ある夜、仕事を終えてマンションの自室に帰ったとき、ふと、何だかとても殺風景な部屋だな、と疲れた身体と頭で立ち尽くしました。私の部屋は全体が灰色に見え、何かが足りない感じがしました。
その夜、ベッドの中で何が足りないのかを考えていると、生き物がいないから殺風景なのではないだろうか、と気付きました。それまで考えたこともなかったですが、私は何か生き物が身近にいることを欲していたのです。
次の日、ホームセンターに行き、観葉植物コーナーに向かいました。不精の私でも、小さな植物なら育てられるのではないかと考えたからです。
私は数百円の小さなガジュマルを買い、世話の仕方を店員さんに教えてもらいました。アドバイスどおり100円ショップで霧吹きも買いました。
それから、私と小さなガジュマルとの生活が始まりました。
さらに次の日、朝目覚めると窓際に置いたガジュマルを見ました。店員さんに教えてもらった通りに、土が乾いていないかどうかを確認し、霧吹きを軽くしました。ガジュマルの状態が良いのかどうか、素人の私にはわかりません。大丈夫だろうか、と気にしながら、また仕事に向かいました。
また次の日、ガジュマルを見ると明らかに元気になっているのがわかりました。きのう天気が良く、太陽の光をたっぷり浴びたからだろうか、などと考えながら、やはり土の乾き具合を確認し、霧吹きをして仕事に向かいました。
いつもと変わらない、同じような朝でした。それまでと違うことは、ガジュマルの世話をし、ガジュマルが元気になっていることを発見したということだけです。それだけのことなのに、その日は、心が少しスッキリしているような感じがしました。私は不思議な気分で、仕事に向かいました。
その“心が少しスッキリした感じ”を味わってから、私はガジュマルの世話をするのと同じように、自身の心も観察するようになりました。心というものも世話をすることが必要なのだと、愚かな私はようやく気付いたのです。
それから数年経ちますが、変化は、ガジュマルが少しずつ葉を伸ばしていくように、ゆっくりと私の心に起こり、いろいろなことを見つめなおすきっかけにもなっていったのです。
もしかしたら、仕事に追われ、趣味を持つこともできずに過ごしていた以前の私の心は、マンションの自室のように、灰色になっていたのかもしれません。頭の中は仕事のこと、やらなければならない事、人間関係、人の発言などによって埋め尽くされていました。ホームセンターで買った小さなガジュマルの世話を朝の数分するだけで、私はそのことに気付き、徐々に心に花鳥風月や自然の彩りを感じられる余裕を取り戻すことができたのです。
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もし、帰宅して部屋が灰色に見える瞬間を感じることがあったら、私のように小さな植物を育ててみませんか?
小さな植物なら、世話に手間がかからず、マンションのワンルームでも窓から光が入れば育っていきます。
朝、コーヒーを飲みながら育てている植物を眺めたり、時には植え替えで土をいじったり。そういう瞬間、自分の心を観察してみると、少しだけ、気分が良くなっていることを感じられるはずです。
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ギタリスト、ギター講師をしています。「日本人としてのギター演奏の探求」として、日本の民話や民謡、植物や生物に至るまで、日本というものについて考えながら自身のスタイルを構築していくことがライフワークです。探求の過程で身近にある自然を見つめなおし、その興味は尽きません。