週末の車中泊から長期の林道旅まで──“移動そのものを自然体験に変える”のがオーバーランディングの醍醐味です。テントを張る場所を探して走り、川のせせらぎを聞きながら朝を迎え、行き先が変わればそのまま家ごと景色を移動させる。そんな自由度の高い旅を安全に、そして自然に優しく楽しむには、クルマを「走るベースキャンプ」として信頼できる状態に整えることが第一歩。本記事ではバンライフ派、林道キャンパー、釣り好きの軽トラユーザーまで、車種や規模を問わず応用できる“壊れない車づくり”の要点をまとめました。
1. 電装は最初に“骨格”を決める
車中泊用の冷蔵庫や照明と、エンジンを始動させる電装は必ず系統を分けましょう。「始動バッテリー」と「車中泊用バッテリー」を切り離しておけば、長期利用でもセルが回らない最悪の事態を回避できます。配線は太いメイン線を1本だけバッテリーから取り出し、そこから各アクセサリーへ分岐する“ハブ方式”にすると後付け・撤去が容易。ラベルプリンターで両端に名前を貼り、透明熱収縮チューブで保護しておくと野外でも読み取れ、トラブル時の原因特定が一気に楽になります。配線図やメモはPDF化してスマホで“オフラインでも”見られるようにローカル保存しておくと、もしもの事態に安心です。ちなみにフェールセーフ的な考え方で、ポータブルジャンプスターターを積むことや、ポータブル電源と組み合わせた充電システムを搭載すると始動バッテリーを急速充電できるので完璧になります。

2. 重量増に合わせて足まわりと制動力を底上げ
荷物が増えるとサスペンションはすぐに悲鳴を上げます。まず自分の車を満載状態で実測し、その重量に見合うばねレート(コイル/リーフ)とショック減衰を専門店で相談すると失敗が少なくなります。ルーフトップテントなどで重心が高い場合は、リア側に強化スタビライザーを入れると横揺れが軽減され、林道でも酔いにくくなります。さらにタイヤを大径化するなら、ブレーキも大径ローター+高性能パッドへ換装しておきましょう。滑りやすい山道や重量級の下り坂で、止められること自体が安全装備です。
3. バッテリーと発電を“少し過剰”にすると旅する時間と快適性が向上する
最近ではポータブル電源の進化と低価格化そして安全性の向上が飛躍的です。1500Wh以上のポタ電を積めば、IHクッキングやエスプレッソマシンもストレスなく使えます。ガス缶を減らせるだけでなく、冬は電気ヒーターを併用でき、火器リスクも抑えられます。屋根に固定ソーラーパネル、停泊時は折り畳みパネルを追加する“二段構え”にしておくと、曇天下でも充電が追いつきやすく安心です。保管が長い人はスターターバッテリーにメンテナーを付け、次の週末にセルが回らない――という典型的トラブルをなくしましょう。
4. 点検ルーチンを「毎朝5分・週1本気」で習慣化
出発前は必ずホイールナットを規定トルクで確認し、タイヤ全周を目視。ショックのオイル滲みや配線の垂れ下がりにも指先を当てて確かめます。週に一度は休憩日と決め、下回りのボルトを増し締めし、オイル・冷却水・ブレーキフルードをチェック。重要ボルトにはペイントマーカーで合わせ線を書いておくと、“ズレ”が見ただけで分かり早期発見につながります。車の整備は環境保護にもつながり、小さなオイル漏れを放置しないことが土壌や水源を守る第一歩です。
5. 安物買いは“装備レス”より危険
激安ライトバーや無名の電装コネクタは故障だけでなく火災の導火線になります。予算が足りない場合は「付けない」という選択肢も英断です。同様に水タンクは一つにまとめず、10〜20Lタンク+ソフトバッグの複数持ちにすると、一つ破損しても全量を失わず安心。ペットボトルの水も2本くらい常にストックしておくと安心です。失敗例から学び、命を預ける部分だけは信頼できるブランドを選びましょう。

6. マナーと環境意識は装備以上に重要
日本の林道や高原は「進入走行可」と「進入禁止」が細かく線引きされています。ゲートや看板がなくても、路面外へは絶対に逸脱しないこと。キャンプ地では火の扱いに注意し、直火禁止エリアでは焚き火台と不燃シートを使用。ゴミはもちろん灰も持ち帰り、次に訪れる人が自然をそのまま味わえる状態を保ちましょう。車両が重くなるほど路面へのダメージは大きくなります。悪路では空気圧を適正(規定の70〜80%程度を目安)に下げて路面を掘らない、同じ轍を何度も踏まない、といった小さな気遣いが自然再生の時間を短縮します。
装備選びの核心は「軽く・シンプル・壊れない」。電装設計で無駄を省き、重量に合わせて足まわりを補強し、点検とマナーを習慣化すれば、ハイエースでも軽バンでも十分に“走るベースキャンプ”は実現できます。フィールドで過ごす時間そのものを楽しむために、まずは自宅ガレージで配線図を描くところから始めてみてください。

NPO法人 Nature Service 共同代表理事
自然大好きで気の合う仲間達とNature Serviceを立ち上げました。北極から南極、アメリカ横断、アフリカ、北欧、オセアニア、南米などいろいろな自然を求めて旅しています。自然好きですが虫キライです。