キャンプ場の運営は、天候や自然環境と絶え間なく向き合い続ける仕事です。雨が降れば水はけの確保、風が強ければテントの安全対策、気温が上がれば熱中症予防と、現場では日々さまざまな課題が生まれます。こうした日常的な工夫の数々は、あまりにも当たり前すぎて、注目されることは多くありません。

しかし、”朝霧Camp Base そらいろ”をじっくりと歩いてみると、キャンパーが気づかない「見えない工夫」が随所に散りばめられていることに驚かされます。本記事では、OUTSIDE WORKS編集部独自の視点から、そのデザイン、アイデア、工夫をひとつひとつ取り上げます。

誰でも取り入れやすい実用的なアイデアを通じて、運営の負担を減らし、本当に大切なことに集中できる現場づくりのヒントをお届けします。

朝霧Camp Base そらいろ
静岡県富士宮市朝霧高原(標高800m)に位置する企業型キャンプ場。2023年7月開業、トヨタユナイテッド静岡運営。全面芝生敷地、4エリア232張設営可能。ウォシュレット完備、24時間無料シャワー、ドッグラン併設。「お母さんが選んでくれるキャンプ場」をコンセプトに、ファミリー層に人気。


第1章:到着した瞬間から始まる「神ディテール」

“朝霧Camp Base そらいろ”を初めて訪れた人の多くは、道に迷うことなくスムーズに目的地へ到着します。しかし、その理由を意識する人はほとんどいません。この「意識されない利便性」には、施設設計の工夫が反映されています。

場内のサイニング(案内表示)システムを詳しく観察すると、日本の道路標識設計の手法を部分的に取り入れていることがわかります。これにより、来訪者は特別に学習することなく、直感的に施設を利用できるようになっています。

公道標識システムとの共通点

場内制限速度の表示方法は、公道と同じ「時速○○キロ以下」という形式で統一されています。ドライバーにとって学習コストゼロで理解できる表記により、安全運転が自然に促されます。カラーリングは行政のルールに従い、落ち着きのあるものに制限されており、施設全体の統一感に寄与しています。

多言語対応による情報アクセシビリティ

フリーサイトを示す案内板では、日本語「まったり」と英語「Camp Site(Mattari)」、そしてピクトグラム(図記号)を併記しています。言語の壁を越えて情報を伝え、年齢や国籍を問わず誰もが利用しやすい環境を実現しています。

戦略的な視認性向上設計

一部の案内板では、車両からの視点と歩行者の視点の両方を考慮した高さ設定が行われています。また、垂直ではなくわずかな角度をつけることで、様々な角度からのアプローチに対応している案内板も確認できます。この微細な調整が、情報の見落としを防ぎ、施設利用の円滑化に貢献しています。

利用者体験を重視したエリア命名法

各サイト名は4文字で統一され、「場所の機能」ではなく「利用者の体験」を基準に命名されています。「まったり」、「しっぽり」「どっぷり」「ゆったり」といった具合に、そのエリアでの過ごし方を想像させる命名により、利用者の理解を支援しています。

最適化されたサイン配置密度

場内を歩いてみると、サインの配置密度が絶妙にコントロールされていることに気づきます。必要な場所には的確に案内があり、不要な場所には過剰な表示がない。この「多すぎず少なすぎず」のバランスが、視覚的な煩雑さを避けながら、必要な情報を確実に伝える環境を作り出しています。

情報過多による混乱もなく、情報不足による迷いもない。200サイトを超える大規模施設において、このサイン配置の最適化は、利用者の施設利用を支援する要素となっています。

一般的なキャンプ場では、施設名看板は入り口付近にのみ設置されるケースがほとんどです。しかし、”朝霧Camp Base そらいろ”では、敷地内に施設名看板を配置するという、業界では意外と珍しいアプローチを採用しています。

キャンプサイトからの視認性を考慮した配置戦略

施設名看板は、キャンプサイトから視認可能な位置に戦略的に配置されています。これにより、利用者が自分のテントやタープを撮影する際に、自然と施設名が背景に写り込む仕組みが構築されています。写真で確認できるように、芝生エリアや自然環境と調和した場所に設置されており、違和感のない自然な映り込みを実現しています。

記念撮影スポットとしての複合機能

施設名看板は、意図的な記念撮影スポットとしても機能しています。写真で確認できるように、看板の周囲には撮影に適した開放的なスペースが確保されており、家族やグループでの記念撮影に最適な環境が整備されています。わざわざ階段などが設置され、周囲が整備されているのもその証左です。

イベント時における情報発信力の最大化

特にイベント開催時には、この看板の効果が顕著に現れます。

参加者が記念撮影を行う際に施設名が明確に写り込むため、イベントの様子とともに施設名が拡散される仕組みとなっています。これにより、イベント参加者のSNS投稿を通じて、施設の認知度向上とイベントの成功を同時に実現する効果を生んでいます。

このような場内複数配置による施設名露出戦略は、業界でもまだあまり実施していない取り組みであり、利用者体験を損なうことなく効果的なブランド認知向上を実現する優れた設計と評価できます。


第2章:安全性と効率性を両立する「一石二鳥の設計」

場内道路に設置された減速帯は、交通安全と雨水管理という2つの機能を統合した設計になっています。限られた予算と空間を最大限に活用する、現代的なインフラ整備の実例です。

減速帯(ハンプ)の意図的な設置、確かに雨水の誘導にも効果的

二重機能の統合

減速帯(ハンプ)の形状により車両の減速を物理的に促す一方、同時に雨水の流れ道を形成し、道路の冠水を防いでいます。安全確保と排水機能を単一設備で実現することで、建設コストと維持管理負担の双方を最適化しています。

従来のインフラ整備では「安全設備」と「排水設備」を個別に設置するのが一般的でした。この統合設計により、建設コストを抑えながら機能性を確保しています。限られた予算で複数の効果を実現する施設管理の工夫といえます。

キャンプ場内の道路は、オートキャンプの性質上、車両の通行を基本としながらも、歩行者の安全確保も必要な「混合交通空間」です。この課題に対して、植栽の管理レベルを変えることで、物理的な障壁を設置せずに安全な共存環境を生み出しています。

選択的植栽管理による空間の使い分け

道路の両側にある植栽は、場所ごとに戦略的に管理されています。歩行者が一時的に退避する必要がある場所では、植栽を短く刈り込み、十分なスペースを確保しています。この工夫により、歩行者は車が近づいたときに、自然と安全な場所へ移動できるのです。

自然バリアによる車両侵入の制御

反対に、車や人の進入を制限したいエリアでは、植栽を意図的に伸ばすことで自然なバリアを形成しています。この方法なら、視覚的にも明確な境界を示しながら、人工的な柵や看板で景観を損なうこともありません。

この植栽管理による空間の制御は、建設コストを抑えながら自然環境との調和を保つ、持続可能な施設管理の手法です。メンテナンス作業も通常の草刈り業務の範囲内で対応でき、運営効率の向上にもつながっています。

完全に芝生で覆うことも可能であったフリーサイトに、あえて土と砂利の通路を設けている設計を分析すると、安全管理と快適性確保の高度な両立戦略が見えてきます。

フリーサイトはフリーとされながらも大まかな目安を整備

戦略的地面材料の使い分け効果

  • 視覚的に明確な導線による車両走行の制御
  • キャンプ利用者間の適切な距離確保
  • 繁忙期でも「ぎゅうぎゅう詰め」を回避する設計

車両管理の効率化システム

この設計により、車両はランダムに走行することなく、決められたルートを通行することになります。歩行者は一定のルートに注意を向けるだけで安全を確保でき、全体的な安全度が飛躍的に向上しています。

また、芝生エリアと通路エリアの明確な区分により、テント設営可能エリアも自然と定まり、利用者同士の適切な距離感を保つことができる設計となっています。

車両侵入を防止したいエリアにおいて、プラスチック柵やコーンではなく自然物を活用している手法は、機能性と景観配慮を高次元で両立する優れた設計例です。

絶妙な距離感の丸太配置、車を通したい時にはずらせる想定

自然素材バリアの設計原理

設置幅は車両が通過できない絶妙なサイズに調整されており、同時に歩行者の通行は確保されています。さらに、必要に応じて移動や再配置が可能な柔軟性も備えており、季節やイベントに応じた空間運用が可能となっています。

多面的な効果の実現

  • 景観を損なわない自然な境界線の設定
  • 車両侵入防止と歩行者導線の両立
  • 設置・撤去コストの大幅削減
  • 柔軟な空間レイアウト変更への対応


この手法は、「可変性」と「経済性」を同時に実現する設計アプローチといえます。

第3章:水回り施設の「利用者想い」な設計

トイレ・シャワー棟の設計には、単なる建物の枠を超えた、総合的な利用者体験向上の仕組みが組み込まれています。特に、悪天候時の利用環境の改善と、夜間の安全性確保を同時に実現している点は注目に値します。

ちゃんと軒下があるキャンプ場のトイレ施設はあまり多くない

軒下空間による天候への配慮

建物の外壁から張り出した屋根構造により、雨の日でも濡れずに出入りの準備ができる中間空間を確保しています。この空間で傘の開閉や荷物の整理を濡れずに行え、利用者の快適性が向上しています。

自動販売機の複合機能の活用

自動販売機を戦略的に配置することで、商品販売に加えて夜間照明としても機能しています。専用の照明設備を設置するコストを削減しながら、24時間の安全性と防犯効果を確保しています。

プライバシー配慮と開放感の絶妙なバランス

適切な高さと配置の目隠しにより、利用者のプライバシーを守りながらも、圧迫感のない空間を実現しています。このバランス調整により、安心感と開放感を両立させています。

車道に隣接するトイレ・シャワー棟において、車両の誤進入を防ぐために採用されているのが自然石による仕切りシステムです。コンクリートブロックなどの人工材料ではなく、自然石を選択している点に、機能性と美観性の両立への配慮が見られます。

自然石選択の設計効果

物理的な車両侵入防止機能を確保しながら、キャンプ場の自然環境との調和を実現しています。人工的な境界設備が与える「管理されている感」を抑え、利用者が自然な環境にいるという感覚を維持させています。自然石と砂利敷きの組み合わせにより、施設全体の統一感を創出し、歩行者の導線も整理されています。

トイレ・シャワー棟周辺に敷かれた砂利は、単なる装飾材料ではありません。これは利用者の靴裏の汚れを自然に除去し、建物内部の清掃負荷を劇的に軽減する画期的なシステムです。

トイレ棟・炊事場への接続は必ず砂利を通るように誘導されている

汚れ除去メカニズムの分析

芝生や土の地面から建物に向かう動線上に一定区間の砂利敷きエリアを設けることで、利用者が歩行するだけで靴裏の土や泥が自動的に除去される仕組みを構築しています。この自然な清掃プロセスにより、トイレ・シャワー棟内に持ち込まれる汚れが大幅に削減され、スタッフの清掃作業負担が軽減されています。

この設計により、利用者は特別な配慮をすることなく、自然に施設の清潔性維持に協力することになります。

水道設備においても、利用者の利便性向上とメンテナンス負荷軽減を両立する工夫が随所に見られます。

カラス対策を兼ねた蓋システム

水道の排水口に設置された特殊な蓋は、カラスによる生ゴミの散乱を防ぐ機能を持っています。一般的な水道設備では、生ゴミの処理によってカラスが集まり、周辺を散らかす問題が発生しがちです。しかし、この蓋システムにより、カラスの侵入を物理的に阻止し、水道周辺の清潔性を維持しています。

季節対応と利用者への配慮

冬季には凍結防止のため水道栓を外す必要がありますが、これを初心者利用者が「故障」と誤解する可能性があります。そこで、「冬季は栓を外しています」という説明看板を設置することで、利用者の不安を解消し、同時にスタッフへの問い合わせを削減しています。このような小さな配慮の積み重ねが、全体的な運営効率向上に寄与しています。

トイレ・シャワー棟に設置された傘掛けは、一見小さな設備ですが、雨天時の複数の課題を同時に解決する多機能装置として機能しています。

傘立てフックは誰でも明日にでもできる工夫かもしれない

複合的な効果

傘掛けの設置により、雨天時の利用者の不快感軽減、限られたスペースの効率的活用、そして建物内部の汚れ軽減が実現されています。濡れた傘を適切に管理することで、床の水濡れを防ぎ、清掃負担を軽減しています。


第4章:安全対策と防犯対策の「見えてる備え」

2025年2月に発生した利用者による小火事故を受けて、散水設備を強化した事例は、事故への迅速な対応と、安全性向上への真摯な姿勢を示すものです。

総合的な消火システムの構築

灰捨て場周辺には消火栓、水タンク、ジョウロによる多層的な消火体制が整備されており、緊急時の迅速な対応が可能となっています。このシステムは、予防策と緊急対応策を組み合わせた包括的な安全管理の好例といえます。

耐火性能の大幅な向上

小火以前から実施していた施策として、開業当初の形式では限界があった耐火性能を、コンクリートと鋼鉄を組み合わせた構造により抜本的に向上させています。この材質変更により、火災リスクを軽減し、利用者とスタッフの安全を確保しています。同時に、利用者の使いやすさとスタッフの回収効率も維持されており、安全性と運用効率を両立した設計になっています。

盗難被害を受けて薪置き場にシャッターを設置した対応は、防犯機能の確保と、利用者への安心感の提供を両立した事例です。

「見える防犯」による心理的な効果

しっかりとした作りのシャッターを設置することで、利用者に「この施設はきちんと管理されている」という安心感を与えています。防犯対策は隠すのではなく、適切に「見せる」ことで、抑止効果と安心感の両方を実現できるのです。

犯罪の機会そのものを減らす配置

管理棟の近くに配置することで、盗難の機会そのものを物理的に減らしています。200サイトを超える大規模施設では、重要な設備を監視しやすい場所に集約することで、犯罪の機会を排除する設計になっています。この「機会を与えない」アプローチこそが、実効性の高い防犯対策といえるでしょう。

以前は丸出しだった薪置き場も、セキュリティを重視した作りに

山間部に多いキャンプ場においてバリアフリー対応を完備している施設は極めて稀少であり、”朝霧Camp Base そらいろ”の取り組みは注目に値します。

経営判断としての心意気

スロープ設置は決して大規模な投資ではありませんが、収益への直接的影響が見えにくいため、コスト削減が必要な際に真っ先に削られがちな項目です。それにも関わらずこの投資を実行していることは、多様な利用者を受け入れるという企業の心意気の表れです。

包括的利用環境による価値創出

車椅子利用者や歩行困難な方々へのアウトドア体験機会提供は、社会的意義と利用者層拡大を同時に実現します。このような取り組みが業界全体のアクセシビリティ向上への機運醸成にも寄与し、一施設の枠を超えた価値を持っているといえます。

バリアフリー対応は普通のキャンプ場は後回しになりがち

第5章:コスト削減と雰囲気醸成を両立する自然素材活用術

施設内の滞留エリアに配置された丸太ベンチは、単一の設備で複数の機能を統合的に実現する優れた設計例です。

三重機能の同時実現

丸太という自然素材を活用することで、休憩場所としての基本機能に加え、車両導線の制御と情報提供機能を同時に果たしています。休憩場所として利用者の快適性を確保しながら、自動車の侵入を物理的に遮断し、さらにサイニングとの一体化により効率的な情報提供も実現しています。

この設計により、本来であれば個別に設置が必要な休憩設備、車両制御設備、案内設備の機能を一つのシステムで解決し、設置コストと維持管理負荷の両方を削減しています。

特注の大型ファイアピットにおいて、製造された専用チェアではなく丸太を座席として配置している手法は、コスト削減と雰囲気醸成を両立する工夫です。

自然素材による経済性と体験価値の向上

製造品の椅子と比較して、丸太の使用は大幅なコスト削減を実現しながら、キャンプ場らしい自然な雰囲気を演出しています。また、丸太は破損や劣化時の交換が容易で、維持管理コストも大幅に削減できます(また多少の破損があっても、味がある、と評価されます)。利用者にとっても、より自然に近い体験を提供することで、アウトドアの本質的な魅力を高める効果を生んでいます。

特注のファイアーピット+そこら辺の丸太。コストの掛け方のメリハリが絶妙

立ち入りを制限したい樹木周辺において、プラスチック柵ではなく丸太と虎柄ロープを組み合わせた境界設定手法は、機能性と美観性を高度に両立した設計例です。

工事現場感の回避による環境調和

一般的な立ち入り禁止表示では、プラスチック製の柵や警告テープが使用されがちですが、これらは工事現場のような管理的な印象を与えてしまいます。丸太と虎柄ロープの組み合わせにより、立ち入り制限の機能を保ちながら、キャンプ場の自然環境に調和した境界設定を実現しています。

統一感のあるデザインアイデンティティ構築

施設全体で自然素材を多用している設計方針との一貫性を保ち、コスト面での優位性も確保しています。この手法により、機能的な境界設定と景観保護、そして経済性の三要素を同時に満たす効果的なソリューションとなっています。


第6章:利用者行動を自然に誘導する心理学的アプローチ

水道エリアやゴミ処理場に設置された富士山SDGs推進パートナー】のサインは、従来の「〜してはいけません」という禁止事項の列挙とは異なるアプローチを採用しています。これは行動経済学の知見を活用した、より効果的な利用者行動の管理手法です。

単なる禁止事項ではなく、ビジョンを見せることで受け入れやすい注意書きに

価値観を共有するアプローチの特徴

このサインの手法は、単純に「〜してはいけません」と指示するのではなく、施設と利用者が共有する環境保全への価値観を明示することで、利用者の自発的な配慮行動を促しています。SDGsという普遍的な価値観を媒介とすることで、施設側の管理の負担を減らしながら、より高い効果を得ています。

また、施設の社会的責任と環境への取り組み姿勢を明確に示すことで、利用者との信頼関係の構築にもつながっています。この手法は、規制による管理から協力による管理への転換を示す、先進的な事例として評価できます。

ショップ内に設置された鹿の角の触れ合いコーナーは、子どもの目線の高さに配慮された体験型の展示として、手作り感と洗練されたバランスを上手く両立させています。

「ほら、鹿の角がさわれたとこ…そう、そらいろ!」という記憶の残り方

実際に触れる体験による価値の創出

直接触れることができる体験を通じて、自然との接点を提供する設計になっています。子どもたちが無理なく手を伸ばせる高さに設定されており、年齢に関係なく楽しめる配慮が施されています。また、過度に田舎風になりすぎず、都市部からの来訪者にも受け入れられる洗練されたセンスを保っている点が特徴的です。

このような体験型の展示は、単なる商品販売を超えて、施設への愛着を育み、記憶に残る体験価値を生み出す効果的な手法といえます。


第7章:設備管理の効率化を極める「見えないシステム」

ゴミ処理は、キャンプ場運営における最重要課題の一つです。獣害対策、分別の利便性、スタッフの回収効率という三つの要求を同時に満たす必要があり、“朝霧Camp Base そらいろ”のゴミ捨て場は、スタッフの試行錯誤を経て現在の最適解に到達しています。

多層防御による獣害対策システム

敷地全体を囲う鉄柵と同じ材料を使用した頑強な囲いにより、統一感を保ちながら強固な防御を実現しています。天井部は完全にメッシュでカバーされ、カラスやタヌキの侵入を阻止、また腰高のメッシュは穴を掘って侵入する小動物の排除し、視認性と機能性、通気性を両立させています。

利用者視点の分別システム設計

地元自治体の分別ルールを基本とした分別場所の配置により、利用者の混乱を防いでいます。表示は文字とイラストを併用し、一目で判別可能な設計となっています。特筆すべきは、使い切れなかった薪の回収ボックスも設置されており、利用者の利便性と資源の再利用を同時に実現している点です。

運営効率を重視した実用的配慮

引き戸の開閉方向を明記するサインにより設備破損を防止し、スタッフの回収車がアクセスしやすい位置に配置することで作業効率を向上させています。屋根がないことによる雨天時の課題は認識しながらも、繁忙期の使い勝手とスタッフの回収効率を優先した現実的な運用を選択している点も、実用性を重視した設計姿勢の表れといえます。

実はこれ一つあるだけで長期的に扉の破損を防いでいる

ドッグランの地面材料として採用されているウッドチップは、時間の経過とともに自然分解される特性を活かした持続可能な設計例です。

自然分解プロセスによる多面的効果

ウッドチップの自然分解特性により、環境負荷の軽減と運営コストの削減を同時に実現しています。人工材料とは異なり土に還る性質を持つため、廃棄物処理の必要がなく環境に優しい選択となっています。また、柔らかな素材特性により犬の足への負荷を軽減し、長時間の運動にも適した環境を提供しています。

自然環境との調和による景観価値向上

時間の経過とともに周囲の自然環境と馴染み、人工的すぎない自然な仕上がりを実現します。この特性により、定期的な材料交換が不要となり、長期的な運営コスト削減にも寄与している優れた材料選択といえます。

管理棟の外に設置された大型デッキは、一見シンプルな構造ですが、様々な用途に対応できる工夫が施されています。

あえて屋根を作らない理由

固定された屋根を作ってしまうと、使い方が限られてしまいます。そこで、屋根は作らずに、必要な時だけタープなどで屋根を作れる仕組みにしています。普段は開放的な休憩場所として使え、イベントの時はタープを張って会場として使える柔軟さを実現しています。

状況に応じて変えられる仕組み

デッキの周りには金属製の輪っか(マルカン)が取り付けられており、これを使って様々な対応ができます。日差しが強い時はオーニングで日除けを作り、雨の予報があれば事前にタープで屋根を作り、大きなイベントの時は会場として使うことができます。

例えばこんな感じでのイベント出店するケースも。デッキがあるので区分けがしやすい

この「状況に応じて変えられる」設計により、固定屋根を作るよりも安いコストで、より多くの使い方ができるようになっており、限られた予算で最大の効果を得る賢い設計手法といえます。


第8章:スタッフ環境への配慮が生む好循環

屋外作業が中心となるキャンプ場において、スタッフの熱中症対策は重要な労働安全課題です。”朝霧Camp Base そらいろ”では、厚生労働省のガイドラインに準拠した対策を自主的に実装しています。

厚労省により令和7年から強化された熱中症対策義務、皆さんの職場はどうだろうか

法令遵守を超えた自主的安全管理

自社で熱中症対策水を用意し、適切な温度管理により、スタッフがいつでも利用できる環境を整備しています。多くの施設がガイドライン準拠に課題を抱える中、この取り組みはスタッフの安全確保への真摯な姿勢を示しています。適切な労働環境の提供は、スタッフのモチベーション向上と定着率改善につながり、結果的に利用者サービスの質向上にも寄与する好循環を生み出していると言えるでしょう。

施設全体に4つのAEDをエリア毎に配置し、緊急時の迅速な対応体制を構築しています。この配置密度は、利用者とスタッフ双方の安全確保に対する真剣な取り組み姿勢を物語っています。

人の生命を守れる施設かどうか、はスタッフにも大事な要素

大規模キャンプ場において、どのエリアからでも短時間でAEDにアクセスできる配置設計は、万が一の際の生存率を大幅に向上させる重要な安全インフラといえます。


第9章:小さなサインに込められた大きな配慮

場内に設置されたサインやポップには、すべて連絡先電話番号やQRコードが記載されており、緊急時の迅速な連絡体制を可能にする情報設計が施されています。

包括的情報提供システムの構築

各エリアに適切に配置されたサイニングは、平常時の案内機能に加えて、緊急時の連絡手段としても機能する設計となっています。キャラクターを活用した親しみやすいデザインにより、利用者の記憶に残りやすく、必要時に確実に活用できる配慮が施されています。この手法により、単純な文字だけの案内表示を超えた、総合的な安全管理システムの一部として機能している点が特徴的です。


まとめ:朝霧Camp Base そらいろから学ぶ「神ディテール」

朝霧Camp Base そらいろは、200サイトを超える大規模キャンプ場でありながら、利用者もスタッフも快適に過ごせる環境を実現しています。その秘密は、一つの工夫で複数の効果を生み出す「神ディテール」にありました。

複数の効果を同時に実現する工夫

朝霧Camp Base そらいろでは、利用者への配慮とスタッフの負担軽減を同時に実現する工夫が見られます:

  • トイレ前の砂利敷き→利用者の不快感軽減とスタッフの清掃負担減少
  • 道路の減速バンパー→安全と排水機能の統合
  • 水道エリアのSDGsサイン→利用者の自発的配慮行動の促進。

1. まずはやってみて、思わぬ効果を発見する

そらいろの減速バンパーも、最初は安全対策として設置したものが、雨水の排水にも役立っていることが後からわかりました。新しい取り組みを始めたら、「他にも良い効果があるかもしれない」と期待しながら様子を見てみましょう。

2. 自然素材で手軽に始める

そらいろでは丸太や自然石を積極的に活用しています。プラスチック製品より費用を抑えられ、キャンプ場らしい雰囲気も演出できます。まずは身の回りにあるものを探してみて、小さな場所から気軽に試してみてください。

3. 注意書きより価値観の共有を大切にする

そらいろでは注意書きを工夫し、SDGsパートナーの表示で環境への意識を高める方向に変えました。○○をしないでください、と書く前に、利用者と一緒に良い環境を作っていくという切り口で表現の工夫をしてみてはどうでしょうか。

4. スタッフの「困った」を解決していく

そらいろでは徹底的な清掃をするため、その管理や作業の手間を減らす工夫を重ねています。スタッフから「ここが大変」という声があったら、みんなで知恵を出し合って改善していく雰囲気を大切にしています。

5. スタッフが気持ちよく働ける環境を作る

そらいろでは熱中症対策の飲み物の提供やAEDの配置など、スタッフが安心して働ける環境づくりに取り組んでいます。スタッフが元気でいられると、利用者にも良いサービスを提供できます。


【施設情報】朝霧Camp Base そらいろ 利用ガイド

  • 施設名: 朝霧Camp Base そらいろ
  • 所在地: 静岡県富士宮市麓624-7(朝霧高原エリア、標高約800m)
  • アクセス: 新東名高速道路「新富士IC」から車で約35分、中央道「河口湖IC」から約40分
  • 電話番号: 0544-21-3955
  • 営業時間・定休日: 通年営業、受付時間9:15~17:00
  • 料金体系:
    • フリーサイト基本料金:4,950円~(大人1名・車1台・テント+タープ各1張含む)
    • 追加料金:大人+2,750円、高校生+1,100円、小中学生以下無料
    • 電源付き区画サイト:6,050円~(屋外コンセント100V・1500Wまで)
    • グループ専用区画:15,400円~(大人4名・車2台まで含む)
  • 支払い方法: 現金・主要キャッシュレス決済対応
  • 利用可能人数: 4エリア合計最大232張設営可能
  • 設備概要:
    • 全面芝生敷地、4つのコンセプト別エリア(まったり・ゆったり・どっぷり・しっぽり)
    • 全トイレ水洗+暖房温水洗浄ウォシュレット、24時間利用可能無料シャワー個室
    • 炊事場給湯器完備、ウッドチップ敷きドッグラン併設
    • 売店(薪・炭・ガス缶・酒類・アウトドアグッズ)
  • 運営会社: トヨタユナイテッド静岡株式会社
  • オープン日: 2023年7月14日(グランドオープン)
  • 関連リンク: 公式Webサイト(sorairo-camp.jp)公式Instagram

【Q&A】工夫を始める前に知っておきたいこと

Q1. 小規模キャンプ場でも「神ディテール」の手法は使えますか?

A1. はい、むしろ小規模施設の方が取り入れやすい部分もあります。例えば、トイレ前の砂利敷きや丸太ベンチの設置などは、数万円の予算で今週末からでも始められます。そらいろは200サイトの大規模施設ですが、紹介した工夫の多くは規模に関係なく応用できるものばかりです。まずは一つの工夫から始めて、効果を確認しながら広げていくことをお勧めします。

Q2. 工夫を始める順番はどうすればいいですか?優先順位の決め方を教えてください。

A2. スタッフあるいは自分が「毎日困っている」ことから始めるのが最も効果的です。慣れてしまった普段の業務を一度、もっと楽にできないかなと考えるのも良いですし、まずはスタッフにヒアリングし、「これが解決できたら楽になる」という課題を1つ選び、この記事で紹介した手法を参考に解決策を考えてみてください。小さな成功体験が、改善を続ける原動力になります。

Q3. 自然素材(丸太や石)はどこで入手すればいいですか?コストはどれくらいかかりますか?

A3. 地域の造園業者や林業関係者に問い合わせると、比較的安価で入手できることが多いです。間伐材や河川敷の石などは、通常の製品より大幅に安く入手できる場合があります。丸太ベンチなら1本あたり数千円程度、自然石も軽トラック1台分で1〜2万円程度が目安です。地域の森林組合や行政の林業担当部署に相談すると、良い情報源を紹介してもらえることがあったり、ダムなどでは流木を無償で配布している場合もあります。


編集後記】


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