森林ビジネス、森林資源の活用。言葉としてはよく見かけます。ネイチャーポジティブ、森林環境譲与税、カーボンクレジット。制度も市場も動いていて、これから伸びる分野だと語られています。
では、実際に事業として成り立つのでしょうか。「儲かるのか、儲からないのか」。多くの方が最初に知りたいのは、そこだと思います。
私たちは長野・栃木・埼玉で、森林やキャンプ場の指定管理・運営を手がけているNPO法人、Nature Serviceです。長く閉鎖されていた公共キャンプ場を再生し、森に囲まれた遊休施設を法人向けのリモートオフィスに変え、企業向けのフィールドワークなどの設計も手がけてきました。
私たちの経験では、森林資源の良し悪しだけで、事業の成否が決まるわけではありませんでした。
分かれ目になったのは、
- 利用者に価値を届けられるか
- 本業や収益源につながるか
- 別の現場でも再現できるか
という3点です。
この記事では、実際に収支につながらなかった取り組みと、想定以上に広がった取り組みを比べながら、「儲かる・儲からない」を分ける手前にある「回し方」、つまり「設計」の話をしていきます。
「森林資源の活用」と呼ばれるものの、実際の中身

「森林資源の活用」や「森林ビジネス」とひとくくりにされますが、中身は多様です。木材の生産、観光、自然体験、企業研修、宿泊、教育、カーボンクレジット、フィールドの貸し出し。どれも森を活かす事業ですが、お金の入り方はそれぞれ別物です。単価の高いものと薄いもの、一度きりの受託で成り立つものと、人数を積み上げて成り立つもの。同じ「森林ビジネス」という言葉の下に、性格の違う事業が同居しています。だからこそ、「森林資源の活用ビジネスは儲かるのか」という問いには、ひとことで答えられません。
ここで、言葉の整理をひとつ。私たちは特定非営利活動法人、いわゆるNPOです。「儲かる」という言葉を使うことに、違和感を持つ方もいるかもしれません。時折、NPOは利益を出してはいけない組織だと誤解されることがありますが、そうではありません。利益を構成員へ分配しないことを前提に事業を行い、税法上の収益事業から生じた所得には法人税等が課されます。人を雇い、施設を維持し、次の活動へ投資するには、NPO法人であっても継続できる収支をつくる必要があります。
この記事でいう「儲かる」とは、誰かの取り分が増えることではなく、自然に関わる活動を一度きりで終わらせず、続けていけるだけの収支が残るかどうか、という意味です。その前提で、成り立った事業と、そうでなかった事業を見ていきます。
日本の森が抱えている構造
まず、森を活かす事業に追い風が吹いている、その背景を短く押さえておきます。
日本の国土のおよそ7割は森林です。育てて守る担い手はいても、活かす担い手はまだ多くありません。そして、森を活かしたいと望む相手は、少しずつ広がっています。自然関連の情報開示に取り組む企業、森林環境譲与税を使って普及や担い手育成を進めたい自治体、自然のなかでの学びを求める教育の現場、地域の資源を観光につなげたい地域。そして、制度も動いています。森林環境譲与税は、2024年度に総額約630億円が自治体へ配分されました(出典:総務省)。1
制度と関心は高まっている。しかし、活かす担い手が少ない。これは、日本の森林・林業が抱える課題の裏返しでもあります。ここに事業の余地があります。ただし、余地があることと、事業が成り立つことは別の話です。ここから先が、この記事の本題です。
森を事業にする前に、残しておきたい余地

新しい事業に、いきなりすべてを賭ける必要はない。立て直しと再挑戦の余地を残して始める。それが、自然を相手にするときの現実的な構えだと考えています。
いま、この記事を読んでいる方のなかには、会社に勤めながら森に関わる道を探している方、自治体で地域の資源を担当している方、田舎の山を継いで持て余している方も多いと思います。まず申し上げたいのは、その「いまの立場」を手放してから森に飛び込む必要はない、ということです。
なぜ、退路を断つのではなく、土台を残すことをおすすめするのか。
森を相手にする事業は、自然と地域の事情で、想定外が構造的に起きるからです。雪で設備が傷む、電波が届かない、新参者は地域に警戒される。これは努力や気合の不足ではなく、その土地に身を置いてみて初めて分かることです。想定外は、必ず来ます。だとすれば、困難にぶつかったとしても、もう一度立て直せる余地を残しておくほうが、むしろ攻めの設計になります。土台を残すことは、想定外に耐え、試行錯誤を続けるための備えです。
この土台は、人によって形が違います。会社勤めの給与、副業など。いま自分を支えている収入が、その柱に当たります。私たちの場合は、もともと営んでいたWeb制作会社の事業が、その土台になりました。
その柱があったからこそ、森に関わる新しい取り組みを、いくつも試すことができました。そして、試した結果は、一様ではありませんでした。
儲からなかったこと、儲かったこと

森林に関わり、やってみて分かったのは、成り立つ事業と、成り立たない事業があり、その分かれ目は「設計」です。
まず、儲からなかった側から。かつて、自然への関心を広げようと、公園でのイベント出展に力を入れていた時期があります。今あらためて振り返ると、事業としては、リスクばかりが残りました。
目的が「認知を広げること」に寄っていて、イベントブースに来場した方が実際に森へ足を運ぶ、という本業への導線が弱かったと思っています。食材を扱えば衛生上のリスクを負い、当日は多くの人手を持ち出しで動かす。しかも、毎回その場に人が立たなければ成立せず、一度出展して得たものが、次の収支を大きく改善する形になりにくい。
誤解がないようにお伝えしますが、「イベント出展は意味がない」と言いたいのではありません。出展をその場限りの賑わいに終わらせず、本業へつなげて収益を残すための「設計図」を、当時は描けていなかった、ということです。
活動している手応えはあるのに、利用者への価値、本業への接続、次に活かせる再現性、そのどれもが積み上がらない。つまり、事業としての継続的な売上につなげる構造をつくれていませんでした。
しかも、こういった小規模かつ立ち上げ当初の事業では、自分自身の人件費を計算に含めないケースが多々あります。「自分が動けばタダ」で回してしまう。たとえ一見、成り立っているように見える場合でも、実は成り立っていないことがあります。本当の意味での儲かる・儲からないは、自分(多くの場合、会社の代表)の手間まで含めて初めて見えてきます。
一方、思いのほか収益につながったのは、キャンプ場の運営そのものというより、その運営を立て直した「やり方」でした。予約やチェックインの仕組みをデジタル化していったところ、当時はまだ手つかずの領域だったこともあり、最先端の取り組みとして受け取られました。
そこで同じやり方を他の案件にも広げてみると、取れると思っていなかった案件を獲得できました。ひとつの現場で磨いた仕組みは、他の現場へ転用でき、運営の品質も一定に保てる。現場のために始めた改善が、他でも通用する運営ノウハウになり、そのまま収益になっていったのです。
正直に言えば、これは最初から計算していたことではありません。私たちも、目の前の現場をなんとか回そうと手を動かしていたら、思いがけず次の仕事につながった、というのが実際のところです。狙って当てたのではなく、試行錯誤の末に、後から「これは収益になる」と気づいた、という順番でした。
これらはほんの一例ですが、振り返れば、キャンプ場のデジタル化は先ほどのイベント出展に欠けていたものが、すべて揃った例でした。
- 受付の待ち時間や不便という利用者の困りごとを解き(利用者への価値)
- 運営という本業そのものを強くし(本業への接続)
- その仕組みが他の現場にも通用した(再現性)
同じ3つが、こちらでは噛み合っていたのです。だからこそ、「設計」が重要なのです。
人を雇うと、収支の景色が変わる

「設計」に関わる人件費の話に、もう一段だけ踏み込みます。自分ひとりの人件費の次に大きいのが、人を雇うという判断です。
森を使った事業には、他の商売とは違う前提があります。売上そのものが、『自然』に握られていることです。夏の酷暑が続けば、かき入れ時のはずの季節でも足が遠のく。冬は雪と寒さで客足が止まるうえ、設備の凍結を防ぐための維持費だけが出ていきます。天気と季節で、売上の見通しが大きく揺れる。この「読めない売上」の上に、人件費を乗せることの重さが、自然を相手にする事業では際立ちます。
しかも、人を確保すること自体が容易ではありません。「自然豊かな地方なら、都市部より安く人を雇えるのでは」と考える方がいれば、その前提はいったん手放したほうがよいです。理由は単純で、そもそも人がいないからです。自然が豊かな場所に行くほど、人手不足と高齢化を肌で感じます。安く雇えるどころか、来てくれる人を探すこと自体に苦労します。
季節性も、ここに重なります。繁忙期は、多くの事業で同じ時期に集中します。他の業種とも人の取り合いになり、人はいっそう集まりにくい。集めようとすれば、条件を上げるしかありません。たとえば、まとまった日数を続けて出てもらうために賃金の割増をするなどの対応が必要で、その条件は他社とも比べられます。さらに、雇うのであれば通年で働いてほしいのが人情ですが、閑散期の仕事をどう作るかという難題が残ります。
人を増やせば売上が増える、というわけではありません。増やしても回る単価か、閑散期に任せられる仕事があるか。それを見極めないまま人を抱えると、繁忙期に稼いだ分を、閑散期が食い潰してしまいます。もし、人件費を乗せた瞬間に事業が成り立たなくなるなら、その前提のまま続けるべきではありません。
では、どう設計すればよいのか。人に頼りきらず、それでいて利用者に選ばれる形をどうつくるか。ここに、続く事業と続かない事業の分かれ目があります。
「時代の潮流」と「重なり」を読む

流行を追うのではなく、時代と、利用者が求めるものの重なりを読む。それが、続く事業と続かない事業を分けます。
私たちの場合、人手の壁を越える手立てのひとつが、省人化でした。予約やチェックインをデジタル化して人の手を減らす。これは、たまたまコロナ禍とも重なりました。世の中が非対面を求めた時期と合ったことで、無理なく受け入れられたのです。時代の状況と技術に、自分たちを合わせていく。この適合が、収益に効きました。
ただし、注意が要ります。「潮流に乗る」とは、常に最新のものを取り入れることではありません。「誰向けのサービスか」によって、逆のほうがよい場合もあります。人と言葉を交わすことを楽しみに来る方もいます。デジタルな手続きが苦手な方や、当日ふらりと立ち寄りたい方もいます。無人化や事前予約が、すべての利用者にとっての正解ではないのです。
たとえば、利用者層や地域によっては、現金での支払いを希望する方もいます。キャッシュレス化そのものを目的にして支払方法を限定すると、現場の需要とのずれが生じ、売り逃しにつながることがあります。新しさそのものが価値なのではなく、その場所の利用者に合っているかどうかが価値を決めます。時代の流れと、目の前の利用者が本当に求めているもの。その二つの重なりを読むことが、本質だと考えています。
この「重なりを読む」やり方は、他の事業でも同様です。私たちは、埼玉県県民の森で、企業向けのフィールドワークを設計しています。ネイチャーポジティブという言葉が経営の課題として浮かぶ一方で、企業の側は「では自分たちは何をすればいいのか」で足が止まりがちです。
植林か、寄付か、情報開示か。どれも間違いではないのに、自然のなかで関わった実感はつかみにくい。そこで、森で倒木や落ち葉を組んで生き物のすみかをつくる、といった手を動かすプログラムを企業向けに整えました。自然に関わる必要性という時代の流れと、社員が実際に体で理解したいという需要。その重なりに置いた試みです。
こうして振り返ると、重なりを読む対象は、時代とともに移っていきます。かつて業界で誰も目を向けていなかったキャンプ場のデジタル化は、これだけ広まったいま、もう先端ではありません。同じことをしても、差別化にはならないのです。では、次に目を向けるべき場所はどこなのか。それは、森の価値を木材だけに限らず、健康、観光、教育といった多様な広がりで捉え直したときに、見えてきます。どこに次の重なりがあるかを読む。その読み方こそが、これからの分かれ目になります。
最後に。何を得たいかで、事業の形は変わる

「森林ビジネスは儲かるのか」という問いに、万人共通の答えはありません。その人が何を得たいかで、答えが変わるからです。
多くの方は、まず「いくら稼げるか」を考えます。けれど、その前に決めるべきことがあります。自分は、この事業から何を得たいのか。ここが定まらないと、目指すべき規模も、許せる費用も、かけられる時間も決まりません。
大きく育てたい方は、相応の売上と、人に依存しない運営が必要になります。拘束されたくない方は、稼ぎの大きさより暮らしの形を優先する設計になります。田舎の山をなんとかしたい方や、都会を離れて生計を立てたい方は、限られた資金で、堅実に回す設計が要ります。子どもや地域のためにやりたい方は、何を収益源にして活動を続けるかが問われます。
目的が違えば、単価も規模も変わります。個人も組織も「いくらで回るか」を先に決めるという点では、まったく同じ地点に立っています。
そして、目的がどうであれ、続く事業と続かない事業を、最後に分けるものがあります。事業のすべてを、特定の誰か一人に背負わせないことです。
たとえば、うまく回っている事業かどうかを見分けたいとき、ひとつの目安があります。「この現場は、自分がいないと回らない」と、どこか誇らしげに語る人がいないか、です。頼りにされているのは事実で、その働きには頭が下がります。ただ、経営の視点で見ると、そこには危うさがあります。その人が抜けた瞬間に、事業は止まってしまう。そして何より、「いくらで回るか」が読めなくなります。誰かの頑張りに支えられた収支は、来年も同じように回る保証がないからです。
これは、人を雇う事業だけの話ではありません。むしろ、ひとりで回す事業ほど、この危うさは大きくなります。段取りも、判断も、現場の作業も、すべてが自分ひとりに乗っているからです。自分が倒れれば、事業も止まる。だからこそ、規模の大小にかかわらず、役割や手順や判断を、少しずつでも自分の外に置いていく。人に任せる、道具に任せる、仕組みに任せる。そうやって「自分がいなくても回る部分」を増やしておくことが、収支を読める状態をつくり、事業を続けられる形にします。
私たちも、至るところで壁にぶつかり、遠回りをしながら、いまも試し続けている立場です。遠回りをしたのは、当時、こうした知識をまとめて学べる場が見つからなかったからです。そして、それは今もほとんど変わりません。森を活かして事業にするための道筋は、いまだ体系化されていないのが実情です。
だからこそ、『森林活用企画士』という講座を立ち上げました。森林に特化した知識体系、MBA型の経営学、AIを活用した企画演習を通じて、自分の構想を実際の相談や提案に使える事業企画書へ落とし込んでいきます。林業の専門知識や森林の所有は、受講の前提ではありません。森を活かす事業に関心がありましたら、講座の詳細をご覧ください。
『森林活用企画士』の講座詳細はこちらから。
- 森林環境譲与税の譲与額(2024年度):総務省「森林環境税及び森林環境譲与税」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/04000067.html ↩︎

NPO法人 Nature Service
「自然(Nature)に入ることを、もっと自然(Naturally)に。」をテーマに活動する広域のNPO法人です。
Nature Service / Our non-profit organization operates under the theme of “Touching nature naturally”.