3Dプリンティング技術で世界のリーディング・カンパニーとして活躍するStratasys Ltd.。(以下、「ストラタシス」)2021年10月、日本法人であるストラタシス・ジャパンの社員の皆さまが、Nature Serviceが企画運営する信濃町ノマドワークセンター(長野県)でワーケーションを実施しました。
今回、北アジア統括人事本部長の斉藤様にあらためてインタビューに応じていただき、人事課題の認識からワーケーションを検討し実行に移すまでの過程と、実際に体験して感じた必要性と有効性について語っていただきました。
ワーケーション事例 − リモートワークの次の働き方を見据えて −
ワーケーションを検討するに至ったきっかけは何でしたか?
リモートワークのさらに先の働き方を見据え始めたのがきっかけです。
弊社がリモートワークを制度化したのは2019年10月で、新型コロナウイルスの影響が出始める以前のことでした。当初は、自宅で仕事ができるわけないという反対意見の大合唱で利用率は2割にも満たなかったのです。ところが、その後コロナが蔓延し結果的にリモートワークを後押しされる形となり、現在はほぼ100%に近い形でリモートワークを行っています。
他社に先んじてリモートワークを導入していたこともあり、社員同士が対面で話す機会がなくなり2年になろうとしていました。リモートワークの次のステージへ進む時期だと思案し始め、社員のストレス軽減とともに、変化への対応力と柔軟性を養い、創造性・生産性の向上を図るためにワーケーションを検討するに至りました。
関連記事:「ワーケーション」とは?働き方と生き方の可能性を広げよう!
「リモートワークの次のステージ」とは、具体的にどのようなお考えを根底にお持ちだったのでしょうか?
「働き方の変化への対応」と「ビジネスの継続」、この2つを実行しつつも、それとは別に何か新しい価値の提供を会社として社員にできないか、そして社員自らが新しい発見をするきっかけ作りができないか、というアイデアを持っていました。
さらにこのアイデアをもとに、3つのコンセプトを考えました。
- 癒やし
- 新しい体験
- 都心から離れた場所(=非日常体験)
そして、これらのアイデアとコンセプトを満たす可能性を持つワーケーションを求め、日本全国のリモートワーク施設のリサーチを開始したのです。
ワーケーション施設を選んだ際のポイント
日本全国をリサーチした結果、信濃町ノマドワークセンターをワーケーション先として選択してくださいました。その理由を教えてください。
ノマドワークセンターに出会えた時は目からうろこでした。弊社のアイデアやコンセプトに合致しており、希望を形にしてくれたのはノマドワークセンターだけだったからです。
グローバル企業である弊社は、顧客に対し付加価値の高いサービスを提供しています。その観点から、法人専用貸し切り施設であることは絶対条件でした。個人と法人を一緒くたに受け入れている施設ではなく、インターネット環境を含めたインフラが整備され、法人の受け入れ体制がしっかり整っている施設に絞っていたのです。
また、関東近県からのアクセスや、地域コミュニティー、とりわけ自治体との連携も重要視していました。地元のことは地元の人に聞くのが一番ですよね。そういう意味でも、プランニングの段階から森林セラピーなどのイベントの企画も常にリードしてくれ、信濃町をあげて歓迎していただいたことも決め手となりました。そして、ノマドワークセンターを利用する1週間を「Nomad Project Week」と名付け、一大イベントとして実行する運びとなりました。
イベントとして実行に移すまでの段階で、社内から否定的な意見はまったく聞かれなかったとうかがいました。以前からこういったイベントを行っており、社員がイベント慣れしていたためでしょうか?
過去にこのようなイベントを行ったことはなく、今回が初めてでした。にもかかわらず、社員がすんなりと受け入れた背景には2つの要因があると考えています。
1つには、「Nomad Project Week」を実行する段階で、このイベントの趣旨・目的をマネジメント側から明確に伝えたことにあります。弊社はボトムアップ経営を行っていますが、今回の企画に関してはトップダウンで、そのメリットについて早い段階から社員にメッセージを送り続けました。
早期にリモートワーク体制を導入していたこともあり、社員はすでにストレス過多の状態に置かれ、「社員同士が直接会いたい」という気持ちを少なからず持っていました。だからこそ、なぜ今なのか、なぜ新しい体験が必要なのかを説き、ワーケーションの達成目標を次のように定めました。
- チーム・ビルディング(人との関係構築・コミュニケーション)
- セルフ・ファインディング(自らを解き放つ・見つめ直す)
明確な目標を設定し、なおかつマネジメント側と社員間でしっかり情報共有をしていたことで、皆が受け入れてくれたと考えています。
2つ目は、グローバルに活躍する弊社の社員がアドバンスな価値観を持っていることが挙げられます。弊社の社員に求められる能力は、変化への対応力と柔軟性、継続的な生産効率と質の向上、創造力の3つです。
これらは弊社のバリューであり、カルチャーでもあります。それゆえ、長野県信濃町という未知の場所で新しい試みをすると聞いても、その趣旨を受け入れ対応する能力があったと理解しています。
関連記事:新しい働き方「ワーケーション」社員にも会社にも嬉しいメリットとは?
働く場所で人が変わる。ワーケーション中の社員の変化
信濃町ノマドワークセンターでは、どのような業務を行っていたのでしょうか?
社員には2パターンの業務を遂行してもらいました。
まず、初めて行くノマドワークセンターで通常業務を行ってください、と事前に伝えました。社員は、長野県信濃町という田舎に行き、自然の中で仕事をするのね、という意識で現地入りしたはずです。
一方、現地入りしてからチーム・ビルディングにつながる業務を指示しました。
「森林セラピーを通して学んだことを通常業務にどう生かせるか」
「ノマドワークセンターという自然の中に身を置いたときに、自分をどのようにアウトプットできるか」
この2つをテーマにプレゼンを行ってもらったのです。
仕事上、普段関わり合いが薄いメンバー同士を組み合わせ、1チーム4~5人のグループを作成し、通常業務とは別にチームとして仕事をしてもらいました。
自然の中で働き、過ごすことで、どのような変化を感じたのでしょうか?
もしノマドワークセンターがパーティションで区切られた普通のオフィスだったら、気軽に他部署の人と話しができなかったという声がありました。オフィス勤務の時は、他人に見られたくないという感覚があり、自分のデスクに向かってひたすら仕事をし、「対話不要」というオーラを出すこともありました。でも、ノマドワークセンターでは人と自然に話せたそうです。そして、この気軽に話しができるという雰囲気が、結果的に仕事がはかどる、つまり生産性の向上につながったのです。
オフィスで仕事をしていた時は時間を決めて人を招集し、さあ、作業内容をすり合わせましょう、という時間を設けていましたが、それが必要ありませんでした。「自然が人を変えるのですね」と言った社員がいたように、私たちは自然にコミュニケーションがとれる環境に身を置いていたようです。
また生活面においては、快眠できた、血圧が安定した、という報告だけでなく、自然の中で寝起きするのは本当に良かった、もっと体験したかった、という声がありました。自然の中へ入る機会(森林セラピー)を得たことにより、仕事のことが忘れられた、という声もありましたね。全体を通して、良い変化しかありませんでした。
ノマドワークセンターを利用中の社員さんは和気あいあいとした雰囲気を醸し出していました。そのため普段からそういう雰囲気の企業だと思っていました。
パーティションで区切られたオフィス勤務の時は、そうではありませんでした。窓の外を見てもコンクリートしか視界に入らなかったオフィスの時を考えると、空間や働く場所がどれだけ大切なのかに気がつきました。自然の中へ入り、人が優しくなった気さえしましたね。
普段積極的に会話をしない人も、意見を言わない人も、自らが積極的なコミュニケーションをはじめたのです。つまり、本来その人が持っているものが不思議と出てきたのです。本当に不思議ですよね。
マネジメント側としては、これまで「マインドチェンジ」を口を酸っぱくして何年も何年も言い続けてきました。自分で変えようとしなければ自分は変わらないんだよ、と。だけど、いくら言葉で伝えても、本人の中で腹落ちしなければ変わらないのです。なのに、ノマドワークセンターに来た途端、自然が人を変えてくれました。
私はノマドワークセンターの広報担当ではありませんが、この感覚を本当に皆に知ってもらいたいのです。働くロケーションによって人の心が変化し、人が持つ能力が本当に自然と出るようになりました。普段、規制やルールにがんじがらめにされながら、あれはダメこれはダメという中で人が生きている証拠です。本当に”Nature”に帰る時期だと思いました。人間も動物ですから、絶対に自然の中の方が良いはずです。
関連記事:なぜ、自然に入ると心が落ち着くのか?
ワーケーション終了後の気づき – コミュニケーション・自然・食の大切さ –
「Nomad Project Week」終了後も何か変化はありましたか?
2つの大きな気づきがありました。
人と話すことの大切さ、自分から話しにいくことの大切さに気がついてくれました。今の時代、ネットを使えば情報はいくらでも出てきます。ですが、真に必要な情報は会社内部の人に聞くのがベストなはずです。自分で調べることは大切ですが、ネットを介して得た情報が本当にチーム・組織のためになる情報なのかは、社内の人間とコミュニケーションをとり確認する必要があるのです。自分一人がわかっていれば良いわけではなく、組織としてどうあるべきなのかに気がついてくれました。
これまではどこか受動的で、「誰かが言ってくれるだろう」という待ちの姿勢だった社員も少なからずいましたが、自分から話しかけることの大切さがよくわかった、と。
もう1つは、「自然の大切さ」に気がついたという声がありました。「Nomad Project Week」終了後の社内アンケートで「自然に囲まれた環境で働き、仕事をすることは自分にとってより良い体験となったか?」という問いに対し、「8割が良い体験となった」と回答しました。
社員の中には、普段からキャンプや公園に行き、自然に触れている者もいました。しかし、その目的が家族サービスだったり、体調管理のためのランニングであったり、どこかでやらなきゃ、という義務の中での活動でした。ですから、自然の中に入っているつもりでも、実際にはそこにある緑や新鮮な空気を自分の中に取り込めていませんでした。「自然の大切さ」に気がついた今は、もっと深く自然と接したいと思うようになったという意見がありました。
信濃町滞在中に、食の大切さにも気がついたとうかがいました。
ケータリングサービスで頼んだお弁当を、社員が目をキラキラさせながら食べていたのです。お水もコーヒーもクッキーもそのどれもがおいしかった、と。
東京にも当たり前に存在しているものばかりなのに、仕事中に食べるもの・飲むものはおいしくなくても仕方がない、という思いがどこかにありました。食って大切ですよね。ノマドワークセンターの窓から外の自然をながめて、社員同士が雑談をしながらお弁当をおいしそうに頬張る姿がとても印象的でした。
自由度の高い働き方を求め、信濃町ノマドワークセンターの活用を考える
企業として、本当の意味で自由度の高い働き方を模索しているように感じます。
リモートワークに対する企業の考え方はさまざまですが、弊社の場合「リモートワーク=在宅勤務」という考えは持っていません。社員を管理することはせず、自己責任としています。1日を通して何をやるのも、どの順番で仕事をするのも本人次第。1日、1週間、1カ月という単位で、どういうアウトプットを出していくのかは社員に任せています。
人は皆、「自由を与えられれば与えられるほど自由な発想が浮かぶ」と考えています。自由になると、好きなことや、やりたいことが目標や夢としてはっきりと思い浮かびます。リモートワークの次のステージに進むためにも、そこを社員全員に気づいてもらいたいのです。
人事部長の立場から、こういった働き方は採用活動にプラスに働くとお考えですか?
非常に有効だと考えます。最先端技術を取り扱う弊社は、非常に高いコミュニケーション能力を求めているため、新卒一括採用はしていません。ですが、福利厚生を充実させ、これからの若者たちに”自由”を提供する必要性は非常に大切だと思っています。
リモートワークの次のステージを考える中で信濃町ノマドワークセンターへ来ていただきました。今後も継続したいお考えはありますか?
あります。社内アンケートでもポジティブな声が8~9割。今後はシリーズ化していきたいと考えています。今回、社員を2つのグループに分けてワーケーションを実施し、各グループの滞在期間は2泊3日でした。それでは短すぎるという意見や、グループ分けをせずに全員で1週間過ごしたいという意見もありました。自然の中で仕事をする体験をより深く理解するには長期滞在が必要なのかもしれません。
また、(同じ敷地内にある)やすらぎの森オートキャンプ場に家族も連れてきてテントを張り、そこからノマドワークセンターへ出社するのもいいな、という声も。
法人として対価を払う以上は、それだけのものを提供してもらうことが大前提です。ノマドワークセンターは本物です。ブームに乗じたワーケーション施設ではありません。月単位で借り上げ、周囲のアパートなども借りてノマドワークセンターで仕事をするようにすれば、色々な意味でシナジー効果を生むと思っています。
今後も、ノマドワークセンターを有するNature Serviceのように先を見ている企業とタイアップし、新しい道を切り拓いていきたいですね。ノマドワークセンターとは本当にチームだと思っています。
(聞き手:網野葵、菊地薫)
編集後記
「ノマドワークセンターとは本当にチームだと思っています。」この言葉に思わず胸が熱くなりました。
日本は都市集中化が進み、人工物に囲まれた生活により創造性や集中力を欠き、ストレスを抱える毎日を送っています。しかし、それをどこかで仕方ないと思っている人たちが多く、その解決策の選択肢に”自然の活用”という発想がありません。一方の企業は、従業員の労働生産性の低下、メンタルヘルスの問題などによる人事課題を抱えています。
こういった日本の社会課題の解決に自然を活用し、豊かな自然を抱える「地方」と「個人や企業」の懸け橋となる、それがNature Serviceの存在意義の1つです。今回、斉藤様のインタビューを通して、私たちは、360度森に囲まれた信濃町ノマドワークセンターの存在価値を再認識することができました。ストラタシス・ジャパンの皆さまと長野県信濃町の豊かな自然をつなぐ懸け橋となれたのであれば、大変光栄です。
Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。
5件のコメント