NZ女ひとり島めぐりの後編は、オークランドシティからフェリーで35分ほどの距離にある、大勢の観光客で賑わうワイヘケ島です。観光客のお目当ては、島内に点在する20軒ほどの個性豊かなワイナリー。しかし訪れるとワイナリーを下支えしていたのは、豊かな生態系だということに気付きました。NZ女ひとり旅の最終編となる今回は、観光と自然の相互作用についてレポートさせていただきます。

ワイナリーツーリズムの魅力

本サイトは自然の魅力をお伝えするのが趣旨ですが、まずワイヘケ島のワインツーリズムの魅力について軽く触れさせていただきます。

女ひとりも3島目になればすっかり度胸も付き、フェリーの乗船もスムーズにできるように。ワイヘケ島にはデッキでさわやかな潮風を浴びているうちに到着し、さっそく周遊バスのHOP -ON  HOP-OFF(フェリー代込みで$60)に乗車。広い島内を効率よく廻るための、必須の移動手段です。

日本の観光バスのようにドライバーさんの他にバスガイドさんらしきスタッフが同乗しており、ジョークを交えながらものすごいスピードで喋りまくっていました。意味はまったく理解できませんでしたが、ユーモアに溢れた楽しい雰囲気だけは伝わり、気分は上々に。


乗っているだけで気分が上がる『HOP -ON  HOP -OFF』

ニュージーランドでワイン生産が盛んになったのは、30年ほど前の1990年代に入ってから。それほど古くはなく、 新世界ワインの位置づけです。現在ニュージーランド全域で750か所ほどの ワイナリーがあるそうです。

人気なのは都市近郊にあるレストラン併設型のワイナリーで、積極的に地場産食材を提供することで独自性を演出しています。羊肉を始めとするお料理は言わずもがな、垂涎ものでした。

そして……お料理だけではなく、周囲の自然環境を借景にした眺めもごちそうなのです。今回出かけたワイへケ島のワイナリーも羊の放牧風景に加え、自然環境に配慮した景観がワイナリーの魅力を高めていました。

ゆったりとした時間が流れるワイナリー
人間と同じようにゆったりと牧草を食む羊たち

ワイナリーの背後に原生的自然あり

当初、ワイヘケ島の観光目的は他の観光客と同じようにワイナリー巡りでした。ところがテイスティング(平均1杯$5)でほろ酔いになりつつ現地で入手した地図をよく見ると、各ワイナリーの近くに自然保護エリアトレッキングルートのマークが。私自身、ワイへケ島の自然はノーマークでした。

実際に現地で見てみると、 トレッキングルートのゲートが ワイナリーの周辺に。しかし他の観光客は既にワイナリーの中へ消えていました。天邪鬼と好奇心の角がニョキニョキと出てしまい、引っ込めることができませんでした。「これはプチ探検するしかない」と。


人っ子一人いないトレッキングルートの入り口

固有種の「カカ」あり、外来種のハリネズミあり……

最初の探検は、島の最も奥にあるワイナリー、BatchWinery近くのトレッキングルート。地図を見ると、徒歩で30分ほど先に別のワイナリーのマーク。少し不安でしたが「ま、ワイナリーもあるから大丈夫」と、左右に樹木が生い茂る緩やかな坂をずんずん下りていきました。

ところどころにニュージーランドの固有種、オウム科カカの保護標識が掲示されていました。カカは、外来動物のポッサム(有袋類で樹上生活をする)などとの食料(主に樹木の花蜜)争いで、減少傾向にあるそうです。現在は約一万羽以下とか。

他の2島と同じようにげっ歯類の罠も置かれてあり、のぞくとぴくりとも動かないハリネズミ……。アライグマもそうでしたが、最近日本でペットとして人気のあるハリネズミの行く末は大丈夫でしょうか(日本で唯一認可されているヨツユビハリネズミは、人間が世話をしないと死んでしまうそうですが……)。

整備され歩きやすいトレッキングルート
ニュージーランドでも外来種の、体長20㎝ほどのハリネズミ

「キューアキューア」とカカらしき鳥の鳴き声を聞きながら30分ほど歩くと、大きな車道に出てしまいました。実はこのルートは、目指したワイナリーとは反対方向でした。

あとで確認すると、日本で言えば県立・道立公園に該当するWhakanewha park。なんと地図を見間違えて載っていなかったルートを歩いていたのです。

しかし迷ったおかげで、観光地であるワイナリーの背後に豊かな原生的自然があることを、しっかり確認することができました。

天然湿地あり、ブルーペンギンの生息地あり

そして次は港近くのCable BayVineyardという、これまた素敵なワイナリーのそばに広がるトレッキングルート Atawhai Whenua Reseveへ。夕方だったせいか多くの野鳥たちの鳴き声があり、導かれるように迷わず無事にたどり着けました。2組の通行人と行き交いましたが、港からワイナリーへの抜け道のようです。歩いて30分ほどなので周遊バスを使う必要がありません。

このルートではさらにうれしい発見が。森が広がるだけではなく天然湿地や、本体には出合えませんでしたがブルーペンギンの生息地もあったのです。

説明版に 、開拓による森林や湿地帯の破壊、そして固有種カウリなどの樹木の回復と保護に尽力した人たちの物語が、丁寧に書かれていました。

自然の重要性に気付いて以降、地域住民によって在来種の再導入と増殖、野生動物の通行路の確保が推進されてきたそうです。

17世紀に伐採されて裸地だった丘陵地。現在は豊かな森に回復
ニュージーランド固有種のブルーペンギンの生息地

観光と自然の相互作用

世界初の包括的な法律と言われている 1991年制定の「資源管理法」下で持続可能な開発が推進されているニュージーランドは、国立公園と自然保護区が国土の1/3を占めています。

一見、観光と自然保護は相いれないものと認識しがちですが、 ニュージーランドでは観光を巧みに自然保護に役立て、両者が相互作用していることが感じられました。

ご存知のように ニュージーランドは羊の畜産が盛んで、ワイへケ島でも周辺に羊が放牧されているワイナリーが多くありました。雑草を食べてくれる羊のお陰で化学薬剤を散布しなくても済みます。在来種のジガバチも害虫を捕食してくれるので、化学殺虫剤を使用しなくて済みます。地域の自然環境に配慮した優しい方法によって、美しい景観が維持されているのです。

そして原生的自然の延長に、ブドウ畑の列縁には在来種の草本と樹木が植栽されていました。在来種の再導入と増殖の推進を図ることで、野生生物の通行路が確保されいるのです。このような取り組みによって、ワイへケ島を始めとするニュージーランドワインの国際的評価が高められています。

ワイナリーの背後に控える原生的自然が、ワイナリーの魅力を高めていると言えます。

景色も楽しみながらのテイスティング

ワインもいいけどトレッキングルートもお試しを

ところが、ニュージーランドにはティリティリマタンギ島を始めとする重要な野鳥の保護地域があるためか、観光客のワイヘケ島の自然環境に対する関心は高くないようです。

後日情報収集したi-SITE(観光案内所)の日本人スタッフや現地ツアーの日本人ガイドさん、そしてティリティリマタンギ島のニュージーランド人ガイドさんも「あの島はワインの島ですよ」と断定をしており、残念に感じました。もしかすると、身近過ぎて灯台下暗しなのかもしれません。

観光地は近くにある自然も見つめることで、奥行きが感じられる気がします。ワイヘケ島は ワイナリー巡りも素敵ですが 、お出かけの際はぜひトレッキングルートも試していただければと思います。

足早で駆け抜けたニュージーランドの北島。もう一度自然を感じに、再び出かけたい場所のひとつに加わりました。

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