はじめに:なぜトレイル・エチケットが必要なのか
林道や廃道は、私たちオフローダーにとって“冒険の舞台”である一方、地域の暮らしや林業、そして野生生物の生息地とも重なっています。近年は轍(わだち)の拡大、騒音・ゴミ問題などが原因で通行止めや全面閉鎖になるルートが全国で増加しており、「林道=迷惑行為」というイメージが広がりつつあります。北米のオーバーランド界隈ではこれを防ぐために“トレイル・エチケット”という共通ルールが浸透しており、一人ひとりの行動がフィールドの存続を左右するとの共通認識が定着しています。私たちも同じ立場で林道を守り、未来の走行機会を残すために、この11カ条を提唱したいと思います。
(参考)Learn the Tips, Tricks, Etiquette, and Protocols for Overlanding Today
1. 登り車両に道を譲る
すれ違いが難しい狭路では、基本的に上り方向へ走る車両が優先です。上り車は再発進が難しく、後退も危険を伴うからです。徒歩・自転車・作業車がいた場合は必ず安全な場所で停止し、手を振るなどアイコンタクトで意思表示しましょう。譲る際に路肩の植生を踏み荒らさないことも忘れずに。
2. 台数をハンドサインで伝える
対向車と行き違うとき、片手の指で「後続何台」を示す合図は世界共通。最後尾は握りこぶし(ゼロ)を掲げ、「これで終わり」と知らせます。狭い林道では対向車が次に来るタイミングを予測できるため、事故防止に大きく貢献します。
3. コース外走行の禁止。轍の外は“立入禁止区域”
「ちょっとだけ脇に避けよう」が轍を広げ、雨水の流れを変え、崖崩れの原因になることもあります。たとえUターンや追い越しでも、元の轍(正規ライン)を外れない——これが“Stay on the Trail”(トレイル(決められた道)から外れないで)の原則です。
4. スロー&スムーズ “速さよりも滑らかさを意識”
“Slow is smooth, smooth is fast”(ゆっくり動けば動きは滑らかになり、滑らかに動けば結果として速くなる。)という言葉どおり、ゆっくり丁寧な操作のほうが車と路面のダメージを減らし、結果的に早く安全に目的地へ到着できます。特に集落やキャンプ場付近ではアイドリング移動を徹底し、土埃で人やテントを包まない配慮をしましょう。
5. 無線・灯火マナー
特小・デジ簡・CBなどいずれを使う場合も、共用チャンネルでは「障害物あり」「右急カーブ注意」など要点のみを短く伝えます。夜間走行では対向車や歩行者が来たらハイビームや作業灯を早めにロービームへ切り替え、互いの視界を確保しましょう。
6. 来た時よりキレイに
ゴミは必ず持ち帰り、見つけたゴミも可能な範囲で回収します。Pack It In, Pack It Out(持ち込んだものは、すべて持ち帰ろう)の基本行動を大切にしましょう。さらに、空き缶一本でも拾えば、その行為を見た人が次の行動で真似してくれるかもしれません。小さな積み重ねが環境保全とイメージアップの両方につながります。
7. 道を塞がない “撮影や休憩は待避所で”
分岐点やゲート前での長時間停車は、他の通行者をブロックしてしまいます。写真撮影や隊列の再編成は、必ず路肩が広い待避所や林業車両の邪魔にならないスペースで行いましょう。
8. 静寂を尊重する。“音”も環境インパクト
エンジンの空ぶかしや大音量の音楽、他の利用者だけでなく野生動物にもストレスを与えます。特に排気音の大きなマフラーは苦情の温床となり、林道閉鎖の理由にもなり得るため要注意。車検対応の静かなマフラーの利用を強く推奨します。テクニック面ではエンジンを吹かしまくりクラッチや駆動系に負担をかけ、路面を掘りまくることは避け、「静かに走るほどテクニックも磨かれる」という意識で、耳にも道にも優しい愛車づくりと走行テクニックを心がけましょう。

9. レスキュー時のやさしさ。“助けるときこそ環境配慮”
スタック車を牽引するときはツリーセーバー(木の外皮などを保護するための装備)を使い、木を痛めない位置にアンカーを取ります。路面を深く掘る前に、エアダウン(空気入れも忘れずに)や脱出ボードなど“それ以上傷を広げない手段”を選びましょう。初心者が困っていたら、道具の使い方やコツを笑顔でシェアすることも大切です。
10. コミュニティの顔になる。“一人ひとりが親善大使”
林道で出会う住民やハイカーは、「あなた=オフロード界の代表者」と見ています。道を譲ってもらったら手を振って感謝を伝える、山で困っていた人がいたら助ける、SNS投稿では場所を特定しすぎない——そんな一つひとつの行動が、オフローダー全体の評価を押し上げ、走行フィールドの未来を守ります。
11. 地域とのつながりを大切に。”見える存在と経済貢献”
昼間でもライトを点灯し、対向車や歩行者に存在を知らせることは重要な安全配慮です。林道は薄暗い箇所も多く安全の為に常時ライトオン(場合によってはハイビーム)にすることで、対向車にカーブミラー越しにもいち早く気づいてもらえる可能性が高まります。また、地域の給油所やコンビニ、道の駅などで燃料補給や買い物をすることで、地域への経済貢献も心がけましょう。「オーバーランダーが来てくれることで地域が潤う」という関係性を築くことができれば、林道利用に対する地域の理解も深まります。小さな購買でも、積み重なれば地域経済の支えとなり、結果として走行フィールドの維持・開放につながる可能性があります。
おわりに
エチケットは「自由を奪うルール」ではなく、自由を守るための最低限の投資です。私たちが今日示す思いやりは、明日の冒険ルートを開き、地域との良好な関係を築きます。
1.4万人のオーバーランダーが集う日本最大級のオーバーランダーコミュニティ「酷道と林道と廃道 “Overlanding Japan – Off-Road Adventure Travel”」のメンバーからも、日々新しい知恵や配慮が生まれています。今回追加した11項目目は、まさに日本のコミュニティメンバーの実体験と地域への想いから生まれた、日本オリジナルの配慮です。このように、この10カ条(+1)は完成形ではなく、みんなで育てていくガイドラインです。
次にキーを回すときは、ぜひこの11カ条を思い出し、「静かに、丁寧に、そして楽しく」林道へ踏み出していきましょう。あなたの一つひとつの行動が、日本のオーバーランドシーンの未来を明るく照らしています!

NPO法人 Nature Service 共同代表理事
自然大好きで気の合う仲間達とNature Serviceを立ち上げました。北極から南極、アメリカ横断、アフリカ、北欧、オセアニア、南米などいろいろな自然を求めて旅しています。自然好きですが虫キライです。