昔から数々の文学者を虜にし、たくさんの小説の舞台にもなっている伊豆ですが、今回は文学作品の中に登場してくる道をたどってトレッキングし、その主人公や作者の思いに馳せてみる旅、言ってみれば「アウトドアと文学の融合」した山旅をご紹介したいと思います。

伊豆の踊子の面影をたどって・・・

伊豆を舞台にした小説、その中でもひときわ有名なものと言えば、1968年に日本人初のノーベル文学賞を受賞した作家、川端康成氏の「伊豆の踊子」ではないでしょうか。

この小説は、作者である川端氏が旧制第一高校(現在の東大教養学部の前身)時代に伊豆へひとり旅に出かけ、修善寺から天城峠を越え下田へ向かう旅芸人一座と行動を共にし、その中にいた踊り子に淡い恋心を抱いた実話をもとに作られた作品です。世界中の色々な国々で翻訳され、また、過去には6回も映画化されています。

伊豆の踊子 (著 川端康成、新潮文庫)

昔を彷彿させるレトロなトンネル

伊豆の真ん中に位置する修善寺からバスに乗ることおよそ1時間、新天城トンネル手前にある「天城峠」でバスを降ります。そこから急な石段を登ることおよそ10分、国の重要文化財である旧天城トンネル(天城山隧道)前に到着です。

小説の中に登場してくる「峠の北口の茶屋」は、かつてこのトンネルの入り口付近にあったもので、その先に続くトンネルを踊子ら旅芸人一座と作者も通っていきました。

現在でもこの旧天城トンネルは徒歩や車で通ることができ、全長445.5mのアーチ状のトンネルの天井や側面はすべて切り石を一つひとつ組合せて作った石造道路トンネルで、日本に現存する中では最長のものなのです。

トンネル内はガス灯を模した照明が取り付けられ、また、道も舗装されていないことから、かつてここを通った踊子や作者の情景が浮かんでくるかのようです。

牧歌的情緒漂う山里を抜けて

トンネルを抜け、そこからはひたすら下り基調の「踊子歩道」をトレッキングしていきます。 途中、歌手・石川さゆりさんの「天城越え」に登場する「寒天橋」をとおり、太くて樹高の高い杉並木が林道脇に続いている「宗太郎園地」を抜けると大小いくつもの滝が姿を現します。

ここは「河津の七滝(ななだる)」といわれる場所で、かつての踊子や作者もこの変わったいくつもの滝を前に興味を示したことでしょう。 ここから先は、どこか昔懐かしい牧歌的感じ漂う河津の里を通って湯ケ野までトレッキングしてゆきます。

文豪達の愛した温泉宿

文豪達の愛した温泉宿 「河津の七滝」から歩くことおよそ1時間、湯ケ野地区に到着です。 ここは昔ながらの風情が残る温泉場で、幾つかのこじんまりした温泉宿が軒を連ねます。 かつて、作者は伊豆を旅行中の3日目、ここ湯ケ野温泉にある「福田屋」にて宿をとりました。

翌朝、作者が湯につかっていると、川向こうの湯殿から無邪気に大きく手を振る踊子の裸体を目にしたのは、この宿からなのです。 現在でも、作者が泊まったのと同じ部屋への宿泊もできますし、また、作者がよく好んで入ったという榧(かや)風呂にも日帰り入浴させてもらえますので、トレッキングでかいた汗を流すのにも良いかも知れません。

伊豆の踊子の宿 福田屋 (筆者撮影)

また、ここは作者である川端康成だけでなく、太宰治をはじめ様々な文豪たちが訪れたことでも有名で、館内にはその資料室が設置されています。 この後、踊り子たち旅芸人一座と主人公は下田まで行動を共にし、作者は東京に戻るための船に一人乗船し、踊り子と離ればなれとなってゆきます…

小説の舞台となった地を、実際に自分の足で歩いてたどってみるのもなかなか面白いものですよ! 秋の紅葉、色とりどりの花などを見て歩くトレッキングとは一味違い、小説の舞台となった地を主人公になった気分で歩いてみるのも、色々な発見があるかも知れません。

ぜひ一度、以前に読んだことがある小説や気になっている小説の地を、自分の足でたどってみてはいかがでしょうか?

登山ガイドサービス自遊舎 代表・日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・臨床検査技師 夏は富士山や南アルプス、八ヶ岳等のガイドを、また、オフシーズンには富士山麓や伊豆、箱根などをガイドしております。単なる道案内にとどまらず、その地域の歴史や文化などに触れて頂けるガイディングを目指して日々活動しております。

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