はじめに

経済の低成長が続く「ゼロ成長社会」において、企業の成長を左右する最大の鍵は「人的資本」――つまり、どのように人材を育成し、組織を強化するかにあります。近年は、投資家や株主からも「人的資本開示」が厳しく求められ、人事や経営陣は企業価値に直結する形で組織づくりを説明する必要が出てきました。

一方で、人材市場は生産年齢人口減少の影響を受け始め求人倍率の高止まりが続き、イノベーションの創出や新規事業開発に挑戦する人的余裕を得にくい現実もあります。そんな状況下で注目されているのが、森林体験プログラムを活用するアプローチです。自然を利用しながら人材・組織を強化し、かつ投資対効果を計測して“経営数字”につなげる――この新時代の戦略を、Nature Service の視点から解説します。

1. なぜ今、森のプログラムが必要なのか?

ゼロ成長社会で広がる企業間格差

日本全体の経済成長が低迷していても、伸びる企業と伸び悩む企業の差はむしろ拡大しています。伸びる企業ほど、「人的資本」へ投資し、それを経営成果につなげる仕組みを整えています。

  • 人的資本開示
    世界的に進む情報開示の流れの中で、人材育成・リーダーシップ開発・組織風土などが投資家評価の重要要素となりつつあります。
  • ウェルビーイングの強化
    社員の心身が健康でモチベーションが高いほど、生産性が上がり、離職率も下がる。ウェルビーイングは企業ブランドにもつながり、採用でも優位に立てる。

森林体験プログラムの役割

自然環境を舞台にした研修・体験プログラムは、社員のストレス軽減コミュニケーション活性化創造力向上など、多面的な効果が期待できます。

  • 非日常空間での刺激
    自然には「やわらかな刺激(soft fascination)」があり、脳の注意力を回復させる作用があるとする注意回復理論(Kaplan & Kaplan, 1989や、自然散策の実験研究(Berman et al., 2008)も存在します。こうした要素がオフィスや都市環境にはない“非日常”を演出し、組織の結束に寄与します。
  • 投資対効果(ROI)が測れる
    森林プログラムを継続的に行い、毎年離職率やエンゲージメントスコア、アイデア提案数などのKPIを設定すれば、森林プログラムによる“人的資本”への投資成果を可視化し、経営陣や投資家にアピールできます。

2. 「人的資本開示」に自然を活かすメリット

投資家が見る“数値化された組織力”

人的資本開示が進むと、離職率や多様性指標、リーダーシップスコアなどが株価や投資判断に直結してくる可能性があります。企業としては、自社が人材にしっかり投資し、成果を出していることを定量的に示す必要があります。

  • 森林プログラムの定量評価
    1. プログラム実施前後のストレスチェック結果(高ストレス者比率の推移)
    2. 社員アンケートによるエンゲージメントや満足度
    3. 離職率や採用成功率の推移
      → これらを測定し、公表すれば「人を大事にする企業」であることを明確に伝えられます。

自社独自の文化や価値観を“自由演技”で示す

ISO30414などの国際規格に準拠した指標(共通の枠組み:規定演技)に加え、自社の理念に沿った独自のKPI(企業独自の取り組み:自由演技)を設定することが投資家とのコミュニケーションを強化します。

  • “自然との共生”や“地域連携”を掲げる企業
    森林整備や地元コミュニティとの交流を継続し、社員の学びや成長を測定・報告することで、企業独自の価値をアピールできます。

3. 森林体験プログラムがもたらす組織への効果

チームビルディングとコミュニケーション活性化

自然のなかで「共同作業」や「焚火を囲む会話」を体験すると、心理的安全性が高まり、世代や役職の垣根を越えたチームワークが生まれやすくなります。焚火のゆらめきが人々の想像力や緊張緩和を促すという実証研究(Wiessner, 2014)もあり、非日常下での対話は組織の結束を強化する絶好の機会です。

  • 焦点例
    • チームで行う炊事やテント設営
    • 非日常の環境でストレスを軽減し、お互いを受け入れやすい雰囲気が生まれる

新しい視点・創造力の向上

自然の「ソフトな刺激」による注意回復は、脳の疲労を癒やし、クリエイティブ思考を促進します。会議室で出ないアイデアが、森の中でスッと湧いてくることは多くの調査で報告されています。

  • スタンフォード大学の研究: 屋外を歩くことが創造力テストスコアを大幅に向上させると報告(Oppezzo & Schwartz, 2014)。会議室で出ないアイデアが、森の中でスッと湧く理由の一つといえるでしょう。

企業理念・事業への理解浸透

森林の保全や地域との連携を実際に体験すると、SDGsや環境保全への意識が深まり、自社のサステナビリティ方針との結びつきを実感できます。特に、若い世代ほど「社会貢献度の高い企業」に魅力を感じる傾向があり、企業理念の再認識と人材確保の両面でメリットがあります。

エンゲージメント向上と人材確保

森のプログラムは、心身のリフレッシュとチームビルディングの両方を同時に達成するため、エンゲージメント向上に効果的です。

  • 離職率低下による教育費の削減や、心の健康改善による休職予防など、企業にとって財務的メリットも大きい。

4. 森のプログラムを“数字”で示す:KPI活用のポイント

定量指標(ハードKPI)

  • 離職率・休職率
    森のプログラム実施後、どの程度下がるかをモニターし、費用対効果を算出。
  • アイデア提案数・新規事業開発件数
    チーム合宿などを森で行ったプロジェクトの成果(数値・売上)を追跡。

定性指標(ソフトKPI)

  • エンゲージメント調査
    「仕事への没頭感」「会社への愛着度」「チームの信頼関係」などをアンケートで可視化。
  • ストレスチェック(コルチゾール値など)
    実験的に測定する企業も増えており、プログラム導入前後の比較が可能に。

→ これらを総合的に報告し、人的資本開示の中で“自然投資”の成果を明確にする。株主や経営陣への納得度が高まります。

5. 森林体験プログラムを企業が取り入れるステップ

  1. 目的を明確化
    • 離職率低下、イノベーション、ブランディング、SDGs貢献など、狙いを定義。
  2. プログラム設計
    • スモールスタート(1泊2日合宿など)から段階的に拡大。
    • 地域やNPOと連携し、オリジナル研修を組む方法も。
  3. KPI設定と測定方法の決定
    • 定量・定性の指標を選び、実施前後で差を比較。定期的に追跡しPDCAを回す。
  4. 成果の開示
    • 社内報や株主向けレポートなどで定期報告。人的資本開示の流れに合わせて情報発信。

6. Nature Service  が提供するサポート

Nature Service では、全国の森林体験プログラムをキュレーションするとともに、企業向けのカスタマイズKPI設計支援も視野に入れたソリューションをご提案しています。

  • プログラム選定
    都市部からアクセスしやすい森林セラピー®基地や、長期滞在型のオフサイト施設など、企業の希望や課題に合わせてご案内。
  • 投資対効果の可視化
    離職率やエンゲージメント調査などを、導入前後で比較し、「森への投資」を合理的に評価。
  • 社内合意形成の後押し
    経営陣や人事部が社内プレゼンする際に使えるデータや事例を提供し、導入決定のプロセスをサポートします。

おわりに

「ゼロ成長社会」「人的資本開示」「組織マネジメント」という3つの大きな波が同時に押し寄せるいま、企業は人材への投資を経営数字と結びつけて説明する必要があります。そこにこそ、森林体験プログラムが新たな武器となる可能性があります。

  • 社員のモチベーションやイノベーションを高めるだけでなく、
  • KPIを設定して投資対効果を測り、
  • 投資家やステークホルダーへ「なぜ森が経営に効くのか」を示せる。

Nature Service は、この「森」と「企業」をつなぐ役割を担い、企業の皆さまが次世代を見据えた人的資本戦略を実現するお手伝いをいたします。ぜひ私たちと一緒に、自然の力で組織を強くする新戦略を作り上げてみませんか。

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