【青ヶ島編:1】より)

【島の人に会う】
『青ヶ島の人』は青ヶ島役場の吉野さん。東京出身で都内で仕事をしていたが、青ヶ島の求人を見つけ、今年島に渡ったホヤホヤの移住組。役場内だけでなく、ヘリポートに行ったり、港へ行ったりと、島内全体が仕事場のように活動している。

青ヶ島役場の吉野さん。青ヶ島の旧名が書かれた手提げ袋と一緒に
青ヶ島役場の吉野さん。青ヶ島の旧名が書かれた手提げ袋と一緒に

予約時に「昼はひんぎゃがいいよ」と宿の方に言われたと吉野さんに伝えると、「ひんぎゃがあるカルデラの中に行きましょう」ということで、吉野さんに連れられひんぎゃへ。『ひんぎゃ』とは、島の言葉で「水蒸気の噴出する穴」のこと。電気がない時代には調理に使っていたそうで、そこで食材を蒸して食べることができる施設があるそうだ。

宿に用意してもらった食材を持って、いざカルデラの内部へ!

【カルデラ内部へ】
車で行くカルデラ内部への唯一の道「平成流し坂トンネル」を通り、いよいよカルデラ内部へ。外輪山の下から見ると、内部も切り立った断崖絶壁なことがよくわかる。

カルデラの中から見た切り立つ外輪山
カルデラの中から見た切り立つ外輪山

1785年の天明の大噴火で形成された内輪山「丸山」を中心としたカルデラの中へ入る。「カルデラ内に住んでいる人はいるんですか?」と吉野さんに聞くと、現在はいないとのこと。工場やキャンプ場などがあるが、ほとんど人が入ることがない手付かずの森も多く残っているそうだ(キャンプ場は役場への申し込みが必要)。

ひんぎゃ
カルデラ内部には草木が生えていない箇所がチラホラ見える。理由を吉野さんに聞くと、「草木の生えていないところは、水蒸気の出ているところです」とのこと。ここが火口だったことを今に残す証拠。

水蒸気が吹き出る崖
水蒸気が吹き出る崖

ひんぎゃの水蒸気で調理ができる施設へ。そこには同じくひんぎゃを利用したサウナもあり、島民の憩いの場になっていると吉野さん(海水から塩を作る施設もあり、「ひんぎゃの塩」として販売されている)。卵やじゃがいもなどの食材をカゴに入れ、水蒸気が出る地熱釜の中へ。

ひんぎゃの地熱釜
ひんぎゃの地熱釜

20分ほどで蒸されるとのことで、その時間を使ってドローン隊は空撮を開始。

いい頃合いでカゴをあげて昼食。よく蒸されていて、景色もプラスされ美味しい! もちろんひんぎゃの塩で味付け。自然を利用した調理法でできた昼ごはんを、自然の中で食べる幸せ。

出来上がり!
出来上がり!

ひんぎゃで蒸された食材と、外輪山の緑の壁に囲まれた心地のいい空間となれば、飲むでしょ、ビールw

外輪山の崖を見ながら一杯!
外輪山の崖を見ながら一杯!

丸山(内輪山)
カルデラの中心にある内輪山『丸山』は、ぐるりと一周お鉢巡りができるとのことで、ひんぎゃの調理施設近くにある入り口から向かう。1時間ほどのコース。少し進むと内輪山の中が見える高台へ。ほとんど人が入らない自然が残る内輪山内部。ここも切り立った崖。その向こうに見える外輪山の切れ間から海が見える。内輪山、外輪山、海と空を眺めることができる贅沢な景観。

内輪山から外輪山、そして海と空
内輪山から外輪山、そして海と空

【青ヶ島の自然で作る焼酎】
「焼酎工場の見学をしませんか?」と吉野さん。我々取材班が酒好きと聞いて、工場見学の調整していたとのこと。大変ありがたい。
『あおちゅう』として知られる青ヶ島の焼酎は、焼酎好きの中で「幻の焼酎」とも言われていて、熱狂的なファンも多いと聞く。これは行かないとでしょ!

あおちゅう工場見学中
あおちゅう工場見学中

あおちゅうの杜氏・奥山晃さんのガイドで見学スタート。
かつて焼酎作りは主婦が行う島の女性の仕事で、材料が同じでも家庭ごとに味が違う、いわゆる家庭の味・おふくろの味だったらしい。現在青ヶ島に杜氏は10名いるが、家庭の味だったころの製法を引き継いでいるので、材料が同じでも杜氏によって味が大きく違うらしい。同じラベルでも杜氏の名前が書かれ、「あの杜氏のあおちゅうが飲みたい」というファンも多いらしい。高齢化で女性から男性に代替わりをしているが、その方がお亡くなりになるまで、名前を使うのが青ヶ島のやり方とのこと。

杜氏の名前が入ったラベル
杜氏の名前が入ったラベル

製造工程はなんとも手作り感が漂う。ある程度は機械化が進んでいるかと勝手に想像していたのだが、発酵から蒸溜に至るまでの工程には杜氏が一つ一つに寄り添い、自動化という言葉は無縁。瓶詰め、ラベル貼りも手作業。大量生産とも無縁なのがわかる。こりゃ幻だ。

蒸溜工程見学中
蒸溜工程見学中

「材料はどこから仕入れているんですか?」と質問すると、「材料はほとんど島内で作ってます」とのこと。芋焼酎のさつまいもはすべて島内産。それだけでも驚いたが、さつまいもだけでなく、麦麹用の麦、麹菌など、すべて青ヶ島で生産されたもののみで作った焼酎も。さらにその麹菌は青ヶ島に群生する「オニワタリ」の葉から取っているんだとか。すごい! まさに青ヶ島の自然が作った焼酎! なんてネイチャー!(青ヶ島村Webサイト:特産品のご紹介

作った年によっても、寝かせた年数によっても味が変わるらしい。我々も試飲したが、確かに銘柄によってだけでなく、杜氏によっても、年によっても大きく味が違う。すっきりしたものから、きついもの、ウィスキーのような風味のものもある。晃さん(同じ苗字が多い青ヶ島では、下の名前で呼ぶことが多い)によると「全種類を試飲してもらって、自分に合うあおちゅうを探してもらうことをオススメしてます」とのこと。

試飲しました!
試飲しました!

自然とともにある青ヶ島のなんともビンテージな焼酎。
青ヶ島の自然の恵みを使った母の味。それを未来に引き継いでいく。

【夜の青ヶ島】
「青ヶ島の夜」といえば星が有名だが、ちょっと雲が多いなあ…ということで、吉野さんと島の居酒屋へ(島には2件居酒屋がある)。
そこは島の社交場。待ち合わせでもしていたかのように、続々とやってきては、酒を飲んで、話をして帰っていく。島の重鎮から若者まで集まり、カラオケの歌声が賑やかに響く。
旅行者である我々にも、冗談交じりに気軽に話しかけてきてくれる。とてもあたたかい空気に包まれている。

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【切り立った断崖絶壁の中には「あたたかさ」があった】
青ヶ島は「死ぬまでに見るべき絶景」と言われているが、実際に来てみて感じたことは、「ここは決して観光地ではない」ということ。
世界的に珍しい見るべき、行くべきスポットを多く持つ島であることは確か。我々取材班もその景色に驚き、圧倒された。「来るものを選ぶ」というなかなか上陸できないというプレミアム感もあり、大変魅力的な場所であることに疑問はない。

でも、島の中は自然とともに「あたたかく」島民が生活する「島」(「島か? アイランドか?」に関しては「利島編2」参照)。
かつて困難を与えた火山を利用した、あたたかいひんぎゃの調理施設。
島民をあたためる、あたたかいサウナという社交場。
島のものを使って作る母の味「あおちゅう」は、中からあたためてくれる。
そして、あたたかい島の人。

前回「外側の断崖絶壁は父のように守っているようだ」と書いたが、その内側は「母のようにあたためてくれる」という印象。

『「父」が守り、「母」があたためる。家族のような島・青ヶ島』

そんな青ヶ島に乾杯!

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青ヶ島の情報は「青ヶ島村」Webサイトから。

次回「三宅島・青ヶ島渡航の終章」。「乗ったぞ! あおがしま丸」と「そして一つの島が残った…」。

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