NPOとして活動している私たちNature Serviceは、2022年度より千代田湖キャンプ場(長野県伊那市)の指定管理者として管理・運営を担ってまいりました。指定管理者とは、地方自治体から指定を受けて公の施設(公園、体育館、キャンプ場など、地方自治体が設置する公共施設)の管理・運営を担う民間企業やNPO法人などのことを指し、指定管理者制度に基づいて施設の魅力向上やサービスの充実を図っています。指定管理者制度は2003年の地方自治法改正により創設された制度で、公の施設の管理・運営を民間事業者やNPO法人等に委ねることができる仕組みです。

私たちは、長野県伊那市より2022年〜2024年度において、千代田湖キャンプ場の管理・運営を指定管理者として委託されておりました。NPOという組織の性質上、限られた財源ではありましたが、その中から可能な限りの投資を行い、デジタル技術を活用した効率的な運営モデルの構築に取り組んでまいりました。その結果、標高1300mの秘境にある千代田湖キャンプ場は、キャンプ情報に精通したナンバー1アウトドア雑誌『BE-PAL』の表紙を飾るまでに価値を高め、新たな地域資源活用のモデルケースとして期待される存在となりました。
この3年間で築き上げた『デジタル技術と自然体験の融合による地域資源の価値創造』は、地方の観光資源活性化において、新たな可能性を示す一例となったのではないかと考えています。

この度、2025年度からの指定管理者選定に際し継続の提案を行いましたが、Nature Serviceは選定には至らず、今後、千代田湖キャンプ場は、より豊富な資金力を持つ企業の運営に移行することとなりました。千代田湖キャンプ場がさらなる発展を遂げていくことを願いつつ、私たちの3年間の取り組みを振り返ってみたいと思います。

変革への挑戦

長野県伊那市の標高1300mに位置する千代田湖キャンプ場は、澄み切った空気と雄大な自然に囲まれたすばらしい場所です。Nature Serviceは、この地が持つポテンシャルを最大限に引き出すべく2022年度より指定管理者として管理・運営を開始しました。

しかし運営開始当初は、かつての無料キャンプ場時代の名残が色濃く残り、管理や整備が十分には行き届いていない様子でした。指定管理を開始してからは、豊かな自然の魅力はそのままに、デジタル技術を活用した効率的な運営と、きめ細やかな施設管理の両立に取り組みました。そして、多くのお客様に満足いただける魅力的なキャンプ場へと生まれ変わらせるべく、さまざまな施策を展開してまいりました。

デジタルと人の最適なミックスによる革新

セルフチェックインシステム

Nature Serviceが最初に着手したのは、無人運営を基本としながら、サービス品質を向上させるという挑戦でした。ITとDXを活用し、平日は完全無人での運営を実現。地元スタッフによる清掃管理を適切に組み合わせることで、効率的かつ質の高い運営体制を構築しました。週末や繁忙期は必要に応じてスタッフが常駐する柔軟な体制を採用し、繁閑に応じた最適な人員配置を行ってきました。

この運営モデルの中核となったのが、非対面チェックインシステム(セルフチェックインシステム)の導入です。コロナ禍における安全性確保と利便性向上を実現すると同時に、無人運営を可能にする重要な基盤となりました。

さらに、関連会社である信濃ロボティクスイノベーションズが開発したAIチャットボット「Symphony Base」を公式サイトに実装。24時間365日、利用者からの問い合わせに即時対応できる体制を整えました。これにより生まれた時間的余裕を、施設の維持管理に振り向けることで、サービスの質を着実に向上させました。

AIチャットボットにより、24時間365日、利用者からの問い合わせに即時対応

デジタル技術の活用と地域の人材活用を最適にミックスしたこの運営モデルは、私たちが独自に行っておりました利用者アンケートにも確実に表れました。

トイレ設備は古くても、ちゃんとお掃除も行き届いていて女性目線で見ても全く問題ありません。

(利用者アンケート:「トイレに関して」より)

草刈りがされており、土の固さも程よく、荒れも少ないなどメンテされているところが好感です。ロケーションは最高ですね!

(利用者アンケート:「キャンプサイトについて」より)

一週間前からかなり手厚く案内していただいたので、初めての訪問でしたが迷うことなく来れました。

(利用者アンケート:「予約時サポートについて」より)

こういった声が数多く寄せられ、かつての無料キャンプ場のイメージを完全に払拭するとともに、効率的かつ質の高い運営体制を築くことができました。

持続可能な運営モデルの確立

Nature Serviceは、利用者満足度と地域活性化を最優先に考えた、持続可能な運営モデルを目指してきました。冒頭で触れた指定管理者制度においては、一般的に、施設の管理運営費として自治体が指定管理者に指定管理料を支払います。(参考:総務省「指定管理者制度の概要」)

しかしながら私たちは「指定管理料 0円」にて千代田湖キャンプ場の管理・運営をしてまいりました。これは、地域と共に成長する持続可能なキャンプ場運営を実現するため、伊那市の財政負担を軽減しつつ、地域の一員として自立的な運営体制を確立するという私たちの理念に基づいています。

参考記事:これからの公共施設のマネジメントについて〜新たな公共施設管理コンセプト:『事業再生型指定管理「Uplift」』とは〜

この「持続可能な運営モデル」への挑戦を可能にしたのが、非対面チェックインシステムやAIチャットボットの導入など、関連会社を含めたNature Serviceのグループ全体での投資と技術支援です。高齢化や人口減少による人手不足という課題は、日本全体で取り組むべきものですが、とりわけ地方において深刻さを増しています。

これに対し私たちは、デジタル技術による効率化と地域の人材活用を組み合わせることで解決策を見いだしてきました。地元スタッフによる清掃管理を適切に組み込むことで、少ない人数でも施設の質を保ちつつ、地域とのつながりも大切にしてきました。地域との協働を重視しながら、指定管理料に依存しない自立的な運営モデルを確立することができたのです。

少し話は逸れますが、近年、公共施設の管理運営においては、PFI(Private Finance Initiative)という手法も注目されています。これは民間の資金とノウハウを活用して公共施設の価値を高めていく手法で、指定管理料に依存しない新しい官民連携の形として期待されています。実際に、Nature Serviceは現在、他の地域でPFI事業のお手伝いにも関わらせていただいており、今後は公共施設の管理運営においてはPFI事業への移行も増えていくと考えています。

新たなステージへ ー 3年間の成果と感謝

2025年度より、千代田湖キャンプ場の指定管理は、伊那市に事業基盤を持ち、長年にわたり地域の発展に貢献してきた伸和コントロールズ株式会社(本社:神奈川県川崎市)へと移行する運びとなりました。同社はこれまでに伊那市に1億円超の寄付をしており、また、2022年には企業版ふるさと納税を通しても寄付(金額非公開)を贈っています。

参考記事:伸和コントロールズ 伊那市に寄付金贈る

千代田湖キャンプ場からもほど近い「信州杖突峠 峠の茶屋」の管理・運営や、「高遠しんわの丘ローズガーデン」の造園と寄贈もしており、森林整備や地域振興に積極的な取り組みを続けている企業です。

正直なところ、今後も千代田湖キャンプ場に関わり続けたい気持ちはありました。しかし、より十分な資金力を備えた新たな指定管理者が、施設をさらに魅力ある場へと進化させる可能性は高く、そのことは利用者や地域にとって好ましいことでしょう。私たちはここで一歩退き、新たな運営者が生み出す次の展開を静かに見守りたいと考えています。

私たちは3年間、精一杯の投資と努力を重ね、千代田湖キャンプ場を多くの人々に愛されるキャンプ場へと育て上げてきました。IT/DXの導入に加え、Google広告、ポッドキャスト、オウンドメディア、SEO対策等のコンテンツマーケティングを実施し、施設の認知度と魅力を広く伝えてきました。

その結果、雑誌、カタログ、ドラマの撮影地として数多くの実績(※1)を残し、また、全国に2,000カ所以上あるキャンプ場の中から、「ほんとうに気持ちいいキャンプ場100」の表紙になれたことや「秋冬キャンプをもっと楽しむキャンプ場ガイド 秋から冬に行きたいキャンプ場 B E S T 1 0」にて3位に選んでいただくなど、キャンプ場としての価値を高めることができました。

ここまで歩んでこられたのは、「自然を活用した社会課題の解決」というNPOとしての使命と、グループ全体による技術面から運営面までの一貫した支えがあったからこそです。この3年間で得た成果は、地方の観光資源活用において、新たな手法を示す一例になったのではないかと考えています。そして、千代田湖キャンプ場が今後もさらなる可能性を引き出せる場所となったことに、大きな意義を感じています。

最後に、私たちNature Serviceの管理・運営のもと千代田湖キャンプ場をご利用くださった利用者の皆様、伊那市の関係者の皆様、そしてお手伝いいただいた地域の皆様、本当にお世話になりありがとうございました。

この場を借りて御礼申し上げます。

今後も千代田湖キャンプ場が、キャンプや自然を愛する方々の心安らぐ場所であり続けることを願っています。

~自然に入ることを、もっと自然に~
Nature Service

(※1)

参考)
都道府県別キャンプ場数

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