子育てに励むパパ・ママの皆さん、「山村留学」という活動をご存じでしょうか。

山村留学とは、「自然豊かな農山漁村に、小・中学生が1年間単位で移り住み、地元の学校に通いながら、さまざまな体験を積む教育実践活動」のことで、1976年、長野県八坂村(現 大町市八坂)から始まりました。

「かわいいわが子を1年も!?」

と思った皆さん、私も一人の親なのでその気持ちはよく分かります。
でも、お子さん自身が「そこに行ってみたい」「暮らしてみたい」と言ったらどうでしょうか。

ちょっと考えてしまいますよね。

今この瞬間にも、山村留学への挑戦を決めた子どもたちは、豊かな自然の中でかけがえのない経験を積んでいることでしょう。

ということで今回は、長野県の規模も活動内容も異なる3つの山村留学拠点を訪問。そこで子どもたちはどのような生活を送り、何を学んでいるのか、リポートします。

取材1日目 @八坂美麻学園(公益財団法人育てる会)

日本で初めて山村留学が始まった場所で、ほかの園と比べると受け入れる子どもの数が多いのが特徴。また、ひと月のうちの半分は、農家を中心とした地域のお宅に子どもたちをホームステイさせるという、併用型の山村留学スタイルとなっています。

学校が休みのこの日は、朝から「原木の切り出し体験」があるとのことで、午前8時に園に到着。小雨が降る中、駐車場で待っていると、元気な笑い声と一緒に大勢の子どもたちが出てきました。

みんな無邪気な笑顔で「何しているの?」「どこから来たの?」と話しかけてくれます。指導員の方の簡単な説明を受けたら、早速みんなで現場に向かいます。

園から15分ほど歩いた森の中では、林業に従事する地元の皆さんが待っていました。林業の役割や木の種類、切り方や倒す方向など、1時間ほどのレクチャーを受けた子どもたちは、見上げるほどの大木を切り始めました。

代わるがわるに少しずつ切り進め、狙った方向にドーンと木が倒れると、歓声が上がります。

気がつけば、雨はすっかり雪に変わっていました。

帰り道、小学校低学年くらいの女の子に「ここでの生活はどれくらいで慣れた?」と聞くと「1カ月くらいで慣れたよ」とのこと。最初はさびしさもあったようですが、慣れていくうちにだんだん楽しくなってきたと話してくれました。

学園に帰って、お昼ご飯を一緒にいただきました。
この日のメニューはかき揚げ丼にお味噌汁に野沢菜。
お味噌も野沢菜も子どもたちがつくったものだそうです。

子どもたちはお茶碗の中のご飯の一粒までキレイに平らげ、食べ物を決して無駄にすることはありません。

ひと息ついた後、八坂美麻学園 統括主任の赤坂 隆宏さんにお話をうかがいました。

赤坂さんのインタビューはこちらから

「たくさんの『あたりまえ』のように目の前にあったものから一度『離れて』みることで、本当の自分の気持ちや感情、個性に基づく興味関心に気づくことができる。山村留学をする子どもたちは、そんな、現代の利便さの中で見失いがちな、人が生きる上で大切な姿を体現している」

赤坂さん自身が、そんな姿に出会う度に、人が成長することの喜びや可能性を感じ、力をもらっているという言葉が印象的でした。

その日の夜、見学に訪れた数名の親子を歓迎するため、子どもたちは太鼓の演奏を披露してくれました。

大きい子も小さい子も、全身全霊で太鼓を打ち鳴らします。
大きな夢や希望、少しの不安やさびしさ。胸の内にしまってあるすべての感情を爆発させているかのよう。
その圧倒的な演奏に、胸が熱くなるばかりでした。

八坂美麻学園のホームステイの様子

別の日、八坂美麻学園の子どもたちがホームステイしているという、近隣の農家さんにもお邪魔しました。
山村留学は、もともとは集団生活だけではなく、ホームステイを拠点に、地域に根ざした暮らしを体験するコンセプトだったそうです。

八坂美麻学園のホームステイでは「そのお家の子供になって暮らす」ということを大事にしています。

山村留学中の子どもたちは、ホームステイ先の農家さんを「父さん」「母さん」と呼んで、まるで本当の親のように慕っているのが印象的でした。

この日は「お母さん」と一緒に、野沢菜やおからの入ったおやきを作ったり、昔のお話を聞いたり、「お父さん」から囲碁を教わったり、外に飛び出して皆で雪合戦やそり遊びをしたり…。

現代は、

  • インスタント食品やスナック菓子を食べる
  • スマートフォンで検索する
  • ゲームアプリで遊ぶ

等で、一人でも手軽にやりたいことを実現できてしまいますが、今回のホームステイ取材では、人同士がコミュニケーションを取りながら、身体を動かし、生活を楽しんでいる姿を見ることができました。

八坂美麻学園への取材を終えて

「食べることは生きること、生きることは食べること」という言葉を聞いたことがありますが、取材を通して感じたのは、まさにそれでした。今、生きられていること、そして食べられていること。この日本に古くから根付いている稲作という文化を通じて、八坂美麻学園の子どもたちはきっとそれを理解し、深く感謝もしている。日本人にとって大切なことを、私は子どもたちから教わったような気がしました。

取材2日目 @浪合通年合宿センター(NPO法人なみあい育遊会)

環境省が認定する「日本一の星空の村」の大自然を舞台に繰り広げられるワイルドな共同生活。日々のくらし(生活そのもの、学習、スポーツなど)を通じて、次代を担うスゴい人材の育成を目指している拠点です。

お昼過ぎに園に到着。
泥のついた靴、壁に立てかけられた箒、軒下に吊るされた柿。
子どもたちの姿はなくても、生活のにおいがします。

暖かい日差しのそそぐ園庭で、早速、所長の大石 純平さんにお話をうかがいました。

大石さんのインタビューはこちらから

日が傾き出した頃、子どもたちが学校から帰ってきました。
それまで静まり返っていたセンターが、子どもたちの笑い声であふれます。
おやつを食べたり、本を読んだり、ギターを練習したり、宿題に取り組んだり。
みんな思い思いの時間を過ごしながらも、仕草でつながっている。
まるで一つの大家族のようです。

完全に日が落ちた頃、忘れていたシイタケの収穫に行くというので、ついていきました。
ぷっくら太ったシイタケを見て「大きいね!」というと「こんなの小さい方だよ」と子どもたち。
真っ暗闇の森の中、慣れた手つきでシイタケをもぎ取る姿が何とも頼もしかったです。

ここ浪合地区は、親子で山村の暮らしを体験する「親子留学」も積極的に受け入れており、相談窓口を「なみあい育遊会」が担っているということで、この春に引っ越してこられた3人のママさんのお話を聞く機会をいただけました。

親子留学中の皆さんの座談会はこちらから

「ここにきて幸せの価値観が変わった」という言葉が心に残りました。

新鮮な食べ物、心を許せる友達、安心して暮らせる環境、愛する家族。

お三方がいうように、これだけあればもう充分幸せな気がしますね。

浪合通年合宿センターへの取材を終えて

「通年合宿」と謳われている通り、ここにいる子どもたちは「終わらない夏休み」を過ごしているといった印象でした。スキーにキャンプ、山登りや沢登りなど、ワイルドな挑戦を続けてきた子どもたちはみんな驚くほどたくましいです。きっと、たくさんの危険や困難にも直面したはず。でもだからこそ「生きる力」が磨かれていく。そんなことを感じさせてくれた取材でした。

取材3日目 @暮らしの学校だいだらぼっち(NPO法人グリーンウッド)

長野県の南端、天竜川が底を流れる伊那谷に囲まれた急峻な場所に位置している泰阜村。こののどかな山村が、だいだらぼっちのフィールドです。「なにもない」村だったが故に、自然と共生し、ないものはつくり、知恵を出し、育まれてきた協働の精神。これを受け継ぐように、野菜や家畜の生育、燃料となる薪や炭の生成、さらには食器づくりまで、暮らしに必要なあらゆることを子どもたち自身の手で行っています。

早速、「子どもたちと一人の人間として関わること」を信条とされている、事務局長の齋藤 新さんにお話をうかがいました。

齋藤さんのインタビューはこちらから

「楽しいことも悲しいことも全部ひっくるめた仲間たちとのストーリーが、ここから始まります」という言葉に、冒険好きだった少年時代を思い出しました。また、「子どもたちの人を見る目は、大人よりも鋭い」というお話も、身につまされる思いがしました。いつまでも冒険心を忘れない大人でいたいものですね。

おやつの時間になると、子どもたちが学校から帰ってきました。
ある子は薪を割り始め、またある子はお風呂を沸かし始めます。
まるで「北の国から」の世界観。

子どもたちが育てているニワトリも、最後にはちゃんと自分たちの手で締め、大切に命をいただくとのことです。

また、NPOグリーンウッドでは、村からの委託を受け、放課後児童クラブ(学童保育)も運営しています。

そこには留学生も地元の子も関係ない、子どもたちの世界がありました。

暮らしの学校だいだらぼっちへの取材を終えて

取材を通して、解剖学者でありベストセラー作家である養老孟司さんの「現代人は怠けることに誠心誠意」という言葉を思い出しました。これは便利や効率を追求することが是とさせる現代社会に投げかけた同氏のアンチテーゼです。ここでの暮らしは便利とはほど遠いかもしれません。でもだからこそ、子どもたちは暮らしていくこと、生きていくことに精いっぱいになれるのではないでしょうか。

信州自然留学(山村留学)の取材を終えて

「生きる力」という言葉をたびたび耳にしますが、その本質を考える良い機会となりました。長い人生において、困難に直面した数、乗り越えた数が大人になる条件だとしたら、山村留学に挑戦している子どもたちは、もう立派な大人なのかもしれません。親元を離れること、新しい人間関係を築くこと、他者との違いを受け入れること、自分自身を表現すること、自然とともに生きること…。大人の私でも難しいと思うことばかりです。彼らが留学中に身につけるであろう「生きる力」は、単に現代社会を生き抜くためのスキルではなく、もっと根源的な「人間としての強さ」なのだと感じました。

信州自然留学(山村留学)ポータルサイトのご紹介

2023年4月、信州自然留学(山村留学)のポータルサイトが公開されました。ぜひご覧ください!

信州自然留学(山村留学)ポータルサイト

信州自然留学ポータルサイト

各団体では、一日体験や説明会も開催しています。
お子さんご自身が「やってみたい!」「行ってみたい!」という気持ちをお持ちなら、一度参加してみてはいかがでしょうか。