【火山の島・三宅島】
伊豆諸島の三宅島。2000年の噴火で全島避難となったことが記憶に新しいこともあり、「火山の島」として知っている方も多いだろう。数十年周期で島のどこかで噴火を繰り返しているため、島の所々で噴火の爪痕を見ることができるが、噴火のたびに再生をし、長い年月をかけて豊かな自然を作ってきたという、火山とともに生きている島でもある。
季節はこれから秋。「前の噴火から十数年経った三宅島の今を楽しむには、秋はちょうどいい季節」と島の方から聞いた。海水浴やダイビングなどの客が多く来島する夏のトップシーズンも終わり、ちょっと涼しくなって、島内をいろいろ巡るにもちょうどいい。そんな秋に、のんびり三宅島の自然を楽しむのはどうだろうか?
いざ、秋の三宅島へ。
【噴火の爪痕を巡る】
三宅島の噴火は中央の『雄山』からだけでなく、ここ100年でも数カ所、違う場所で起こっている。
自然の再生を見る前に、まずはそのいくつかの噴火の跡を巡る。
椎取神社
島の北東部にある『椎取神社』。島を一周する都道からちょっと入ったところにある。社殿と鳥居が見えるが、これは新しく建て直されたもの。ちょっと進むと、足元に鳥居が埋まっている姿に驚く。その先には埋もれた社殿らしき建物。これは2000年の噴火による泥流で埋まってしまったらしい。噴火前は深い森に包まれた神社だったが、降灰、泥流、土石流、そして火山ガスにより壊滅的な状況になったらしい。随分と再生が進んできてはいるが、噴火の脅威を感じるスポット。
ひょうたん山
『ひょうたん山』は、島の北東部の海岸近くで、1940年に噴火してできた山。上空から見ると噴火口が2つ連なり、ひょうたんのように見えたことから名前がついたとのこと。
都道からすぐに始まる赤黒い砂漠。この赤黒い砂は『スコリア』と言い、マグマが吹き上げられてできるしぶきが石となり、海に向かって広がっている。噴火当時ここは漁船や客船の風除けの場だったそうだが、そんな面影は全くないほど埋め尽くしてしまった。まるで他の星のような感じがする場所だ。
火山体験遊歩道(旧阿古小学校・阿古中学校)
1983年に噴火が起きた場所へ。阿古地区の一部を飲み込んだ噴火。旧阿古小学校・阿古中学校が堰き止めた溶岩の上に遊歩道が作られ、自然の脅威をそのまま伝えてくれる。二階建ての中学校は屋上まで、三階建の小学校は二階までが溶岩に埋まった。自然の力を見せつけられるが、溶岩の流れを食い止めるために、消防団が水をかけ続けたという話も聞いた。ただ受け入れるだけではない、火山とともに生きるという姿の一つ。
[ コラム ] 火山が作った美
大きな被害ももたらす火山ではあるが、綺麗な自然の姿を見せてくれる。その一つが『メガネ岩』と夕日。岩の間に夕日が沈む姿は、時間が経つのを忘れて見てしまう。
【再生が進む自然】
島の中心『雄山』へ向かう。現在の標高は774m。2000年の噴火前は815mあったが、噴火で崩落したそうだ。山頂は火山性のガスのため、現在も立ち入りが禁止されている。
山頂への道を進むにつれて、そのガスにより立ち枯れてしまった、白骨のような木々が目立ってくる。それらの木々の周囲には、2000年の噴火後新たに育ってきた新しい植物が生い茂る。こういった溶岩という過酷な土地にまず根を生やすのは『パイオニア植物』と呼ばれ、養分の少ない土地に数年で育ち、次の植物が育ちやすい環境を作るそうだ。
今多く見られるパイオニア植物は『オオバヤシャブシ』という植物。我々は1年前も三宅島を取材したが、倍とは言わないまでも、そのころよりかなり大きくなったように思う。立ち枯れた白い木々も、1年経っただけだが、その時ほど目立たなくなったようにも見える。目に見てわかるほど、ドンドン再生は進んでいるようだ。
山頂付近の元牧場跡へ。取り残された建物やサイロが寂しく見えるが、山頂方面を見ると緑の山肌が広がっている。全島避難から帰島した時は全面赤黒い山だったそうだが、今では赤黒い部分の方が少ないくらいだ。三宅島のネイチャーガイドの間では、何年か前から緑がかなり増えてきたという話が出ていたらしいが、ここ最近になって研究者が「再生が進んでいる」と発表をしたそうだ。お墨付きがついた再生。
[ コラム ] 山頂付近は風に注意
三宅島のいろいろなスポットを巡るには、レンタカーがオススメ。雄山山頂に行くにも必要な足だが、ここでは風に注意したい。ドアを開けた瞬間に風にドアを持って行かれることが多いそうだ。我々取材班も恥ずかしながらその経験者。風向きに注意して車を停めて、ドアを開ける時は十分に気をつけて。
【そして巨木の森と鳥】
噴火し再生へ進む三宅島の自然。その先に待つのは「巨木の森」への再生だ。
火山の島と紹介してきたが、三宅島は「巨木の島」としても知られる。島には手付かずの森が多くのこり、『全国巨樹巨木の会』にも認められた巨木の多い森があるらしい(巨樹・巨木の定義は、地上130cmの幹の太さが3m以上の木)。その森の中では、幹の太さが19.27mのスタジイが発見されたのだそうだ。
かつて噴火は神のなせる業とされ、この巨木は神が宿る木として大切にされたらしい。森の中に多くの巨木が残る理由だろう。
この巨木の森には、多くの鳥たちが集まる。絶滅危惧種に指定されている野鳥も多く、「バーウォッチングの島」としても有名。バードウォッチングスポットである『大路池(たいろいけ)』は、二千年以上前の水蒸気爆発によってできた火口湖で、周囲2km、水深30mの伊豆諸島最大級の淡水湖。噴火でできた池だが、今では再生した自然の中の一部。鳥たちを集め、これからの再生に一役買っている。
噴火を繰り返す火山の島は、噴火から再生、再生から豊かな森へと進む。長い年月をかけて行われるこの自然の流れを、この島では今見ることができる。その流れを見ることで、自然の脅威と再生のパワーの両方を感じる。それがこの島の魅力。
【そして、秋の季節に見られる絶景】
秋は、この再生の進む島に、見事な景色を見せてくれる。
雄山の中腹にパイオニア植物である『ススキ』が林を作っている。そのススキの林が太陽の光に美しく輝く。
のんびり散策を楽しめる秋の、この季節だけの絶景。これを見るだけでも、秋に三宅島に行く理由になるだろう。
撮影:菊地ひとみ(ネイチャーガイド:三宅島 Nature Tour mahana)
[ コラム ] 伊豆諸島の中心・三宅島
9島からなる伊豆諸島。三宅島は縦に並ぶ島々のほぼ中心。他の島が一番多く見える島だそうだ。
雄山の山頂からは、一番近い「御蔵島」はもちろん、天気のいい時は「八丈島」まで見える(さすがに「青ヶ島」は見えないらしいが…)。
メガネ岩のあたりからは、北側の5島「伊豆大島」「利島」「新島」「式根島」「神津島」が見える。標高の低い式根島が多少見つけにくいがw、しっかり見える。
伊豆諸島を感じられるチャンス。オススメのスポット。
三宅島への旅は船が楽しい! 夜出発の船で出港。レインボーブリッジをくぐる東京湾のナイトクルーズを楽しんで、翌朝起きたら島に到着。そんなのんびりした船旅はいかが? 船に関する詳しい情報や、予約は『東海汽船』Webサイトから!
この秋、自然のパワーを感じに三宅島へ。
三宅島の観光情報は『三宅島観光協会』Webサイトから。
Nature Service 正会員 島事業リーダー
酒と音楽をこよなく愛する自由な情報設計者。島での楽しみ方は素潜り。綺麗な海を見ると潜りたくなって仕方ないらしい。潜った後のビールと、民宿のご飯が大好物。ビールおじさん。
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