OUTSIDE WORKS(アウトサイドワークス)は、アウトドア事業者向けのビジネス特化型Webメディアです。アウトドア好きの皆様、アウトドア業界で働く方々や、これからこの分野でキャリアを築きたいと考えている皆様に、実践的な経営ノウハウと業界の最新動向をお届けしています。本記事では、アウトドアやホテル事業者から自治体担当者、小規模オーナーまで、様々な立場の方が活用できる知識を整理しました。読み終えた頃には「最適なキャンプ場の種類は何か」が自然と見えてくるでしょう。

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キャンプ場の種類と市場トレンド

日本のキャンプ場市場は着実に成長を続けています。
日本オートキャンプ協会(JAC)によると、オートキャンプ場の市場規模は2019年の506億円から2021年には649億円へと拡大。観光庁データでも、キャンプ場宿泊費は2019年の470億円から2022年には734億円に急増しました。この成長は主に以下の要因によるものです:

  • コロナ禍での「密を避けるレジャー」としての需要増加
  • SNSによる情報拡散効果
  • 平均利用料金の上昇(2023年に初めて5,000円を超え5,041円に)

料金上昇の背景には、人件費や光熱費などの運営コスト増加があります。また、需要に応じたシーズン料金制を採用するキャンプ場が2023年には47.9%まで増加しています。

キャンプ場のサービス形態も多様化が進んでいます。従来のテントサイトに加え、グランピング施設やキャビン、コテージなどの宿泊施設、備品レンタルサービスなど、幅広いニーズに対応する施設が増えています。予約方法も変化し、2023年にはインターネット予約(59.4%)が電話予約(34.0%)を初めて上回りました。

現代のキャンプ場は「場所貸し」から「体験価値の提供」へと進化しており、地域食材を活用したBBQプラン、自然体験アクティビティ、ワークショップなどを組み合わせた総合的な価値提供が主流になっています。不動産業、鉄道会社、小売業など異業種からの参入も増加し、競争激化と同時に革新的なサービス創出が進んでいます。

参考/出典:


経営形態で読み解くキャンプ場の種類

キャンプ場ビジネスは、運営主体と資金の流れで「個人所有自営型」「自治体所有委託運営型」「企業所有自社運営型」の3つに大別でき、それぞれ特徴的な規模と収益構造を持っています。順番に見ていきましょう。

1. 個人所有自営型──土地の新たな可能性を見出す小規模ビジネス

地方移住者や地元の土地所有者が遊休地や山林を活用し、10〜50区画程度のサイトを家族単位で運営するケースです。現在、国内キャンプ場の約半数がこの形態と推測されます。本業の傍らで週末のみ営業する副業型も珍しくありません。初期費用は500万〜5,000万円で、最も投資が必要なのは水道・電気などのインフラ整備です。特に給排水設備や浄化槽の設置は予想以上のコストがかかるため、事前の綿密な調査が不可欠です。
近年では、2020年以降のキャンプブームを受けて、クラウドファンディングで資金を集めて開業するケースも増加しています。地域活性化や自然保護といった社会的意義を掲げることで支援を募り、初期投資の負担を軽減する手法として注目されています。

<事例: negura campground>
静岡県函南町に位置する「negura campground」は、オーナーが脱サラして2021年に開設した個人経営のキャンプ場です。「巣作り」という人間の根源的な行為をコンセプトに、「野ざらしに『ねぐら』を作って遊ぶ場所」というユニークな体験を提供しています。富士山や駿河湾、夜景を望める景観も魅力の一つです。

2. 自治体所有委託運営型──眠っていた公共資産の再生

市町村の公園・湖畔サイトを民間が指定管理で運営するモデルです。土地代は完全にゼロではなく、指定管理料と自主事業の収益配分によって施設使用料が発生する場合もありますが、一般的な商業地と比較して非常に低コストです。また、施設改修費には自治体の補助金や交付金を活用できるケースが多く、初期投資の負担を軽減できます。ただし、行政との調整や地域住民との合意形成に時間を要するため、中長期的な視点での事業計画が必要です。地域資源を活かした特色あるプログラム開発が差別化のポイントとなります。

<事例: 鳥野目河川公園オートキャンプ場>
栃木県那須塩原市にある鳥野目河川公園オートキャンプ場は、自治体が所有し、特定非営利団体 Nature Serviceが指定管理者として運営を受託している事例です。河川公園内に位置し、オートサイトを中心にコテージなども備えています。公の施設としての安定性と、民間事業者による運営ノウハウを組み合わせた運営形態と言えます。

3. 企業所有自社運営型──大手資本が狙う総合リゾートへの道

企業が主導する大規模開発型のキャンプ場です。投資規模は数千万円から数億円に及び、一般に、100サイト前後が損益分岐点の目安とされています。複合リゾートとして展開するケースもあり、年間を通じた安定収益を目指します。大手資本の参入により、従来のキャンプ場とは一線を画す設備投資やマーケティング戦略が可能となり、インバウンド需要の取り込みやワーケーション市場の開拓など、新たな顧客層の開発にも積極的です。運営には専門スタッフの確保が必須で、人件費が収益性に大きく影響します。

<事例: 朝霧Camp Base そらいろ>
「朝霧Camp Base そらいろ」は、トヨタユナイテッド静岡が運営する企業所有・自社運営型のオートキャンプ場です。富士山の麓、朝霧高原に位置し、フリーサイトや区画サイト、充実した設備を提供しています。大手企業による運営基盤を持ち、利便性と景観を兼ね備えた施設として、多様なキャンパーのニーズに応えています。

4. その他の経営形態

上記の主要3形態に加え、近年では以下のような新たな経営形態も登場しています。

農業・観光連携型

農家や農業法人が経営する「ファームステイ型キャンプ場」です。農業体験や収穫体験と組み合わせ、食育や地産地消を前面に打ち出しています。農地法の規制緩和やアウトドアニーズの高まりにより、農地に隣接する遊休地を活用したキャンプ場開発が容易になったことが背景にあります。農産物の直販や加工品販売との相乗効果で収益性を確保しています。

<事例: ワンダーファーム>
福島県いわき市にある「ワンダーファーム」は、「トマトのテーマパーク」として、「農業・観光連携型」のユニークな事例です。株式会社ワンダーファームが運営しており、広大な敷地内で様々な種類のトマト栽培を見学できるほか、トマト狩り体験を提供しています。採れたてのトマトを使った料理を楽しめるレストランや、新鮮な農産物や加工品を扱うマルシェも併設されており、「食」と「農」をかけ合わせた体験価値を創出しています。宿泊施設としてはキャンプエリアを備えており、多様なスタイルで農業と観光を楽しむことができます。

会員制コミュニティ型

特定のコミュニティやファンに特化した会員制キャンプ場です。年会費制や月額サブスクリプション方式を採用し、安定した収益基盤を確保しています。サーファー、クライマー、釣り愛好家など、特定の趣味に特化したり、企業の福利厚生と連携したりするケースが多く見られます。会員数100〜300名程度で運営され、稼働率よりも会員満足度を重視する経営スタイルが特徴です。

<事例: SACCO SAGAZAWA(サッコサガザワ)>
山梨県上野原市にある「SACCO SAGAZAWA」は、「会員制の裏山」というコンセプトを掲げる施設です。「Sotoasobi And Camping Co-Operative」という名称が示す通り、会員が共に施設の運営や自然の中での活動に主体的に関わる、コミュニティ形成を重視した会員制キャンプ場です。利用者は単にキャンプをするだけでなく、場づくりに参加したり、他の会員との交流を楽しんだりすることができ、特定のコミュニティに属する「ホーム感」や「一緒に作る」体験価値を提供しています。

これらの新興形態は、従来の「場所貸し」から脱却し、コミュニティ価値や体験価値を重視する点で共通しています。こうした特化型キャンプ場の平均稼働率は従来型を上回り、顧客単価も高い傾向にあると言われています。多様化するキャンプ需要に対応した経営形態の模索や進化が今後も続くでしょう。
ぜひ一度、視察に行ってみてください!


提供価値で分類するキャンプ場の種類

キャンプ場は「提供する体験価値」によって大きく4つのタイプに分類できます。
これらは「アクティブ⇔リラックス」と「ワイルド⇔快適志向」という2軸で整理できるマトリクスとして捉えることができます。実際のキャンプ場はこの4象限のどこかに位置づけられますが、多くの場合、複数の要素を組み合わせたハイブリッド型も存在します。

原始自然型──最小限の設備で自然との一体感を追求

水場とトイレのみという最小限の設備で、自然をありのままに体験できるキャンプ場です。料金は2,000〜4,000円と手頃で、自己完結型のキャンプスキルを持つ中級者以上のキャンパーに支持されています。レジャー白書2024によれば、このタイプを好む層は全キャンパーの約15%で、年間平均キャンプ回数は8.2回と最も高頻度です。焚き火や星空観察など、自然そのものとの対話を重視する傾向があります。

快適設備型──家族連れやビギナーの不安を解消

AC電源、温水シャワー、清潔なトイレ、炊事棟など、快適さを重視した設備が整ったキャンプ場です。1サイト5,000〜10,000円の料金設定で、キャンプ初心者やファミリー層に人気があります。JACの調査では、コロナ禍以降に参入した新規キャンパーの約70%がこのタイプのキャンプ場を選択しており、「アウトドアの敷居を下げる」という市場拡大の役割を果たしています。

アクティビティ型──体験プログラムで差別化を図る

川、山、森といった自然環境を活かした多彩なアクティビティを提供するキャンプ場です。川下り、マウンテンバイク、ハイキングなどを有料プログラム化し、体験価値を収益化します。基本サイト料金は3,000〜6,000円程度ですが、アクティビティ参加費を含めると1人あたり平均消費額は12,000〜15,000円に達します。家族連れやグループ客が主なターゲットで、リピート率向上の鍵となっています。

プレミアムリラックス型──非日常空間で「何もしない贅沢」を提供

高級感のあるグランピング施設やデザイナーズドーム、プライベートサウナ、コース料理などを備え、都市生活の延長ではない特別な時間と空間を提供します。1泊3万〜10万円の高価格帯ですが、2023年の市場調査では前年比30%増の成長を示しており、富裕層や記念日利用のカップルを中心に需要が拡大しています。インバウンド需要の取り込みにも成功しているケースが多いと言われています。

あなたの好きなキャンプ場は、どこに分類されるでしょうか??


キャンプ場ビジネスの未来と選択肢

ここまで、キャンプ場を経営形態と提供価値の観点から分類してきました。最後に、これらの知識を踏まえて、キャンプ場ビジネスの未来と、事業者が取るべき選択肢について考察します。

市場の成熟化と差別化の重要性

日本のキャンプ市場は成長期から成熟期へと移行しつつあります。2020年代前半のコロナ禍による急成長期を経て、今後は質的な変化と競争の激化が予想されます。この環境下では、「どのタイプのキャンプ場を目指すか」という明確なポジショニングが成功の鍵となるでしょう。

特に注目すべきは以下の3つのトレンドです:

  1. 特定ターゲット特化型:すべての人に対応するのではなく、特定の趣味や価値観を持つ層に絞り込んだキャンプ場が増加しています。釣り、サーフィン、天体観測など、特定の活動に最適化された環境を提供することで、コアなファンを獲得する戦略です。
  2. 複合収益モデル:サイト利用料だけでなく、飲食、物販、体験プログラム、レンタル品など、複数の収益源を組み合わせるビジネスモデルが主流になっています。季節変動や天候リスクを分散し、安定した経営基盤を構築するアプローチです。
  3. 地域資源との連携強化:単独の施設としてではなく、地域全体の観光資源や産業と連携したエコシステムの一部としてキャンプ場を位置づける動きが活発化しています。地域の食材、伝統工芸、文化体験などと組み合わせることで、地域全体の魅力向上に貢献する持続可能なモデルです。

事業者が検討すべき選択肢

キャンプ場事業への参入や既存施設のリニューアルを検討している事業者は、以下の点を考慮することをお勧めします:

  • 自社の強みと地域特性の分析:所有する土地の特性、地域の観光資源、自社のノウハウなど、独自の強みを明確にし、それを活かせるキャンプ場タイプを選択しましょう。
  • 投資規模と回収計画の現実的な設計:経営形態によって初期投資額は大きく異なります。自己資金だけでなく、補助金や融資、クラウドファンディングなど、多様な資金調達方法を検討し、持続可能な事業計画を立てることが重要です。
  • 段階的な成長戦略:一度にすべてを完成させるのではなく、コアとなる価値提供から始め、顧客の反応を見ながら段階的に設備やサービスを拡充していく柔軟なアプローチが有効です。
  • デジタル戦略の強化:予約システム、SNSマーケティング、顧客データ分析など、デジタル技術を活用した効率的な運営と効果的なプロモーションが不可欠です。

最後に

キャンプ場ビジネスは、単なる「場所貸し」から「体験価値の提供」へと進化しています。この変化を理解し、自社の強みと市場ニーズを的確に捉えることができれば、持続可能で魅力的なキャンプ場経営が可能になるでしょう。

本記事が、キャンプ場事業に関わる皆様の戦略立案と意思決定の一助となれば幸いです。

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