世界自然遺産に登録されている白神山地の麓にある西目屋村(にしめやむら)。そこで、大豆のおいしさがぎゅっと詰まった伝統的な「目屋豆腐づくり」を体験して、豆腐尽くしの昼食も楽しめるプログラムがあるというので参加してきました。
目屋豆腐づくりに挑戦
目屋豆腐づくりを教えてくださったのは、こちらの3人。一番左の方は「マタギ文化とジビエ料理を体感!【冬限定】白神山地・里山体験ツアー」でマタギ文化を教えてくださった工藤さん。そして、隣のお二人は移住してマタギになった小池さんご夫婦。
マタギの伝統文化と白神山地の自然を守ることを目的として設立された「白神マタギ舎」で、目屋豆腐づくりに挑戦です。
まずは、2日間水に浸してやわらかくした大豆をミキサーへ。使う大豆は無農薬で育てたものだそうです。
ペースト状にした大豆を、大きな鍋で沸かしていたお湯の中へ。大きい鍋だなあと驚きましたが、昔は学校の給食の調理で使うようなもっと大きな鍋を使っていたとのこと。しかも、作業は屋外。人手も必要だし、時間はかかるしで、冬の豆腐づくりは大変な作業だったそうです。
ここからしばらくの間、焦げ付かないように混ぜながら煮ます。ちなみに、この木べらは工藤さんの手作り。目屋豆腐づくりで必要な木製品はすべて工藤さんの手作りなんだそうです。すごい!
薪(まき)として使っているのはりんごの木。小池さんの知り合いのりんご園から剪定(せんてい)した要らない枝をもらって使っているそうです。
大豆が煮えるのを待ちながら、いろいろなお話を伺いました。中でも印象的だったのは、豆腐づくりは春の種まきから始まるという話。6月頃に大豆の種をまいて、9月頃に収穫。その後、乾燥させて、殻を外して、ごみを取り除いて選別して。そうしてようやく目屋豆腐づくりに必要な大豆が準備できます。だから豆腐づくりはすでに春から始まっているというわけです。スーパーで買って食べるだけだと食べ物をつくる手間を忘れがちですが、こういうお話を聞くとなんでも感謝して食べなくてはいけないなあと思いました。
昔は目屋豆腐はお正月のご馳走だったことや、お歳暮として近所の人にあげていたという話、工藤さんのお母さんが目屋豆腐づくりが上手だったので村の人たちが頼みに来ていたという話など、西目屋村の昔の様子も聞いて、ちょっとだけ西目屋村の仲間入りをしたような温かい気持ちになりました。
豆乳とおからと寄せ豆腐と
そうこうしているうちに、泡がぶくぶくしてきました。煮えた豆の匂いも漂ってきます。
そろそろかなと思いましたが、「まだまだ」と小池さん。沸騰したと思ってやめてしまうと絶対豆腐にならないんだそうです。
ちょうどいいタイミングを見極めるために3人で何度も確認。職人ですね。
私たちもかき混ぜるお手伝い。それほど重くはないのですが、力加減は難しかったです。
さあ、そして遂にその時が来たようです。専用の容器に移して大豆の煮汁を濾(こ)していきます。下から出ているのが豆乳。豆乳ってこうやってできるんですね。なんか感動。
できたてほやほやの豆乳を試飲。飲む前から豆の良い香りがするし、飲むと豆の味と甘みがしっかりと味わえて最高でした。
すべて濾し終えたら、重しを置いて力をかけてさらに絞ります。もちろんここで使っている道具も工藤さんの手作り。何度も力をかけてしっかり水分を絞り出します。
絞った後に残るのが、おから。これも、もちろん大切な食材です。
濾したときに使った布に残った大豆の煮汁も、無駄なく絞ります。
絞り切った豆乳に、海水から作ったにがりを投入。豆乳の温度が低いと固まりにくくなるので、もたもたしてはいけません。
にがりを入れてやさしく混ぜると、すぐに豆乳が固まってきました。
少し置いておくと、豆腐と水分の二層に。ここで出てきた浮遊物は最後まで丁寧に取り除きます。
浮遊物と水分を取り除くと、豆腐が出てきました。これを汲み上げたのが、おぼろ豆腐とか寄せ豆腐と呼ばれるもの。
これも味見させてもらいましたが、豆の風味とやわらかい食感でいくらでもいける!と思いました。
豆腐の型に移します。ひしゃくで汲み移す作業は、意外と重くて片手では無理でした。
すべて移し終えたら、重しを乗せて待ちます。
できたて目屋豆腐尽くしのぜいたくな昼ご飯
待っている間に、昼食の準備。ご飯もお釜を使って薪ストーブで炊きます。おいしいこと間違いなし。
豆腐は途中で何度か様子を見て、まんべんなく水分が抜けるように重しの位置を調整。
そして、ついに完成。こんなに大きな豆腐を見たのは初めてです!
豆腐の切り分けにも挑戦。手先が器用なほうではないのでハラハラしましたが、工藤さんの指導通りにやったらうまく切れました!よかった。
これも、その場で試食。できたての豆腐はふわふわであったかい。豆の味がしっかりするので、醤油は不要。結構重くて、食べ応えもありました。
切った豆腐の一部は水にさらします。そうするとにがりのアクが抜けるんだそうです。
私たちができたて豆腐を堪能している間に、工藤さんが作ってくださっているのは目屋豆腐とふきのとうの炒め物。おいしそう!
さあ、待ちに待った昼食。
まさに豆腐尽くしです!朝9時から約3時間、少しですが自分たちも手伝った豆腐が食卓に上がっているのを見ると感慨深いものがありました。水にさらされていない目屋豆腐と湯豆腐の違いを楽しめるのも、この場で作ったからこそ。ぜいたくな経験です。
そのままでもよし、味噌汁にしてもよし、炒めてもよし。豆腐ってこんなにいろんな料理に使えるんだと、そのポテンシャルの高さに改めて感心しました。
体にも環境にもやさしい目屋豆腐
目屋豆腐づくりを体験して感じたのは、環境へのやさしさ。大豆は無農薬で育て、薪はいらなくなった枝を使います。
大豆は、おから、豆腐、豆乳にして無駄なく使い切り、作業工程では鍋や木べらに付いた残り汁を毎回きれいに使い切っていて、何一つ無駄にしない心意気が感じられました。
目屋豆腐がやさしい味なのは、そういうやさしい気持ちが込められているからなのかもと思いました。
まとめ
初めて体験した目屋豆腐づくり。豆腐のつくり方だけでなく西目屋村のことや丁寧な暮らし方についても知ることができたとてもすてきな時間でした。豆腐尽くしの昼ご飯も最高。心もおなかも大満足の体験でした。
作るのも食べるのも楽しい豆腐づくりをやってみたい!という方は、体験プログラムサイト「白神カレンダー」の「伝統の目屋豆腐づくり」から申し込んでみてくださいね。
🌳白神山地が世界自然遺産に登録された納得の理由!🌳
青森県と秋田県に広がる約13万ヘクタールの広大なブナ天然林は、人間の手がほとんど及んでおらず、8千年以上にわたりその状態が保たれています。この原生的なブナ林は世界最大級の規模を誇り、それが1993年に日本初の世界自然遺産に登録された理由となりました。ここには540種以上の植物、4000種以上の動物が生息し、希少な種も含まれています。これほどの規模の原生林は世界でも珍しく、環境保護の観点からも世界的に高く評価されている場所なのです。
田舎育ち18年、都会暮らし28年、海外暮らし5年。どこにいても緑と土が必要で、ときどき「山が見たい」と駄々をこねます。老後はヨット好きの主人と海と山の両方が見える場所に住みながら、世界各地を旅したい欲張り50代です。