新型コロナウィルスの世界的な感染拡大により、新しい生活様式を取り入れざるを得ない状況が続いておりますが、皆さまはどのようにお過ごしでしょうか。

今回を含めて2回にわたり、5月某日にオンラインを介して行われた、小泉環境大臣とNature Service 共同代表理事である赤堀哲也の対談内容をお届けします。

Nature Service は、平成30年6月より環境省国立公園オフィシャルパートナーシップを締結しており、国立公園の魅力や利用者の拡大を図るためにさまざまな活動を行って参りました。

特にここ数年は、好きな場所で好きな時に働きながら自分時間も楽しもう!という新しい働き方を推進し、ワーケーションという考え方を普及させるべく活動して参りました。そして今、新型コロナウィルスの影響により働き方の変革期を迎えるなかで、Nature Service 独自の視点から、ワーケーションを推進する上での課題や活用方法などを提言致しました。

Nature Service のこれまでの活動について

新型コロナウィルスの影響で、改めてリモートワークやワーケーションに興味をお持ちになり当サイトにたどり着いた方もいらっしゃると思います。まずは、Nature Service のこれまでの活動や方向性を少しだけ振り返ってみましょう。

Nature Service は「自然に入ることを、もっと自然に」をモットーに活動を続けてきました。特に今から2年ほど前の2018年頃から、「リモートワーク、働き方改革、ワーケーション」といった言葉を通して、自然を近くに感じながら、より自由度の高い新しい働き方を取り入れていくことを提言して参りました。

そして同時に、2011年頃より温めてきた、360°森に囲まれたオフィス「信濃町 Nomad Work Center」(ノマドワークセンター、長野県信濃町)プロジェクトをスタートさせ、2019年より運用を開始しました。

単にリモートワークを行う施設を提供するのではなく、豊かな自然のなかで働くことにより生産性や創造性の向上を体感していただき、同時に自然体験アクティビティを通してメンタルもフィジカルも健やかになっていただくことを目的としています。

Nomad Work Center の利用者第1号となっていただいた企業の皆さまには大変好評で、まさにこういう施設を待っていた!というお言葉をいただきました。

今回のコロナ禍で、自分とは無縁、遠い将来の話し、と思っていたリモートワークが急きょ現実となり、メリット、デメリット双方を感じた方もいらっしゃると思います。新しい働き方を模索する上で、Nature Service の活動が何らかの助けになると幸いです。

では、早速本題に入りましょう!

ワーケーションの障壁となっている3つのポイント

仕事(Work)もするけど休暇(Vacation)も楽しむ。それがまさにワーケーション(Workation)。しかし、これを日本で推進しようとすると、いくつかの問題に直面します。小泉環境大臣との対談を通して、以下の3つのキーワードを中心にNature Service の考えをお伝えしました。

1. エビデンス
2. マーケティング
3. プラットフォーム

今後、環境省が国立公園や温泉地などをワーケーションの地として推進する上でも、Nomad Work Center のような施設を活用する上でも、これら3つのキーワードは非常に重要と考えています。それでは、具体的な提案について詳細を見ていきましょう。

十分なエビデンスの必要性

1つ目はエビデンスの問題です。たとえば、Nomad Work Center を見に来てくださる企業関係者の方々は、施設を目の当たりにすると目を輝かせて帰って行きます。何しろ360度を森に囲まれ、それを眺めながら仕事ができる場所ですから。ところが、実際に従業員をワーケーションに送り出したいと考えても、実現に至るまでにいくつかの問題に直面するようです。

まず、企業内でワーケーションを実施した前例がないこと。そして、豊かな自然が生産性・創造性の向上をもたらすことを証明するだけの十分なエビデンスが存在しない、ゆえに予算が付かず、ワーケーションを活用するに至らない、というものです。

ぜひ一度体感して欲しいと願っても、最初の一歩を踏み出すためのエビデンスが日本では不足しています。自然好きな人だけが行く場所なのでは?と懐疑的な見方があることも承知していますが、海外には自然がもたらす生産性の向上やメンタルヘルスなどの分野において、数多くの研究が存在しています。そして、それらの研究成果をもとに国が自然との触れ合いを後押ししているのです。

日本ではエビデンスを作る研究そのものが圧倒的に不足しており、今後、日本国内の国立公園・温泉地などの利用やワーケーションを推進する上では、大規模な研究、実験をする必要性がますます高まってくるのではないかと考えています。

また、しっかりとしたエビデンスがあれば、ワーケーションに限らず、健康寿命をのばすといった取り組みにもつなげられる可能性があります。たとえば、ドイツのクナイプ療法。ドイツでも昔から医療費が高騰し、それをおさえるための施策として、未病の段階でクナイプ療法を取り入れています。

クナイプ療法とは、自然豊かな療養地で、温泉浴やセラピーなどを通してさまざまな自然と調和し、心身の不調を改善させるものです。驚くべきは、クナイプ療法は、一定の条件はありますが、医療保険の適用を受けられる点です。

ドイツでは、日本のように発病してから病院に行くのではなく、定期的に検診に行く習慣が定着しており、その際医師の診察でクナイプ療法(=自然体験)が処方されます。結果として、未病の段階でケアがなされ、健康寿命をのばすことが期待できるのです。

このようなドイツの取り組みのように、自然環境を取り入れて健康を維持しようとする施策にも、ワーケーションの推進同様、エビデンスが必須だと考えています。明確な根拠を指し示すことで、より多くの人たちの関心を呼び起こすことができるのではないでしょうか。

国を挙げてのマーケティング活動を

次に、マーケティングの必要性について考えてみましょう。自然豊かな地でのワーケーションは、”自然好きな人”だけが率先して行くものではなく、そうでない人も含めてその意義を知り活用して欲しいのです。そのためには、自然ってこんなにいいんだよ!という情報発信が必要だと考えています。

ここで少し、海外の取り組みを紹介したいと思います。「Project Wild Thing」というイギリスで製作された映画があります。この映画は、父親であるデイビッドがスマートフォンやタブレットに夢中になる子どもを心配し、自らを”自然をマーケティングするディレクター”に任命し、専門家らの力を借りながらマーケティング活動に奮闘する様子を描いたものです。

子どもに自然の楽しさを何とか知ってもらおうとする大人と、その真逆の生活を送ってきた子どもの対比が何ともおもしろいと感じる反面、一生懸命なデイビッドの姿に心打たれるものがあります。

この映画を製作したのは、イギリスの「The Wild Network」というNPOです。保護者、コミュニティワーカー、活動家、政策立案者、医師、教育者、企業などさまざまな立場の人たちを巻き込みながら、子どもが自然と触れ合う機会を増やすことを主要な活動内容としています。

「The Wild Network」のホームページによりますと、自然の中で過ごす時間が、フィジカル、メンタルの双方にプラス効果をもたらすという根拠が増えているそうです。そして、親の90%以上がその価値を理解し、自然体験を希望しているにもかかわらず、実際には自然との触れ合いは増加していません。

その理由として、次の4つの項目が障壁となっていることをあげています。1つ目は「不安」(見知らぬ人と交流する危険性など)。2つ目が「時間」(時間的余裕のない両親など)。そして、3つ目が「スペース」(緑地の減少など)。最後は、「テクノロジーの存在」(スマホなどの画面を見る時間の増加)です。

こうした障壁を少しでも多く取り除くために、「The Wild Network」では独自の解決策やアイディア、コンテンツを提供しています。たとえば、現在のコロナ禍においては、”ステイホーム”に加えて、”ステイワイルド”を推奨し、自宅にいながら自然について学習したり、体験したりする具体的な方法を提案しています。

しかし、「The Wild Network」もNature Service 同様にNPOであるため、その活動が国全体に影響を与える段階にまでは至っていません。ですが、国民一人ひとり、小さなコミュニティー1つに対してであっても、地道に情報を発信していくことで、次第に国民を巻き込んだ大きな運動となっていく可能性があります。

さて、日本に話を戻します。我が国においては、以前環境省が行った「チーム・マイナス6%」という国民運動がありましたが、この時と同じように「自然と触れ合うこと」を推進する情報を国主導で発信することが重要ではないでしょうか。

日本は国土の約70%が森で国境の100%が海です。こんなにも自然環境が豊かな先進国はありません。しかし、企業が都市部に集中しているがゆえ、都心で働くのが当たり前で、自然と触れ合うことのないライフスタイルが多くの人の中で定着しています。

今後、エビデンスを十分に積み上げ、自然が人にもたらす良さを積極的に発信することで、その必要性(良さ)を認知した人たちが自ずと自然環境へ足を運ぶ、もしくは生活拠点を地方に移す、といった行動に出る可能性があります。

特に、現状のコロナ禍においては、都心集中の働き方やオフィスに毎日出勤する必然性を再考する潮流が見られます。これを機に自然の多い郊外へ移住し、リモートワーク中心の生活を本気で考える人も増えてくると思っており、実際にやってみたら「このライフスタイルの方が断然いいね!」といった流れになってくれることを願っています。

小泉環境大臣との対談~ワーケーションの活用に関するNature Service の提言~(その2)へ続く

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