キャンプ場のBBQグリルが老朽化したので新調した。利用者アンケートで要望の多かったSUPボードを導入した。雨天時にも子どもが遊べるよう、屋内スペースの遊具を入れ替えた。いずれも指定管理料の中から、経営判断として支出したものだ。

そして5年後、指定期間が終わるとき、こう告げられる。

「これらの備品は、行政の財産です。」

これは架空の話ではない。全国の指定管理者が、日常的に直面している現実だ。

NPO法人 Nature Service は、5箇所以上の自然体験施設やキャンプ場で指定管理を担っている。同じく指定管理を担う同業者との情報交換の場で、この「備品の帰属」が必ずと言っていいほど話題にのぼる。この記事は、誰かを批判するために書くものではない。制度のどこに矛盾があるのかを整理し、関係者がともに考えるための材料を提供したい。

指定管理料は「報酬」なのか「預かり金」なのか

指定管理者制度は、2003年の地方自治法改正(第244条の2第3項)によって導入された。公の施設の管理を、民間企業やNPO法人などに委ねることを可能にした仕組みだ。目的は明快だった。民間のノウハウと経営の柔軟性を活用して、住民サービスの質を高め、管理コストの効率化を図ること。

指定管理者は自治体から「指定管理料」を受け取って施設を運営する。赤字になっても、原則として自治体は補填しない。利益が出ればそれは指定管理者の経営努力の成果だ。地方自治法第244条の2第8項は、利用料金を指定管理者の「収入として収受させることができる」と定めており、指定管理者は単なる行政の下請けではなく、収益機会を持つ独立した事業主体として制度上位置づけられている。

ここで、備品の所有権を左右する根本的な問いが生まれる。指定管理料は「報酬(対価)」なのか、それとも「預かり金(経費の立替)」なのか。

「報酬」であれば、受け取った側がどう使うかは経営判断に委ねられ、そこから購入した物も当然、購入者のものとなる。民法第176条は「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と定めており、備品を購入した指定管理者が所有権を取得するのが原則だ。

「預かり金」であれば、購入した備品は資金の出し手である自治体のものという論理も成り立ちうる。しかしその場合、経営上の損失も資金の出し手が負担するのが筋だ。預かった金を使って施設を運営し、赤字になったのなら、預けた側がその赤字を補填すべきだろう。

実態はどうか。多くの自治体のガイドラインは「収支が赤字の場合でも、市からの補てんは行わない」と明記している(戸田市ガイドライン等)。赤字を補填しないということは、指定管理料を「預かり金」として扱っていないということだ。損失リスクを指定管理者に負わせている時点で、指定管理料の経済的実質は「報酬」にほかならない。

甲賀市(滋賀県)のガイドラインは、この論理を明快に体現している。

「指定管理者が購入した備品は、指定管理料で購入した場合であっても、指定管理料は管理の対価として支出するものであることから、当該物品は指定管理者に帰属する」(甲賀市指定管理者制度ガイドライン)

なお、指定管理料は「補助金」でもない。補助金であれば「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(補助金適正化法)に基づいて財産の帰属が規定されうるが、指定管理料にはこの法律の適用がない。法令上、備品が自治体に帰属すべきとする根拠規定は存在しないのだ。

もちろん、協定書の中で「備品は自治体に帰属する」と定めること自体は、民法上の合意として有効ではある。しかし問題は、その合意が対等な交渉の結果ではないということだ。自治体が一方的に作成した協定書の条件を、指定管理者が事実上飲まざるを得ない構造の中で生まれた「合意」を、真に自由な意思に基づく合意と呼べるのかどうか。この点は後段であらためて触れる。

自治体ごとにバラバラなルール。その背景にある「前例踏襲」

この「報酬か預かり金か」という根本問題に、法令レベルでの統一的な回答は存在しない。総務省は備品の帰属ルールを一律に定めておらず、各自治体の協定書やガイドラインに委ねている。結果として、自治体ごとにルールがまったく異なる。

自治体ごとの備品帰属ルール比較

  • 甲賀市(滋賀県):指定管理料で購入しても指定管理者に帰属(※)
  • 長崎市(一部施設):自己資金での購入分は指定管理者に帰属
  • 戸田市(埼玉県):指定管理料からの購入は市に帰属
  • 那須烏山市(栃木県):市の指示による購入分は市に帰属
  • 湯沢市(秋田県):指定管理料での購入は市に帰属
  • 酒田市(山形県):指定管理料での備品購入自体を禁止

※甲賀市は備品を「管理物品(Ⅰ種:市所有)」と「管理物品(Ⅱ種:指定管理者所有)」に区分しており、上記は指定管理者が自らの判断で購入したⅡ種に関するルール。市が運営上必須と判断するⅠ種は市帰属となる。なお、上記はいずれも各自治体のガイドラインや特定施設の募集要項・協定書に基づくものであり、同一自治体内でも施設ごとに運用が異なる場合がある。

一般社団法人指定管理者協会が2017年に実施した調査では、「備品のすべてが自治体の帰属になるとしている自治体」と「指定管理者の帰属になるとしている自治体」が混在しており、「全てにおいて正解と言える手法はない」と結論づけるほかなかった(指定管理者協会, 平成29年度提言)。

なぜこれほどバラバラなのか。大きな原因のひとつは、行政における前例踏襲主義にある。指定管理者の公募に使われる仕様書や募集要項は、多くの自治体で何年も、場合によっては十数年にわたってほぼそのまま流用されている。その間に蓄積された法的解釈の議論や、甲賀市・長崎市のような先進的な取り組みが参照されることはほとんどない。「問題が起きていないから変えない」のではなく、「問題を可視化する仕組みがそもそもない」のだ。

そして、公募が掛かった段階で指定管理者が条件の修正を求めることは事実上不可能だ。圧倒的に有利な立場にある行政が、応募者の要望で条件を変えることはまずない。「嫌なら応募しなければいい」という構造が、問題の温存を招いている。

税法と会計が証明する「つじつまの合わなさ」

備品帰属の問題は、「感覚的に不公平だ」というだけの話ではない。税法と会計のルールに照らすと、現行の運用には明確な矛盾がある。

課税と納税の実態が「預かり金」説を否定している

指定管理者が備品を購入すると、その備品は指定管理者の法人会計に固定資産として計上される。法人税法に基づく減価償却が行われ、法人税の課税所得計算に反映される。さらに、地方税法第383条に基づき、毎年1月1日時点の償却資産を市区町村に申告し、地方税法第343条第1項に基づいて固定資産税(償却資産税)が課税される。

つまり、指定管理者は備品の「所有者」として、法人税法上の減価償却を行い、地方税法上の固定資産税を納めている。国税も地方税も、指定管理者を「所有者」として扱っているのだ。

これは「預かり金」で購入した物の扱いとはまったく異なる。預かり金で他者の資産を取得したのであれば、その資産は預けた側(自治体)の帳簿に載るべきであり、課税も納税も自治体が行うはずだ。ところが地方税法第348条第1項は、国や地方公共団体に対しては固定資産税を課することができないと定めている。もし備品が本当に自治体のものなら、そもそも固定資産税は非課税になるはずなのだ。

指定管理者の帳簿に資産が載り、指定管理者が減価償却し、指定管理者が固定資産税を納めている。もちろん、税務上の「所有者」認定と民法上の所有権が常に一致するとは限らない。地方税法第343条第3項は、償却資産については「課税台帳に所有者として登録されている者」を納税義務者とする旨を定めており、課税実務上の便宜的な扱いという側面もある。しかし、国税(法人税)と地方税(固定資産税)の双方が指定管理者を資産の帰属先として扱っているという事実は、指定管理料が「預かり金」ではなく「報酬」であり、備品が指定管理者の所有物であることを強く示す状況証拠だといえる。

赤字を補填しない制度が「預かり金」を主張する矛盾

この論点は、経営リスクの負担からも裏づけられる。

預かり金で事業を行い、赤字が出たのであれば、その赤字は預けた側の損失だ。しかし現実には、指定管理者が赤字になっても自治体は補填しない。これは全国的に標準的な運用であり、戸田市のガイドラインも「収支が赤字の場合でも、市からの補てんは行わないものとする」と明記している。

赤字を補填しないということは、経営リスクを指定管理者に負わせているということだ。経営リスクを負うのは「報酬を受け取って自らの責任で事業を行う者」であり、「預かり金を使って他者の指示で事業を行う者」ではない。

報酬であるからこそ、赤字は指定管理者の責任になる。この論理は制度上正しい。しかしそうであるならば、報酬で購入した備品の所有権もまた、指定管理者に帰属するのが道理だ。

残存価値のある備品を無償で手放す不合理

仮に「備品は自治体のもの」という運用を受け入れたとしても、会計上の矛盾は解消されない。

例えば、キャンプ場でBBQグリルを30万円で購入したとする。法定耐用年数が10年の場合、3年後に指定期間が終了すれば、帳簿上まだ約21万円の価値が残っている。これを無償で自治体に引き渡す。そして次に来る指定管理者は、このグリルをタダで使えることになる。

財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)は、2009年の研究報告書「指定管理者制度における協定のあり方」の中で、「指定管理者が購入した備品等の所有権の帰属が不明な場合がある」とした上で、「所有権を明確にしていないと、民間事業者として適切な税務会計の処理ができなくなる可能性がある」と警告している。

同じ備品が二つの帳簿に載る二重計上

戸田市のガイドラインでは、備品の帰属先にかかわらず施設の備品台帳に追加する運用が定められている。つまり、自治体の備品台帳にも、指定管理者の会計帳簿にも、同一の備品が登録される状態が生じうる。横浜市や戸田市の公募要項でさえ「固定資産税課に確認すること」と注記しているのは、自治体自身も課税関係を一義的に確定できていないことの表れだ。

川崎市の令和7年度包括外部監査報告書でも「指定管理者においては固定資産について廃棄除却のルールが不明確」という指摘がなされており、この問題は全国的な課題として認識され始めている。

「行政処分だから契約ではない」は通用するのか

ここまで見てきた矛盾に対して、行政側にはひとつの「盾」がある。「指定管理者の指定は行政処分であり、契約ではない」という論理だ。これにより、民間企業間の取引を保護する下請法(2026年1月以降は「取引の適正化に関する法律(取適法)」に改称)や独占禁止法の適用を受けない、とされてきた。

しかし、この盾は本当に有効なのか。

実態として、指定管理者と自治体は「協定書」を交わしている。協定書の中身を見れば、備品の帰属、収支の清算方法、費用負担、損害賠償、違約条項など、一般の業務委託契約書と変わらない項目が並ぶ。形式上「協定」と呼んでいるだけで、経済的実質は契約関係そのものだ。

国税庁の研究論文「指定管理者制度に関する一考察」も、この問題を正面から取り上げている。

「協定の法的性質については①契約、②行政処分の付款、③両者を含むとする諸説が存在している」

行政処分説は通説とされてはいるが、確定説ではない。にもかかわらず、この一つの説のみを根拠として、民間同士であれば当然適用される公正取引のルールから自治体が免れている。この構造は、行政が悪いというよりも、制度の設計として、行政側も指定管理者側も法的に安定した関係を築けないという問題だ。

なお、下請法(取適法)の直接適用が難しいとしても、独占禁止法第2条第9項第5号に定める「優越的地位の濫用」については、理論上の適用可能性が残る。公正取引委員会が公表する「役務の委託取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」は、「取引上優越した地位にある委託者が受託者に不当に不利益を与える行為」を広く規制対象としている。自治体が「事業者」に該当するかどうかは慎重な議論があるが、利用料金制のように営利的側面が強い場面では、独禁法上の議論を援用しうるとする見解も存在する。

指定管理者は以下のような状況に置かれている。

  • 自治体は、管理の継続が適当でないと認めるときは指定を取り消すことができる(地方自治法第244条の2第11項)
  • 協定の条件に異議を唱えると、次期公募で不利に扱われるリスクがある
  • 協定書の内容は自治体が作成し、指定管理者に実質的な交渉の余地がない
  • 当該施設には代替の取引先が存在しない

これらの状況は、「相手方の要請を拒否することが事業経営上大きな支障をきたす」という、優越的地位の認定要件に該当しうるものだ。現時点で、指定管理者制度に優越的地位の濫用が正式に認定された判例や審決は確認されていないが、理論的な検討の余地は開かれている。

「損は民間・得は行政」という構造の正体

ここまで述べてきた備品の問題は、実はより大きな制度矛盾の一側面だ。

備品について考えてみよう。施設のサービスを良くしようと設備投資すればするほど、指定期間終了時に無償で引き渡す資産が増える。前任者が揃えた備品を、次に来る事業者がタダで使えてしまう。努力した者が損をし、努力しなかった者が得をする構造だ。

さらに深刻なのが、余剰金(繰越益)の問題だ。

先ほど整理した通り、赤字になっても自治体は補填しない。これは「報酬を受け取って自らの責任で事業を行う」という制度の原則に基づくものであり、指定管理者側もそれを理解して引き受けている。

しかし、経営努力によって余剰金が生まれたとき、その同じ論理が通用しなくなる自治体がある。余剰金を「指定管理料は公費が原資だから」として返還を求めるのだ。

赤字は補填しない。でも利益は返せ。

この構造を言い換えると、こうなる。「損失は指定管理者の責任。利益は行政の取り分」。指定管理者が負っているのは「責任だけ」であり、その責任を果たして生まれた成果は手元に残らない。

これは、指定管理者制度が掲げる「民間の経営の自由と責任を活かす」という理念を根本から否定する構造だ。経営努力の成果が指定管理者に帰属し、それが施設への再投資につながり、住民サービスが向上する。そのサイクルこそが制度の本来の姿であったはずだ。備品も余剰金も行政が取得できるのであれば、民間事業者が創意工夫に取り組む動機はどこにあるのだろうか。

制度を変えられるタイミングと、変えられる人

では、この問題はどうすれば変わるのか。

公募が掛かった段階で指定管理者が条件の変更を求めることは、現実的ではない。行政が圧倒的に有利な立場にあり、「嫌なら応募しなければいい」という構造の中では、一事業者の声で仕様が変わることはまずない。

変化の現実的な機会は、指定管理者の更新段階にある。更新のタイミングでは仕様書や募集要項の見直しが行われる。この機会を活かせるのは、以下の立場にいる人たちだ。

行政の施設所管課の担当者の方々へ。更新は、前例踏襲を見直す機会でもある。甲賀市や長崎市が実践しているように、備品の帰属と余剰金の取り扱いを、指定管理料の「対価性」に沿った形で明文化することは、法的にも制度趣旨の観点からも合理的な選択肢だ。自治体間で情報共有を進めることで、より良い運用モデルが広がっていく。

議会の議員の方々へ。指定管理者制度の運用実態は、議会が監視すべき領域のひとつだ。備品の帰属ルール、余剰金の処理方針、固定資産税申告の整合性について、担当部局に問いを立てることが、制度改善の第一歩になる。

包括外部監査の監査員の方々へ。備品台帳と会計帳簿の整合性、余剰金処理の妥当性、償却資産申告の適正性は、監査上の具体的な確認項目になりうる。川崎市の令和7年度包括外部監査が指摘したように、この問題は監査の場で取り上げられることで初めて可視化される場合がある。

制度全体としては、総務省による統一的なガイドラインの整備が求められる。指定管理者協会はすでにこの問題を政策提言の対象としており、現場の声が制度設計に届く経路は確かに存在する。


指定管理者制度は、うまく運用されれば、公共施設の価値を高め、地域と民間の双方を豊かにできる仕組みだ。しかし「備品は誰のものか」「余剰金は誰のものか」という問いに、法的にも会計的にも整合した答えを出せていないのが現状だと思う。

この記事が、制度に関わるすべての当事者が「どうすれば公正な関係を築けるか」を考えるきっかけになれば嬉しい。Nature Service は、自然体験の現場から、この対話を続けていきたい。