長崎県長与町の町議会議員・八木亮三氏がXに投稿した、ある議会討論の内容が目に留まった。

長与町が所有する塩崎キャンプ場に指定管理者制度を導入するにあたり、八木議員は反対討論の中で、指定管理料の算定根拠の矛盾、行政の説明資料の恣意性、非公開での事業者選定の不透明さなどを具体的な数字を挙げて指摘していた。議会の録画からは、賛成派・反対派双方の討論の全体像を確認することができる。

私たちNPO法人Nature Serviceは、東京ドーム約30個分の敷地にわたる森林やキャンプ場を指定管理者として5施設の管理運営をしている。この議論を、指定管理者として公共キャンプ場を実際に経営している立場から聞いたとき、八木議員の指摘は正鵠を射ている部分が多いと感じた。しかし同時に、賛成派にも反対派にも、そして行政にも共通するある根本的な見落としがあることに気づいた。

それは、この議論が長与町だけの問題ではなく、全国の公共キャンプ場が直面している構造的な問題の縮図だということだ。

長与町議会で何が議論されたか

令和8年第1回長与町議会定例会において、塩崎キャンプ場に指定管理者制度を導入するための条例改正案(議案第14号)が審議された。

賛成派の主な主張はこうだ。竹中議員(14番)は、キャンプ場が「営業は赤字で、採算性は低く、行政の力では到底維持するのは困難」であり、「民間業者への委託で、行政の古い体質と慣例を排除し、民間の知恵と行動に期待する」と述べた。松林議員(6番)は、「民間のノウハウや創意工夫を生かした運営」により「町外からの来訪者の増加、地域経済への波及効果、地域の賑わい創出」に繋がると期待を示した。

一方、八木議員(5番)の反対討論は極めて具体的だった。指定管理料の年間477万4,000円の算定について、指定管理者が負担する支出を546万9,000円と見込んでいるが、令和6年度の実績は約405万8,000円、令和7年度予算でも415万円であり、この見積もりは過大であること。支出の計算では利用者の増加を見込みながら、収入の利用料金は現在の実績に近い69万5,000円としており矛盾していること。さらに、説明時のグラフが「施設の実情と合っていない一般的なイメージ」であったことなど、複数の問題点を挙げた。

採決の結果、条例改正案は起立多数で可決された。

指定管理者の現場から見えた「利益ゼロ」という設計

この議論を実務者の目で見たとき、最も強い違和感を覚えたのは、指定管理料の算定構造そのものだった。

行政が提示した計算は単純だ。指定管理者が負担する支出の見込み額(546万9,000円)から、利用料収入の見込み額(69万5,000円)を差し引いた額(477万4,000円)を指定管理料とする。つまり、指定管理者の総収入(指定管理料+利用料収入)と総支出が同額になる。事業者の利益はゼロだ。

「民間の活力を期待する」と言いながら、その民間が活力を発揮するための最も基本的な条件を構造的にゼロにしている。

民間事業者にとって利益とは、単なる「儲け」ではない。サービスの質を維持・向上させるための原資であり、優秀な人材を確保し育てるための基盤であり、施設の改善に投資するための元手であり、天候不順や突発的な修繕といったリスクに備えるためのバッファだ。それをゼロにしておいて「創意工夫を期待する」というのは、ガソリンを入れずに車を走らせろと言っているに等しい。

さらに驚いたのは、議会のどの立場も、この利益構造の問題を正面から指摘していないことだった。賛成派は「民間の知恵と行動に期待する」と抽象的な期待を語り、反対派は「経費を削減して利益を出すしかなく、サービスが低下する」と正しい懸念を述べているが、そもそも利益が設計されていないという構造的問題には到達していない。議論の前提そのものが歪んでいるのだ。

加えて、「住民利益の向上のため」に指定管理にすると言いながら、住民がこの施設をどの程度利用しているかというデータは、議会で一切議論されていなかった。

「利益ゼロ」は指定管理者制度の趣旨に反している

「公共施設なのだから、事業者が利益を取るのはおかしい」。こうした感覚は、行政の現場では珍しくない。しかし、この考え方は制度の趣旨に照らして正当なのだろうか。

結論から言えば、正当ではない。

総務省が平成22年に発出した通知「指定管理者制度の運用について」(総行経第38号)は、指定管理者制度について「公共サービスの水準の確保という要請を果たす最も適切なサービスの提供者を、議会の議決を経て指定するものであり、単なる価格競争による入札とは異なるものである」と明記している(出典:総務省「指定管理者制度の運用について」 )。さらに同通知は、「指定管理者が労働法令を遵守することは当然であり、指定管理者の選定にあたっても、指定管理者において労働法令の遵守や雇用・労働条件への適切な配慮がなされるよう、留意すること」と自治体に求めている。

利益ゼロの設計のもとで、予期せぬコスト増が発生したとき、事業者がどこから帳尻を合わせるか。答えは人件費の削減だ。スタッフの非正規化、賃金の抑制、必要最低限の人員配置。総務省が懸念する労働環境の悪化は、利益ゼロ設計の構造的な帰結として必然的に起きる。

一般社団法人指定管理者協会は、令和元年度の提言で「適正な利益を確保していくことは、事業を安定して、継続的に、かつ市民サービスを向上させながら運営していくために必要不可欠」と明確に述べている(出典:指定管理者協会「令和元年度提言」 )。同協会の全国調査では、指定管理料の積算において「利益」を明示的に記載している自治体は、47都道府県・20指定都市・中核市等のうち25自治体に過ぎなかったことも報告されている。

では、先進的な自治体はどう対応しているのか。東京都荒川区の「指定管理者制度運用方針」は、指定管理料を「当該施設の管理運営に必要と見込まれる経費の総額に利益を加えた額から利用料金収入及びその他の収入を差し引いたもの」と定義し、予算段階から利益を認めている。熊本市の「指定管理者制度運用マニュアル」は、一般管理費率(人件費に対して3.5%〜5%)を明示し、さらに「利用料金制度は、単なる不足払い方式ではない」と「利益ゼロ設計」を明確に否定している(出典:指定管理者協会「令和元年度提言」内の自治体ガイドライン調査 )。

参考までに、国土交通省が定める「公共建築工事積算基準」では、工事費の積算に「付加利益」が明確に計上されている(出典:国土交通省「公共建築工事共通費積算基準」 )。同じ公共事業なのに、建築工事では利益の計上が当然で、施設の管理運営では利益ゼロが「当然」とされる。この矛盾に、どれだけの自治体が気づいているだろうか。

なお、長与町議会では行政側が「利益は自主事業で上げてもらう」と説明したが、指定管理者協会は同じ提言の中で「自主事業はほぼ赤字の事業が並んでいるのが実態」と指摘している。駐車場25台程度の小規模キャンプ場で、自主事業から経常的な利益を上げ続けることの非現実性は、実務者であれば誰もが感じるところだろう。

全国で悲鳴が上がっている現実

長与町の事例は、全国で起きている問題の一つに過ぎない。

指定管理者協会の令和5年度提言は、「応募ゼロ」の背景として「指定管理料の積算が不十分で応募者側への魅力不足」を筆頭に挙げ、「官製ワーキングプア」「施設職員の給与削減・非常勤化の拡大」「公の施設の廃止や専門性を発揮できない施設運営」に繋がると警告している(出典:指定管理者協会「令和5年度提言」 )。

令和7年度の提言ではさらに踏み込み、「自治体の監査では指定管理料の利益と一般管理費を『余剰金』とみなし返還の方法を自治体に求める監査結果を示した」事例を問題として取り上げている(出典:指定管理者協会「令和7年度提言」 )。事業者が経営努力で生み出した利益を「余剰金」と呼んで返還させる。これでは民間の経営努力が報われるはずがない。

具体的な撤退事例も報告されている。栃木県宇都宮市の森林公園(キャンプ場等を含む施設)では、指定管理者が「建設費高騰・人件費高騰により当初約束した内容を早期に実現していくのは難しい」として基本協定の解約を申し出た(出典:下野新聞 )。まさにキャンプ場・アウトドア施設の指定管理において、コスト高騰に対応できない設計が招いた撤退事例だ。

令和5年度の報道では、26自治体57施設で1度目の公募が不成立となった事実も確認されている。民間事業者が「採算が合わない」と判断した結果だ。

なぜ行政と議会は構造的問題に気づけないのか

ここで問いたいのは、なぜこの構造的な問題が見過ごされ続けているのか、ということだ。

一つの要因は、行政職員も多くの地方議員も、数千万円規模の事業を自ら経営者として経営した経験を持たないまま、事業の制度設計を行っているという構造にある。利益とは何か、コスト構造はどう設計すべきか、リスクバッファはなぜ必要か。これらはビジネスの基本であるが、その基本を実体験として持たない人たちが、民間事業者の事業計画を設計し、審査し、可否を判断している。

長与町議会の議論を聞いていると、賛成派は「民間の活力に期待」という抽象論にとどまり、反対派は「サービス低下が心配」という懸念の表明に終始している。どちらも正しい面を含んでいるが、「ではこの事業をどう設計すれば持続可能になるのか」という具体的な事業設計の議論には至っていない。

もう一つの要因は、現在の公共キャンプ場が抱える歴史的な荷物だ。

1980年代後半から1990年代初頭にかけて、日本ではリゾート・レジャー施設の建設ラッシュが起きた。1987年施行の「総合保養地域整備法(リゾート法)」により、保養・レクリエーション施設の整備に対して税制優遇や金融支援が行われ、地方でのリゾート開発が一気に加速した(出典:一般財団法人自然公園財団 )。

日本総研のレポートは、この時期の第三セクター(自治体と民間の共同出資会社)が「民間活力導入による地域振興」のために全国で設立され、バブル景気による開発ブームに乗って1992年まで設立数が増え続けたと述べている(出典:日本総合研究所 )。また、環境省の資料は、この時期に国立公園周辺でも大規模な宿泊・レクリエーション施設が整備され、その一部が「バブル期の過剰投資による大規模施設」として現在も課題になっていると明記している(出典:環境省「国立公園の宿舎事業のあり方について(案)」 )。

つまり、多くの公共キャンプ場や公園施設は、バブル期に近隣自治体と競うように「立派な施設」を作った時代の遺産だ。建設から30年以上が経ち、建物も設備も老朽化している。しかし条例も仕様書もその時代のまま、莫大な「やることリスト」(植栽の剪定方法、職員体制の指定、予約方法の指定等)を指定管理者に課し続けている。

私たちが現場で感じている指定管理者制度のコストドライバは、まさにここにある。募集要項、仕様書、条例、協定書で定められた膨大な業務仕様と、利用料の価格柔軟性の欠如だ。ダイナミックプライシングは認められず、利用料金は条例で固定される。コストを下げることも、売上を上げることもできない。この構造の中で「民間の創意工夫」を発揮しろと言われても、発揮する余地が制度的に封じられているのだ。

「利益ゼロ」で「非公開選定」が意味するもの

長与町の事例でもう一つ注目すべきは、指定管理者の選定方法だ。

八木議員の反対討論によれば、今回の指定管理者選定は「事業者のノウハウなどを取得する必要がある」という理由で非公開で行われるという。八木議員は、新図書館等複合施設の設計事業者選定では公募型プロポーザルの2次審査を公開で行ったことと矛盾すると指摘した。

利益が出ない条件で、かつ非公開で事業者を選定する。この組み合わせについて、冷静に考えてみてほしい。適正な利益が見込めない事業に、優良な民間事業者が手を挙げる経済的合理性はない。適正な利益が見込めない条件で、かつ非公開で選定を行うと、既存の関係性に依存した恣意的な選定が行われているのではないかという疑念を招きかねない。こうした疑念を避けるためにも、評価基準や選定過程の透明性を確保する仕組みが重要だ。既存の関係性、他事業とのセット、行政との特別な関係。理由は様々考えられるが、いずれにしても健全な市場競争とは言い難い。

今後、どの事業者が指定管理者として選定されるのか。そしてその事業者がこの条件の下でどのように運営を成立させるのか。注目したい事案だ。

私たちNature Serviceにも、類似の経験がある。ある県立キャンプ場の指定管理者更新に際し、当時の管理者が自己破産に追い込まれるほどの経営難に陥っていた。私たちはその公募に応募し、条例や仕様書に定められた要件を満たした上で、仕様書等では規定されていない領域に着目し、柔軟な視点から事業再生の提案を行った。結果的に私たちのみの応募となったが、県は前例のない提案内容を受け入れず、県内の別の施設を管理している既存取引先に声をかけ、改めて提案合戦が行われた。最終的に、既定路線の事業者が受注した。

前任者が自己破産するほどの事業構造を、根本的に見直すことなく別の施設を管理している既存事業者に引き継がせる。これで問題が解決するだろうか。行政が「変化」を回避する構造的な傾向は、個別の自治体の問題ではなく、全国の公共施設管理に共通する課題だと私たちは考えている。

事業再生型指定管理「Uplift」という選択肢

ここまで問題の構造を見てきた。では、どうすればよいのか。

私たちNature Serviceは、こうした構造的問題への解答として、「事業再生型指定管理 Uplift」を提唱し実践している(出典:Nature Service「事業再生型指定管理 Uplift」 )。

Upliftの基本思想は、「現状維持」から「事業再生」への視点転換だ。

多くの公共施設の指定管理が陥っている罠は、「今の施設を、今の条例で、今の仕様書の通りに、できるだけ安く管理してくれる事業者を探す」という発想にある。しかし、バブル期に作られた過剰な施設を、30年前の条例と仕様書のまま管理し続ける限り、コストは膨張し続け、どの事業者が引き受けても構造的に成立しない。

Upliftが行うのは、この事業構造そのものの再設計だ。具体的には、不要な建屋や設備の廃止(バブル期の過剰投資の遺産を整理し、本当に必要な機能に集中する)。AI・IoT・ロボティクスの導入による業務効率化(受付の無人化、予約のDX化、草刈りロボットの活用等)。条例改正の提案(利用料金の柔軟化、施設用途の見直し)。仕様書の「やることリスト」の根本的な見直し。

重要なのは、Upliftが「楽観的な成長シナリオ」に頼らないことだ。人口減少や経済の成熟段階を受け入れ、「とにかく利用者を増やせば解決する」という幻想を描かない。現実的で着実なシナリオに基づき、コスト構造を根本から変えることで、適正な利益を確保しながらも行政の財政負担を下げていくことを目指す。

これは「行政のコスト削減」と「事業者の適正利益」と「住民サービスの向上」を同時に実現する、三方良しの経営思想だ。指定管理者協会が令和6年度提言で求めた「効率化、民間事業者には利益の創出、住民にはサービス向上の『三方良し』の推進」(出典:指定管理者協会「令和6年度提言」 )という方向性と、完全に軌を一にしている。

公共キャンプ場が「自然への入口」であり続けるために

公共キャンプ場は、多くの人にとって「自然に入る最初のきっかけ」を提供する場所だ。子どもが初めて焚き火を見る場所。家族がテントで一夜を過ごす場所。都市で暮らす人が、土や木や風の匂いを思い出す場所。

その場所が、制度設計の構造的な問題によって、静かに衰退していくことは社会的な損失だと私たちは考えている。

必要なのは、「直営か指定管理か」という二択の議論ではない。事業モデルそのものを、時代に合わせて再設計することだ。バブル期に作られた施設を、バブル期の条例で管理し続ける時代は終わった。

長与町議会の議論は、一つの地方議会の一つの議案に過ぎない。しかしそこには、全国の公共キャンプ場が抱える構造的な問題が凝縮されている。八木議員が具体的な数字を挙げて指摘した矛盾は、多くの自治体で同じように存在しているはずだ。

読者の皆さんの地域にも、公共のキャンプ場や公園があるだろう。その施設の指定管理者制度がどのように設計されているか、事業者に適正な利益が確保されているか、条例や仕様書は時代に合ったものになっているか。関心を持っていただければ幸いだ。

自然体験の場を次の世代に引き継いでいくために、私たちは「Uplift」を通じて、公共施設が地域の人々を前向きに変えていく場であり続けることを目指していく。