【三宅島編:1】より)
【島の人】
『三宅島の人』は、ドルフィンスイムやバードウォッチングなど、海に山にと三宅島の自然をガイドしてくれる『三宅島ネイチャーツアー mahana』の菊地さん。ドルフィンスイムのガイドとして10年前に三宅島に移住した移住組。「今は三宅島の山の自然にはまっています!」とのことで、海だけでなく山のガイドも行う。

「三宅島ネイチャーツアー mahana」の菊地さん
「三宅島ネイチャーツアー mahana」の菊地さん

取材前に取材希望を伝えたところ、「まずは椎取神社に行きましょう!」と菊地さん。どうやら三宅島を知るためにはまず行かなければならない場所とのこと。島の神様への挨拶もしなければということで、目的地に向け車を走らせる。意外なスタート地点に期待も膨らむ。楽しくなりそうだ。

【森の島? 三宅島】

椎取神社へ
島の北東部にある『椎取神社』へ向かう。都道からちょっと入ったところにある神社。「新しい社殿だなあ」と思っていたが、その建物は2000年の噴火後建て直されたもので、「前の社殿は埋まってしまったんです」と菊地さん。「へ?」と思いちょっと進むと足元に鳥居が。ちょっと奥には社殿の屋根らしき建物。2000年の噴火による泥流で埋まってしまったとのこと。噴火前は深い森に包まれた神社だったが、降灰、泥流、土石流、そして火山ガスにより壊滅的な状況になったらしい。そんな状況だったが、現在では再生が進みつつある場所。その際に都道も埋まったそうで、今の都道はその上に作られたもの。積み重なっていく三宅島。

埋まってしまった鳥居。奥に社殿の屋根も見える
埋まってしまった鳥居。奥に社殿の屋根も見える

「奥の森に行きましょう(菊地さん)」と現在の社殿奥の森に入る。上の方には火山性ガス立ち枯れてしまった木々も見えるが、下の方には古くからの木々が残る森。そこは太い幹のシイノキを中心に、スダジイ・タブなど多くの木々が生い茂っていた。

現社殿奥に広がる森。上の方は立ち枯れている
現社殿奥に広がる森。上の方は立ち枯れている

一歩中に入るとそこは木々が生い茂る森。菊地さんから「三宅島の森は巨木の森なんですよ」と聞かされる。「三宅島に巨木?」と、その情報に驚く。火山の島というイメージを持っていたため、長い年月かけて育つ巨木があるとは思ってもいなかった。
菊地さんによると、三宅島には手付かずの森が多くのこり、「全国巨樹巨木の会」にも認められた日本最大の巨木が多い森があるらしい(巨樹・巨木の定義は、地上130cmの幹の太さが3m以上の木)。さらに、幹の太さが19.27mのスタジイが発見され、日本一になったんだとか!(2016年10月現在。ちょっと森の奥に入るため、今回の取材は断念)

森の中の御神木。この木もかなり大きい!
森の中の御神木。この木もかなり大きい!

本殿へ
「奥の本殿に行ってみましょう(菊地さん)」ということで、現社殿の裏を進む。流れた溶岩の上に作った道を越えて進んでいくと、岩と木々に囲まれた本殿に。かつての噴火によってできた岩と、生い茂る木々に包まれた、なんとも神秘的な場所。菊地さんによると、何回かの噴火で流れた溶岩は、この場所を避けるように流れたんだとか。なんともパワーを感じるスポット。

深い森と岩に囲まれた本殿。神秘的な空間
深い森と岩に囲まれた本殿。神秘的な空間

「これ『ユノミネシダ』という植物なんですが、この植物は2000年の噴火前には見られなかったんです」と菊地さん。「あくまでも仮説なんですが」とのことだが、どうやら、噴火で火山ガスに弱かった植物が枯れ、そのことにより太古から胞子レベルで土中にいたユノミネシダが、二酸化硫黄などの影響により出てきたと考えられているらしい。「噴火で全島避難をしなければいけなかったり、集落や森が被害を受けるけれども、その森が再生していく姿を見ていけるし、噴火前とは違う姿を見せてくれる。今の椎取神社の景色も、数年経つと違う物になっているかもしれない。一方で巨木・巨樹が生い茂る、森の最終段階『極相林(クライマックスフォレスト)』も三宅島では見られるんです(菊地さん)」。噴火から再生、変化、そして最終段階の森が見られる島。すごいぞ! 森の島・三宅島!

ユノミネシダ。紀伊半島の熊野古道の奥にある湯の峰温泉周辺で発見された
ユノミネシダ。紀伊半島の熊野古道の奥にある湯の峰温泉周辺で発見された

森の再生
噴火から再生をし始めている三宅島の森。菊地さんによると、溶岩という過酷な土地にまず根を生やすのは「パイオニア植物」と呼ばれ、養分の少ない土地に数年で育ち、次の植物が育ちやすい環境を作るそうだ。そんなパイオニア植物の一つに「オオバヤシャブシ」という植物があり、現在三宅島に緑をどんどん増やしているが、この植物には「根瘤菌」という生物が共生している。この共生生物は大地を窒素を使って大地を肥やすことができ、植物の生育を促す役目をしている(明日葉畑にワザと植えることもあるそうだ)。生物のすごさを感じる話。そんな植物や生物たちが、三宅島をどんどん再生している。

そして深い森、巨木の森を作っていく
そして深い森、巨木の森を作っていく

【鳥の島】
「三宅島には蛇がいないんです。天敵がいないので、『バードアイランド』と呼ばれるほど、野鳥が多いんですよ(菊地さん)」ということで、多くの野鳥が集まり、バードウォッチングスポットである『大路池(たいろいけ)』へ向かう。

深い森を進むと大きな池が見えて来る。二千年以上前の水蒸気爆発によってできた火口湖は、周囲2km、水深30mの伊豆諸島最大級の淡水湖。手付かずの大きく深い森と豊かな水に野鳥たちが集まる。「アカコッコ」などの絶滅危惧種なども生息し、多くのバードウォッチャー憧れの地だそうだ。水面には水鳥たちが羽を休め、ちょっと静かにしているとあちらこちらから鳴き声が聞こえてくる。

大路池。多くの水鳥が羽を休める
大路池。多くの水鳥が羽を休める

大路池の近くには「マイゴジイ(迷子椎)」と呼ばれる、迷子にならないための森の目印として使われたと言われる巨木がある。かつて噴火は神のなせる業とされ、この巨木は神が宿る木として大切にされたとのこと。これも多くの巨木が残る理由だろう。火山によりできた大きな池と、火山により残された大きな木々は、野鳥にとって心地のいい場所を作り、バードウォッチャーならずとも、心落ち着く場所となっている。

迷子椎。神の宿る巨木
迷子椎。神の宿る巨木

【再生と変化を繰り返しクライマックスに向かう「アイランド」】
やはり三宅島は火山の島。火山とはどうしても切り離せない。噴火で大きな変化を、自然も人も強いられる。森や池が一瞬で無くなる。島民は全島避難をしなければいけないこともある。そんな脅威とともにある島。

しかし今回の取材で思ったのは、自然も人もそれにただ怯えて過ごしているわけではなく、その脅威を受け止め、そこから再生して生きていこうとしているということ。
溶岩や土砂に埋もれたり、火山性ガスにより枯れてしまった木々の下からは、そういった土地にいち早く根をはるパイオニア植物や、これまで見られなかった植物が育ち、数年前には黒い溶岩だった土地を緑にしている。
人はその影響を新たな資源として活用し、火山が作り出した景色やアクテビティを「火山があるからこその魅力」として紹介している。

森はそういう再生・変化を繰り返し、極相林へと向かい、人は変化・再生を新しい資源としてを積み重ね、多くの来島者を受け入れる、魅力的な観光「アイランド」として極まっていくように思う(「島か?アイランドか?」に関しては「利島編2」参照)。

『変化と再生を繰り返し魅力を極める「アイランド」・三宅島』

火山と森以外にも海のアクティビティも豊富な三宅島。
なんとも魅力的な島だ。

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ガイドの菊地さんの説明を聞いていると、某「ブラ◯◯リ」を観ているような気になってくるw そんなガイドのお問い合わせは「三宅島ネイチャーツアー mahana」まで。

三宅島の観光情報は「三宅島観光協会」Webサイトから。
三宅島までの船に関する情報やチケットの予約は、「東海汽船」Webサイトから。

次回「青ヶ島編1」。「絶海の孤島」「東京の秘境」にいよいよ上陸か?

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