近年、企業の社会的責任について考える機運が高まっています。従来の利益追求だけでなく、社会・環境への貢献を組織の使命に組み込み、新たなビジネスモデルとして世界中に広がりつつあります。今回は企業の社会的責任と関連のある「B Corp」(ビーコープ)という認証制度の特徴、認定基準、そして実際に取得している企業を紹介します。
B Corpの定義と特徴
B Corpとは
B Corp(B Corporation)とは、利益の追求にとどまらず、社会的な影響を考慮している企業を認証する制度です。(「B」はBenefit(ベネフィット=利益)の略。)
米国の非営利団体B Labが運営や認証を行っており、環境への影響、企業のガバナンス、労働者の扱いなど、多面的に企業の取り組みを評価・認証しています。
なお、「Benefit Corporation(ベネフィット・コーポレーション)」と混同されることがありますが、こちらは米国の企業形態を指しており、認証制度である「B Corp」とは異なるものです。
B Corp認証の主な特徴とは
B Corp認証の特徴は、企業が社会的・環境的な目標を達成するための具体的な行動を取ることが求められる点です。企業のガバナンス、労働者の扱い、コミュニティへの影響、環境への影響などが評価され、これらの取り組みには透明性が求められ、公開されることが一般的です。
B Corpが注目される理由
社会的責任を果たす企業の増加
B Corpが注目される理由の一つに、企業の社会的責任(CSR)に対する関心の高まりが挙げられます。消費者、投資家、従業員など、多くのステイクホルダーが企業の社会的な影響を重視するようになっています。その結果、B Corp認証を取得している企業を含め、社会に配慮した経済活動を行う企業が注目されているのです。
持続可能なビジネスモデルへのシフト
また、持続可能なビジネスモデルへのシフトもB Corpの注目度を高めています。気候変動、資源の枯渇、社会的不平等など、現代社会が直面する課題を解決するためには、企業が持続可能なビジネスモデルを採用することが必要とされています。「企業だけが利潤を得られれば良い」という考え方から「社会全体が持続可能でなければならない」という考え方に変化しています。B Corpは、持続可能なビジネスモデルを追求する企業形態として注目されています。
企業のブランド力向上
B Corp認証企業となることで、企業のブランド力は向上します。B Corpは社会的・環境的な責任を果たす企業として認識されており、その認定を受けることで企業の信頼性と評価が高まります。その結果、就職先として人気が高まり、企業側からすると優秀な人材を獲得しやすくなります。
ステイクホルダーからの信頼獲得
B Corpは国際的な認証制度で、社会的・環境的な目標を追求する企業として世界的に認知されています。そのため、投資家を含めたステイクホルダーらから信頼を獲得しやすく、国内外を問わず様々なステイクホルダーから信頼を得やすくなると言えます。
B Corp認定の基準とは
B Corp認証企業になるためには、企業のガバナンス、労働者の扱い、コミュニティへの影響、環境への影響など、様々な基準を満たす必要があります。「B Impact Assessment」というB Lab独自の評価基準が用いられ、200の質問に対し80点以上が求められます。
環境、地域社会、顧客、サプライヤー、従業員、ステイクホルダーに関する企業のパフォーマンスを測定し、基準を満たした企業だけがB Corp認証を取得できます。認証取得までの期間は一般に、中小企業の場合は6〜8カ月、大企業や多国籍企業等はそれ以上かかるようです。
B Corp認証取得後は、年会費の支払いと3年ごとの更新が求められます。B Labでは B Corpの認定要件を社会情勢に応じて適宜見直しています。取得基準を固定化することなく、社会の動向を考慮しながら見直している点からも信頼できる認証制度だと言えそうです。
B Corp認証取得企業例
2023年6月時点で、6,000社以上がB Corpに認定されています。B Corp認証を取得している企業をいくつか紹介していきます。
Kathmandu
ニュージーランド発のアウトドアブランド、Kathmandu社(カトマンズ)。ニュージーランドではNo.1のアウトドアブランドとして知られ、オーストラリア、北米、英国やドイツ等、世界的に事業を展開しています。日本ではその名を知る人は少ないかもしれませんが、「日本で言うモンベルのような存在」と言えば、どれだけよく知られているか想像がつくでしょうか。
環境に配慮した商品作りにとどまらず、働く人たちのウェルビーイングを向上させる企業としても常に進化し続けています。アウトドアを通して、世界中のウェルビーイングを目指す同社は、ベターコットンや最新技術を用い、持続可能な商品を世に送り出しています。自然やアウトドアの愛好家は、ぜひこういったブランドを選びたいものですね。
B Corp認証企業は、B Labのホームページで検索することが可能で、Kathmandu社も以下のURLからスコアや開示情報を見ることができ、透明性が担保されています。
スコアや開示情報:KMD Brands Limited
https://www.bcorporation.net/en-us/find-a-b-corp/company/kathmandu/
コンチャ・イ・トロ
チリ最大級のワイナリーであるコンチャ・イ・トロ社をご存じでしょうか。チリ、米国、アルゼンチンで事業を展開している同社もB Corp認証企業のひとつです。ワインをお好きな方は、cono sur(コノスル)という銘柄で同社のことを知っているかもしれませんね。
たとえば、cono surのボトルの裏面を見てみるとB Corpの認証マーク(Certified B Corporation)がついています。認証マークは意識していないと見逃してしまいそうですが、意外と身近なところに認証マークのついた商品がありそうです。
スコアや開示情報:Viña Concha y Toro S.A.
https://www.bcorporation.net/en-us/find-a-b-corp/company/via-concha-y-toro-sa/
株式会社ovgo
日本の企業にも目を向けてみましょう。株式会社ovgoが手がけるアメリカンベイクショップ「ovgo Baker」では、卵もバターも使わない植物性にこだわったクッキーを販売しています。同社は、畜産業の温室効果ガス排出量が社会的な問題となっていることを考慮して植物性にこだわり、温室効果ガス排出量の削減、環境負荷の低い商品の販売、二酸化炭素のオフセット等がB Corp取得にあたり評価されたそうです。
クッキーは、必ずしも毎日口にするものではないかもしれませんが、こういったところから社会課題に向き合う同社の姿勢を見ると、わたしたち消費者側も変わらなければいけないと深く考えさせられます。
スコアや開示情報:ovgo inc.
https://www.bcorporation.net/en-us/find-a-b-corp/company/ovgo/
B Corp認証は、環境、地域社会、従業員への責任等を核とした、より広範で持続可能なビジネスの運営を推進しています。企業が社会的な問題解決に取り組む力を強化する上で、認証の取得を目指す企業は今後も増えていくでしょう。消費者側にも「B Corp認証企業の商品を購入しよう!」という潮流が高まることを期待します。
Nature Serviceからのお知らせ
日本初上陸となるニュージーランド発のアウトドアブランド「Kathmandu(カトマンズ)」の公式販売をスタートいたします。Nature Serviceの運営する星の森オートキャンプ場 (長野県売木村) にて、ポップアップストアとしての期間限定販売です。これまで海外でしか購入できなかった高品質かつデザイン性に優れたアウトドアウェアやアウトドア用品が国内で購入できるチャンスです!現地販売のみとなりますので、ご興味のある方はぜひ詳細をご確認ください。
Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。