【伊豆諸島全島制覇、最後の島『御蔵島』へ】
伊豆諸島9つの島全部を巡る『伊豆諸島全島制覇』企画も、いよいよ残り1島『御蔵島』を残すのみ。この企画最後の渡航となるのか?
『御蔵島』は東京の都心から南へ約200km、面積20平方キロメートルのほぼ円形の島。周囲は波によって侵食された高い崖になっていて入江などがなく、島に一つの港は外洋の影響を強く受けるため、天候などにより船が欠航することも多い。海が安定する夏場は比較的就航率も高いが、秋から春にかけては、就航率50パーセントを切る月も多く、ほとんどが条件付きの出航(「船は出すが接岸できない場合を承知しての乗船」ということ)。事実、筆者はこの企画で4回目のチャレンジ。伊豆諸島の中では、青ヶ島と並んで「選ばれたものだけが行ける島」と呼ばれることも(特に我々はw)。さて今回は…。
【御蔵島への道】
今回も東京・竹芝からスタート。JR浜松町駅・都営地下鉄大門駅から東京湾に向かって徒歩10分くらい、ゆりかもめ竹芝駅からは連絡通路で直結の、伊豆諸島と小笠原諸島への玄関口『竹芝客船ターミナル』。東海汽船の窓口でチケットを引き換え、必要事項を記入したら、のんびり出航を待つ。
伊豆諸島への船に関する情報やチケットの予約は、『東海汽船』Webサイトから。
取材は9月中旬。竹芝の夏の風物詩にもなってきた「東京湾納涼船」の浴衣を着た乗客で、ターミナル内はそこそこ賑やかだが、トップシーズンも終わった平日ということもあり、伊豆諸島に向かう乗客はそれほど多くない感じがする。
目的地である御蔵島を含む、伊豆諸島南側の島々を渡る大型船『橘丸』(橘丸乗船レポート)。黄色と緑のカラーリングが夜の東京湾に映える。出港は22:30(時期によって変わる場合あり)。出発前に降り出した雨が多少気になりつつ、ゆっくりと出港。やはり気持ちは高ぶる。甲板でのビールの味も格別だ(ちょっと寒いw)。
【いよいよ御蔵島に上陸!】
御蔵島到着は翌6:00頃。その手前の三宅島の到着はなんと5:00! 三宅島で降りる乗客のために、消灯していた客室の明かりが4:30頃に点灯する。ちょっと眩しい。御蔵島、八丈島まで寝ていたい場合は、アイマスクや耳栓の用意を。
上記の通り欠航になることも多い島。御蔵島に限ったことではないが、天候によっては着岸の決定を港付近まで行って、状況を見てからする場合もある。なかなか予定通りにいかない場合もあるが、そこは自然が相手の島旅・船旅。時間と気持ちの余裕を持って。そんなところが「ああ、なんてネイチャー!」。
沖縄付近に居座る台風の影響のためか、御蔵島が近づいてきても、状況は「港の状況を見て決定」。「安全のため」と思いながらも、次第に心配になる。港も見えてきて、間も無く到着という段階で着岸決定の連絡。急ぎ準備して下船口へ。4回目のチャレンジでやっとの上陸! 今回我々は『選ばれたもの』に。
【島を巡る】
御蔵島は『イルカの島』として知られる島。周囲海域にミナミハンドウイルカが生息していることで、イルカウォッチングやドルフィンスイムが目的の観光客は多い。我々も「やはり体験しておかないと」ということで、ドルフィンスイムは出発前に予約済み(予約ドルフィンスイムに関する情報は『御蔵島観光案内所:海へ』を確認)。その前にまずはと島内を巡る(ドルフィンスイム体験レポートは『御蔵島編2』で)
東海汽船の定期便が就航した今でも、欠航になることがままある御蔵島。定期便がなかったころは、三宅島から漁船などで人とモノを運んだと島の方から聞いた。荒れる海と断崖絶壁に囲まれた島。イルカの島という楽しそうなイメージのある島だが、厳しい環境で暮らしてきたという歴史がある島でもある。
同じ伊豆諸島の利島や式根島などの、切り立った崖に囲まれた島と同様に、港から集落まで上るきつい坂がまず待っている。歩いて登るのはちょっと厳しい。宿の方に車で迎えに来てもらう。荷物を置き散策開始。道のほとんどがちょっときつめ坂の集落に、300人ほどが暮らしている。「イルカと一緒に泳げる楽しい旅」というとことから、土産物屋やカフェなどが並ぶリゾートな島をイメージする方もいるかもしれないが、商店2軒と農漁協の購買が1軒、宿は7軒の小さな集落。1度周ってしまえば、大体の地図は覚えてしまえるくらい。島民が挨拶をし合う様子を見ていると、みんなが顔見知りのようだ。のんびりとした空気が流れているが、厳しい環境の中、協力して暮らしてきたという島の生活が見えてくる。そんな島に「お邪魔します」という気持ちになる。
御蔵島に行く場合は、いくつか気をつけたいことがある。
- 島内ではキャンプが禁止。宿が少ないため早めの予約を
- 船が欠航する場合があるので、日帰り不可(宿の予約がない場合は上陸できない)
- 島内は自転車が禁止。持ち込んでも乗れない(レンタカーもない)
- 雨が多く風が強いので、傘ではなくレインコートが必須
- 島民が普通に生活する島内。水着や上半身裸で歩くことは禁止
これらのことは、あらかじめ目を通しておきたい。
その他、宿や観光に関する情報などは『御蔵島観光案内所』Webサイトを確認。
集落にある『稲根神社』に向かう。島の子供達が楽しそうに遊ぶ保育園を見守るように立つ神社だが、本殿はここではなく、島の大部分を占める森の中にあるとのこと。御蔵島の神様は年 1 回森の中を通って、その本殿から里に下りてくるのだそうだ。その神様が住むという「神山では草木 1 本取ってはならぬ」と、御蔵の人たちは語り継いでいるらしい。昔から豊かな自然と共存してきたことがわかる(その道をたどるハイキングコースがある。要ガイド)。
あ、個人的に感じたのは「ちゃんとした靴が必要だ」ということ。気軽なサンダルやハイヒールなどでは、島内を巡るのは厳しそう。森をハイキングする予定がなかったとしても、動きやすい格好がいいだろう。
【森に向かう】
ちょっと足を伸ばして、森の方に向かってみる。御蔵島は実は豊かな原生林を持つ「森の島」という面も持つ。驚くほど大きなシイの巨樹が生い茂り(幹周り14mのスダジイもある)、季節の草花や様々鳥たちも見ることができる。雨が多いため水が豊かなこともあり、この企画でおなじみの『新東京百景』にも選ばれた、神秘的な『御代ヶ池』も魅力的だ。
そんな自然を体験できるハイキングコースがいくつかあるが、一部を除いてガイドさんの同行が必要になる(予約や紹介は『御蔵島観光案内所:山へ』)。森という自然を守るためでもあるが、自然のままの原生林では、ちょっとした気の緩みが危険につながる場合もあるので、道に迷ったりしないためにも、かえってありがたいルールだと思う。ガイドさんがいることで、自分たちだけでは気がつかない見どころや、島の歴史、自然の素晴らしさを教えてもらえる。島の自然を知ることができる絶好のチャンス。より旅を楽しめるに違いない。時化(しけ)でドルフィンスイムに行けない時や、春・秋の季節などに、ぜひとも体験してもらいたい。
別NATURES.取材班による御蔵島の森体験レポート『イルカだけじゃない御蔵島』。
ガイド不要のコースもあるが、集落からそれなりに距離があり、またアップダウンも多い。そちらのコースでもガイドさんに相談することをオススメする。実際に我々が「行けるところまで行こう」と歩いてみたが、早々に引き返したのがその証拠。それでもいい景色は見られたのが救いw
森に関してのルールも事前に把握しておきたい。
- 御蔵島の山は、一部のコースを除いてガイドの同行が必要
- 雨や雪などで路面がぬかるんでいる場合は、コース保護のため山には入れない場合がある
- 10ほどコースはあるが、1コースあたり1日利用人数は50名まで
魅力的な自然の多い森。ガイドさんをお願いして、いろいろ見て体験してもらいたい。
【自然豊かだが、厳しい環境の『島』】
4回目の渡航でやっと上陸できた御蔵島。時には船が欠航して行けないことがあるという意味で、気軽に行けない島だったが、実際に上陸してみて別の意味で「気軽に行けない」と感じた。海も山もいろいろなルールを決めているのは、与えられた自然の恵みとこれからも共存していくということでもあるが、厳しい自然の中では一つ間違えば危険も待っているということ。そういう意味で「気軽にいけない」「本気で自然を楽しむために行く島」という感じだろうか。
荒れることも多い海に囲まれ、四方は断崖絶壁、船が来ない日が続くこともある厳しい環境ではあるが、豊かな自然と共存して生きてきた御蔵島。自然とともに生きてきたからこそ、その自然を守るためのルール。「ちょっと厳しい」と感じるかもしれないが、どれも島の自然を守り、今後もいい関係を続けていきたいとする島の想い。観光客もそれを尊重し、事前の準備とルールなどを確認した上で、御蔵島の魅力的な自然をしっかり楽しみたい。気軽なリゾートではなく、本気で自然を体験したい気分にさせる。そうすることで、さらにこの島の自然の魅力が感じられるのであろう。
『本気で自然を楽しむ島・御蔵島』
そうやって体験した後のゆるい時間がたまらないんだけどねw
御蔵島の観光情報は『御蔵島観光案内所』Webサイトから。
次回『御蔵島編2』。イルカと泳いできます!
Nature Service 正会員 島事業リーダー
酒と音楽をこよなく愛する自由な情報設計者。島での楽しみ方は素潜り。綺麗な海を見ると潜りたくなって仕方ないらしい。潜った後のビールと、民宿のご飯が大好物。ビールおじさん。