──東京医療センター×東京医科大の最新研究が示した免疫15%アップの秘密
「森に入ると空気が美味しい」。そんな感覚が、科学でも裏づけられました。2025年1月、国立病院機構東京医療センターの耳鼻科医 落合宏子博士らが 東京医科大学・筑波大学 などと共同で実施したランダム化比較試験(RCT)が、国際誌 Scientific Reports に掲載(Randomized controlled trial on the efficacy of forest walking compared to urban walking in enhancing mucosal immunity)。
どんな研究?
40〜70歳の健康な男性78名を「森林散策(東京都檜原村・都民の森)」と「都市散策(銀座歩行者天国)」の2群にランダムに割り付け、90分のウォーキング を行ってもらいました。歩行速度・休憩・昼食は双方でそろえ、散策前後の唾液を採取。粘膜免疫の指標 SIgA(分泌型IgA) をELISA法で測定しました。


驚きの結果
- 森林群では SIgA が平均+15.2 有意に増加。
- 都市群では -4.1 とむしろ有意に減少。
- 年齢、運動量、気温などを統計補正しても差は有意(Hedges g = 0.84)。
唾液SIgAはウイルスや細菌を“最前線”でブロックする防御タンパク質。増加幅は「上気道感染を予防し得るレベル」に相当し、たった2時間足らずの森歩きで風邪に強い状態へ近づく ことを示します。
なぜ効くの?
- フィトンチッド仮説
樹木が放つテルペン系成分が粘膜を刺激し、IgA分泌を促す可能性。 - ストレス低減
本試験では森林ウォーキング後、血漿コルチゾール濃度が 7.2 → 5.3 µg/dL と約 26 %低下しました(p = 0.007)。副腎皮質ホルモン負荷の軽減は、心理神経免疫学モデルが示す「ストレス応答の抑制による免疫機能の向上」というメカニズムとも整合します。参考までに、都市ウォーキング群でも約 13 %の減少が認められましたが、森林環境の方が効果は大きく表れました。 - 空気の質
都市側ではPM2.5濃度が高めで、炎症マーカーの白血球が微増。森は「汚染の少ない屋外実験場」として働いたとも考えられます。
今後に期待!
- 参加者は男性のみ。女性や子ども、高齢者での再現性の検証は今後の課題。
- 単回介入 のため、習慣化による長期の免疫維持効果は未検証。
今日からできること
「忙しくて森まで行けない…」という人も、週末に90分だけ“近くの森”で散策する習慣を取り入れてみてください。深い呼吸でフィトンチッドをたっぷり吸い込み、耳を澄ませて小鳥の声や風の音を感じる──それだけで、(都会のジムに行くよりも)あなたの粘膜免疫は確かに反応してくれるでしょう。
参考論文:Ochiai H, Inoue S, Masuda G, et al. Randomized controlled trial on the efficacy of forest walking compared to urban walking in enhancing mucosal immunity. Sci Rep. 2025;15(1):3272.
PubMed / PMC

NPO法人 Nature Service 共同代表理事
自然大好きで気の合う仲間達とNature Serviceを立ち上げました。北極から南極、アメリカ横断、アフリカ、北欧、オセアニア、南米などいろいろな自然を求めて旅しています。自然好きですが虫キライです。