会議を重ねても、同じ話の繰り返しになってしまう。生成AIで資料を整えても、チームの本音や新しい発想が出てこない。
そんなときは、一度、会議室を出てみるのも一つの方法です。
歩きながら話す「ウォーキングミーティング」は、アイデアを広げたいときや、チームの課題を棚卸ししたいときに向いている対話の形です。特に森の中を歩く時間には、森林浴の力も重なります。身体を動かし、自然を感じながら話すことで、会議室では生まれにくい言葉が出てくるかもしれません。
この記事では、ウォーキングミーティングの効果、森林浴が心身に与える影響、そして「森を歩く会議」を企業に取り入れる方法を紹介します。
会議室では、なぜ議論が煮詰まりやすいのか
会議室には、便利さがあります。 資料を投影でき、議事録を取りやすく、意思決定の場として機能します。
一方で、会議室には独特の固定感もあります。座る位置、発言する順番、役職の上下関係、画面に映る資料。こうした要素が、無意識のうちに発想や対話を狭めてしまうことがあります。
特に、次のようなケースでは、議論が煮詰まりやすくなります。

こうした会議では、正解をすぐに出すことよりも、問いを広げること、本音を出すこと、視点を変えることが重要です。
しかし、会議室に座ったままだと、どうしても「結論を急ぐ」「発言者が偏る」「沈黙が気まずい」といった状態になりがちです。オンライン会議ではさらに、雑談や余白が生まれにくくなります。
また近年は、生成AIの利用によって仕事のスピードは上がる一方、画面を見続ける時間や確認作業が増えているという指摘もあります。ピップ株式会社の調査1では、生成AI利用者のうち約6割が、生成AI普及前と比べてパソコンやスマートフォンの利用時間・頻度が増えたと感じており、利用時や利用後の不調として「目の疲れ」「首のこり・はり」「肩のこり・はり」が挙げられています。
AIは、便利な道具です。 しかし、AIが答えを出してくれる時代ほど、人間には「何を問うか」「どう判断するか」「誰と納得をつくるか」が問われます。
そのためには、画面から少し離れ、身体を動かしながら考える時間が必要なのです。
ウォーキングミーティングとは?「歩く会議」という対話の形
ウォーキングミーティングとは、文字通り、歩きながら行う会議や対話のことです。
会議室でテーブルを囲むのではなく、屋外や廊下、公園、森の散策路などを歩きながら話します。海外企業の経営者やクリエイターの間でも知られている方法ですが、特別な道具は必要ありません。必要なのは、歩ける場所と、話したいテーマだけです。
ただし、すべての会議に向いているわけではありません。
ウォーキングミーティングに向いているテーマ
ウォーキングミーティングに向いているのは、次のようなケースです。

これらに共通しているのは、正解を一つに絞る前に、考えを広げる必要があるということ。
歩きながら話すと、会議室よりも視線の圧力が弱まります。正面から向き合うのではなく、横並びで同じ方向を見ながら話すため、緊張がやわらぎやすくなります。
沈黙も、会議室ほど気まずくありません。 数十秒黙っていても、足音や風の音、周囲の景色が場を支えてくれます。
この「沈黙が許される」ことは、実はとても大きな意味を持ちます。人は沈黙の中で考え、本音を探し、次の言葉を選ぶからです。
ウォーキングミーティングに向いていないテーマ
一方で、ウォーキングミーティングに向かない会議もあります。

こうした会議は、会議室やオンラインの方が適しています。
ウォーキングミーティングは、万能な会議手法ではありません。 しかし、チームの関係性を整え、発想を広げ、対話を深める場としては、非常に相性の良い方法です。
ウォーキングミーティングの効果とは
では、歩くことで、本当に創造性が高まり発想が変わるのでしょうか。
この問いに対して、よく引用される研究があります。スタンフォード大学のMarily Oppezzo氏とDaniel L. Schwartz氏による研究では、座っているときと歩いているときの創造的思考を比較し、歩行が創造的なアイデアの生成を高めることが示されました。スタンフォード大学の報道では、歩くことで創造的なアウトプットが平均で約60%高まったと紹介されています。2
この研究で重要なのは、歩くことがすべての思考に効くわけではない点です。 歩くことが特に効果を示したのは、自由にアイデアを広げるような「拡散的思考」です。一方で、唯一の正解を探すような集中型の思考には、同じような効果は確認されていません。最終判断や細かな確認は、歩いた後に会議室へ戻って行う方がよいでしょう。
ウォーキングミーティングの価値は、単に「歩くと健康に良い」ということだけではありません。 身体が動くことで、思考も動き出す。 視線が変わることで、関係性も変わる。 場所が変わることで、言葉の出方も変わる。
そこに、「歩く会議」のおもしろさがあります。
森を歩くことが心身に与える影響
ウォーキングミーティングは、街中やオフィス周辺でも実践できます。
しかし、森の中で行うウォーキングミーティングには、さらに別の価値があります。 それが、森林浴の力です。
森林浴とは、森の中で空気、光、音、香り、木々の存在を感じながら過ごすことを言います。特別な運動をする必要はありません。ゆっくり歩く、立ち止まる、深呼吸する、周囲の音に耳を澄ます。そうした行為も、森林浴の一部です。

森林浴や、森林セラピー®を含む森林療法(forest therapy)に関する研究では、ストレス、気分、血圧、コルチゾール、免疫指標など、心身へのさまざまな影響が検討されてきました。森林浴に関する医学的研究のシステマティックレビューでは、一部の研究でコルチゾールの低下、NK細胞活性の上昇、ポジティブ感情の増加やネガティブ感情の低下などが報告されています。3
また、2026年に公開されたforest therapyに関するシステマティックレビュー/メタ分析では、25研究・1,876人を対象に、森林での介入が心理的ストレス、抑うつ症状、不安症状の短期的な低減と関連することが報告されています。4
もちろん、森林浴は医療行為ではありません。 森を歩けばすべての不調が解決する、というものでもありません。それでも、森の中に身を置くことには、私たちの心身を整える可能性があります。 その一つが「注意の回復」です。
注意回復理論とは
仕事をしていると、私たちは意識的に注意を使い続けます。 メールを読む。資料を確認する。会議で発言を聞く。通知に対応する。生成AIの出力を確認する。
こうした「意図的に集中する力」は、使い続けると疲れていきます。
注意回復理論(ART:Attention Restoration Theory)では、自然環境には、使い続けた注意を回復させる働きがあると考えられています。自然の景色や音、光のゆらぎは、強制的に集中を奪うのではなく、やわらかく注意を引きつけます。この「やわらかな魅力」が、疲れた注意を休ませる環境になると説明されています。5
会議室や画面の中では、私たちは常に「集中しなければ」と思っています。 しかし森の中では、集中しようとしなくても、風の音、足元の感触、木漏れ日、鳥の声が自然に意識へ入ってきます。
この違いが、思考の余白を生みます。
反芻思考から離れる時間としての森歩き
森を歩くことは、同じ悩みを頭の中で繰り返す「反芻(はんすう)思考」から離れる時間にもなり得ます。
2015年にPNASに掲載された研究では、自然環境を90分歩いた参加者は、都市環境を歩いた参加者に比べて、反芻思考が低下したと報告されています。また、反芻思考に関連するとされる脳領域の活動にも低下が見られました。6
仕事で悩みが続くと、人は同じ問いを何度も頭の中で繰り返します。
「なぜうまくいかないのか」「誰が悪いのか」「どうして自分ばかり大変なのか」
もちろん、問題を考えることは大切です。 しかし、考え続けるだけでは、視野が狭くなることもあります。そんなとき、森を歩く時間は、悩みを少し遠くから見直すきっかけになります。
森林浴と森林セラピー®の違い
ここで、森林浴と森林セラピー®の違いも整理しておきましょう。
森林浴は、森の中で過ごし、五感で自然を感じる行為を広く指します。木々の香りを感じる、鳥の声に耳を澄ませる、木漏れ日の中をゆっくり歩く。そうした時間も、森林浴の一部です。
一方、森林セラピー®は、特定非営利活動法人森林セラピーソサエティの登録商標で、科学的な証拠に裏付けられた森林浴を指す言葉として使われています。森林環境を健康づくりに活用する取り組みであり、森林セラピー基地やセラピーロードの認定、ガイド、プログラムなどの仕組みがあります。

たとえば、長野県信濃町には、認定を受けた森林セラピー基地「信州信濃町 癒しの森®」があります。信濃町は2006年の第一期に森林セラピー基地として認定された地域の一つであり、森林環境が人の心と身体に与える影響について、早くから医学的な調査研究が行われてきた森林セラピーの先進地です。
さらに、「信州信濃町 癒しの森®」は、2020年に森林セラピー基地「2つ星」に昇格認定されています。2つ星の認定制度が始まって初めての認定であり、信濃町が長年にわたり森林と健康を結びつける取り組みを積み重ねてきたことを示しています。
企業がこうした自然環境を活用する方法は、一つではありません。認定を受けた森林セラピー基地で、専門ガイドやプログラムを利用する方法もあります。一方で、森の近くにあるワークスペースを拠点に、通常業務、散策、ウォーキングミーティング、チームの振り返りを組み合わせる方法もあります。
大切なのは、自社の目的に合わせて自然との関わり方を設計すること。心身を整えることを重視するなら、森林セラピー®のプログラムを活用する。チームの対話や企業ワーケーションを重視するなら、森の近くにある法人向け施設を活用する。そうした選択肢を持つことで、自然は単なる観光資源ではなく、組織づくりの場にもなります。
特に生成AIが日常的に使われるようになった今、森を歩く時間は、これまで以上に意味を持ち始めているのかもしれません。
AI時代だからこそ「森を歩く会議」が必要な理由
生成AIは、私たちの働き方を大きく変えています。 文章を整える。議事録を要約する。アイデアを出す。調査のたたき台をつくる。
これまで人が時間をかけていた作業の一部は、AIによって効率化されつつあります。
一方で、AI活用が進むほど、人間に残る仕事の重要性も高まります。AIに何を聞くのか。出てきた答えをどう判断するのか。チームとして何を大切にし、どの選択肢に納得して進むのか。
これらは、AIだけでは完結しません。
実際、生成AIを仕事で使う人が増える中で、業務量や教育、スキル形成に関する課題も見え始めています。Upwork Research Instituteの2024年調査では、経営層の96%がAIによる生産性向上を期待する一方、AIを使う従業員の77%が「AIによって仕事量が増えた」と回答しています。7
日本でも、パーソル総合研究所の調査で、生成AI利用者のうち業務時間が減少した人は約25%にとどまり、利用頻度が高い層ほど残業時間が長い傾向があると報告されています。また、削減できた時間の6割以上が再び仕事に投下され、その多くが日常業務に使われているとされています。8

AIで効率化しても、その分だけ人が休めるとは限りません。むしろ、空いた時間に次の仕事が入り、思考の余白がさらに失われることもあります。
だからこそ、チームには意識的に「立ち止まる時間」が必要です。 ただ休むのではなく、歩きながら思考を整える。森の中で、画面を見ずに、同じ方向を向いて話す。
森を歩く会議は、AIから逃げる時間ではありません。 AIをよりよく使うために、人間側の問い、判断、関係性を整える時間です。
「歩く会議」を実践してみよう
では、企業がウォーキングミーティングや森を歩く時間を取り入れるには、どのような方法があるのでしょうか。
一つは、認定を受けた森林セラピー基地や、専門ガイドによるプログラムを活用する方法です。心身を整える体験として森の時間を丁寧に設計したい場合には、こうした選択肢が有効です。
もう一つは、森の近くにあるワークスペースや法人向け施設を拠点にする方法です。午前は通常業務や会議を行い、午後は森を歩きながら対話する。散策後にワークスペースへ戻り、出てきたアイデアや気づきを整理する。そうした形であれば、企業研修だけでなく、ワーケーションやオフサイトミーティングにも取り入れやすくなります。

たとえば、長野県信濃町にあるノマドワークセンターでは、集中して働けるワークスペースと、仕事の合間に森の散策を楽しめる環境を組み合わせることができます。森の中で生まれた対話を、すぐに会議室やワークスペースに持ち帰り、具体的なアクションへ落とし込めることが大きな特徴です。
「歩く会議」は、特別な設備がなくても始められます。ただし、企業として実施する場合には、移動時間、作業環境、振り返りの場所などを含めて設計することが大切です。森の近くにある法人向け施設を活用すれば、その設計がしやすくなります。
森を歩くことから、チームの会議を変えてみる
ウォーキングミーティングは、大がかりな研修プログラムを用意しなくても始められます。必要なのは、問いを一つ持つこと。そして、会議室を出て歩き出すことです。
アイデアを広げたいとき、チームの課題を棚卸ししたいとき、1on1で本音を聞きたいとき。「歩く会議」は、会議室では生まれにくい対話を引き出すきっかけになります。
なかでも森の中を歩く時間は、身体を動かすことと森林浴の力を同時に取り入れられる時間です。
AIが答えを出してくれる時代だからこそ、人間には問いを立てる力が必要です。チームの会議が煮詰まったときは、一度、会議室を出てみる。同じ方向を見ながら、歩いて話してみる。その小さな一歩が、チームの会議を変えるきっかけになるかもしれません。
- 半数以上が生成AIを利用する現代。効率化のはずが、裏で増える画面時間と無意識に蓄積する身体の不調とは ↩︎
- Stanford study finds walking improves creativity ↩︎
- Medical empirical research on forest bathing (Shinrin-yoku): a systematic review ↩︎
- Forest therapy for psychological stress and emotional disorders: a systematic review and meta-analysis ↩︎
- Chapter 19 The Restorative Environment: A Complementary Concept for Salutogenesis Studies ↩︎
- Nature Experience Reduces Rumination and Subgenual Prefrontal Cortex Activation ↩︎
- Upwork Study Finds Employee Workloads Rising Despite Increased C-Suite Investment in Artificial Intelligence ↩︎
- 生成AIとはたらき方に関する実態調査 ↩︎


Nature Serviceのウェブメディア NATURES. 副編集長。
自然が持つ癒やしの力を”なんとなく”ではなく”エビデンスベース”で発信し、読者の方に「そんな良い効果があるのなら自然の中へ入ろう!」と思ってもらえる情報をお届けしたいと考えています。休日はスコップ片手に花を愛でるのが趣味ですが、最近は庭に出ても視界いっぱいに雑草が広がり、こんなはずじゃなかったとつぶやくのが毎年恒例となっています。