ニュージーランド女ひとり3島めぐりの中編は、気軽にトレッキングに出かけられる離島として人気の、オークランドシティからフェリーで25分の距離にあるランギトト島です。同島は、火山地帯のオークランドにおいて最も若い火山で、モトゥタプ島に隣接して600年ほど前の噴火活動によってできました。

気軽に出かけられるとは言ってもティリティリマタンギ島と同様に、厳重に管理されている自然保護区指定の無人島です。船は午前と午後の各2便しかありません。動植物を持ち込まないといった自然保護ルールの他に、食料類は自分で用意するなどの点で注意が必要です。

見た目は女性的、中身は男性的

左右の山裾がなだらかに海に流れ込むランギトト島。標高260mの山頂は島の中央部にあり、近くに火口跡もあります。短絡的な表現ですが、ランギトト島の形は遠くから観ると非常に優美で女性的です。これはマグマの粘性が弱いことが要因とされています。しかし外観は優美ですが山道に入ると溶岩流の痕跡が荒々しく、男性的な雰囲気でした。このギャップがランギトト島の魅力と言えます。

トレッキングコースは3つあり、4~5時間かけて山頂経由で島を1/4周するロングコース、2時間ほどで山頂を往復するサミットコース、海岸近くを散策するショートコースです。帰りの船便は最終が15:30、計画的に動かなければいけません。時間をかけて観察したかったためサミットコースを選択しました。

乗船前に植生保護のために靴の汚れを専用ブラシで拭き取ります
Fullers社のフェリーでいざ出発!
ハラウキ湾に浮かぶ、直径5.5㎞のほぼ円形のランギトト島。上陸後、船着き場にある見取り図を確認
荒々しい溶岩流の痕跡

噴火は600年も前なのに、真っ黒な溶岩流で覆われている箇所が多くあります。島一番の見どころは、日本では富士山麓の風穴しかないという“溶岩トンネル”です。

溶岩トンネルは、溶岩の表面が冷えて固まったものの、内部はまだ熱い溶岩が流れたために空洞化してトンネル状になった現象です。様々なサイズの溶岩トンネルが数か所あり、屈まないと入れないものや50mほど歩けるものがあります。

屈んで入るほうの溶岩トンネルにはカップルが一組いたため、まだ先の、歩ける溶岩トンネルに進みました。入り口は大きな口を開ける動物のようにも見え、誰もいなかったせいもあり一瞬ひるみました。しかし気合を入れ、ヘッドライトをつけて突進。足元も壁もゴツゴツしており歩きにくかったのですが、初の溶岩トンネルはひとりだったせいもあり、非常にエキサイティングでした。

溶岩流の跡が生々しい
溶岩帯
50mの溶岩トンネル
植物遷移を実感できる

島の多くが溶岩流で覆われているとは言え、植物がまったく生えていないわけではありません。200種類もの固有植物が確認されているのです。その内40種類ほどを占めるシダ類を始めとし、浜辺ではマングローブ、ニュージーランド最大の分布と言われているフトモモ科のポフツカワ、同じくフトモモ科のマヌカなどが自生しています。

ハチミツやプロポリスの原料として有名なマヌカ

 

マングローブの芽

北国では見たことのない植物ばかりでしたが、マヌカの葉っぱを見ていてふと気が付きました。ツツジ科の植物とよく似ているということを。北海道の大雪山などの火山にはツガザクラやキバナシャクナゲなどのツツジ科植物が多く生えていますが、ポフツカワやマヌカなどのフトモモ科植物の葉っぱと似ているように見えたのです。

ツツジ科植物は温帯・寒帯地域に分布し、一方のフトモモ科植物は熱帯・亜熱帯地域に分布しています。遺伝子的に当然違うのでしょうが、酸性土壌に適応したツツジ科とフトモモ科には「共通の仕組みが備わっているのではないか」という疑問がぼんやり浮かびました。しかし素人にとって植物の世界は奥深く、今後の課題にしたいと思います。

ところでこれらの植物は誰が運んできたのでしょうか?答えは頂上近くにありました。数本の樹木の蜜に群がる数十羽の鳥たち。今まさに、荒涼とした島に種を運んでくれる鳥たちが豊かな生態系を築きあげているのです。

しのぎを削る固有種と外来種

頂上からは対岸にきらびやかなオークランドシティを望むことができます。このような距離のため、20世紀半ばまでは住人がいました。その際に持ち込まれた動物が今も生息しており、ランギトト島の貴重な動植物への危害が懸念されています。

駆除動物に指定されているのは、ティリティリマタンギ島と同じくラットやマウスなどのげっ歯類です。やはり数か所に罠が仕掛けられています。しかし別な視点で言えば、これらのげっ歯類もかわいそうな存在と言えます。固有種保護のためには仕方のない犠牲ですが、罠にかかった姿を見るとせつなく感じます。

げっ歯類駆除のための罠

頂上近くには、火口跡を取り巻くように一周15分ほどのトレッキングロードがあります。やはり誰もいませんでしたが、少し緊張感を抱えながら歩くことに。

半周ほど歩くと茂みから何かが出てきました。目を凝らすと4羽の鳥。ちょこちょこと必死で前を歩いていきます。気づかれないように静かに後を付けました。10分ほどでしたが、こちらの存在に全く気付いてくれません。しびれを切らして足早になるとようやく気付き、慌てて茂みに消えていきました。

後日、野鳥に詳しい現地ガイドさんに画像を見てもらうと“ウズラ”とのことで、やはり住人が飼っていたものの子孫のようです。しかしウズラは飛べるはずですが……?

キジ科のウズラ

それぞれに命を全うすべく懸命に生きている、固有種と外来種。安易に命を無駄にしないためにも、やみくもに動物をよその地へ移入すべきではないことを痛感しました。

火口跡はすっかり緑で覆われています

そう言えば日本では小笠原諸島の西之島が、ランギトト島よりも遠くない過去にやはり海底噴火によって誕生しました。西之島でもゆっくりゆっくり時間をかけて、さまざまな命が誕生することでしょう。地球の長い歴史から見れば600年は短い時間のような気もしますが、自然は一朝一夕にはできません。

動植物が生きる場所を探してたどり着き、命を次世代にバトンタッチすることの掛け替えのなさ。ニュージーランド固有の動植物の遷移を垣間見ることのできるランギトト島に出かけませんか。女ひとりでも、少しの勇気と充分な備えがあれば安全に楽しむことができます。

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