前回は、「鍼灸師が考える、森林と東洋医学に共通する癒しの力」と題して、メンタルケア、自然療法、未病へのアプローチという点について考えてみました。今回は具体的にこれらのメリットを享受する方法についてご説明します。
五感を使ってみよう
四六時中、スマートフォンやPCを手放せないという状況は今や不思議ではなくなりました。ここ一年で生活様式も大きく変化し、テクノロジーの進歩でリモートワークも可能になりました。通勤時間を削ることができたり、場所に縛られず仕事ができたりと歓迎される部分もあります。一方、動かないことによる全身の血流低下で痛みやコリが出やすくなったり、体内時計や自律神経の乱れも招きやすかったりする状況にあるとも言えます。
それと同時に、森林と東洋医学に共通する「五感で味わう」という機会も減ってきているのではないかと危惧しています。見る、香る、聞く、味わう、触るという五感。リモートワークで公私の区別があいまいになったり、多忙のあまり休むことを忘れがちになったり、スマートフォンを見ながら食事をしたり、仕事をしながら家事をしたりする方も少なくないのではないかと思います。ながら作業は効率的かもしれませんが、同時進行の作業は脳へ負担をかけることにもなります。
時には一つの感覚だけに集中してみるのはいかがでしょうか。一つの感覚を意識することで脳が休まり、瞑想のような状態となって深いリラックス効果が得られます。仕事の合間にリラックスできる音楽をかけてぼーっとする、ストレッチをして伸びている筋肉に意識を向けてみる、これだけで集中力が増し、その後の仕事の質がぐっと変わります。
森林セラピーは、感覚、つまり五感を大切にする時間です。目を閉じて森の香りや生き物の声を感じること。木の幹に触れてその歴史を感じること。寝転んで地面の感触や空の広さを感じること。ひとつひとつの感覚に集中することで森との一体感を感じ、自分も自然の一部なのだと気付き、深い癒しを得ることができます。
そして東洋医学の場合は、鍼灸治療の際、症状を把握するために「問診、望診、触診」が欠かせません。治療を受ける方は、困っていることを聞いてもらい(問診)、つらい部分や脈やお腹を見てもらい(望診)、優しく体に触れてもらう(触診)ことで「丁寧に診てもらっている」という安心を感じていただけることが多いのです。安心感は心身のリラックスにつながり、不調の改善の手助けになるのです。
森林の中でセルフケアをしてみよう
きれいな空気と静寂に包まれている森林は、心身のセルフケアにうってつけの場所であると言えます。森の中をただ歩くことだけでもリラックスできますが、さらにリラックス効果を高めたい方には、「お灸」をおすすめしたいと思います。
お灸とはヨモギからつくられた「もぐさ」を用いて身体を温める自然療法です。全身の血流を改善し、免疫力を高め、自然治癒力を引き出す効果があります。現代のお灸のイメージはひと昔前の「熱い、痛い」というものから「温かい、気持ちいい」というものに変わりつつあります。セルフケアの方法のひとつとして一般的になってきています。
さらに、「台座灸」という一般の方向けにつくられたお灸は、台座灸とライターがあればすぐに始められます。お灸を据える場所はいわゆるツボと呼ばれる心身の不調が現れやすいポイントです。肩こり、腰痛などの身体の不調だけでなく、心の不調にも効くツボが多く存在します。下記のようなツボは、精神的な不調にも効果的と言われているので、ぜひお灸やツボ押しを試してみてください。
お灸をしている最中は他のことはせず、温かさに意識を向けることでより効果が高まります。目を閉じてゆっくりと深呼吸をすることで、感覚が研ぎ澄まされます。「温かいな、気持ちいいいな」という感覚を大切に、自分と向き合い自分を労わる時間にしていただければと思います。
セルフケアにはいろいろありますので、お灸に限らず、ヨガ、太極拳、アロマなど、自分に合ったケアを探してみるのも楽しいかもしれません。
森へ行ってみよう!
これまでご説明してきたことを念頭に、ぜひ森へ行ってみてはいかがでしょうか。森といってもすぐ近くに森がある環境ではない、という方におすすめしたいのは、公園です。まずは近所にある小さな公園に足を運んでみることから始めてみてもいいのではないかと思います。公園にも様々ありますが、「騒音が少なく、ベンチがあり、ほどよい緑がある」公園は心地いいと思えるかもしれません。お弁当を作って、あるいはお気に入りのお店でランチをテイクアウトして、公園でピクニックなんて素敵ですね。
もっと自然を感じたい!という方は、「自然公園」「森林セラピーロード」と検索してみるとたくさんの森が出てきます。案外近くにあるかもしれませんよ。
まずは一度足を運んでみて、森の快適さを感じていただきたいなあと思います。今度の休日は思い切って森へいってみてはいかがでしょうか?
(参照文献)
岩崎寛. (2007). 緑地福祉学の構想と実践
今西二郎. (2008). 緑の環境と統合医療.
中井麻衣. (2014). ストレスと精神的健康に対する鍼灸医学.
李卿,川田智之. (2014). 森林医学の臨床応用の可能性
はり灸萌木堂 鍼灸師、メンタルケア心理士
鍼灸と傾聴による心のケアを出張にて行っています。心から身体を、身体から心を楽に…。自身のケアには森林を活用し、森林浴や登山、サイクリングなどをアクティブに楽しんでいます。最近トレイルランをサボっているので再開したい…。