Overland EXPOが発表した2025年業界レポートによると、米国のオーバーランディング参加者数は2025年に1,200万人に達する見込みで、2024年の800万人から50%の大幅増加となる予測です。この成長は単なる一時的なブームではなく、オーバーランディングが「一部の愛好家によるニッチなアクティビティ」から「大衆的なアウトドアへの変化」を迎えていることを示しています。
この米国でのトレンドは、各地を車で巡るアウトドアとして、日本の地方創生にも新たな可能性を示唆しています。
急成長する市場の特徴

今回の調査は、1,200人を超えるオーバーランダー(オーバーランディングをする人)と178のブランドを対象に実施されました。その結果、参加者の95%が車両を改造し、4人に1人が2万ドル(約292万円)以上を投資するなど、質の高い消費を伴う持続的な市場拡大が確認されました。
市場の中心を担うのは経験1〜5年の中級レベルの層で、年4回以上のオーバーランディングを実施し、継続的なギア・車両のアップグレードを行っています。一方、新規参加者の72%をZ世代・ミレニアル世代が占め、都市部居住者や予算重視層からの参加も拡大しています。
この変化からは、オーバーランディングが従来の「アウトドア好きが好むアクティビティ」から、「幅広い層によるアクティビティ」へとシフトしていることがうかがえます。
旅の特徴は、1週間未満の短期間でありながら高頻度(40%近くが年6回以上)という、従来の長期休暇型旅行とは異なるパターンが定着しています。
イベント主導の学習・購買文化

米国オーバーランディング市場の独特な特徴として、商品販売と教育・体験・コミュニティ形成が一体化したエコシステムが挙げられます。Overland EXPOのような大型イベントは、単なる商談の場を超えて、市場全体の健全な成長を支える重要なインフラとして機能していることが今回の調査で明らかになりました。
イベントでは安全運転技術、車両メンテナンス、環境配慮に関するプログラムが数百時間提供されており、初心者の安全な参入を支援しています。これにより、参加者の技術向上と環境意識の醸成が同時に実現され、持続可能な市場成長につながっていると考えられます。
また、オンライン購買が主流となった現在でも、56%の参加者がイベントで実際にギアを購入していることがわかりました。実物の確認や専門家との相談、コミュニティメンバーとの情報交換を重視する文化が定着しており、イベントが単なる商品販売の場を超えて、教育センターやコミュニティ形成の拠点として機能しています。
森林大国日本の潜在力
米国で1,200万人規模への成長が見込まれるオーバーランディング市場を参考にすると、日本にも大きな潜在力があります。
国土の約7割を森林が占める、世界でも稀な森林大国である日本は、戦後の林業発展とともに整備された林道・農道が全国に張り巡らされており、これらの既存インフラがオーバーランディングに理想的な環境を提供するポテンシャルを秘めています。

未活用資源の再発見
現在十分に活用されていない林道ネットワークは、適切な管理・開放を行えば、都市部からアクセス可能な本格的な自然体験の舞台となりえます。米国ではコロラド州やユタ州などの広大な砂漠や峡谷を舞台とした開放感があふれるオーバーランディングが人気を集めていますが、日本の場合は四季の変化に富んだ森林地帯を縫う林道ネットワークにより、『日本独自のオーバーランディング』という新たな魅力を創出できる可能性があります。
多様な滞在パターンへの対応
米国のデータで確認された「短期間・高頻度」の傾向は、日本のコンパクトな地理的特性と良い相性を示しています。週末の気軽な体験から連休を活用した本格的な旅まで、参加者のライフスタイルに応じた多様な楽しみ方が可能です。また、参加者の95%が車両改造を行うという点からも、地方の技術産業や関連サービス業にとって新たな市場機会を意味します。
文化的付加価値の創出
また日本各地には、郷土料理、里山文化といった固有の地域資源に加え、森や四季の自然に親しむ文化があり、日本人でさえ忘れつつある貴重な価値が存在しています。これらの資源や文化とオーバーランディングを融合させることで、単なる車両体験を超えた「文化再発見型のオーバーランディング」という独自のスタイルを生み出せる可能性もあります。
たとえば、
- 里山文化やジビエ料理を食す文化体験型ツアー
- 秘湯の温泉と組み合わせた癒やしの林道旅
- 紅葉や新緑など、季節ごとに変化する景観の楽しみ
といった、聞いただけでもワクワクするような体験が、林道ネットワークを活用することで実現可能になります。都市部では決して味わうことのできない、本物の自然と文化に触れるぜいたくな時間を提供できるのです。
オーバーランディングという新しい旅の文化は、日本ではまだ根付いていない分野だからこそ、森林資源と既存インフラを活用した先駆的な取り組みにより、地方創生の新たな柱として育てていくチャンスがあると言えるでしょう。
《参考URL》
Overland Expo Releases 2025 Industry Report
Overlanding Participation Jumps to 12 Million Americans


Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。