北米でキャンプ場を中心にアウトドア事業を展開しているKampgrounds of America, Inc.(以下、KOA社)の最新のレポート、「NORTH AMERICAN CAMPING & OUTDOOR HOSPITALITY REPORT」が2023年春に公開されています。北米のアウトドア市場を読み解くには、大変興味深い内容です。
レポートでは、アメリカの総世帯数1億2845万世帯のうち、キャンパーだと自認している世帯数は9200万にものぼると書かれています。一方の日本は『オートキャンプ白書2022』によると『2021 年に 1 年間に 1 回以上キャンプをした人の数「オートキャンプ参加人口」 は 750 万人』とされています。「世帯数」と「人口」を単純に比較することは困難であるものの、アメリカの人口が日本の約3倍ということを差し引いても、日本のキャンプ人口はまだまだ成長の余地がありそうです。
日本市場がアメリカと必ずしも同じ傾向になるわけではありませんが、日米の違いを考慮に入れながらお読みいただくと、アウトドアに対する人々の考え方や行動様式において多くのインサイトを得られるかも知れません。
数十ページに上るレポートの中から、北米のキャンプ需要、キャンプとウェルビーイング、そしてキャンパーが今求めていることを中心に紹介します。
根強いキャンプ需要
2021年のレジャー旅行全体に占めるキャンプ(割合は低いもののグランピング含む)の割合は40%と高水準であったのに対し、2022年においては32%と減少しました。この結果は、少なくとも部分的にキャンプ以外のレジャーに人々が戻りつつあることを示唆しています。しかし、積極的にキャンプに出かける人たちのキャンプ旅行は、レジャー旅行のほぼ60%を占め、この割合は毎年一定しています。
新規キャンプ参加世帯という視点からもみていきます。新規キャンプ参加世帯の数は2020年以前に減少の傾向にありましたが、2020年のコロナ禍を機に、1,000万の新規世帯がキャンプを行いました。2021年以降は、新規参加世帯数は減少しているものの、2019年以前と比較すると依然として高い水準にあります。
また、キャンプ参加者数の変動の観点からみると、「自らをキャンパー」と認めている世帯が2021年には約9380万世帯だったのに対し、2022年には約9200万世帯と、わずかに減少しました。この減少は、過去数年でキャンプを始めた人々が、現在はホテル滞在や国際旅行など、以前の旅行習慣に戻っている可能性が高いと考えられています。それでも2022年には、約150万世帯が新たにキャンプに参加し、過去3年間と比較して全体的には安定しています。
2023年にはアウトドア界全体で新たな変化が起こる可能性があります。コロナ禍を機にキャンプを始めた人々は、従来の旅行スタイルに回帰する人もいれば、新しい体験を求めてキャンプを楽しむ人もいます。
キャンプスキルの不足、もしくは、アウトドアに魅力を感じていない人々は、キャンプを継続する可能性が低い一方で、自然やアウトドアに深いつながりを感じるキャンパーは、長期的にキャンプを続ける確率が高くなります。初キャンプがすばらしい体験であったことや、キャンプ中に仕事ができる環境があることも、今後もキャンプを続ける強い要因となります。
事実、キャンプ中に仕事をする人の割合は増加傾向にあり、とりわけカナダのキャンパーは約半数がキャンプ中に仕事をしていることがわかりました。その分、頻繁にキャンプへ行くための条件としてWi-Fi設備の必要性は高くなっています。
キャンプとウェルビーイング
レポートでは、ウェルビーイングの観点から、キャンプがもたらす心と体の健康についても言及しています。
キャンプは、アウトドアで過ごすことによる身体的・精神的な恩恵を受ける絶好の機会を創出します。特に、友人や家族と一緒にキャンプ体験をすると、さらなる効果が期待できるのです。
家族とキャンプに出かける人々は、キャンプがリラックスをもたらし、日常から逃れる手段であるとともに、ストレスを発散する機会でもあると認識しています。また、キャンプの最も好きな点は「アウトドアで自然を感じること」だとも語っています。
この結果は、特に最も若い世代(Z世代)のキャンパーに顕著であることがわかっています。この世代の若者たちは、家族とアウトドア環境で過ごす時間が重要であるだけでなく有益であると感じています。
さらに、配偶者やパートナー、そして子どもと一緒にキャンプに行く人々は、キャンプがお互いの関係性を深める手段であると同時に心の健康を保つことにもつながると強く感じています。
キャンプは単なるレジャー以上の価値があり、家族や親しい人々と過ごす質の高い時間を提供する重要な手段であることがレポートから明らかになりました。
キャンパーが今求めていること
過去数年間で、人々がキャンプ、ハイキング、サイクリング、釣りなどのアウトドアに積極的に参加する傾向が高まっています。特に2023年には、新たな体験への欲求がキャンプ参加を後押ししています。
たとえば日食、流星群、動物の移動など、自然界に見られる現象を追い求めるキャンプが注目されています。このような体験を求めるキャンパーは全体の40%に上り、その他にもフードツーリズム(36%)や小さな町への訪問(31%)にも関心が集まっています。
今やキャンプ参加者は、単なるアウトドア以上のもの、つまり新しい体験や独自のイベントを求めて行動していることがわかります。これはアウトドアのなかでも、特にキャンプが多様な興味やニーズに応える形で進化している証拠と言えるでしょう。
以上、「NORTH AMERICAN CAMPING & OUTDOOR HOSPITALITY REPORT」の中から一部を紹介しました。実際のレポートでは、より詳細な内容が様々な視点からまとめられています。レポート全文にご興味を持たれた方は、特集記事:北米キャンプ&アウトドアレポート2023全文翻訳からご覧になれます。レポートサマリーをご希望の方は、どうぞこちらをご確認ください。
株式会社Okibi代表、立ち上げ中のアウトドア事業者向けBtoB メディア アウトサイドワークス編集長。日本の自然を楽しみつくしたいと思って活動してます。運はかなり良いです。