相続した山がある。地域の縁で山を持つことになった。手入れができないまま、何年も放置している。

何かに活用できないか。そう考えて検索すると、キャンプ場、太陽光発電、体験プログラム、企業研修のフィールドなど、さまざまなアイデアが出てきます。けれど、そのどれが自分の山でできるのか。そこまでは、なかなか書かれていません。

この記事を書いているNPO法人 Nature Serviceは、長野、栃木、埼玉で森林や自然を活かした施設の指定管理・運営を手がけ、長く閉鎖されていた公共キャンプ場の再生や、遊休施設を法人向けの拠点に転換するなど、多種多様な自然環境を事業化してきました。

実家の山をなんとかしたい方、地域の縁で受け継いだ森を活かしたい方、まだ土地は持っていないけれど森に関わりたい方。森をどう活用するかを判断するとき、私たちが何を見ているのか。この記事では、その視点をお伝えします。

判断そのものを外部の人間が代わりに下すことはできませんが、判断材料を持つことで、次に調べるべきこと、会うべき人、試すべきことは見えてきます。

アイデアと事業のあいだにある距離

「使っていない森がある。何かできるはずだ」

森の活用を考える入口には、こうした思いがあります。実際、使われていなかった場所に、新しい役割が生まれることはあります。

私たちが長野県信濃町で運営している「やすらぎの森オートキャンプ場」も、その一つです。もともとは長く閉鎖されていた公共のキャンプ場でした。知人を通じて「使っていない場所があるが、何かできないか」と声をかけられ現地に立ったとき、そこはキャンプ場として再生する道しか見えませんでした。決め手は、使える平らな土地があり、景観に魅力があったことです。

一方で、同じように見える放置林でも、条件が変われば選べる道は変わります。人を呼べるアクセスがあるか。水や電気を確保できるか。法的な手続きに無理はないか。地域との関係を築けるか。

活用のアイデアと、実際の事業のあいだには、距離があります。どんな森にも同じ答えがあるわけではありません。だからこそ、用途を先に決めるのではなく、まずはその土地の条件を読む必要があります。

また、森を事業にしたいと考える人にも、いくつかのタイプがあります。

  • 受け継いだ山を自分の手で活かしたい人。
  • 山は持っているが、自分では動けず、誰かに事業として動かしてほしい人。
  • 土地は持っていないが、どこかを借りて始めたい人。

立場によって、見るべき条件も、取れる選択肢も変わってきます。

森の可能性を確かめる、はじめの一歩

地図、航空写真、法規制、周辺の道路。事前に確認できる資料はあります。ただ、その前に欠かせないのが、現地に身を置くことです。

やすらぎの森オートキャンプ場でも、運営を始める前に、友人を集めてテストキャンプを行いました。実際に泊まってみる。夜の暗さや静けさを知る。星が見えるかを確かめる。その場所で過ごして、また来たいと思えるかを感じる。土地を所有しているだけでは、こうした感覚は分かりません。

実際に過ごしてみなければ、その魅力を見極めにくいものです。傾斜があるというだけで、事業化への可能性がなくなるわけではありません。木を整理すれば、その奥に街の灯りや海が見えることもあります。地形は制約であると同時に、その場所にしかない魅力の材料にもなります。

これまでの経験をもとに、私たちが重要だと認識しているのは、おおむね次の7つです。

  1. 現地で過ごしたときに、また来たいと感じる魅力があるか
  2. 景観と地形に、活用の手がかりがあるか
  3. 人が安全に来られるアクセスを確保できるか
  4. 水、電気、通信をどう確保するか
  5. 法的な制約を乗り越えられるか
  6. 土地の所有者や地域と、どのような関係を築けるか
  7. 維持管理と季節ごとの負荷を引き受けられるか

7つの条件すべてを同じ重さで見るわけではありません。たとえば携帯の電波状況などは事前に確認できます。
一方で、データや調べものだけでは絶対に見えてこないのが、地域の「人間関係」や「自然の想定外の厳しさ」です。ここからは、実際にリスクを背負って現場を動かしてきた私たち実践者にしか語れないリアリティについて、重要なポイントをピックアップしてお話しします。

動き出してから現れる、想定外

どれだけ調べても、動き出してから分かることは多々存在します。ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。

行政から公共の森を預かる私たちの場合、事前に多くの情報が共有されます。それでも、実際に事業を始めてから分かることは残ります。個人で山や森に向き合う場合も、この点は変わりません。

たとえば豪雪地では、冬の雪や寒さが設備に大きな負荷をかけます。これは私たちも経験がありますが、自然の威力は想像以上です。春に雪が解けると、あちこちが壊れている。雨が降れば、水はけの悪い場所が見えてくる。現地を何度訪れても、季節が一巡しなければ分からない条件があります。

近隣との関係も、防ぎきれないことのひとつです。自然が豊かな場所にあることが多いキャンプ場では、周囲に畑や田んぼが広がっていることも珍しくありません。近隣の畑では、夏場の早朝から草刈りが始まることがよくあります。作業する側には、暑くなる前に済ませたいという理由があります。キャンプ場に宿泊する側には、朝は静かに休みたいという思いがあります。

どちらが悪いわけではありません。異なる暮らしや仕事が、すぐ隣で営まれている。自然のなかで事業を行うとは、こういうことの板挟みになることもあり得る、ということなのです。

地域の受け止めも、はじめは警戒から入ることがほとんどです。長く使われていなかった場所を、外から来た人が動かし始める。その様子は、地元の目には「うまくやり始めたよそ者」と映ることがあります。もとをたどれば、その場所を活用できずにいたのは地域の側です。それでも、その事情まで考えが及ぶ人ばかりではありません。頭で分かっていても、感情はそのとおりには動かず、軌道に乗れば「調子に乗っている」と言われることもあります。

その土地で起こり得るすべてのことを事前に見極めるすべは、ありません。それでも、現場で起こりうることを多少なりとも知っていれば、自分たちだけにメリットのある計画や、無理のある計画を避けることはでき、地域の人たちとの関係性を壊さずに済みます。

条件によって変わる、選べる道

森の条件が違えば、取れる選択肢も変わります。正解を当てるのではなく、条件に合う道を探す話です。

人を呼べるアクセスがあり、滞在したくなる魅力があり、インフラや制度の条件も整えられる。そうした場所であれば、自ら運営する、事業者と組むといった道が見えてきます。

一方で、道がなく、人を集めにくい場所もあります。そのときは、いきなり宿泊施設や観光事業を考える必要はありません。まず、小さな用途から試す、利用目的を絞る。選べる道は、一つではありません。

事業に深く関わりたいわけではなく、まず経験を積みたいという場合もあります。その場合は、いきなり自分で始めるのではなく、すでに動いている場所を手伝う、誰かのプロジェクトに加わる、という関わり方もあります。実際に、私たちが運営する現場にも、「将来、自分でキャンプ場を経営するための実践的なノウハウを学びたい」と、数ヶ月間ともに働いて現場のリアルを吸収していった仲間がいました。

事業のサイズと、自分がどれだけのリスクを引き受けるか。この二つが、関われる範囲と得られるものを決めます。リスクを引き受けずに口だけを出す人は、多くを得られません。

森の活用は、正解を当てる作業ではありません。条件を読み、その条件に合う使い方を探す作業です。だからこそ、他の場所で成功している事業や流行っている業態を、そのまま持ち込まないことが大切になります。

流行より先に見るべきもの

森を活かした事業を考えるとき、いま流行している業態が候補に挙がることがあります。ただ、流行っているから選ぶ、という判断には注意が必要です。

たとえばグランピングは、一見キャンプ場に近く見えます。しかし、自らテントを設営して自然のなかで過ごすキャンプと、宿泊施設に近い快適さを求めるグランピングでは、利用者の期待も、必要な運営体制もまったく違います。

清潔さ、安全性、サービスの質を保つには、人の配置と継続的な管理が欠かせません。ホテルに近い期待を持つ利用者を迎えるなら、その期待に応えられる体制をつくる必要があります。自然のなかでは、虫や動物、天候、けがのリスクを完全には取り除けない。自然の条件を前提に楽しむ人に向けるのか、サービスを受けながら自然に触れたい人に向けるのか。この違いは、事業の設計を根本から変えます。

場所に合うかどうか、だけではありません。誰に、何を届けるのか。その期待に、自分たちは応え続けられるのか。用途を選ぶときには、土地の条件と、利用者の期待と、運営側の体制を、一緒に考える必要があります。

小さく試して、形をつくる

完成を待ってから始めるのではなく、動かしながら整えていく。この判断も実は大変重要です。

資金や人手には、はじめから限りがあります。だからこそ、完成させてから始めるのではなく、動かしながら整えていく。これが現実的な選択になることがあります。

始めてみなければ、実際にどう使われるかは分かりません。利用者がどこに魅力を感じ、どこを不便に思うかも見えてこない。一方で、安全に関わる部分だけは、始める前に整えておく必要があります。どこまでを先に整え、何を続けながら改善していくか。この線引きが重要になります。

やすらぎの森オートキャンプ場も、この形をとりました。倒木があり、設備も止まっていた場所を、安全に使える範囲から開き、運営しながら整えていきました。すべてを直してから開けたわけではありません。

季節ごとの営業判断も同じです。冬に営業するかどうかは、気合いや希望で決めるものではありません。どれだけの人が来て、どれだけの売上が見込めるのか。営業するために、どれだけの設備維持や安全管理が必要になるのか。費用とリスクに見合うかを計算し、営業しないほうがリスクを抑えられるなら、クローズするという判断もある。季節性は、意思ではなく設計の問題です。

小さく試すとは、勢いで踏み出すこととは違います。安全の線だけは先に引き、限られたお金と人手のなかで、続けられる形を探す判断です。この考え方は、団体でも個人でも、桁が違うだけで変わりません。

すべての判断の軸になること

ここまで、土地の条件や実際に私たちが経験してきたことの一部をお話ししてきましたが、最後に、私たちが何より根底で大切にしている視点をお伝えします。

森を事業にしようとするとき、私たちが最初に考えるのは、「自分自身が、その場所に本当に居たいと思えるか」というごくシンプルな問いです。

どれほど採算が合いそうな条件が揃っていても、自分たちがその土地に愛着を持てなければ、厳しい季節や想定外のトラブルを乗り越えることはできません。何をやりたいかという手法より先に、自分がその場所とどんな関係性を築きたいのか。そこがブレない軸となります。

実は、私たち自身も最初から答えを持っていたわけではありません。知識や経験の不足、人間関係、人脈など、きりがないほどさまざまな困難にぶつかった苦い経験もあります。そこから試行錯誤を重ね、閉鎖された公共のキャンプ場を預かって再生させたことを起点に、多様な自然環境や事業形態を経験してきました。

現場で迷い、何度も遠回りをしてきたからこそ、これから森に関わる人が同じ苦労を繰り返さずにすむような「最短の手順」を伝えられるだけの知見を積むことができたと考えています。

こうした現場のリアルな知見を体系立てて学び、想いを具現化するための実践講座として生まれたのが「森林活用企画士」です。

受け継いだ森をどう活かすか悩んでいる方、まだ土地を持たずに森と関わりたい方など、個人・法人を問わず、答えを探しているすべての人に向けた学びの場です。(※林業の専門知識や土地の所有がなくても受講いただけます)

正解のない森の活用において、あなたの最初の一歩を支える判断材料となれば幸いです。ご関心のある方は、ぜひ「森林活用企画士」の公式サイトをご覧ください。