムの提供
  • 循環型経済を推進するための地域での再生事業

問い合わせ先

  • info@blueguardians.jp

(参考)

  1. 日本近海に大量のマイクロプラスチックが降り積もっている!?太平洋から北極海にまで流れ込んでいる、その量を観測データから推定すると ↩︎
  2. クローズアップ現代『人体からプラスチック粒子が・・・懸念される健康リスク』
    ↩︎

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