戦後日本のベストセラー4位「バカの壁」の著者として知られる養老孟司さんが、現代を生きる私たちに向け送ったメッセージ「森へ行け」。

今回は一般社団法人YORUMORIの皆さんが記録した動画「森とは何か」より、心に響く養老さんの言葉の数々をご紹介します!
※本記事は動画の内容を端的にお伝えするため、加筆・編集を加えています。あらかじめご了承ください。

“現代人は怠けることに誠心誠意”

「都会は自然を排除する」こんな言い方を僕はしていますが、都会はすべて意識的に物事を判断しようとしています。その結果、都会と自然のバランスが失われ始めました。昼でも夜でも一定の温度と明るさが保たれた室内で過ごし、デコボコのない真っ平らな道を歩く。合う人には合うかもしれませんが、全員が全員合うわけがない。人はそれぞれ違って当然なんですから。要するに現代人は一定の刺激しか受けなくなってしまったんです。それを便利とか快適とか言っている。ある意味でこれは怠けですよ。現代人は誠心誠意怠けることに力を注いできたということです。

“現代人は自分の体のことが分からなくなっている”

僕は、森が良いから「森へ行け」って言っているわけではありません。結局は自分自身のバランスの問題なんです。現代人はすべてのことを頭で考えて自分たちにとって便利で快適な環境をつくってきたわけですが、脳はもともと自分の体のことを考えるようにはできていないんですよ。脳は外側の世界をどうこうするもので、内側の世界にはまったく無頓着。だから体の中に癌が潜んでいても分からないんです。しかし本来、生き物は自分の体のことをある程度は分かっていていいはず。自分がどうすれば元気になるのか、多くの人が忘れてしまっているんですね。

 “現代人はカゴで飼われているマウスに近い”

たとえば僕はマウスを飼っているんですが、長くカゴの中で飼ったあと、急に外に出してやると自主的に動かないんです。机に置いてやっても、縁を触りながらゆっくり歩いては止まってを繰り返し、そうでなければボーッとしているだけ。まるで現代人を見ているような気になります。ところが、マウスを外に出したまま1週間も放置すると、あちこち走り回って、しまいには部屋のどこにいるか分からなくなるんです。野生に戻るんですよね。たぶん、マウスに聞けば「今の方が調子いい」って言いますよ。

“揺すってやらないと安定しない”

ストレスも同じです。自分の安定点が分からないから、何がストレスなのかも分からない。食べ物も同じで、自分にとって具合のいいものは本来自分で分かっていなくちゃならないんです。ところが、現代人はみんな医者任せ。血圧を測ったり、薬を飲んだり。よほどの高血圧を除けば、血圧なんて常に変わって当然なんです。頭でコントロールしようとするから、特に気にする必要のないことまで気にするようになる。これは正常な状態とは言えませんね。だから自然に身を置くなりして、外の刺激を入れながら揺すってやらなきゃならない。何でもそうですけど、揺すってやらないと安定しません。自分自身も揺すってやる。そうすれば安定するポイントというのが何となくつかめてくるわけです。逆に外を完全に安定させてしまえば、本人が揺れていることばかりが目立ってしまうわけですね。

“すぐに答えを求めるな”

こんなことを言うと、現代人はすぐに「森に行ったらああなる、こうなる」といったふうに答えを出したがりますよね。それじゃ意味がない、森に行っても頭で考えれば同じことです。そうではなくて、どうなるか見当もつかないことをやる。それが「揺する」ということです。子どもにとってはいつも初めてのことばかりじゃないですか。森や川に放っておいたら何も考えずに夢中で遊びますよね。大人もそれでいい。頭で考えるには限界はあるんです。なぜなら自分が死ぬときがいつなのか、分かる奴なんていないでしょう。僕もあなたも気がついたら生まれて、生きている。そこに答えがありますか。そんなことすらみんな忘れてしまっているみたいです。

“自然は常に中立的な立場”

また森や自然が人間にたくさんの恩恵をもたらしてくれるなどと思っている人もいるでしょう。これも現代人が都市に寄り過ぎているからそう思い込んでいるだけで、本来自然はあくまで中立的な立場です。台風も来るし、地震だって起きる。当たり前ですが、人間にとって良いことばかりではない。それだって別に人間に対して牙を剥いているわけじゃなくて、自然というのは本来そういうものです。

 “あなたがごく素直に暮らすことがどういうことか、分かっていますか”

自然の中に身を置くと「=(イコール)」なんて概念は人間だけのものに過ぎないって感覚的に理解するはずです。葉っぱは葉っぱ、でもよく見れば一つ一つ違う色や形をしている。同じものなんて一つとしてありませんよ。幸せだってただの概念です。そんなただの概念のために戦争したりするのは、おぞましい限りですよ。今の子どもが産まれなくなった社会を見ても、世界がいびつになっていると感じてしまいます。一人ひとりがちゃんとしないと世界が変になってしまいます。だからといって、世界のために何かやろうなんて思わなくていい。肩に力を入れなくていいんです。自分がごく素直に暮らすってどういうことだろう。そんなシンプルなことだけ分かっていれば、世界はいずれ正常さを取り戻します。絶えずシフトしていく自分のバランスの落ち着くところ。それを感覚的に理解するために自分を揺らす。つまりは自然に親しんでほしいということです。

まとめ

養老さんの言葉に、皆さんは何を感じたでしょうか?
ここでご紹介できた養老さんの言葉はごく一部です。
自然に身を置くって何だろう。揺らすってどういうことだろう。

もっと詳しく知りたい方はぜひこの動画をご覧ください! ただし、養老さんが言うように答えなんて期待しないでくださいね!

養老さんが顧問の「養老の森」の活動もご覧ください!
養老の森

協力:一般社団法人YORUMORI

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