──「設備・価格」から「人・理念」へという仮説
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はじめに:なぜ今、「キャンプ場 選び方」を見直すのか?
コロナ禍をきっかけに急拡大したキャンプブームも、2025年になり、緩やかに安定期へと移行しています。ハードキャンパーだけでなく、未経験者やライトユーザーなどの幅広い層を惹きつけたキャンプ業界は、一時の熱狂から次のステージへと進みつつあります。
日本オートキャンプ協会(JAC)の調査によれば、「キャンプ人口が2022年にピークを迎え、キャンプ関連用品の市場需要も一年遅れて2023年にピークを迎えた」との報告があります。しかし注目すべきは、一人当たりのキャンプの回数や宿泊数が増加傾向にあるという点です。年間の平均キャンプ回数は2020年の4.6回から2022年には5.4回に、同じく泊数では2020年の6.1泊から2022年には7.2泊に増えています。
つまり、今後のキャンプ市場は「広く浅く」から「狭く深く」へと変化していくことが予想されます。このような市場の変化は、必然的にキャンプ場の選び方にも影響を与えていくでしょう。本記事では、「これからのキャンプ場選び」について一つの仮説を提示します。それが「設備・価格」から「人・理念」へという価値基準の転換です。

これまでのキャンプ場 選び方:主流だった4つの基準
従来、キャンプ場を選ぶ際に重視されてきた一般的な基準は、主に以下の4つでした。
1. 立地条件
自宅からのアクセスのしやすさや移動時間、周辺の観光スポットの有無などが重要な選択基準でした。「初めてのキャンプの場合、テントなどの設営に思わぬ時間を要します。自宅から遠いキャンプ場を選んでしまうと移動に時間をとられ、いざ現地に到着したときには設営の時間に追われて、のんびりできなかった」という事態も少なくありません。特に初心者にとっては、立地は最も重視すべき要素の一つとされてきました。
2. 設備の充実度
トイレやシャワー、炊事場などの基本設備から、電源サイト、コテージやグランピング施設の有無、アクティビティ施設など、快適さを左右する設備の充実度はキャンプ場選びの大きな判断材料でした。キャンプ場ごとに設備はさまざまなので、選ぶ際の参考にするのも一つの手です。たとえば、場内に子供が遊べるアスレチックがあったり、グラウンドやテニスコートといったスポーツ設備があることも珍しくありません。
3. 価格帯
利用料金の高低もこれまで重要な選択基準でした。一泊あたりの宿泊費が他の宿泊施設と比較して割安なことが、キャンプの魅力の一つでもあります。オートキャンプ協会の調査によれば、「キャンプ場利用料金の全国平均は5,041円(2022年 日本オートキャンプ協会調べ)」となっています。
4. 評判・知名度
予約サイトやSNSでの口コミ評価、雑誌やメディアでの紹介頻度など、第三者からの評価も選択の大きな指針になってきました。どこを選べばいいか分からない初心者ほど、テレビで取り上げられるような人気のキャンプ場を選びがちという傾向がありました。
これらの基準は今後も重要であることに変わりはありませんが、徐々に新たな選択基準が台頭してきていると考えています。

仮説:これから選ばれるキャンプ場の特徴とは?
キャンプ人口が安定期に入り、リピーターが増加する中で、新たな価値基準が生まれつつあります。それが「人柄で選ぶ」「理念で選ぶ」「透明性で選ぶ」という3つの視点です。
「人柄で選ぶ」:オーナーやスタッフの人間性
キャンプ場のオーナーやスタッフの人柄が、新たな選択基準として重要性を増しています。
「アルバイトとしてトイレ掃除をしていた時、お客様から『綺麗にしてくれてありがとう』と直接言われたことに衝撃が走り、その言葉が現在も働く意欲となっています」というあるキャンプ場オーナーの言葉が示すように、キャンプ場の魅力はハード面だけでなく、そこに携わる人々の熱意や人間性にも大きく左右されます。
リピーターの多くが「あのオーナーだから通い続けている」「スタッフの対応が丁寧で気持ちいい」といった理由で特定のキャンプ場を選ぶようになってきています。
「理念で選ぶ」:社会性・哲学性・地域性への共感
キャンプ場が掲げる理念や哲学、地域との関わり方などに共感して選ぶという基準も重要性を増しています。例えば、豊富な草花があり、野鳥が飛び交う場所をなくしたくない思いから利用者を女性か男女デュオのみに限定(子供不可)しているキャンプ場や、逆にファミリー以外は禁止にしている施設もあります、そして地域の農産物を積極的に取り入れたり、地元の伝統文化を体験できるプログラムを提供するキャンプ場など、なぜこのキャンプ場があるのかという存在理由に共感して選ぶ傾向が強まっています。
キャンプ場の位置づけが「単なる宿泊施設」から「体験の場・価値観を共有する場」へと変化するにつれて、その理念や哲学が選択の重要な基準になりつつあります。
「透明性で選ぶ」:情報開示と顔の見える運営
キャンプ場の日常や舞台裏を積極的に公開し、運営の透明性を高めているキャンプ場も選ばれる傾向にあります。SNSでの日々の様子の発信、オーナーのブログやニュースレターの発行など、キャンプ場の「今」を伝える取り組みが、リピーターとの関係構築に役立っています。
特に、有事の際の対応や安全管理の姿勢も透明性の重要な部分です。キャンプ場の安全管理や環境への取り組みを積極的に開示し、利用者との信頼関係を築いているキャンプ場が選ばれる時代になってきているのです。

なぜキャンプ場 選び方に変化が起きると予測されるのか?
「人・理念・透明性」を重視する選択基準が台頭しつつある背景には、以下のような要因が考えられます。
コモディティ化するキャンプ場設備
かつては差別化要因だった高規格な設備やアメニティが、多くのキャンプ場で標準化され始めています。キャンプブームの再燃とグランピングの登場が市場の活性化に拍車をかけたことで再投資を行なって施設を整備し、『グランピング』を謳うキャンプ場も増えた結果、全体としての高規格キャンプ場は今や当然のものになってきています。
設備の「良し悪し」だけでは差別化が難しくなる中、そこで提供される体験の質や、関わる人々との交流の価値が相対的に重要性を増しています。
「人気キャンプ場」の混雑による体験価値の低下
立地条件の良いキャンプ場や人気キャンプ場は予約が取りづらく、実際に訪れても混雑していることが多くなっています。「せっかく自然を楽しみに来たのに、隣のサイトとの距離が近すぎて落ち着かない」「インスタ映えするキャンプ場として有名になったら、写真撮影のために並ぶ人で溢れかえっていた」といった声も聞かれるようになりました。
人気や立地だけで選んだ結果、期待していた「自然との一体感」や「静けさ」といった体験価値が得られないというジレンマが生じています。このため、混雑していなくても独自の魅力を持つキャンプ場、あるいは意図的に収容人数を制限して質の高い体験を提供するキャンプ場が注目されるようになっています。

「誰から買うか」「誰と過ごすか」への価値転換
消費行動全般において、「何を買うか」から「誰から買うか」へと価値基準がシフトする傾向が見られます。これは「ただの取引ではなく、価値や本物志向、そして体験を重視する消費者の傾向」が強まっている証拠です。
キャンプにおいても単に「どこに泊まるか」ではなく、「誰が運営するキャンプ場で、どのような人々と時間を共有するか」が重要な選択基準になっています。
特に「ミドル~ヘビーユーザーほど求める価値に『焚火』や『設営』が加わり、『虫が多い』『天候』『衛生面』といったネガティブ要素が低減する傾向にある」など、キャンプへの関わり方の深さによって価値観も変化します。
低価格キャンプ場の治安や管理状態への懸念
価格だけで選んだキャンプ場で「夜中まで騒ぐグループがいて眠れなかった」「管理が行き届いておらず、トイレや炊事場が不衛生だった」といった経験をしたキャンパーも少なくありません。安さを追求するあまり、管理体制が不十分なキャンプ場も存在し、そうした場所では利用者のマナーも低下しがちです。
このような経験から、「適正な価格で質の高いサービスを提供する」キャンプ場、特に利用者のマナーや安全管理に気を配るオーナーやスタッフがいるキャンプ場を選ぶ傾向が強まっています。

キャンプ場の増加による選択肢の過多
キャンプブームに乗って全国各地に新しいキャンプ場が誕生し、どこを選べばいいのか分からないという選択の困難さが生じています。予約サイトで検索すると何十、何百ものキャンプ場が表示され、表面的な情報だけでは選びきれないという状況の中、より本質的な価値観や理念に基づいて選ぶ必要性が高まっています。
単に「口コミの評価が高い」「設備が充実している」といった表層的な情報だけでなく、「このキャンプ場が大切にしている価値は何か」「どのような体験を提供したいと考えているのか」といった本質的な部分で共感できるかどうかが、選択の重要な基準になりつつあります。
サステナビリティや倫理消費の波及
環境問題や社会課題への意識の高まりから、「どのような価値観を持つ事業者から商品やサービスを購入するか」という倫理的消費の考え方が広がっています。つながり志向の消費者は『より多いより、十分で良い』という考え方を持ち、共有資源と透明な持続可能性を求めているとの指摘もあるように、キャンプ場選びにおいても環境への配慮や地域との共生、持続可能性への取り組みが選択基準として重視されるようになっています。
提案:新しいキャンプ場 選び方のヒント
これからのキャンプ場選びでは、従来の情報源に加えて、新たな探し方が有効かもしれません。以下にいくつかの提案をします。
1. キャンプ場オーナーのSNSをチェック
キャンプ場の公式SNSだけでなく、オーナー個人のSNSをフォローしてみましょう。日々の運営の様子や、キャンプ場の裏側、オーナーの人柄や考え方を知る良い手がかりになります。オーナーが朝の散歩で見つけた美しい景色や、季節の移り変わりを感じる投稿からは、その場所の魅力が自然と伝わってきます。「昨日の夕暮れ時、キャンプ場の裏山で鹿の親子に出会いました」といった何気ない投稿から、その場所の自然環境の豊かさを知ることができるでしょう。
2. キャンプ場の「理念ページ」を読み込む
多くのキャンプ場がウェブサイトに「私たちについて」「理念」などのページを設けています。ここには単なる施設案内だけでなく、なぜこのキャンプ場を運営しているのか、どのような体験を提供したいと考えているのかといった情報が詰まっています。「この土地に先祖代々受け継がれてきた森を、多くの人と共有したい」「子どもたちが自然の中で思い切り遊べる場所を作りたかった」など、キャンプ場が生まれた背景を知ることで、その場所への理解が深まります。

3. イベントやワークショップに参加してみる
実際に泊まる前に、キャンプ場が主催するイベントやワークショップに参加してみるのも良い方法です。スタッフの人柄や雰囲気を知ることができ、自分との相性を確かめる機会になります。「焚き火マスター講座」「地元の食材を使った野外料理教室」「星空観察会」など、キャンプ場ならではの体験を通じて、その場所の価値観や大切にしていることが見えてくるでしょう。地域でで開催されるようなサイクリングイベントやフリーマーケットに参加することで、地域との繋がりを感じることもできます。
4. 「関係性」から辿り着く選び方
友人や信頼できる人からの紹介、自分と価値観の近いインフルエンサーやブロガーが勧めるキャンプ場など、「関係性」を起点に選ぶのも効果的です。ただし「アウトドアブームは終わった」なかでも「コアなファン化を図っている」キャンプ場が一定数存在するため、自分の趣向との相性も大切です。「焚き火を囲んで静かに過ごしたい人」と「アクティブに自然を楽しみたい人」では、心地よいと感じるキャンプ場が異なるでしょう。
5. 地域コミュニティとの関わりを探る
キャンプ場と地域との関わり方も、重要な選択基準になります。地元の農家から直接仕入れた野菜を販売していたり、地域の伝統工芸を体験できるワークショップを開催していたりするキャンプ場は、その土地の文化や歴史を深く理解する機会を提供してくれます。「焚き火協会」のような地域に根ざした活動と連携しているキャンプ場は、地域文化への理解が深く、独自の体験を提供してくれる可能性が高いでしょう。

6. 季節限定の特別な体験を探す
四季折々の自然の変化を活かした特別なプログラムを提供するキャンプ場も増えています。春の山菜狩り、夏の川遊び、秋の紅葉狩りや焚き火、冬の星空観察など、その時期にしか体験できない魅力を持つキャンプ場を季節ごとに選ぶのも一つの楽しみ方です。「丸子橋での焚き火イベント」のように、都市部でも自然体験を提供する取り組みも参考になるでしょう。
これからのキャンパー像:新たな関わり方を模索する2つのタイプ
これからのキャンプ場選びの変化は、キャンパー自身の在り方も変えていくでしょう。未来のキャンパー像として、以下のような2つのタイプが想像できます。
1. 「関係性キャンパー」の誕生
特定のキャンプ場やオーナーとの関係性を大切にし、単なる利用者ではなく「仲間」として関わるキャンパーが増えていくでしょう。彼らは年に数回、お気に入りのキャンプ場を訪れ、オーナーと焚き火を囲んで語り合ったり、キャンプ場の整備を手伝ったりする関係性を築いていきます。
このキャンプ場の成長を見守りたいという気持ちから、クラウドファンディングに参加したり、SNSで積極的に情報を拡散したりする応援者としての側面も持ちます。彼らにとってキャンプ場は単なる宿泊施設ではなく、自分の価値観を共有できる「第二のコミュニティ」なのです。
関係性キャンパーは、キャンプ場オーナーの理念や哲学に共感し、その実現に協力することで自己実現の喜びを感じます。「このキャンプ場が大切にしている自然保護の取り組みに自分も貢献したい」「オーナーの描く未来のビジョンに共感し、その一部になりたい」といった思いから、積極的に関わりを持ち続けるのです。
2. 「体験探求キャンパー」の台頭
設備や価格ではなく、そのキャンプ場でしか得られない体験を求めて旅をするキャンパーも増えていくでしょう。彼らは「この地域の伝統的な焚き火の作り方を学びたい」「このキャンプ場でしか見られない星空を見たい」など、特別な体験を求めて全国のキャンプ場を巡ります。
体験探求キャンパーは、キャンプを通じて自己成長や新たな発見を追求します。彼らにとってキャンプは単なる宿泊手段ではなく、人生を豊かにする体験の集積なのです。テレワークの普及により、特定の季節だけキャンプ場の近くに滞在し、仕事をしながら自然を楽しむ季節移住的な過ごし方を実践する人も、このタイプに含まれるでしょう。 彼らは自分のスキルや知識を活かして、キャンプ場でワークショップを開いたり、他の利用者との交流の場を作ったりと、キャンプ場の魅力づくりに積極的に参加することもあります。「このキャンプ場で自分の写真展を開きたい」「子どもたちに自然観察を教えるプログラムを企画したい」など、キャンプ場を舞台に自己表現や社会貢献を行う姿が見られるようになるでしょう。
これらの新しいキャンパー像は、キャンプを「消費」するだけでなく、キャンプ場やその周辺地域との深い関わりを通じて、より豊かな体験と関係性を「共創」していく存在です。彼らにとってキャンプは単なる余暇活動ではなく、自分らしい生き方や価値観を表現する手段となっていくのではないでしょうか。そして、そんな彼らを迎えるキャンプ場もまた、「泊まる場所」から「共に創る場所」へと進化していくことでしょう。

結論:キャンプ場 選び方は「商品比較」から「価値観の共有」へ
これからのキャンプ場選びは、「どこが景色が良くて綺麗で安いか」という商品比較的な視点から、「どのような価値観や体験を共有できるか」という視点へとシフトしていくと考えられます。このトレンドは「持続可能性を重視する傾向が強まり、リサイクル素材を使用した環境に優しい製品を求める人々が増えていること」や「自然をベースとしたアクティビティへの関心の高まり」といった市場の動きとも連動しています。
すべての人に当てはまるわけではありませんが、特にキャンプ経験が豊富になるほど、単なる宿泊先ではなく「価値観を共有できる場所」としてキャンプ場を選ぶ傾向が強まるでしょう。PYKES PEAKが全国のキャンパーを対象に行った調査では、「約99%のキャンパーが『ブーム終焉でキャンプをやめようと思いましたか?』という問いに対して『全く思わない』または『あまり思わない』を選んだ」という結果からも、今後はより深くキャンプを楽しむ「コアなキャンパー」が市場を支えていくと考えられます。
だからこそ、あえて「人」や「理念」から選ぶという視点を持ち、自分自身の価値観と共鳴するキャンプ場を”探しに行く”価値があるのではないでしょうか。そこには、予約サイトのランキングだけでは見つからない、自分だけの「お気に入りキャンプ場」が待っているかもしれません。
そして、そのキャンプ場との関わりを通じて、単なる「アウトドアレジャー」を超えた、より豊かな体験と人間関係を築いていくことができるのです。

OUTSIDE WORKS(アウトサイドワークス)は、アウトドア事業者向けのビジネス特化型Webメディアです。アウトドア業界で働く方々や、これからこの分野でキャリアを築きたいと考えている皆様に、実践的な経営ノウハウと業界の最新動向をお届けしています。

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株式会社Okibi代表。
アウトドア業界のDX推進や事業支援を手がけ、キャンプ場運営やWebメディア 「OUTSIDE WORKS」 を運営。さらに、キャンプ場のデジタルツイン化を実現する 「キャンビュー」 を開発し、アウトドア体験の革新に取り組む。
業界の発展と新しい価値創出を目指し、挑戦を続けている。