緑あふれる都市は住みやすくて幸せに暮らせそうだと感じるのではないでしょうか。そのことを世界60カ国の衛星画像データを使って明らかにした研究があります。今回は「Urban Green Space Affects Citizens’ Happiness」の記事を参考に、都市の緑地と幸福度との関係をご紹介します。

研究概要

緑が人々の健康や幸せに影響することは多くの研究で明らかにされていますが、その関係性をグローバルに調査したものはありませんでした。各地を訪れたり航空写真を使って調査したりすることには限界があったからです。しかし、韓国の研究チームが、衛星画像データを活用して調査を行うことを考えました。

欧州宇宙機関が開発・運用する「Sentinel-2」という衛星は、地球観測ミッションのもとに森林や土地の変化を観測し、高解像度の画像を撮影しています。韓国の研究チームは、この衛星画像に着目しました。60カ国90都市を調査対象として選定し、より鮮明な画像を得るために夏(北半球は6~9月、南半球は12~2月)の衛星画像を入手しました。

衛星画像データから都市緑地の面積を数値化。これと2018年に国連が報告した「世界幸福度報告書」の幸福度の結果やGDP(国内総生産)のデータを統計的に処理し、緑地、経済、市民の幸福度との関係を分析しました。

研究結果

分析の結果、すべての都市において市民の幸福度は国の経済状態にかかわらず、都市緑地の面積と正の相関関係があることが明らかになりました。

調査対象の60カ国のうち経済的に裕福な上位30カ国では、幸福度は緑地の量に大きく影響されることがわかりました。下位30カ国でも都市緑地と幸福度の間に正の相関はあったものの、幸福度を決定する重要な要素は経済面であることもわかりました。

また、韓国のソウル市については過去の研究結果との比較も行われ、都市の緑地が増えるとともに市民の幸福度も増すという結果が得られました。

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考察

研究チームは、この研究結果をもとに三つの点を指摘しています。まず一つ目は、市民が公共の緑地を利用しやすいようにすべきであるという点です。都市の公園などが安全で利用しやすいものでなければ、都市緑地が幸福度を高めるという役割を果たせないからです。

二つ目は、今回の研究成果は都市計画に活用できるという点です。市民の幸福度を高めるためにはどのぐらいの緑地が都市にあればいいのかを、各国の経済的状況を考慮しつつ推定することができるのです。地域を開発した後で緑地を確保することはほとんど不可能なので、開発前に適切な緑地を確保しておく必要があります。特に、急速に都市化が進んでいる開発途上国では公園などの緑地を勘案した都市計画が重要です。

三つ目は、昨今の気候変動と都市緑地の維持との関係についてです。山火事、洪水、干ばつ、寒波などにより都市緑地が危険にさらされる可能性が出てきています。一方で、地球温暖化は都市のヒートアイランド現象を引き起こし、都市の樹木の成長を加速させる可能性もあります。今後の気候変動が都市緑地の維持にどのような影響を及ぼすかを注意深く観察していく必要があります。

(参考)
Urban Green Space Affects Citizens’ Happiness

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