日本で初めて世界自然遺産に登録された白神山地。そこには伝統的な狩猟の文化を守り、自然とともに生きる「マタギ」という人たちがいます。そのマタギの生活や文化について学べ、ジビエ料理が食べられる「白神山地のマタギ文化と森の恵“白神ジビエ・山菜料理”に触れる旅」という1泊2日のツアーが白神山地の麓にある西目屋村(にしめやむら)で行われているというので行ってきました。

<1日目>

白神山地ビジターセンターで白神の自然を最新技術で学ぶ

まずは、西目屋村の観光拠点である「道の駅津軽白神インフォメーションセンター」に集合。ここで「マタギ文化と白神ジビエ・山菜料理に触れる2日間」の受付を終わらせ、徒歩2分の所にある白神山地ビジターセンターに移動。

ここでは白神山地やブナのことなどを最新技術を駆使した展示で学べるとのこと。楽しみです。

入ってすぐの所に早速ありました、「VR白神山地体験」。6つのパネルの前に座ると、それぞれ違ったVRを体験できます。

没入感がたまらない!

ゴーグルを着けると、ブナ林や津軽白神湖など白神山地の有名スポットの景色が目の前に。360度見渡せるので、思わずキョロキョロ。音も聞こえるので、まるでそこにいるかのような没入感。暗門の滝を間近で見たり、白神岳を上空から見たり、VRでしか見られない景色も見ることができました。

ラフティングのVRを体験中

なかでもおもしろかったのは岩木川のラフティングのVR。かなりの臨場感でちょっと酔いそうになったほど。このおもしろさは残念ながら写真では伝えられないので、ぜひ行って体験するしかないですよ。

(参考記事:白神山地ゆったりラフティングツアー。家族や仲間と絆を深める冒険へ出よう。

展示ホールに進むと、白神山地のブナ林が広がっていました。模型や映像が駆使されていて、雨の音や虫の声なども聞こえてきました。屋内なのに自然の中にいるような気分。

右上に鳥の模型が見えます

所々に鳥の模型もあって、その下にあるQRコードにスマホをかざすと、鳴き声を聞くこともできます。

双眼鏡でバードウォッチング中

バードウォッチング用の双眼鏡があったので、やってみました。屋内でバードウォッチングをするのは不思議な体験でしたが、鳥を見つけられた時はテンションが上がりました。いつか白神山地の中でやってみたいな。

画面中央はブナの根元部分で、裏に見えるのは根っこ
天井にはブナの巨木が!

奥に進むと、ブナの成長過程がわかる展示と大きなブナの倒木が。「今まさに倒れた瞬間」を表しているそうです。このブナの倒木、何歳かわかりますか?

正解は、樹齢約200年。ブナの木は成長が遅く、杉なら30年で到達する高さになるのに、ブナの場合は80~100年かかるそうです。(参考:世界自然遺産を歩いてみよう。白神のブナ林散策で探る森の魅力。)そのかわり寿命は長くて300歳〜400歳のご長寿ブナもあるそうです。ちなみに、このブナの倒木の幹はレプリカですが、後ろの根っこは本物です。

心が躍る仕掛けが至るところに

こちらは白神山地の四季を上下のスクリーンで見ることができる二面シアター。映像がどんどん変わって、足元に川が流れたり、白神山地を上空から見た景色が映し出されたり。急に大きなカタツムリが出てきたときはびっくりして思わず足をよけてしまいましたが、虫や鳥になったような気分になれるおもしろい場所でした。

スマホの中に見える熊は動くんですよ!

ここではなんと熊に遭遇!熊の絵の下にあるQRコードを読み取ると、スマホの中に熊が出てくるんです。スマホの中とは言え、動いてこっちに来るとちょっとひるみました。熊だけでなく、猿やカモシカなど白神山地で暮らす動物たちを見ることができます。

白神山地にまつわるクイズコーナーもありました。では、ここでクイズを一つ。「白神山地は青森県と秋田県にまたがっていますが、その広さは青森県の方が広い。」〇か✕か。

答えは白神ビジターセンターに行って確認してください、と言いたいところですがお教えしましょう。正解は〇。白神山地の面積は青森県側が広く、約3対1の割合です。

ビジターセンターの概念が変わるほどにおしゃれな館内

展示ホールというと、歴史の年表が貼ってあって写真パネルがあるぐらいかなあと思っていましたが、全く違いました。最新の映像技術が駆使されていて飽きることがありません。しかも、きれいでおしゃれ。子どもから大人まで楽しめること間違いなしです。

今回のツアーには、白神の四季を紹介する映像体験ホールの利用も含まれていました(ツアーでなければ有料)。撮影NGのため写真はお見せできませんが、臨場感あふれる大型スクリーンで白神の四季をたっぷり味わうことができました。

マタギ講話で自然と共に生きる伝統文化を知る

宿泊先のブナの里白神館に到着。

少し休んだ後で、マタギ文化についてのお話を聞きました。講師は、マタギだったお父さんや叔父さんを手伝って子どものころから山歩きやマタギの生活をしてきた工藤さん。今はマタギの伝統文化や白神山地の自然を守るためにエコツアーガイドをされています。

工藤さんによると、東北地方でマタギ集落ができ始めたのは約550年前。秋田県や山形県にもマタギ集落はあり、工藤さんは青森県西目屋村のマタギで「目屋マタギ」と言うそうです。

マタギというと熊狩りのイメージですが、実は熊を狩るのは冬眠明けの2週間だけ。その他の時期は、畑や田んぼを耕したり木材や山菜を採って売ったりしていたそうです。なぜ冬眠明けの2週間だけなのかには理由があります。まず一つは万能薬とも言われる貴重な熊の胆のうの状態が最も良い時だから。胆のうは消化液を出す器官ですが、冬眠中は消化液が使われないので春の熊のものはとても大きいのだそうです。

そして、もう一つの理由は冬眠前に毛が生え変わるので毛皮の状態が良いからだそうです。でも、今は西目屋村で銃を保持して猟をする人は20人いるかいないかで、なかでも春の熊狩をするマタギは2〜3人程度だと教えてくれました。

工藤さんのお話で心に響いたのはマタギの名前の由来。自分たちが生きていくために、心を鬼にして他の動物や植物たちの命を奪い、それを繰り返し行う。つまり、「又、心を鬼にして命を奪う」から「又鬼(またぎ)」なんだそうです。

マタギは熊を仕留めることを「授かる」と言うそうです。そして、目や舌、脳みそなども食べて、どうしても固くて食べることができない食道以外、捨てるものはないとのこと。ただの狩りではなく、自然と共存するための営みなんだと思いました。

白神ジビエと山菜料理の夕食に舌鼓

白神の恵みをいただきます

「熊」の文字がたくさん!

マタギ講和の後は、白神ジビエと山菜料理の夕食。マタギの話を聞いた後なので、自然の恵みに感謝して大切にいただこうという思いが増していました。

熊煮

こちらは、熊煮。

熊肉のそぼろご飯

こちらは、熊肉のそぼろご飯。

熊の肉は、パワーフードなんだそうです。少し食べるだけで体が温まって元気になるんですって。ビタミンB1と鉄分も多いので疲労回復にもいいとか。さすが、パワフルな動物はその肉もパワフルなんですね。

熊串

熊鍋

他にも、熊串や熊鍋など熊づくし。初めて食べましたが、思っていたよりも柔らかくて臭みもなく、すごくおいしかったです。駆除せざるを得なかった熊をなんとか有効活用できないかと考え、何年も工夫して一般の人でも食べやすい料理を開発したのだそうです。

ぜんまいの白和えやわらびのしょうゆ漬けなど数々の山菜もいただいて、自然の恵みを堪能しました。

<2日目>

くま革キーホルダー製作体験で思い出作り

夕食の後は源泉かけ流しの温泉を楽しんで就寝。そして、2日目はくま革キーホルダー製作を体験しました。これも命を無駄にしないマタギ文化を継承した活動の一つです。

革の色が選べます

まずは、好きな色の革を選びます。熊の革は初めて触りましたが、思っていたより薄くて柔らかでした。

そこにスタンプを押すのですが、きれいに押すのは意外と難しいとのことで、練習用の皮をもらい、試し押し。

スタンプも色々あって迷いました

曲がってしまったり、インクにムラが出たりでなかなか難しい。何度か練習するうちに、立ち上がって真上から押せばうまくいくことを発見。

「失敗しても世界に一つだけの作品になりますよ」という優しいアドバイスにちょっとほっとしながら、いよいよ本番。

配置を考えながら好きなスタンプを両面に押します。いつのまにか集中して無の境地。なんとかうまく押せました!

スタンプを押し終えたら、金具を付けます。

そして、固定するために木づちでトントン。傷ついたらどうしようと冷や冷やでした。

最後にひび割れなどを防ぐオイルを塗り込んで仕上げ。熊の革は油分が少ないので、雨や傷の影響を受けやすいのだそうです。

完成!オイルが乾くともう少し色が明るくなっていきます。

控えめに言ってもかわいい!いいお土産ができました。

まとめ

今回参加したツアーはVRやARなどの最新技術で白神山地のことを楽しみながら学んだり、マタギの伝統文化について貴重なお話を伺ったり、さらには熊料理をいただき、熊の革でキーホルダーを作るなどとても充実した内容でした。観光だけではわからない白神山地の魅力や価値を知ることができたすばらしい2日間でした。

こんな観光を超えた貴重な体験をしてみたい方は、ぜひ白神カレンダーから「マタギ文化と白神ジビエ・山菜料理に触れる2日間」に参加してみませんか。

🌳白神山地が世界自然遺産に登録された納得の理由!🌳

青森県と秋田県に広がる約13万ヘクタールの広大なブナ天然林は、人間の手がほとんど及んでおらず、8千年以上にわたりその状態が保たれています。この原生的なブナ林は世界最大級の規模を誇り、それが1993年に日本初の世界自然遺産に登録された理由となりました。ここには540種以上の植物、4000種以上の動物が生息し、希少な種も含まれています。これほどの規模の原生林は世界でも珍しく、環境保護の観点からも世界的に高く評価されている場所なのです。

コメントを残す