社員の「睡眠時間」が会社の利益率に影響する――そんな科学的エビデンスがあります。日本人の平均睡眠時間は約7時間20分と米欧の平均(8時間30分)より1時間以上短く、OECD加盟38か国で最も少ない水準です (山本勲:睡眠と経済)。その結果、日本では睡眠不足による経済損失が年間約15兆円(GDPの約3%)に上ると報告されています。では、「眠り」が企業にもたらすメリットとは何でしょうか。
慶應義塾大学の山本勲教授は、上場企業に勤める約7,000人のビジネスパーソンの睡眠データと業績を分析しました。その結果、社員の平均睡眠時間が1時間長い企業は営業利益率が約1.8ポイント高いことが判明しました。しかもこの傾向は2年後も持続していたといいます (pp. 13 – 18, 従業員の睡眠と企業の関係性〜健康経営とウェルビーイングの追求〜)。
では、なぜ睡眠時間の差が業績の差につながるのでしょうか。山本教授の分析によれば、その仲介要因として働き方の違いが指摘されています。実際、社員の睡眠時間が長い企業ほど在宅勤務の利用率が高く、残業時間が短く、女性社員比率が高い(ダイバーシティ推進)傾向がありました。こうした複合的な働き方改革の取り組みが従業員の睡眠の質を高め、その結果、集中力や創造力が向上して生産性アップにつながっていると考えられます。

睡眠改善のアプローチは働き方の見直しだけではありません。実は、自然の力で睡眠の質を高める方法も注目されています。その代表例が「森林セラピー®」です。森の中で過ごすこのプログラムには高いリラックス効果があり、ある実験では森林滞在後に不眠の症状が和らぎ、総睡眠時間と深い睡眠が増えたという結果が報告されています (森林浴のエビデンス – 赤沢自然休養林の森林浴)。自然の中で心身を整えることで良質な眠りを促し、それが社員の健康増進と生産性向上に寄与すると期待されます (森林浴セラピー | 未来創造サポート)。実際に研修や福利厚生に森林セラピーを取り入れる企業も増えてきました。睡眠を大切にし、自然の恵みを積極的に活用することが、自然と企業の未来をつなぐ鍵となるでしょう。
自然の力を経営に取り込み、社員の睡眠の質を底上げする――森を活かしたこの“次の一手”は、次世代の健康経営を牽引し、企業価値を力強く押し上げる切り札となります。まずは経営陣自らが森でのオフサイトミーティングを企画し、自然体験の効果を体感してみてはいかがでしょうか。

NPO法人 Nature Service 共同代表理事
自然大好きで気の合う仲間達とNature Serviceを立ち上げました。北極から南極、アメリカ横断、アフリカ、北欧、オセアニア、南米などいろいろな自然を求めて旅しています。自然好きですが虫キライです。