近年、オーバーランディング(Overlanding)というアウトドア・アクティビティが、北米、欧州、オーストラリアを中心に急速に人気を博しています。オーバーランディングのルーツは古くからオーストラリアで行われてきた放牧にあり、現地で長年培われてきた文化のひとつです。それが現在では世界中にアウトドア・アクティビティのひとつとして急速に広がり、特に欧米諸国で注目を集めています。そのなかでも特に米国での支持は顕著で、Google Trendsのデータや主要イベントの参加者数からもその勢いが読み取れます。
米国におけるオーバーランディングの動向
海外でのオーバランディング人気は高まっていますが、なかでも勢いがあるのは米国。ここ数年でひとつのアウトドア・アクティビティとして定着しています。
Google Trends
米国でのオーバーランディングの人気は、Google Trendsのデータから明確に確認できます。以下のグラフは、過去10年間の「Overlanding」というキーワードの検索傾向をGoogle Trendsを使って示しています。
人気度の動向とは(Googleによる説明)
数値は、特定の地域と期間について、グラフ上の最高値を基準として検索インタレストを相対的に表したものです。100 の場合はそのキーワードの人気度が最も高いことを示し、50 の場合は人気度が半分であることを示します。0 の場合はそのキーワードに対する十分なデータがなかったことを示します。
グラフからは、米国におけるオーバーランディングに対する関心の高まりは、2015年頃から徐々に上がり始め、2020年以降に急激な上昇を見せていることがわかります。2020年半ば以降は高い水準を維持しており、持続的な関心の高さを示しています。
Overland EXPO®
この傾向は北米最大のオーバーランディングイベントであるOverland EXPO®の参加者数推移からも裏付けられます。元々年に1回の開催であったこのイベントは、需要の高まりに応じて現在では年に4回(WEST、PNW、MTN WEST、EAST)開催するまでに拡大しました。
そのうちのひとつ「Overland EXPO® WEST」を例に挙げますと、その参加人数は右肩上がりに増加していることがわかります。
2023年のOverland EXPO WESTにおける参加者数は3万、2024年は2.9万、どちらも400以上の出展者が参加しています。この数字は、オーバーランディングの人気が単なる一時的なトレンドではなく、持続的な成長を遂げていることを示しています。また、来場者は米国にとどまらず、オーストラリア、カナダ、中国、イギリス、メキシコ、フィリピン、韓国など世界中から集まっており、世界的な注目度の高さもうかがえます。
Webメディア・SNSからみる世界の注目度
オーバーランディングへの注目度の高さは、WebメディアやSNSからも確認できます。フォロワーや登録者数は数万〜数十万人に上り、Webサイトの月間PV数(推定値含む)も多いところで290万に達します。以下の組織やコミュニティがその一例です。
組織名 | 特徴 | フォロワー/登録者数 |
---|---|---|
Expedition Portal | 世界最大級のオーバーランディングコミュニティ コミュニティメンバー数:180,000 人以上 PV数:290 万 / 月1 | YouTube:10万 Facebook:8.8万 Instagram:20.8万 |
Expedition Overland® | 世界中の人々に冒険を促進することを目的とした探検家と映画製作者のチーム 1日あたりの推定オーガニックトラフィック数:7千(出典:Ahrefs2) | YouTube:42.5万 Instagram:25万 |
Overland Bound | オーバーランダーとオフロード愛好家のグローバル コミュニティ 1日あたりの推定オーガニックトラフィック数:3.9万(出典:Ahrefs) | YouTube:19.5万 Facebook:16万 Instagram:34.2万 |
Overlanding Association | オーバーランダーにアイデアやアドバイスを提供するコミュニティ 複数のFacebookグループを運営 | Overlanding Europe:5.0万 Toyota Overlanders:6.2万 Overlanding Asia:7.7千 |
各SNSプラットフォームは、それぞれ異なる役割と特性を持ちながらオーバーランディングの人気を支えています。Facebookでは、グループ機能を利用して情報交換やコミュニティ形成が盛んに行われています。Instagramはビジュアルに重点を置き、美しい風景や装備の写真、短い動画が頻繁にシェアされ、視覚的なインパクトで関心を引きつけているようです。また、YouTubeでは、より長尺の動画を通じて実際の旅行記や装備レビュー、トレイルの攻略方法などが詳しく紹介され、ユーザーが実際に体験を追体験する形で情報を提供しています。
他アクティビティとの比較
他のアウトドア・アクティビティとの比較や、北米のアウトドア事業者のレポートを参考に、その人気ぶりを読み解いてみましょう。
オーバーランディングとロングトレイルの検索ボリューム推移
海外から日本に持ち込まれたアウトドアのひとつ、「ロングトレイル」と「オーバーランディング」の世界的な検索ボリュームを比較してみます。ロングトレイル(Long trail)とは、長距離を歩くハイキングコースのことです。
以下は、「Overlanding」と「Long trail」の検索ボリューム推移をGoogleキーワードプランナーのデータをもとに示しています。(このデータには、アクティビティ以外の意味や情報を調べる検索も含まれます。)
取得可能な2020年9月から2024年8月までの期間における月間平均検索ボリュームはそれぞれ、Overlanding:90,500、Long trail:3,600となっており、このデータからは海外で人気のロングトレイルと比較してもオーバーランディングへの関心が持続的に高い水準を維持していることが読み取れます。
挑戦したいアクティビティとしても人気
北米でアウトドア事業を展開しているKampgrounds of America, Inc.社が出しているレポートからも、オーバーランディングに対する注目度の高さがわかります。
2023年春に公開されたレポートでは、「2023年に試してみたいこと TOP 5」にオーバーランディングがランクインしています。
Interest in Trying for 2023 top5 | 2021 | 2022 | Change |
Glamping | 25% | 38% | 13%増 |
Backcountry experience | 23% | 28% | 5%増 |
Overlanding | 23% | 28% | 5%増 |
RVing experience | 28% | 29% | 1%増 |
Full-time RVing | 23 | 20 | 3%減 |
※2022年に行われた調査を2023年に公開
NORTH AMERICAN CAMPING & OUTDOOR HOSPITALITY REPORTは、北米のレジャー旅行者のキャンプおよびアウトドア旅行の好みやトレンドを調査するもので、業界をリードする年次調査です。調査対象は米国およびカナダの世帯で、サンプルサイズは合計4,100世帯(米国2,900世帯、カナダ1,200世帯)に及びます。同レポートのサンプルの抽出方法は無作為ですが、それにもかかわらずオーバーランディングへの関心の高さが浮き彫りになる内容でした。
まとめ
オーストラリアを起源とするオーバーランディングは、今や北米や欧州を中心に世界的な人気を誇るアウトドアへと進化しています。米国では特にその勢いが顕著であり、Google Trendsのデータや主要イベントの参加者数からもその成長ぶりが確認できます。今回は、米国を中心のその人気ぶりを紹介しましたが、欧州のSNSにおいても日々活発に情報交換がなされており、世界中のあらゆる場所でこのアクティビティが楽しまれているようです。
Overland EXPO®を運営するエメラルド社の消費者イベント担当副社長であるジェシカ・キルヒナー氏はイベントの参加者数増加を受けて、「消費者がアウトドア・アドベンチャーを通じて自然とのつながりを求め、日常から離れることを望んでいるという事実を浮き彫りにしています。」と、人々がオーバーランディングを求める理由を分析しています。
オーバーランディングは単なる一過性の流行ではなく、今後も成長が期待される持続的なトレンドへと発展し、引き続き成長が期待される新たなアウトドアブームとして大きな影響を与える可能性がありそうです。
参考)
Overland Expo West 2024
Overland Expo West, Premier Consumer Event, Continues Momentum with Sold-Out Exhibitors Leveraging Surging Participation
- https://expeditionportal.com/partner-with-us/より ↩︎
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Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。