近年、高機能なギアが続々と開発され、普段の生活に近い便利さを味わいながら自然を満喫することが容易になりました。ほんの数年前と比較しても、キャンプのスタイルや楽しみ方は大きく変化しています。
しかし、今も昔も変わらないものもあります。それはキャンプにおけるリスクです。自然の中では、誰の責任でもなく自分の責任において行動することが日常よりも多く求められ、それはアウトドアに関わるすべての人たちが心にとどめておくべき心得です。
今回は、キャンプにおけるリスクと責任、その対策について一緒に考えていきましょう。
「無知」「油断・慣れ」が最大のリスク
キャンプにおける最大のリスクは「無知」や「油断・慣れ」です。キャンプ初心者が基本的な知識を持たずに自然に飛び込むのは、無防備な状態でリスクと向き合うことを意味します。たとえば、適切な装備の選定を怠ったり、基本的な屋外調理の方法を知らなかったりすると、天候の急変や火災などによる危険が増幅します。
また、経験豊富なキャンパーであっても、慣れからくる油断が大きなリスクを招くことがあります。たとえば、「もう何度も焚き火をしているから大丈夫」と思い、基本的な安全対策や後始末を怠ることで、火災が発生することもあります。
無知や油断はキャンプの楽しみを一瞬で奪い去ります。時には多くの人の財産や人の命まで奪うことがあります。適切な情報収集と継続的な注意が、安全で充実したキャンプを楽しむために不可欠なのです。
それでは、実際に考え得るキャンプの具体的なリスクと対応策をみていきましょう。
生き物との遭遇リスク
キャンプでは、さまざまな生き物との遭遇が考えられます。虫から大型動物に至るまで多種多様な生き物が生息していますので、自然の中に入る際は遭遇することを前提に、適切な準備をして出かけます。
基本的な虫よけ対策
虫対策の基本は、虫よけスプレーや蚊取り線香の使用です。長袖・長ズボンなどで肌を出さない服装を心がけることも大切です。また、テントの入口を開けっぱなしにせず、必要な時以外は常に閉じておくことも、虫対策の基本です。
有毒な生き物への対策
ハチやヘビなどの有毒な生き物は至るところに潜んでいます。基本は、虫よけの使用、肌を露出しない衣服の着用、危険な生き物には近寄らないなどの対策を行います。また、ハチ対策として、黒い衣服の着用を避ける(ハチが好む色とされている)、整髪料や香水の使用を控える(ハチが好む匂い成分が使われていることがある)なども知っておくとリスクを低減できます。
それでも、刺されたり、かまれたりすることがあるため、ポイズンリムーバーなどの毒液を吸引する応急手当器具を常に携帯しておくことが重要です。お持ちでない方は、以下の動画をご覧いただき、メディカルキットの中に入れることを検討してください。
もし刺されたり、かまれたりした場合は、生き物を刺激しないように落ち着いてその場を離れます。傷口は強く絞りながら水でよく洗い流し、速やかに病院へ行くことが大切です。刺した相手、かんだ相手がわかる場合は、特徴を覚えおくとその後の病院での対応がスムーズです。
ただし、心にとどめておくべきは、自然豊かなキャンプ場ほど近隣の病院の診察日が少ない、病院までの距離が遠い等のリスクが増加する点です。特に夜間対応が可能な病院が近くにないケースもあるため、自らの準備と判断が一層重要となります。あらめて持参するメディカルキットの中身を点検し、万が一に備えておきましょう。
中型・大型の生き物への対策
自然の中には、熊、狐、鹿などさまざまな動物が生息しています。私たち人間は、彼らの生息地に”おじゃましている存在”であることを常に意識する必要があります。これを踏まえて、以下の対策を講じましょう。
動物にとって、ごみを含めた食べ物の匂いは非常に魅力的です。外に食べ物や生ごみを置きっぱなしにせず、車がある場合は食材や生ごみを車の中に保管します。車がない場合は、食材をしっかりと密閉し、寝る場所から遠ざけるようにします。
自然の中を散策する際には、ラジオや鈴を持ち歩いたり、大きな声を出して人がいることを知らせたりすることが有効です。また、直接動物が出没しなくても、足跡や糞などの痕跡を発見した場合は、近づかずに人の多い場所に戻ってください。
テントに滞在している際には、獣除けの線香なども販売されているので、こうしたアイテムをテントの周辺で利用するのも一つの手です。対策を講じることで、生き物との不意の遭遇を減らせます。
山火事のリスク
ご自身の行動が山火事を引き起こす可能性があると想像したことはありますか?
火を使う焚き火やバーベキューには常に大きな責任が伴っています。山火事は自然を失うだけではなく、人々の安全や財産を一瞬で奪い去る非常に大きなリスクです。
キャンプで火を使う際は、以下の点に必ず注意します。
- 風向きに気をつける
- 燃えやすいものを近くにおかない
- 眠りにつく前やキャンプの撤収時間から逆算して、薪や炭を燃やし尽くす
- 薪、灰、炭に水をかけない(高温の水蒸気が発生しやけどを負う危険性がある)
- 確実に消火する
- 灰が飛ばないようにする(風よけや飛散防止のスクリーンを活用する)
過去には、バーベキューの火の不始末が原因で山林火災を引き起こし、逮捕された事例もあります。楽しい思い出が悲しい記憶とならないよう適切な対策を講じましょう。
参考:【赤穂山林火災】使用後の炭に細心の注意を レジャーに潜む危険性浮き彫り
もしもの時のために保険に入っておくこともおすすめです。
一酸化炭素中毒のリスク
一酸化炭素中毒のリスクを下げる最善の方法は、「テント内で火気を使用しない」です。これはテント泊に限ったことではなく、車中泊の場合も同様です。密閉空間で「火気を使用しない」ことが何よりも大切です。
しかしながら、寒い時期にテント内で石油ストーブや薪ストーブなどを利用する人たちもおり、それを楽しみにキャンプに出かける方たちもいます。その場合は、「常時換気」と「一酸化炭素チェッカーの使用」を必ずセットで行います。「必ず」です。
一酸化炭素は無色透明で無臭の有毒ガスであるため発生に気がつきにくく、吸引すると一酸化炭素中毒により、脳への障害、最悪の場合死に至る可能性があります。
一酸化炭素(CO)濃度(%) | 吸入時間による中毒症状 |
0.04 | 1~2時間で前頭痛や吐き気、2.5~3.5時間で後頭痛がします |
0.16 | 20分間で頭痛、めまい、吐き気、2時間で死亡 |
0.32 | 5~10分間で頭痛、めまい、30分間で死亡 |
1.28 | 1~3分間で死亡 |
驚くほどの短時間で中毒症状があらわれますので、その怖さを決してあなどってはいけません。
換気
通気口を確保し、空気が循環する状態を必ず作り上げます。また、就寝時の消火も忘れずに行ってください。火は消えているように見えても静かに燃焼している可能性があるので、就寝前に火気はテントの外に出してください。
一酸化炭素チェッカー
火気をテント内や車中で使う際は、一酸化炭素チェッカーを必ず使用します。
特に、薪ストーブのテント内使用には十分注意してください。「煙突を付ければ安心」ではないのです。たとえば、煙突に設置したスパークアレスターの目詰まりにより排気不良や煙の逆流などが起こりえます。「何だか薪が燃えにくい」「煙が逆流している気がする」などの小さな違和感を決して放置せず、排煙不良の可能性を疑うことも、安全を守るためには不可欠です。
さらに、ご自身の身の安全を守るために使用するのはもちろんのこと、他のキャンパーさんのテントや車から警報音が聞こえてきた場合は、たとえ他人でも声をかけるなど、安全を確認し合いましょう。
一酸化炭素チェッカーがどのようなものなのか、また、警報音がどのように鳴るのかは、以下の動画をご参考になさってください。
ただし、一酸化炭素チェッカーを設置したことによる過信は禁物です。故障や電池切れ、粗悪品等による検知不良が起こりえます。テント内や車中では「火気厳禁」を基本行動とし、一酸化炭素チェッカーはあくまでも補助的なアイテムとして使用してください。
また、普段テント内で火気を使わないがゆえに、一酸化炭素チェッカーを持たないキャンパーさんにもご注意いただきたいことがあります。過去にこんな経験はないでしょうか?
- 焚き火台やBBQコンロを夜露や急な降雨から守りたくて、つい、テント内に入れた
→ テントは大型化が進む一方で、焚き火台・BBQコンロなどは軽量化や小型化がすすみ、容易にテント内に入れることが可能になりました。火は、消えたと思っても完全には消えていないことも多く、ちょっとした油断が一酸化炭素中毒を招きます。2ルームテントの前室やフライシート内に入れることも同様のリスクを招くため、注意が必要です。 - 小型のバーナーなら大丈夫だと思ってテント内で調理をした
→ たとえ小さな器具であっても、燃焼には大量の酸素が必要です。密閉空間で火を燃やす行為は、特に一酸化炭素チェッカーを持たない方たちは絶対におやめください。 - テントの外で焚き火すれば大丈夫だと思い、テントの入口前で焚き火をした
→ 風向きなどが影響し、知らぬ間にテント内に一酸化炭素がこもっていることがあります。焚き火をする際は、場所や風向きには十分注意しましょう。
落枝・倒木リスク
木々があれば、そこには落枝と倒木のリスクがあります。特に風の強い日や長期間の雨後、乾燥した時期には、古くなった枝が重みや風圧、乾燥で折れやすくなるため、特段の注意が必要です。
葉や枝のない木は立ったまま枯れている場合があります。立ち枯れの木には、根元や幹にカビやきのこが生えている、枝がしならずパキッと折れる、といった特徴もあります。こういった木々の近くには、テントを設営しない、近寄らないといった対応が必要です。
また、傾いている木の近くも避け、頭上に折れて引っかかっている枝がないかもチェックして安全を確保しましょう。
その他のリスク
前述した以外にも多くのリスクが存在します。具体的なリスクとその対策を以下に紹介します。
天候
キャンプ当日の天候が急激に変わることは珍しくありません。急激な温度差、強風、大雨、雷などが発生する可能性を常に念頭に置き、レインウエアや防水シート、温度調節のしやすい服装でキャンプに臨みましょう。また、雷の音がした場合は迷わず車や建物の中に避難してください。
迷子・遭難
自然の中では、迷子や遭難など予期せぬ事態に遭遇することがあります。特にひとりでキャンプに行く場合には家族や友人に予定を共有しておき、緊急時には連絡できるようにしておくと良いでしょう。万が一何か問題が発生した際、家族や友人が「何かあったのでは?」と察知し、早めに対応してもらえる可能性が高まります。
自然の中を散策する際には、スマートフォンを常に持ち歩きましょう。ちょっとした場所でも遭難することがあるので油断は禁物です。また、電波が入りにくい場所では、スマートフォンが電波を探し続けることでバッテリーの消耗が早まることもあります。モバイルバッテリーを用意しておくと安心です。
小さい子どもがいる場合は、特に目を離さないように気をつけ、安全な範囲で行動するようにしっかりと指導します。
水辺
川や湖の美しい風景は、キャンプをより楽しむ要素の一つですが、一方で急な増水や強い流れといったリスクも伴います。泳ぎや釣り、水遊びを楽しむ際には、必ずライフジャケットを着用し、子どもからは決して目を離さないようにしましょう。さらに、川の水温は予想よりも低いことが多く、体温が低下して体力を消耗することもリスクの一因となります。この点にも十分注意を払って、安全に楽しむ姿勢を忘れないようにしましょう。
熱中症・食中毒
熱中症は夏だけの問題と思われがちですが、実際にはすべての季節で発症する可能性があります。タープなどで日陰を確保し、こまめに水分と塩分を補給し、適度な休息をとることが重要です。特に「暑いのに汗が出ない」といった症状は危険信号です。
また、キャンプ中の食材や飲み水の管理もしっかりと行い、食中毒リスクを回避します。食材はクーラーボックスで保管し、生ものは早めに使い切ります。特に近年、夏に限らず春や秋の気温が高いため、食中毒防止の為にも電源付きポータブル冷蔵庫の導入を検討するのも良いかもしれません。
リスクを負うのは自分だけではない
緊急事態が発生した際、リスクを負うのは自分ひとりではありません。救助者や対応者など、周囲の人たちをも危険にさらし一緒にリスクを背負わせることになります。
冒頭に書いた「無知」はもちろんのこと、「油断や慣れ」もリスクを増幅させます。キャンプのリスクをゼロにすることはできませんが、リスクの存在を知りそれをいかにして軽減するのかを考え、行動することが大切なのです。
キャンプは自然を満喫し、リフレッシュするすばらしいアクティビティです。しかし、無知や油断から生じる行動が他のキャンパーや自然環境にも影響を与えることを忘れてはなりません。リスクに対する対策をしっかりと行い、自分や周囲の安全を守ることが、誰もが楽しめるキャンプを実現する鍵です。キャンプを楽しく安全に過ごすために、リスクについての知識を深め、適切な準備を怠らないよう皆で心がけましょう!
Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。