「デジタルデトックス」と「オンライン接続性」—この一見相反する二つの価値観が、現代のキャンプ場運営において重要なテーマとなっています。
2020年以降のアウトドアブームを経て、キャンプ場に求められる機能や設備は大きく変化しました。かつては「自然との一体感」や「日常からの解放」を求めてキャンプ場を訪れる人々が主流でしたが、今日では「ワーケーション」や「SNS発信」といった新たなニーズも無視できなくなっています。
特に注目すべきは、キャンプ場におけるWi-Fi環境の整備状況です。日本オートキャンプ協会の「オートキャンプ白書2024」によれば、キャンプ場の施設面に対する要望として「Wi-Fiなどの無線LAN」を挙げる利用者は21.6%に達しています。また、キャンプ場選びの際に「インターネット予約」を重視する利用者は30.5%(2022年30.3%、2021年28.2%)と年々増加傾向にあります。しかし、実際にWi-Fi環境が整っているキャンプ場はまだ少数派であり、特に地方のキャンプ場では導入が進んでいないのが現状です。
そんな中、キャンプ場向けWi-Fi設置サービスを立ち上げた専門家の藤田一輝氏に、プロジェクトの背景や展望についてお話を伺いました。キャンプ場Wi-Fiの現状と可能性について、専門家の視点から詳しく解説していただきます。
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プロフィール: 藤田一輝氏 キャンプ場Wi-Fi設置サービス専門家

静岡県浜松市天竜区「Ogawa Camp Field」「小川の里オートキャンプ場」管理人。
自称「キャンプしない系管理人」ながら、キャンプ場Wi-Fi設置サービスを立ち上げ、 アウトドアとテクノロジーの融合に挑戦している。日本イチのIoTキャンプ場を目指し、広域フリーWi-Fiの構築に成功。2023年の大水害から力強く復興させた経験を活かし、キャンプ場オーナーの技術的課題解決をサポート。
インタビュー: キャンプ場Wi-Fi設置プロジェクト
——まず、このキャンプ場Wi-Fiプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。
藤田:私自身は「キャンプしない系管理人」なんですが、キャンプ場を運営する中で、Wi-Fi環境の整備状況に大きな差があることに気づいたんです。特に地方のキャンプ場では、オーナーさんがWi-Fi導入に興味はあっても、技術的な知識や適切な業者の選定方法がわからず、諦めているケースが多いと感じました。
キャンプ場Wi-Fiの需要は確実に高まっているのに、供給側の体制が整っていない状況を何とかしたいと思ったのがきっかけです。
——キャンプ場特有のWi-Fi導入の難しさとは何でしょうか?
藤田:キャンプ場は基本的に山間部や海辺など、通信インフラが整っていない場所にあることが多いです。光回線が引けない場所も少なくありません。そういった場所では、モバイル回線を活用するなど、キャンプ場Wi-Fi専用の代替手段を考える必要があります。
また、広大な敷地に点在するサイトすべてをカバーする必要があるという点も課題です。一般的な店舗や施設と違い、屋外で自然環境の中にあるため、木々や地形の影響で電波が届きにくいエリアが発生します。キャンプ場Wi-Fiは通常の施設とは全く異なるアプローチが必要なのです。

——具体的にどのようなキャンプ場Wi-Fiサービスを提供されているのでしょうか?
藤田:現在は主に相談ベースで対応しています。キャンプ場オーナーからの相談を受け、現地の状況や予算に合わせた最適なWi-Fi環境の提案を行っています。
特に重視しているのは、コストパフォーマンスです。必要最小限の設備で最大の効果を得られるよう工夫しています。例えば、管理棟周辺だけにキャンプ場Wi-Fiを設置し、追って広げていくなど、段階的な導入も提案しています。
——実際にWi-Fiを導入されたキャンプ場ではどのような変化がありましたか?
藤田:まだ本格的な導入事例は少ないのですが、試験的にキャンプ場Wi-Fiを導入したキャンプ場では、特に若い世代やファミリー層に好評です。「Wi-Fi完備」という情報は、キャンプ場予約の際の重要な選択基準になっているようです。
また、Wi-Fi環境が整備されることで、ワーケーションが可能になり、施設利用につながることで平日の稼働率が上向く可能性があると考えています。キャンプ場のWi-Fiは新たな顧客層を開拓する強力なツールになりつつあります。
——コスト面での懸念はありませんか?多くのキャンプ場オーナーにとって、設備投資は大きな決断だと思います。
藤田:その点は非常に重要な問題だと認識しています。キャンプ場Wi-Fi設備の導入には一定のコストがかかりますが、私たちは必要最小限の機器で効率的にカバーする設計を心がけており、初期投資を抑えることに成功しています。
具体的な金額は各キャンプ場の規模や環境によって大きく異なりますが、小規模なキャンプ場であれば、初期費用を抑えることも可能です。また、段階的な導入も提案しています。まずは管理棟周辺だけにWi-Fiを導入し、効果を見ながら徐々に拡大していくという方法です。

——キャンプの本質とキャンプ場Wi-Fi導入のバランスについてはどうお考えですか?デジタルデトックスを求めるお客様もいると思います。
藤田:確かに、キャンプの魅力の一つは「日常から離れる」ことにあります。Wi-Fiを導入することで、その魅力が損なわれるのではないかという懸念は理解できます。
私たちが提案しているのは、「選択できる環境」の整備です。例えば、キャンプ場内をWi-Fi利用可能エリアとデジタルデトックスエリアに分けるという方法があります。また、時間帯によってキャンプ場Wi-Fiの利用を制限するという運用も可能です。
重要なのは、キャンプ場のコンセプトやターゲット層に合わせた運用方法を選ぶことだと思います。キャンプ場のWi-Fiはあくまでもツールであり、それをどう活用するかはキャンプ場それぞれの判断に委ねられるべき、あるいはキャンパーさん自身が選択するべきだと考えています。
——今後のキャンプ場Wi-Fiプロジェクトの展望について教えてください。
藤田:現在は個別相談ベースでの対応が中心ですが、今後はより体系的なキャンプ場Wi-Fiサービスとして展開していきたいと考えています。特にキャリア回線が使えない場所や、「Wi-Fiに興味はあるけどどこに連絡したらいいかわからない」「見積もりをとってもらったけど高い」「よくわからず契約してしまったが、適切な内容なのか見てほしい」といった課題を抱えているキャンプ場に対して、適切なサービスを提供していきたいと思います。
——キャンプ場以外への展開も検討されていますか?
藤田:はい、キャンプ場Wi-Fiでの経験を活かして、公園や観光施設など、他の屋外施設へのWi-Fi設置も視野に入れています。特に観光地では、訪日外国人観光客向けのインフラとしてWi-Fiの需要が高まっていますので、そういった分野への展開も検討しています。
——最後に、キャンプ場オーナーの方々へメッセージをお願いします。
藤田:キャンプ場Wi-Fiの導入は、単なる設備投資ではなく、キャンプ場の価値を高め、新たな顧客層を開拓するための戦略的な取り組みだと考えています。もちろん、すべてのキャンプ場にWi-Fiが必要というわけではありません。それぞれのキャンプ場のコンセプトや目指す方向性に合わせて、最適な選択をしていただきたいと思います。
私たちは、技術的な側面からキャンプ場オーナーの皆さんの判断をサポートし、もし導入を決断された場合は、最も効果的かつ効率的な方法を提案したいと考えています。
また、キャンプ場Wi-Fi導入に限らず、キャンプ場のIT全般でお困りのことがあれば、フォローやサポートもしていきたいと思っています。ぜひ一度、お気軽にご相談いただければと思います。

おわりに
藤田一輝氏へのインタビューを通じて、キャンプ場Wi-Fi導入が単なる設備投資ではなく、キャンプ場の価値を高め、新たな顧客体験を創出する可能性を秘めていることが明らかになりました。
デジタルデトックスとオンライン接続性という一見相反する価値観のバランスを取りながら、各キャンプ場のコンセプトに合わせたWi-Fi戦略を構築することが重要です。藤田氏の取り組みは、技術的な知識や適切な導入方法に悩むキャンプ場オーナーにとって、貴重なサポートとなるでしょう。
キャンプ場Wi-Fiの普及が進むことで、ワーケーションや長期滞在など、より多様なキャンプスタイルが実現し、アウトドア産業の新たな可能性が広がることに期待が高まります。
(取材・文:OUTSIDE WORKS編集部)
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OUTSIDE WORKS(アウトサイドワークス)は、アウトドア事業者向けのビジネス特化型Webメディアです。キャンプ場、グランピング施設、アウトドアツアー、アクティビティなどを運営する事業者に向けて、経営やマーケティングに関する実践的な情報を発信しています。


株式会社Okibi代表。
アウトドア業界のDX推進や事業支援を手がけ、キャンプ場運営やWebメディア 「OUTSIDE WORKS」 を運営。さらに、キャンプ場のデジタルツイン化を実現する 「キャンビュー」 を開発し、アウトドア体験の革新に取り組む。
業界の発展と新しい価値創出を目指し、挑戦を続けている。