キャンプ場のクマ対策とは、事業者がクマによる利用者被害を防止し、風評・訴訟・保険リスクを管理するための総合的な取り組みです。
「クマ出没を告知していたのに、なぜ訴えられるのか」
看板は立てていた。チェックイン時に説明もした。それでも「安全配慮義務違反」の可能性が指摘されています。
2025年度(2025年4月〜2026年3月)のクマによる人身被害は全国で238人、死者13人でした(環境省速報値、2026年10月2日時点)。それまで最多だった2023年度(被害者219人、死者6人)を上回り、死者数は2倍を超えています。2026年度も8月末までに62人が被害に遭い、6人が亡くなりました。被害が最も多いのは、冬眠を前にクマが食べ物を探して動き回る秋(9〜11月)です。冬眠明けの3〜5月も、空腹のクマが人間の食料を求めて行動範囲を広げる危険な時期です。
(2026年10月更新:統計を最新の速報値に差し替え、秋の出没期の注意点を加えました)
本記事では、キャンプ場事業者として「何をすれば責任を果たしたことになるのか」:その考え方を整理し、実務で使える対策とチェックリストを提示します。
重要: 本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。具体的な対策・規約設計については、必ず弁護士・専門家にご相談ください。
OUTSIDE WORKS編集部より: キャンプ場には高規格な施設から、自然のままの姿を残す無人運営に近い施設まで多様な形態があります。本記事は、各施設がその形態に合わせた「最適解」を見つけるためのガイドラインです。業界全体の課題として整理したものであり、各施設の対策検討の一助となれば幸いです。
本記事で得られること
- 秋の出没期と冬眠明け、それぞれの準備時期
- 事業者が直面する3つのリスク(風評・訴訟・保険)の整理
- 「予見可能性」「安全配慮義務」の概念理解
- 利用規約・免責条項の参考文言
- コスト別の対策オプション(電気柵・ベアボックス等)
- 今日から使えるチェックリスト
事業者が直面する3つのリスク
クマに関連する事故が発生した場合、事業者は以下の3つのリスクに同時に直面する可能性があります。
- 風評リスク:SNSでの拡散による集客への影響。一度「クマが出たキャンプ場」というイメージが付くと、払拭に数年を要することもあります。2025年には北海道だけで延べ37か所のキャンプ場がクマ出没対応で一時閉鎖に追い込まれました(北海道新聞報道)。
- 訴訟リスク:安全配慮義務違反等を理由とした損害賠償請求の可能性。
- 保険リスク:施設賠償責任保険は、クマによる事故をすべて補償するものではありません。補償の対象になるか、保険金が支払われない場合(免責事由)にあたらないかは、約款によって異なります。
これらのリスクを適切に管理するためには、「告知していたから大丈夫」という認識を見直し、告知に加えてどのような対策が可能かを検討することが重要です。
秋の出没期と冬眠明け|事業者の準備タイミング
キャンパーの方へ:キャンプ中のクマ対策については『【2026年版】オートキャンプ場の熊対策完全ガイド』をご覧ください。本記事は事業者向けの内容です。
(1) 秋の出没期(冬眠前):一年で最も被害が多い時期
クマは11月下旬〜12月ごろに冬眠に入り、3〜5月ごろまで冬眠します。秋は冬眠に備えて大量に食べて脂肪を蓄えるため、体重が急増する時期です。ブナ・ミズナラ・コナラなどの木の実(堅果類)が不作の年は行動範囲が広がり、人里やキャンプ場の近くに出てくることが増えます。また、秋は一日の活動時間が長くなり、夜間の活動も増えます(環境省「クマ類出没対応マニュアル」)。
秋の出没期に向けて、事業者は次の点を確認してください。
- 多くの都府県が実施している木の実の豊凶調査の結果や、出没情報・注意報を確認し、不作の年は巡回と誘引物管理を強める
- 夜間のゴミ置き場やトイレへの動線を見直し、ゴミは夜のうちに屋内へ移す
- 利用者の多い秋の行楽シーズンは、チェックイン時の説明を省略しない
- 冬眠に入る11月下旬〜12月ごろまでは警戒を緩めない
- 春と同じシーズン前の点検(チェックリスト1)を、秋の出没期の前にも行う
(2) 地域別冬眠明け時期と事業者の準備開始目安
クマの冬眠明け時期は地域によって異なります。事業者は冬眠明けの約2〜3週間前から準備を開始することが望ましいでしょう。
| 地域 | 冬眠明け目安 | 準備開始目安 |
|---|---|---|
| 西日本・四国 (ツキノワグマ) | 3月中旬〜 | 2月下旬 |
| 本州中部 (ツキノワグマ) | 3月下旬〜 | 3月上旬 |
| 北海道 (ヒグマ) | 3月下旬〜 | 3月上旬 |
| 東北 (ツキノワグマ) | 4月上旬〜 | 3月中旬 |
※ 上記は一般的な目安です。標高・気象条件・個体差(性別・年齢)により1〜2ヶ月前後します。
※ 北海道はヒグマ、本州以南はツキノワグマです。種が異なるため単純な南北比較はできません。
※ 暖冬の年や都市近郊では、冬眠期間が短縮する、または冬眠しない個体が確認されています。通年での誘引物管理と警戒体制の維持を推奨します。
※ 最新情報は各都道府県の鳥獣対策担当部署にご確認ください。出典: 環境省「クマ類の出没対応マニュアル」、各自治体の鳥獣被害対策資料

▶︎ 冬季営業施設への注意
なお、すべてのクマが冬眠するわけではありません。暖冬年や、秋の堅果類(ドングリ等)不作により十分な脂肪を蓄えられなかった個体は、12月〜2月でも断続的に活動を継続することがあります。冬季営業を行う施設では、誘引物管理を継続してください。詳細は地元の森林管理署や自治体に確認されることをお勧めします。

▶︎ 北海道(ヒグマ)の注意点
ヒグマはツキノワグマより大型で攻撃性が高い傾向があります。電気柵の仕様(段数、電圧)、ベアスプレーの効果などが異なる場合があるため、北海道の事業者は地域の専門家・行政に確認することを強く推奨します。
(3) 冬眠明けクマの行動特性
冬眠明けのクマが特に危険とされる理由は、その生理的・行動的な特性にあります。
▶︎ 体重減少と飢餓状態
クマは冬眠中に体重の15〜37%を失います(研究により数値は異なります)。冬眠明け直後は強い飢餓状態にあり、通常よりも広い範囲を移動して食料を探します。この時期、自然界では新芽や若草など低カロリーの食料しか得られないため、人間の食料やゴミは極めて魅力的な誘引物となります。

▶︎ 人間の食料への執着
クマは非常に学習能力が高い動物です。一度でも人間の食料を口にすると、その場所を「餌場」として記憶し、繰り返し出没するようになります。この「食物への条件付け(Food-conditioning)」が、人間への警戒心を失わせる「人慣れ(Habituation)」を加速させ、最終的に危険な遭遇につながります。
▶︎ 子連れ母グマの防衛的攻撃性
冬眠中に出産した母グマは、春に子グマを連れて巣穴を出ます。子グマを守ろうとする母グマは非常に攻撃的になりやすく、人間が意図せず親子の間に入ってしまった場合、突発的な攻撃を受けるリスクがあります。
(4) 月別被害発生パターン
環境省の統計では、クマによる人身被害は秋(9〜11月)に最も多く、冬眠明けの3〜5月がそれに次ぎます。秋に多い理由は「秋の出没期(冬眠前)」の節のとおりです。春は特に4月下旬〜5月上旬が、山菜採りの時期と重なり、人間がクマの行動圏に入り込む機会が増えます。
事業者は、春のオープン準備と、秋の出没期の前の年2回、クマ対策の点検・強化を行うべきです。「シーズン前対策」と「シーズン中の日常対策」を明確に分け、チェックリストに基づいて実施することを推奨します。
事業者の責任と利用者の自己責任|その境界線はどこにあるのか
※本章は、弁護士 佐藤仁俊氏(あさひ法律事務所)の監修のもと、一般的な考え方を整理したものです。法的アドバイスではありません。実際の運用にあたっては弁護士にご相談ください。
クマによる事故で事業者の責任が問われるかどうかは、①事故を予測できたか(予見可能性)、②予測できた危険を避けるために必要な措置をとっていたか(結果回避義務)の順に検討されます。本章では、この考え方と、告知・免責条項・保険の扱いを順に整理します。各節の「監修弁護士の解説」を開くと、法的な考え方と裁判例を読めます。
(1) 予見可能性:事故を予測できたか
予見可能性とは、「その事故が起こりうると予測できたかどうか」を問う考え方です。どの程度予測できれば責任を問われるかは状況によって異なり、明確な判断基準があるわけではありません。
過去にクマが出没した地域では、「出没の可能性はわかっていたはずだ」と主張されやすいものの、それだけで直ちに予見可能性が認められるわけではありません。ただし、次のような情報があり、事業者がそれを知っていた(または容易に知ることができた)場合は、予見可能性が認められる可能性が高まると考えられます。
- 直近の目撃情報やその頻度など、クマ被害の前兆となる情報
- クマ被害に関する注意喚起の通知や、行政機関などが公開している情報
どこまで対策すれば責任を果たしたことになるかにも、「ここまでやれば十分」という一般的な基準はありません。危険性が高く、事故を具体的に予見できる状況であれば、それに応じてより高度な安全対策が求められます。なお、クマによる被害について確立した判例は、現時点で見当たりません。
監修弁護士の解説|予見可能性の法的な考え方と、予見可能性が認められた裁判例
「予見可能性」は、事業者の不法行為責任(民法709条)が問われる場面で、事業者に「過失」があったかどうかを判断するための考え方です。事業者には、「危険を予測できたのであれば、その危険な結果が起きないように行動しなければならない義務」(法律用語では、「結果回避義務」といいます。)が課されることがあります。この義務を事業者に負わせる前提として、事故や損害の発生を予測することができたかどうか(これを「予見可能性」といいます。)が検討されます。裁判例では、過去の状況や、危険がどの程度認識されていたかなどを踏まえて、事業者が事故等を予見すべきであったかが判断されています。予見可能性が認められた例として、次のものがあります。
- 横浜地判令和5年12月15日(判例タイムズ1523号188頁):斜面が崩れ、そのすぐ下の市道を通行していた人が崩落に巻き込まれて死亡した事故について、一般に亀裂は崩落の前触れと理解されており、実際に亀裂が存在し、専門家に相談したり調査を依頼したりしていれば、崩落するおそれがあると認識することができたなどと判示しました。
- 福岡地久留米支判令和4年6月24日(判例タイムズ1506号181頁):小学校のゴールポストが倒れ、児童が死亡した事故について、それ以前にも同じようなゴールポストの転倒による死亡事故が起きていたことや、文部科学省が施設・設備等の点検や事故防止のための措置に十分注意するよう通知していたことから、事故の発生は容易に予見できたなどと判示しました。
監修弁護士の解説|どの程度の対策を講じれば責任を果たしたことになるか
事業者がどの程度の対策を講じれば責任を果たしたことになるかという結果回避義務に関する判断は、個別具体的な状況によって異なるため、「ここまでやれば十分」という一般的な基準を示すことは困難です。
裁判例では、まず、その事故または同じような事故の発生を具体的に予見することができたか、その前提となる危険性がどの程度存在していたかが検討されます。特に、自然災害が原因となる危険については、注意報等の情報を踏まえ、事業者が危険性を認識できたかどうかが重要な判断要素となります。
そのうえで、危険を回避するための対策の内容や程度も一律ではなく、予想される危険の内容・程度や、その危険がどの程度具体的で差し迫ったものであったかによって異なります。
基本的には、危険性が高く、事故の発生が具体的に予見できる状況であれば、それに応じてより高度な安全対策が求められます。反対に、危険性が低い場合や、危険が抽象的なものにとどまる場合には、事業者に求められる対策の程度もそれに見合ったものとなります。
(2) 安全配慮義務:野生動物の被害で事業者が問われる責任
民法718条1項は、動物が他人に損害を与えた場合に、その動物の占有者(飼い主など、事実上その動物を支配している人)が責任を負うと定めていますが、原則として、キャンプ場事業者がクマの「占有者」として責任を問われることはありません。
問われるのは、事業者自身の対応です。キャンプ場の事業者には、利用契約に付随して、利用者の生命や身体を危険から守るよう配慮することが求められます(安全配慮義務)。事業者の対応に過失があれば不法行為を理由に、安全配慮義務を怠ったと判断されれば契約上の債務不履行を理由に、損害賠償を求められる可能性があります。
監修弁護士の解説|「動物の占有者」としての責任と、安全配慮義務の判断基準
キャンプ場事業者が「動物の占有者」として責任を負うか
民法718条1項では、動物が他人に損害を与えた場合に、その動物の「占有者」が損害賠償責任を負うと定めています。ここでいう「動物の占有者」とは、事実上その動物を支配している人を指します。
そのため、野生のクマに餌を与えて飼育しているような極めて特殊な場合を除き、キャンプ場事業者が「動物の占有者」としてこの責任を問われることはないと考えられます。
安全配慮義務違反の判断基準
「安全配慮義務」とは、元々は、使用者(雇用主)が労働者に対して負う義務に関する考え方ですが、判例は、雇用関係に限らず、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者の間では、その法律関係に付随する義務として、当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上(お互いに誠実に行動すべきという原則に基づいて)この義務を負うとしています(最判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁)。
したがって、キャンプ場経営者は、利用者との間の利用契約に付随して、利用者の生命や身体等を危険から保護するように配慮することが求められます。
事業者の責任が問題となるためには、前述のとおり、まず、その事故または同じような事故が起きることを予見できたこと(予見可能性)が前提となります。予見可能性が否定される場合には、予見可能性を前提とする結果回避義務を問題にする余地はなく、安全配慮義務違反を問うことはできないと考えられています。
そして、結果回避義務違反の有無は、事業者に事故の発生について予見可能性が認められることを前提として、その危険を回避するために合理的に期待される措置を講じたか否かによって判断されます。
(3) 告知義務と免責の関係
「告知したから免責される」とは限りません。利用者に危険を知らせること(告知)は、事故を避けるための対策の一つです。クマ被害を予見できた場合、事業者には告知義務が認められ得ますが、告知と免責の関係は次の2段階で考えます。
▶︎ 第1段階:告知義務を果たしたといえるか
求められる告知の程度は、予見される危険の内容や程度、利用者の属性によって変わります。例えば次のような配慮が考えられます。
- 利用者に子どもが含まれる場合:大人向けより平易で具体的な表現にする。子どもの年齢などによっては、保護者にも知らせる
- 伝え方:掲示の場所や大きさを工夫し、利用者が確実に危険に気づけるようにする
- 外国人の利用客が多い場合:英語などの外国語やピクトグラム(絵文字による案内表示)も使う
看板やチェックイン時の説明など、告知の具体的な方法は「警告・啓発システム」の節で紹介します。
▶︎ 第2段階:告知したことで、事故を避ける義務を尽くしたといえるか
告知をしただけで、直ちに免責されるわけではありません。危険の可能性や程度、告知によって利用者自身が危険を避けられるか、ほかに取り得る対策とその実行可能性などを踏まえて、告知以外の対策も必要だったかが検討されます。告知を尽くしていても、「実践的対策ガイド」の章で紹介するような対策に不十分な点があれば、責任を問われる可能性があります。
監修弁護士の解説|告知義務の考え方と、参考になる裁判例(旅行先でのマラリア感染)
事業者は、結果の予見可能性があったことを前提として、結果回避義務違反があった場合に責任が生じます。告知義務(利用者に危険を知らせる義務)は、この結果回避義務の具体的な内容の一つです。つまり危険を予見できた場合に事故(結果)を避けるためにとるべき方策の一つが「告知」です。
一つの参考になるのが、旅行先で旅行者がマラリアに感染したが、事前に旅行者に対して感染の危険を告知すべきであったとはいえないと認定した裁判例です(東京地判平成18年11月29日判例タイムズ1253号187頁)。この裁判例は、要するに、旅行業者は、旅行についての専門業者として目的地を十分に調査し、旅行に通常伴う危険とは異なる、発生の可能性が高い「格別の現実的危険」が存在する場合には、旅行契約の付随的義務として、それを旅行者に告知すべき信義則上の義務を負うとしました。そのうえで、告知義務違反の有無は、危険の性質・程度と、その危険を具体的に予見できたかを検討して判断するとし、結論としては告知義務違反を否定しています。
キャンプ場事業者についても、自然に関する専門知識を持ち、一定の危険が内在する環境で事業を行う点において、旅行会社と共通する側面があります。そのため、契約に付随する義務として告知義務があることを認めた点で参考になります。
(4) 免責条項の設計例
利用規約に事業者の責任を制限する条項(免責条項)を入れても、消費者契約法によって無効になる場合があります。消費者契約法8条1項の要点は次のとおりです。
- 事業者の損害賠償責任の全部を免除する条項は無効
- 事業者(その代表者や従業員などを含む)の故意または重大な過失による損害について、責任の一部を免除する条項は無効
- 責任があるかどうか、または責任の限度を事業者が決められるとする条項も、上と同じ範囲で無効
監修弁護士の解説|無効になる条項の例
無効となる条項の例は、以下のとおりです。
- 「いかなる理由があっても事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする」
- 「事業者は通常損害については責任を負うが、特別損害については責任を負わない」
→ 損害の発生が事業者の故意又は重過失によるものであっても、損害賠償責任の限度が制限され、通常損害の額が上限とされる内容であって、「責任の一部を免除」する契約条項に該当し、8条1項2号及び4号に該当し無効となります。
- 「事業者は、人的損害については責任を負うが、物的な損害については一切損害賠償責任を負わない。」
→ 物的損害のみが生じた場合には、一切損害賠償しない内容であるため、「全部を免除」する契約条項に該当し、8条1項1号及び3号に該当し無効となります。
- 「当社が損害賠償責任を負う場合、その額の上限は10万円とします。ただし、当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは、全額を賠償します。」
→ 仮に、損害の発生が事業者の故意又は重過失によるものであっても、当該事業者がそのことを認めない場合には、上限が10万円となる内容であるため、「当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項」に該当し、8条1項2号及び4号に該当し無効となります。
また、人の生命・身体という極めて重大な利益について、一切の責任追及をあらかじめ放棄させる内容の免責同意を、公序良俗(民法90条)に反し無効とした裁判例があります(東京地判平成13年6月20日判例タイムズ1074号219頁)。
賠償額に上限を設ける場合は、「事業者の故意又は重過失があるときを除き」という留保を付けます。この留保があれば、上限を示した条項も無効にはなりません。条項の一例は次のとおりです。
キャンプ場管理者が、不法行為に基づく損害賠償の責任を負担する場合には、当該事業者に故意又は重過失があるときを除き、〇〇万円を負担額の上限とする。当該事業者に故意又は重過失がある場合には、生じた損害の全部について賠償する責任を負う。
野生動物に関する利用規約の文言例は次のとおりです。
【利用規約文言案(参考例)】
※この文言例は一般的な参考例です。実際の使用にあたっては必ず弁護士にご相談ください。
第X条(野生動物に関するリスク)
1. 当施設は野生動物(クマ、イノシシ等)の生息地域に所在しており、利用者は予め野生動物との遭遇リスクを承知の上で利用されるものとします。
2. 利用者は、当施設が提供する「食料管理ガイド」(別紙)に記載された注意事項を遵守し、テント内やクーラーボックスに食料を放置しないこと、ゴミは指定されたゴミ箱に確実に処分することを含む管理を自己の責任において実施します。
3. 利用者が前項に定める管理を怠ったことにより野生動物を誘引した場合、利用者はその誘引行為に起因する他の利用者への損害について一切の責任を負います。
4. 利用者は、緊急時の連絡手段を確保し、クマを目撃した場合は速やかに当施設スタッフまで通報することに同意します。
(5) 保険の適用範囲
施設賠償責任保険で野生動物による被害がどのように扱われるかは、保険会社や契約内容によって異なります。
施設賠償責任保険は、一般に、事業者が所有・使用・管理している施設の欠陥や、従業員等の業務上の行為が原因で、事業者が法律上の損害賠償責任を負った場合に、その賠償金などを補償する保険です。主な補償の対象は、次のいずれかが原因で賠償責任を負う場合です。
- 施設の安全管理の不備や、構造上の欠陥
- 施設の用法に伴う業務の遂行
この点、野生動物は施設管理者の管理下にあるものではないことから、キャンプ場内で利用者が野生動物に襲われたというだけでは、直ちに保険の補償対象になるとはいえません。また、事業者側に何らかの管理上の問題があった場合でも、その事故が保険約款上の補償対象にあたるか、さらに保険金が支払われない場合(免責事由)にあたらないかについては、別途検討が必要です。
▶︎ 保険会社への確認推奨ポイント
シーズン前に、以下の点を保険会社に確認しておくことを推奨します。
- 野生動物(クマ、イノシシ等)による利用者の負傷は補償対象となるか
- 補償対象となる場合、どのような条件があるか
- 免責事項として明記されている項目はあるか
- 追加の特約で補償範囲を拡大できるか
※保険の適用範囲は契約内容により大きく異なります。必ず保険会社に直接ご確認ください。
▶︎ 専用保険商品の登場
2025年11月28日、東京海上日動が業界初の「クマ侵入時施設閉鎖対応保険」の提供を開始しました。
【保険の概要】
補償対象: クマ出没によるキャンプ場閉鎖時の営業損失
補償上限: 最大1,000万円
年間保険料: 10万円〜50万円(施設規模・リスクレベルにより変動)
加入条件: 基本的なクマ対策(誘引物管理、看板設置等)の実施
この保険は、クマ出没による営業損失を直接補償する画期的な商品であり、特に北海道や本州の
山間部のキャンプ場にとって検討価値があります。ただし、保険はあくまで「経済的損失の補填」であり、利用者の安全確保義務を代替するものではありません。
では、「合理的な対策」とは具体的に何を指すのか。次章では、コスト・効果・導入ハードルの観点から実践的な対策を整理します。
実践的対策ガイド|コスト・効果・導入のポイント
本章の対策は、クマ被害の防止に役立つだけでなく、万が一被害が起きた場合にも、事業者の責任を軽減する方向に働く事情となります。事業者の責任の判断では、クマの出没状況や、キャンプ場の立地・利用形態などを踏まえ、その時点の危険の程度に応じた合理的な対策を取っていたかが考慮されます(「事業者の責任と利用者の自己責任」の章を参照)。
すべてを完璧に実施することを前提にはしていません。自施設のリスク・予算・人員に応じて、優先度の高い対策から段階的に取り組んでください。
(1) 誘引物管理の原則
クマ対策の根幹をなす基本原則は、「クマを人間の食料やゴミに決して慣れさせない」という点に集約されます。
クマは一度でも人間の食料を得ると、その場所を餌場として記憶します。この「食物への条件付け」が進むと、クマは人間を恐れなくなり、最終的には危険な個体として駆除せざるを得なくなります。つまり、誘引物管理の徹底は利用者の安全確保だけでなく、クマとの共存においても重要な意味を持つのです。
▶︎ ゴミ管理
- ゴミは密閉容器で保管し、クマが開けられない構造とする
- ゴミ回収は可能な限り毎日実施し(人員体制に応じて調整)、夜間は屋内または施錠可能な場所に保管
- 生ゴミは特に注意。においを封じ込める二重袋方式を推奨
▶︎ 食料管理
- ベアボックス(クマ耐性食料保管庫)の設置を検討
- 利用者に対し、食料をテント内に放置しないよう徹底指導
- 調理場・食料保管場所・就寝場所を三角形に配置し互いに離す「ベアミューダ・トライアングル」原則の周知
※「ベアミューダ・トライアングル(Bear-muda Triangle)」は、「バミューダ・トライアングル(魔の三角海域)」をもじった、主に北米のアウトドア文化で使われる熊対策の設営術です。テント(就寝場所)・調理場・食料保管場所の3点を三角形の頂点のように互いに約60~70メートル以上離して配置することで、万が一クマが食料の匂いに惹かれて来ても、就寝中のテントから遠ざけることができます。

▶︎ 見落としやすい誘引物
歯磨き粉、石鹸、化粧品、日焼け止めなどのトイレタリー製品も誘引物となります。これらも屋外に放置せず、適切に管理するよう利用者に案内してください。
▶︎ 成功事例:軽井沢町の総合的なクマ対策
長野県軽井沢町では、NPO法人ピッキオが中心となり、野生動物対応型ゴミ箱の導入やベアドッグによる追い払い等の総合的な対策を進めてきました。その結果、公共ゴミ集積所でのゴミ荒らし被害を大幅に減少させ、人の居住地での人身被害14年連続ゼロを達成しています。ゴミ集積所における対策は、クマの行動を変える上で極めて効果的であることが実証されています。

関連記事: クマとの遭遇を防ぐための基本的な考え方や、個人キャンパーができる対策については、『キャンプやハイキング時のクマ対策、考えたことありますか?』もあわせてご覧ください。
(2) 警告・啓発システム
▶︎ 看板設置
効果的な警告サインは、以下の3要素を満たすことで行動変容を促す効果が高まります。
- 注目を引く:簡潔なメッセージ、対照的な色使い(黄色・黒など)
- 権威を示す:公的機関名や施設名を明記
- 具体的行動指示:「食料はベアボックスへ」など、何をすべきか明示
設置場所は、施設入口、各サイト、共用施設(炊事場、トイレ)などの目につく場所を選定します。
▶︎ チェックイン時の説明フロー
口頭説明だけでなく、書面による確認を組み合わせることで、告知の実効性を高めます。
- 口頭でクマのリスクと基本対策を説明(1〜2分程度)
- 「クマ対策のお願い」書面を渡し、署名をもらう
- 食料・ゴミ管理のルールを具体的に説明
- 緊急時の連絡先を案内
(3) 電気柵|適切に設置・維持すれば有効性は極めて高い
カナダ・バンフ国立公園やアラスカ・カトマイ国立公園など海外の事例において、適切に設置・維持された電気柵は、クマの侵入を効果的に防ぐことが確認されています。ただし、電気柵は万能ではなく、設置条件(地形、段数、電圧)や維持管理状況により効果は大きく変動します。100%の防御を保証するものではない点にご注意ください。
▶︎ 設置のポイント(一般的な目安)
- 3〜4段張りが基本
- 最下段のワイヤーは地面から15〜20cmの高さに設置(潜り込み防止)
- 電圧は4000V以上を維持(雨天時の漏電を考慮し、5000V以上を確保するとより安心です)
- 柵の外側30cm程度の位置にトリップライン(補助電線)を設置すると効果的
※上記はツキノワグマを想定した一般的な目安であり、地域のガイドラインや専門業者の推奨に従ってください。ヒグマ対応ではより高い仕様が必要となる場合があります。

▶︎ 維持管理
- 定期的な電圧チェック(週1回程度が目安、施設の状況に応じて調整)
- 漏電防止のための下草刈り
- 断線や接触不良の点検
▶︎ コスト目安
- 本体:10〜30万円(施設規模・製品により異なる)
- 設置費用:別途(専門業者に依頼する場合)
- 維持費:電気代、消耗品、点検コスト
▶︎ 海外事例
カナダのバンフ国立公園(レイクルイーズキャンプ場)では、2.8kmの電気柵(7,000V)でテントエリアを囲み、ソフトサイドの宿泊施設は電気柵内での滞在を義務付けています。アラスカのカトマイ国立公園(ブルックスキャンプ)でも、キャンプ場全体を電気柵で囲うことで利用者の安全を確保しています。
※これらは国家予算で運営される大規模国立公園の事例であり、日本国内の中小キャンプ場がすべて同水準の対策を講じることは現実的ではありません。参考事例として、自施設の規模・予算・リスク状況に応じて応用可能な要素を検討してください。
(4) 巡回体制と記録
巡回は、クマの痕跡を早期発見し、対策を講じるための基本的な活動です。以下の頻度での巡回を推奨します。
▶︎ 巡回頻度
- シーズン前:週1回程度(施設境界、ゴミ集積所、森林との接点)
- シーズン中:可能な限り毎日(早朝が望ましい、人員体制に応じて調整)
注意: クマは薄明薄暮性(明け方・夕暮れ)に活発化する傾向があります。特に早朝3〜5時頃は、夜間に人里へ降りてきたクマが森に戻る途中で人と遭遇しやすい時間帯とされています。ゴミは前夜のうちに屋内へ移動し、利用者の夜間トイレ動線を短くする配置を検討してください。
▶︎ チェックポイント
- ゴミ集積所の異常(荒らされた形跡、ゴミの散乱)
- 電気柵の状態(電圧、断線、下草)
- 獣道や足跡、糞、爪痕などの痕跡
- 利用者サイトの誘引物管理状況
▶︎ 記録の重要性
巡回結果は必ず記録に残してください。日時、確認者、異常の有無を記録しておくことで、万が一の事故発生時に「適切な管理を行っていた」ことの証拠となります。
(5) 従業員の安全確保
利用者だけでなく、従業員の安全確保も事業者の責任です。
▶︎ ベアスプレーの配備と訓練
クマ撃退スプレー(ベアスプレー)は、個人が携帯できる最も効果的な自己防衛ツールです。Smith et al. (2008)の研究では、アラスカでの使用事例において使用者の98%が無傷で済んだと報告されています(負傷した3名も入院を要しない軽傷)。
- 早朝のゴミ回収や巡回時に携帯を義務付ける
- 使用法の訓練を実施(練習用スプレーを使用)
- 有効期限を管理し、定期的に交換
※ベアスプレーは刺激物を含むため、保管・携帯・使用時の安全管理が必要です。従業員への適切な教育と、社内規程の整備を推奨します。

▶︎ 対応マニュアルの整備
クマを目撃した場合、利用者から報告を受けた場合の対応手順をマニュアル化し、全従業員に周知してください。
▶︎ 労働安全衛生法・労働契約法上の考慮
クマが出没するリスクのある環境で従業員に屋外作業をさせる場合、事業者は、従業員の生命・身体の安全を確保するために必要な措置をとる必要があります。ベアスプレーは、そうした措置の一つとして有用と考えられます。まず、従業員がクマと遭遇しないための措置(教育訓練、複数人での作業など)を優先し、そのうえで、必要に応じてベアスプレーなどの保護具を支給することが望ましいと考えられます。
監修弁護士の解説|クマが出没するおそれのある環境での屋外作業―事業者の義務と配慮すべき事項
クマが出没するリスクのある環境で従業員に屋外作業をさせる場合、事業者は、労働安全衛生法上の危険防止措置義務と労働契約法上の安全配慮義務を踏まえ、従業員の生命・身体の安全を確保するために必要な措置をとる必要があります。必要な措置の程度は、想定される危険の内容や程度によって異なると考えられます。
例えば、動物園の飼育員は、危険な動物と接することが業務そのものに含まれており、事故の危険を具体的に予見できるため、施設の整備や訓練など、より高度な安全措置が求められます。
これに対し、キャンプ場の従業員は、クマなどの野生動物と常に遭遇するわけではありません。しかし、出没情報や作業場所の状況などから、事故の発生を具体的に予見することができる場合には、その危険性の程度に応じた安全措置が必要となります。
ベアスプレーは、法令上、事業者に支給が義務付けられている保護具ではありませんが、一定の効果があると知られているようですので、リスクを減らす措置の一つとして有用と考えられます。もっとも、ベアスプレーは、クマと遭遇したときの被害を軽くするための装備にすぎません。事業者としては、まず、従業員がクマと遭遇しないための措置を優先し、そのうえで、必要に応じてベアスプレーなどの保護具を支給することが望ましいと考えられます。
(6) 地域行政・猟友会との関係構築
クマ対策は、個々の施設だけで完結するものではありません。地域全体での取り組みが効果を高めます。
▶︎ 平時からの連絡体制構築
- 市町村の担当部署との連絡先を確認
- 猟友会との関係構築(緊急時の協力依頼)
- 近隣施設との情報共有ネットワーク
▶︎ 出没情報の共有
クマの目撃情報は、速やかに行政に報告してください。また、自治体が公開している出没情報や注意報・警報を日常的に確認し、運営に活かす体制を整えてください。加盟している業界団体があれば、その情報も活用できます。例えば日本オートキャンプ協会は、クマ出没によるキャンプ場への影響の調査結果や、クマ対策用品の情報を発信しています。
▶︎ 合同訓練の検討
自治体や猟友会が主催するクマ対策研修や合同訓練に参加することで、対応能力を高めることができます。
関連記事:クマ対策における地域社会全体の役割や、人とクマの共存について考えるきっかけとして、『その子熊はなぜ駆除されなければならなかったのか?~クマ対策とともに考える~』もご参照ください。
万が一の時|緊急対応フローと事後対応
(1) 緊急対応フロー
クマを発見した場合、または利用者から報告を受けた場合の対応フローを以下に示します。

上記フローの各ステップの詳細(通報先の電話番号、記録すべき項目等)は、ダウンロード用チェックリストの「チェックリスト3:クマ発見・事故発生時」にまとめています。
(2) 行政への報告
クマの目撃・被害発生時は、市町村および都道府県への報告が一般的に求められています(ただし、具体的な報告義務・手順は自治体により異なるため、事前にご確認ください)。
▶︎ 報告先
- 第一報:市町村(農林課、環境課等の担当部署)
- 必要に応じて:都道府県、警察
▶︎ 報告タイミング
- 目撃時:速やかに(当日中)
- 被害発生時:直ちに
▶︎ 報告内容
- 発見日時・場所
- クマの特徴(大きさ、子連れか否か等)
- 被害の有無と程度
- 講じた対応
▶︎ 緊急銃猟制度(2025年9月施行)
2025年9月から、クマが人の日常生活圏に入り込み、人の生命・身体への危害を防ぐ措置が緊急に必要で、銃猟以外の方法では捕獲が難しく、避難などによって住民に弾丸が届くおそれがない場合に、市町村長の判断で銃猟を委託して実施できるようになりました(緊急銃猟)。人の日常生活圏には、住居や広場、商業施設、農地などの勤務地が含まれます。実施にあたっては、市町村がその場所の管理者と調整を行います。自施設の周辺で緊急銃猟が行われる場合の連絡の流れを、平時に市町村の担当部署と確認しておいてください(環境省「緊急銃猟ガイドライン」)。
(3) 情報公開・広報対応
▶︎ 他の利用者への告知
事故発生時は、他の利用者への告知方法を事前に決めておいてください。館内放送、掲示、個別訪問など、施設の特性に応じた方法を選択します。
▶︎ SNS対応の基本原則
- 事実のみを正確に伝える
- 憶測や未確認情報は発信しない
- 被害者のプライバシーに配慮
- 必要に応じて投稿を一時停止
▶︎ メディア対応
報道機関からの問い合わせがあった場合は、窓口を一本化し、事実関係を確認した上で対応してください。
(4) 営業継続/停止の判断基準
クマの目撃・事故発生時に、営業を継続するか停止するかの判断は難しい問題です。以下は判断の参考となる考え方ですが、最終的には行政機関との協議の上で決定してください。
| 状況 | 判断の考え方 |
|---|---|
| 目撃のみ(接触なし) | 注意喚起を強化した上で営業継続を検討 |
| 痕跡発見(足跡、糞等) | 巡回頻度を上げ、行政に報告の上で判断 |
| 施設内への侵入 | 一時的なエリア閉鎖を検討 |
| 接触事故(軽傷) | 行政・警察と協議の上で判断 |
| 重傷事故 | 営業停止、行政指示に従う |
▶︎ 再開の判断
営業を停止した場合、再開の判断は以下を考慮してください。
- 行政からの安全確認
- クマの移動・捕獲の状況
- 対策の強化・完了
- 利用者への十分な情報提供
今日から使える|クマ対策チェックリスト
チェックリストをダウンロード
実務で使えるExcel形式(.xlsx)のチェックリストをご用意しました。シーズン前対策・日常運営・緊急対応の3シートを収録しています。
クマ対策チェックリスト2026.xlsx をダウンロード
※印刷してオフィスに掲示したり、デジタルで記入・保存できます
チェックリスト1:シーズン前対策(春は2〜3月、秋は出没期の前)
春は冬眠明けの2〜3週間前、秋は出没が増える9月より前が目安です。電気柵の動作確認、ゴミ集積所の点検、警告看板の更新、利用規約の免責条項見直し、保険会社への確認など、14項目を優先度別(基本・推奨・理想)に整理しています。詳細はダウンロード用Excelファイルをご覧ください。
チェックリスト2:日常運営(シーズン中毎日)
毎日のルーティンとして、早朝の施設境界巡回、ゴミ集積所の確認・回収、チェックイン時の利用者説明、消灯前の生ゴミ管理確認の4つが基本です。加えて、出没情報の収集と異常発見時の記録を推奨します。
チェックリスト3:クマ発見・事故発生時
発見場所・時刻の記録、管理棟への即時連絡、利用者への注意喚起、該当エリアの立入制限、行政・警察への通報、負傷者対応、現場記録、保険会社への連絡——の8項目を優先順に実行します。緊急時のフローチャートは前章の画像をご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 電気柵の設置費用はどのくらいですか?
本体10〜30万円、設置費用が別途必要です。施設規模や地形により変動します。詳細は専門業者にお見積りください。維持費として電気代、消耗品、定期点検のコストも考慮が必要です。
Q2. 告知だけでは法的責任を免れられませんか?
告知に加えて「事故を回避するための合理的な対策」が求められることがあります。直近の目撃情報や行政の注意喚起などから被害を予見できる状況では、誘引物管理や定期巡回等の実効性ある対策が重要です。「告知したから免責される」という理解は必ずしも正確ではありません。弁護士への相談を推奨します。
Q3. 施設賠償責任保険は野生動物被害をカバーしますか?
保険会社・契約内容により異なります。施設賠償責任保険は、事業者が施設の管理の不備などで法律上の賠償責任を負った場合に補償する保険なので、利用者がクマに襲われたというだけでは、補償の対象になるとは限りません(「保険の適用範囲」の節を参照)。シーズン前に保険会社へ確認してください。
Q4. 小規模施設でも電気柵は必要ですか?
施設規模よりも、クマの出没履歴やリスク評価が重要です。予算制約がある場合は、誘引物管理・情報提供の徹底・定期巡回など低コスト対策から始め、段階的に投資を検討してください。法的にも「すべての対策を講じること」ではなく、「予見されるリスクに対して合理的な対策を講じること」が求められます。
Q5. 冬季も対策は必要ですか?
暖冬年や堅果類不作年は、冬眠せずに活動する個体がいます。冬季営業施設では、誘引物管理を継続してください。地元の森林管理署や自治体に詳細を確認されることをお勧めします。
まとめ|告知に加えて検討したい対策
冒頭の問いに戻ります。
「クマ出没を告知していたのに、なぜ訴えられるのか」:それは、告知が対策のゴールではなく出発点に過ぎないからです。本記事で整理した対策の中から、自施設の状況に合った取り組みを段階的に進めることが、実質的な安全配慮義務の履行につながります。
以下の視点での体系的な取り組みが参考になります。
- 予見可能性を前提とした対策:直近の目撃情報や行政の注意喚起があれば、危険の程度に応じた対策が求められる
- 告知の実効性確保:利用者の属性(子ども・外国人など)に合わせた、確実に伝わる告知
- ハード・ソフト両面の対策:電気柵等の物理的防御と、教育・啓発の組み合わせ
- 記録と証拠の保全:「適切な管理を行っていた」ことを示す記録
- 地域連携:行政・猟友会・近隣施設との協力体制
本記事で紹介した対策とチェックリストを、各施設の状況に応じて活用いただければ幸いです。
関連記事:
- 【2026年版】オートキャンプ場の熊対策完全ガイド – 利用者向けの対策を詳しく解説
- キャンプ場 種類と運営ポイント入門:ビジネス視点で押さえる基礎ガイド【2025年版】 – キャンプ場経営の基礎知識
重要な免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的アドバイスではありません。免責条項の設計、安全配慮義務の範囲、保険の適用可否等については、必ず弁護士・保険会社等の専門家にご相談ください。
参考資料
公的機関・統計
- 環境省「クマ類出没対応マニュアル」
- 環境省「クマによる人身被害統計(速報値)」
- 環境省「特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(クマ類編)」
- 環境省「緊急銃猟ガイドライン」(2026年4月改訂)
- 消費者庁「消費者契約法」
法令
裁判例
- 最高裁 昭和50年2月25日判決(民集29巻2号143頁)
- 横浜地裁 令和5年12月15日判決(判例タイムズ1523号188頁)
- 福岡地裁久留米支部 令和4年6月24日判決(令和元年(ワ)第382号、判例タイムズ1506号181頁)
- 東京地裁 平成18年11月29日判決(判例タイムズ1253号187頁)
- 東京地裁 平成13年6月20日判決(判例タイムズ1074号219頁)
その他の解説
国内事例
海外事例・学術論文
- Parks Canada「Lake Louise Campground Electric Fence」
- NPS「Camping at Brooks Camp – Katmai National Park」
- NPS「Bear Safety at Brooks Camp」
- Smith et al. (2008) “Efficacy of Bear Deterrent Spray in Alaska”
その他
- 各都道府県のクマ対策ガイドライン
- IGBC(省庁間グリズリーベア委員会)認証基準
- カナダ・ブリティッシュコロンビア州「Bear Smart Community Program」
本記事の作成方針について
この記事は、環境省の「クマ類出没対応マニュアル」や各自治体のガイドラインなど、複数の公的機関が公開する情報を参照し、OUTSIDE WORKS編集部が独自にまとめたものです。法律に関する記述(「事業者の責任と利用者の自己責任」の章、「従業員の安全確保」の節、FAQ)は、弁護士 佐藤仁俊氏(あさひ法律事務所)の監修を受けています。
本記事は OUTSIDE WORKS 編集部による事業者向け情報です。最新の統計データや対策手法については、環境省および各自治体の公式情報をご確認ください。
監修者
契約・労務を中心とした企業法務、コンプライアンス・不祥事対応、紛争対応を扱う。2018〜2021年にはグローバル企業の本社法務マネージャーとして出向(現在、同社法務課長兼務)。共著に『最新 契約書モデル文例集』(新日本法規出版)など。
東京大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。2013年弁護士登録。
OUTSIDE WORKS(アウトサイドワークス)は、アウトドア事業者向けのビジネス特化型Webメディアです。アウトドア好きの皆様、アウトドア業界で働く方々や、これからこの分野でキャリアを築きたいと考えている皆様に、実践的な経営ノウハウと業界の最新動向をお届けしています。


株式会社Okibi代表。
アウトドア業界のDX推進や事業支援を手がけ、キャンプ場運営やWebメディア 「OUTSIDE WORKS」 を運営。さらに、キャンプ場のデジタルツイン化を実現する 「キャンビュー」 を開発し、アウトドア体験の革新に取り組む。
業界の発展と新しい価値創出を目指し、挑戦を続けている。