オーバーランディングは、オーストラリアの人里離れた内陸部「アウトバック」で始まり、現在は四輪駆動車等を用いた冒険的なアウトドア・アクティビティとして知られています。
今回は、オーバーランディングの起源、アウトバック、そして英国でのグリーンレーニングとの比較を通じて、その多様性を探ります。オーストラリアの広大なアウトバックを舞台に長距離を旅する歴史的な背景から、現代のアウトドア愛好家がどのような形でこのアクティビティを楽しんでいるのか、一緒にひも解いていきましょう。
オーバーランディングの起源
「Overland」には「陸路の」という意味があり、Overlanding(オーバーランディング)は、SUVやピックアップトラック、車高を上げた四輪駆動のキャンピングバンで長距離を移動しながら、未知の世界を探索する冒険的なアウトドア・アクティビティです。自然と向き合いながら、目的地に到達すること以上に、「旅そのもの」に価値を見いだす点に特徴があります。
その起源は、オーストラリアの人里離れた人口の少ない内陸部、つまりアウトバックと呼ばれる地域の牛の放牧に関連しています。当時、沿岸部にある市場まで牛を移動させるために長距離移動が必要であり、あくまで商業目的としてアウトバック(人里離れた内陸部)を通過していました。この牛を移動させるルートが後にオーバーランディングのトレイルとして利用され、現在では体験や冒険を主目的とするアクティビティに変化していったのです。
アウトバック・オーバーランディング・グリーンレーニングの違い
アウトバックとオーバーランディングは高い技術と準備を必要とする旅が中心です。一方、グリーンレーニングは英国の田舎道を使った比較的短期間の余暇活動で、専門的な装備は不要です。どれも自然と触れ合い、冒険を楽しむ点で共通していますが、それぞれの冒険レベルと参加ハードルには違いがあります。
以下は、編集部において調査した結果をまとめたものです。
アウトバック | オーバーランディング | グリーンレーニング | |
---|---|---|---|
英語表記 | Outback | Overlanding | Green laning |
国 | オーストラリア | 世界各国 | 英国 |
概略 | 本来は人が住めない内陸部(=アウトバック)のことを指す。 アウトバックを走ることがオーバーランディングと同義で語られることもある。 | アウトバックを起源に持ち、現在では北米や欧州でアウトドア・アクティビティとして人気を博す。 | 英国の田舎の道を活用し、楽しむことを促進。 Green Lane Associationが主に管理する。 |
エリア | オーストラリア国内で完結 | 国内で完結 複数の国を移動する 大陸間を移動する | 英国 国内で完結 |
期間 | 数週間〜数カ月 | 数日〜数カ月 | 日帰り〜数日 |
移動手段 | 車 | 車、バイク | 自転車、バイク、車、徒歩、馬 |
車の改造 | 必須 | 必須 | 4WD車であればOK |
装備 | 自給自足レベルが必要 | 自給自足レベルが必要 | 大がかりな装備は不要 |
冒険度 | 高 | 中〜高 | 低〜中 |
その他 | 常に、冒険・サバイバル・未知への挑戦がテーマとなる | 行く先により、冒険・サバイバル・未知への挑戦のレベルは変化する | 週末などを利用して田舎に、やや冒険的なドライブに行くイメージ |
オーバーランディングとアウトバックは、改造を必要とする車での移動が特徴であり、自給自足とサバイバル技術や知識が求められる点で大きく共通しています。一方、グリーンレーニングは比較的短期間で楽しめるアクティビティで、協会が管理していることからルートや規模がよく整備されている点で比較的誰もが楽しめるアクティビティです。
これら3つのアクティビティに共通する点として、自然と触れ合い、(レベルは異なるものの)冒険を楽しむことができる点が挙げられます。大自然の中での特別な経験を通じて、それぞれが独自の魅力を持ちながらも、参加者にとって充実した時間を提供します。
現代アウトドア・アクティビティへの進化
オーバーランディングは、技術の進歩や社会的変化により参加ハードルが下がり、伝統的なオーストラリアのアウトバック体験から大きく進化しています。
先進技術による進化
現代のオーバーランディングは、技術の進歩により、より多くの人が参加できるようになりました。ルーフトップテントやソーラーシステム、効率的な収納スペースなどが備わり、冷蔵庫などの電化製品も持ち運べるため、水や電気のない地域でも長期間の冒険が可能です。
また、GPS、マッピングアプリ、通信ツールの進化により、オーバーランディングは以前よりも安全で、参加ハードルが下がったと言えます。テクノロジーによって快適な旅が実現し、自然に触れたい現代人の欲求を満たしつつ、より多くの人々が楽しめる活動に進化しています。
オンラインコミュニティーの存在
SNSを含むオンラインコミュニティーやフォーラムの普及により、オーバーランダー同士が簡単に情報を共有し、交流できる時代となりました。装備のアドバイスや車両の輸送方法、ビザの取得方法、おすすめルートに至るまで、あらゆる情報がオンラインで手に入ります。さらに、旅の途中で遭遇したトラブルへの対処法なども国境を越えてリアルタイムで相談・解決できる場として活用されています。
これらのコミュニティーは、単なる情報交換の場を超えて、共通の価値観を持つ仲間たちとの絆を深める場所となっています。初心者でもベテランのオーバーランダーとも簡単につながることができ、その経験談や知識を活用することで安心して冒険を楽しむことができます。
技術やサービスの進化により、オーバーランディングのハードルはますます下がり、誰もが挑戦しやすい環境が整っている今、これらのオンラインプラットフォームは欠かせない存在となっています。
(参考)世界を駆けるオーバーランディング ー データから読み解く新たなアウトドアブームの可能性 ー
世界のオーバーランダーの旅
さて、最後にオーバーランダーの旅のルートの一部を紹介したいと思います。世界のオーバーランダーたちは、どのようなルートで旅を楽しんでいるのでしょうか。
たとえば、例1のルートは、オーストラリアから日本(車は海上輸送)へ入り、日本から韓国、ロシア、モンゴルを通り欧州方面へと向かうルートです。
一方、例2のルートは、英国を起点に、フランスやドイツ、イタリアなど多くの国々を訪れています。また、ノルウェーやフィンランドなどの北欧方面へ向かうルートも人気で、自国では見られない自然を探求しに行くようです。
これらのルートはほんの一例ですが、現代のオーバーランディングは国や大陸をまたぎ、道中で出会う人々や風景、文化を楽しむことが大きな魅力となっています。技術とコミュニティーの支援を受けつつ、自由と冒険を満喫できるオーバーランディングの旅は、ますます多くの人々に親しまれるアウトドア・アクティビティとして進化し続けています。
まとめ
冒険と自立の精神は、オーストラリアの伝統的なアウトバック体験と多くの共通点を持っていますが、現代のオーバーランディングは、これらのコアな価値観を維持しつつ、快適さ、テクノロジー、アクセシビリティの要素を取り入れて進化しています。自然への探求心はそのままに、より多くの人々が楽しめる形へと変化しているのです。
Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。