近年、世界中で注目を集めているオーバーランディング。各国で多様な形で受け入れられ、その魅力によりオーバーランディング人口は急成長しています。

これまで歴史的な背景やアウトドア・アクティビティへの発展、また世界のビジネス環境などをもとにこのアクティビティに魅力について紹介してきました。

今や、オーバーランディングは単なるアウトドアの遊びを超え、各地域の経済にも大きなインパクトを与える存在となりつつあります。

こうした背景を踏まえると、国土の約7割が森林であり、四季折々の自然が楽しめる日本でも、このアクティビティを活用して地域経済を活性化させる大きなチャンスがあると言えます。今回は、日本独自の自然環境と文化を生かした「日本型オーバーランディングの可能性」について探ります。

日本の新たな観光コンテンツへ

欧米諸国と日本とでは、地理的特性や文化的背景が異なります。この点を考慮しつつ、オーバーランディングを日本の新たな観光コンテンツとするには、どのようなプラン作りができるのかを考えていきます。

オーバーランディング向けルートの開発

まず必要となるのは、オーバーランディング用のルートの開発です。日本は島国であり、しかも広大な国土を持ちません。オーストラリアやアメリカのような、どこまでも広がる無人地帯を走るオーバーランディングスタイルは現実的ではありません。しかし日本には、使われなくなった林道や林業作業道など、ルートになり得る道が眠っています。

米国ユタ州モアブは、ウラン採掘ブームの終焉(しゅうえん)に伴って使用目的を失った鉱山用の道路をオフロードの観光コンテンツとして生まれ変わらせました。今やこの地は、オーバーランディングやオフロードの聖地として人気を博し、地域経済の活性化に貢献しています。

日本においても同様に、未利用の道をオーバーランディングのルートとして活用することで、新たな観光コンテンツとして利用できるのではないでしょうか。林道や廃道に新たな利用価値を見いだすことは、単なるルートの開発にとどまらず、地域の歴史や文化を再発見する機会にもなり得ます。たとえば、かつての街道や峠道を活用することで、歴史探訪型のオーバーランディングツアーを企画することも可能となります。

 地域との共生と経済貢献

ルートの開発と同時に、地域コミュニティーとの共生を図りつつ、地域経済に貢献できる仕組み作りを行う必要があります。

国土の狭い日本では、欧米のように人里離れた場所で自由に宿泊することは難しく、仮にそのような状況を作り出してしまえば、地域住民との間に軋轢(あつれき)が生じる可能性があります。

これを回避するためにも、オーバーランディングのルートに宿泊地として無人キャンプ場を整備し、事前に地域住民と調整の上、指定された場所での宿泊を基本とすることが地域との共生につながります。また、特産品購入や周辺施設等の利用につながるルートを設計することが大切で、地域住民への影響を最小限に抑えつつ、オーバーランディングを通じた地域活性化に寄与するアプローチを行うと良いのではないでしょうか。

多様なニーズに対応する柔軟なプラン設計

欧米のオーバーランダー(オーバーランディングをする人)は、数週間〜数カ月という長期旅に出かけ、一度の旅で7,000〜8,000キロを走ることもあります。しかし、日本の労働環境や休暇取得の実情を考慮すると、長期旅は現実的ではありません。

また、大型になる傾向があるオーバーランディング向けの車両は取り回しが良いとは言えず、特に都市部においては駐車場等の面で所有そのものが難しい場合があります。

以上を踏まえ、日本においては、週末や連休を利用した短期プランを中心に据えつつ、自己所有の車両で楽しむプラン、レンタル車両を利用するプラン、さらにガイド同行プランなどを提供すると、多様な層が参加しやすくなります。

たとえば、車のカスタマイズや特殊地形の運転が好きなアウトドア愛好家に向けては、自己所有の車両で行くプランを。また、4WD車を所有していてアウトドアが好きでも、オーバーランディング仕様へのカスタマイズをためらう人にはレンタル車両で行くプランを。そして、アクティブシニアや車を所有していない都市部の人々、もしくは地域の魅力を深く知りたい観光客にはガイド同行プランを提供することで、新たな市場を開拓できるかもしれません。

オーストラリアで実際に提供されているオーバーランディングのガイド同行プランの口コミでは、自然のすばらしさに感動するコメントもさることながら、ガイドへの賞賛コメントも多数見受けられます。こういった参加者とガイドが寝食をともにし、一体となった体験は、単なる観光案内を超えた深い思い出を作り上げます。

日本でも、このようなガイドと参加者が共に過ごすプランを導入すれば、自然と文化への理解を深められるのと同時に、ガイド自身の魅力を最大限に引き出すことができます。ガイドの知識や人柄に触れられる時間を提供し、参加者に特別な体験をもたらすことで、参加者は高い満足度を得られます。その結果、SNSや口コミを通じて高評価が広まり、将来的には国内のみならず、インバウンド観光客の誘客にもつながることが期待されます。

付加価値としての可能性

日本型オーバーランディングには2つの可能性があると考えています。一つは上述した「オーバーランディングの日本版の可能性」です。もう一つは、「オーバーランディングが、日本のどこにでもある里山や原風景に付加価値を付ける可能性」です。

日本の地方では、それぞれの地域を「自然が豊か」「昔ながらの原風景」「空気がおいしい」と表現し、観光地としての認知度を高めようとします。もちろん、地方の自然のすばらしさはその通りですが、そういった場所は日本中に多く存在しているのが実情です。重要なのは、その自然にどのように付加価値を付けるかです。

本記事を掲載しているメディアの運営者であるNature Serviceは常々「自然をどのようにマーケティングするか」を考え、地域の魅力を発掘しています。オーバーランディングはまさに、自然をマーケティングする手段として非常に高いポテンシャルを持つアクティビティです。

岐阜県の飛騨古川を世界的な観光地に押し上げた山田拓氏は、著書『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』で、同氏が手がけていた里山のフィールドのことを「素晴らしくはあるけれど、日本全国どこにでもある風景ともいえます。重要なのは、それに触れられる形態、すなわち商品にすることなのです。」と述べています。飛騨古川のケースでは、里山を自転車で巡るツアーが、地方の自然に付加価値を付け外国人観光客ならびに国内の観光客を引き寄せています。

オーバーランディングという、まだ日本ではまだ馴染みの薄いアクティビティも、飛騨古川の里山を自転車で巡るツアーのように、地方の自然に付加価値を与えてくれる存在だと考えています。

まとめ

日本型オーバーランディングは、国内の豊かな自然環境と独自の文化を活かした新たな観光コンテンツとして大きな可能性を秘めています。地域との共生を図りつつ、多様なニーズに対応するプラン設計を行うことで、地方経済の活性化と新たな観光体験の創出が期待できるでしょう。

オーバーランディングを通じて、日本の里山や原風景に新たな価値を見出し、国内外の観光客を魅了する独自のアウトドア文化を築き上げることが、地方の価値を高める一助となるのではないでしょうか。

最後に、オーストラリアからドイツに向かう壮大なオーバーランディングの旅を実行中のRightFootTravelさんの動画を共有します。近年、海外からの旅行者も日本の自然の魅力に惹かれ、オーバーランディングのルートに日本を組み入れているケースがあります。このチャンネルでは、彼らの視点から見た日本の自然の魅力を多数発信していますので、ぜひご覧ください!

上記以外にも日本国内を旅している動画が複数ありますので、海外の方が日本で過ごしている様子をお楽しみください。

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