観光地や繁忙期の宿泊施設不足解消に一役買っているAirbnbを含めた民泊サービス。そのなかでも、キャンプ場特化型Airbnbもしくはアウトドア版Airbnbとでもいうべき、『Tentrr』と『Hipcamp』が、アメリカでは人気を博しているのだそうです。
Airbnbが”家を貸す”のに対し、『Tentrr』や『Hipcamp』は”土地をキャンパーに貸す”ことをコンセプトにしています。今回はこちらの記事から、サービスが生まれた背景やその魅力をご紹介したいと思います。
『Tentrr』が生まれた背景
Tentrrを設立したマイケルさんは、当時ニューヨークの金融系企業に勤務していたそうです。仕事に忙殺されていた彼はある日、お隣のニュージャージー州に妻と一緒にキャンプに出かけます。しかし、リラックスを求めて行ったキャンプ場で彼らを待っていたのは、静寂やリラックスとはほど遠い、宗教絡みのパーティーイベントでした。彼らはその時のことを、「まるでタイムズスクエアでキャンプをしているようだった」と振り返っており、その言葉からも期待を裏切られた様子が伺えます。
リラックスすることが叶わなかった彼らは、翌朝ニューヨークへと帰ります。その道中、偶然素敵な農場を見かけ、「あんな場所でキャンプができたらなあ~。」と思わず妻につぶやいたそうです。しかし同時に、「そうか、その手があったのだ!」とひらめき、自分たちが感じた不満を解消すべく、余っている私有地をキャンプ場として貸し出す、Tentrrという会社を設立しました。
『Hipcamp』にも同じような背景が
さて、もう一方のHipcampも、Tentrrと同じような状況に悩まされたアリッサさんが立ち上げました。当初は、キャンプに行く人たちがキャンプ場探しに困らないよう、キャンプ場検索・予約サイトの運営を始めたそうですが、早々に問題にぶつかります。「そもそも、既存のキャンプ場はどこも予約が一杯じゃないか!」と。
そこで彼女は、私有地をキャンプ場として貸してくれるよう、土地の所有者に当たり始めたのです。当初は、思ったようにホスト(貸す側)が増えない時期もあったようですが、今では28万箇所以上のキャンプ場が登録しています。
たとえば、実際にHipcampに登録しているホストのブレークさんを例に挙げると、宿泊費は一泊20ドル。ミネソタ州に6000坪ほどもある土地を所有しており、その一部を貸しています。また、小さなブドウ園の一角をキャンプ場として提供しているアダムさんも、一泊25ドルで貸しており、どちらもユーザーにとっては嬉しい価格です。
このお二人が貸している土地に共通しているのは、これまでの概念から考えるとキャンプ場にはなり得ないような場所だったという点です。ブレークさんが貸しているキャンプ地は、沼地の中を歩いて行く必要があります。そのため、膝まである長靴持参が必須で、敬遠されがちな場所。一方のアダムさんのキャンプ地も、農園の一角という特殊な場所です。
どちらも一般的にはキャンプをするには不向き、もしくは不便に思われがちですが、静かな環境や人が少ない落ち着ける場所を好む人が増えており、従来はキャンプ地にならないような場所が逆に人気を博すことがあるようです。
キャンプ設備の違い
『Tentrr』と『Hipcamp』では、キャンプ設備に大きな違いがあります。『Tentrr』の場合、ホストになる側は、登録時に1500ドルを支払い、その代わりにテント、テーブルやイス、寝床や焚火台といった設備の提供を受けます。キャンパーからすると、手ぶらに近い感覚でキャンプを楽しめるわけです。
一方の『Hipcamp』では、ホストによって設備の種類などはまちまちです。そのため、希望のキャンプ地のページを必ず事前にチェックし、自分が何を持参すべきかということを確認する必要があります。
この辺りは、ユーザーの好みが分かれるところかもしれませんが、キャンプ用品を持たない新人キャンパーには、設備が用意されている『Tentrr』をアウトドアのとっかかりとするには良いように感じます。現に、Tentrrを利用するキャンパーの4割は、「キャンプに行ったのは初めてだった」と答えているそうです。
キャンプ場特化型Airbnbの今後の展望は?
Tentrrによると、今後も非常に大きな需要が見込めると考えているとのこと。TentrrやHipcampの設立背景からもわかるように、人気キャンプ場は常に予約で埋まっており、それが繁忙期ともなると、たとえ行けたとしても、混雑のあまり楽しめないといった問題に直面することがあります。
その点、農園の一角、使い道のない土地、交通の便の悪い僻地、といった私有地がキャンプ場の選択肢として増えれば、少し不便でも静かな環境でキャンプをしたい、より自然の多い場所で過ごしたいという多様なニーズと合致することでしょう。
ただ、残念なことに、『Tentrr』も『Hipcamp』も、サービス提供エリアはアメリカ国内の特定の場所に限られています。そこは少し残念なところですが、日本においては、自然に囲まれている家等を持て余している!という方たちは、Airbnbなどへのご登録をご検討されてみると良いかもしれませんね。
”土地をキャンパーに貸す”ことをコンセプトにする『Tentrr』や『Hipcamp』といったサービス。「自然をシェアしよう」という考え方が進みつつありますが、皆さまの目にはどのように映りましたか?
《参考URL》
Airbnb for the camping crowd: new startups bring the sharing economy to the backcountry|MARKETPLACE
Dan Kraker(意訳:菊地薫)
Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。