キャンプ場での草むしりや草刈りは、蚊やブヨとの戦いでもあります。
草むしりや草刈りの作業をしていて、ふと気づくことがありました。
ラベンダーやチェリーセージの周りを手入れしているとき、なんとなく蚊が少ない。場内に自生しているカキドオシの群落の近くでも、同じような感じがする。自宅の庭で育てているフェンネルの周りでも。庭に生えているドクダミの近くでも。
何度かそういうことが重なったとき、ふとこれらの植物を並べてみました。
ラベンダー、チェリーセージ、カキドオシ、フェンネル、ドクダミ。
分類はバラバラです。シソ科あり、セリ科あり、ドクダミ科あり。でも、全部に共通することがひとつありました。
どれも、強い香りを持っている。
もしかして、この香りが関係しているのだろうか。
そう思って調べてみると、植物の香りについて面白いことがわかってきました。
植物は香りで、昆虫と話している
植物はさまざまな揮発性の化学物質を空気中に放出しています。私たちが「いい香り」「独特な匂い」と感じているものは、実は植物にとって生き残るための手段の一部です。
花の香りは、受粉を担う昆虫などを引き寄せる大切なサインのひとつです。
一方で、植物の香りが関わるのは、受粉だけではありません。虫に葉を食べられた植物は、特定の化学物質を放出し、それを手がかりに寄生蜂や捕食性昆虫など、食害昆虫の天敵がやってくることが知られています。
さらに、こうした化学物質を周囲の植物が受け取ることで、防御反応が促されたり、次の食害に備えた状態になったりする可能性も研究されています。
植物は動けない。だから、香りで周囲と関わりながら生きています。

ラベンダーやチェリーセージ、カキドオシのようなシソ科植物は、葉や茎に精油を蓄える腺毛を持っています。葉をこすると香りが一気に広がるのはそのためです。
一方、フェンネルやドクダミも、それぞれ異なる成分を含み、特徴的な香りを放ちます。そこにも、植物がつくり出す揮発性の化学物質が関わっています。
では、蚊はどうなのか
蚊は、人間が吐き出す二酸化炭素や体温、汗などに含まれる化学物質を手がかりに、吸血する相手を探しています。蚊にとって世界は、まるで「匂いの地図」でできているようなものです。
そう考えると、植物が放出している多様な香りも、蚊が認識している環境の一部なのかもしれません。実際、植物由来の揮発性化合物の中には、昆虫の行動に影響を与えることが報告されているものもあります。
ただし、その影響は昆虫の種類や化学物質の濃度、気温、風向きなどによって大きく変わります。「この植物を植えれば蚊が来なくなる」と単純に言えるものではありません。

私がラベンダーやカキドオシの周りで感じた「蚊が少ない」という印象も、本当に植物の香りのせいだったのか、それとも風通しや湿度など、別の条件によるものだったのかは、正直わかりません。
でも、その小さな「あれ?」から、植物が目に見えない化学物質を使って周囲と関わりながら生きているという事実にたどり着けたことは、なんだか得した気分でした。
葉っぱを揉んでみてください
キャンプ場を歩いていて、草が生えているのを見かけたら、葉っぱにそっと触れて、指先で揉んでみてください。踏んだだけで香りが立ち上がるものもあります。擦るだけでも、ふっと香りが広がることがあります。
その匂いの中には、植物が長い時間をかけて身につけてきた、生き残るための仕組みが隠れているのかもしれません。
五感を使って過ごすというのは、特別なことではありません。何気なく歩いている道で、ふと立ち止まって葉っぱに触れてみる。それだけで、いつもの景色が少し違って見えてきます。
参考文献
- Holopainen, J. K. & Blande, J. D. (2013). Where do herbivore-induced plant volatiles go? Connecting plants to organisms at different spatial scales. Frontiers in Plant Science, 4, 185.
- Heil, M. (2014). Herbivore-induced plant volatiles: targets, perception and unanswered questions. New Phytologist, 204(2), 297–306.
- War, A. R., Paulraj, M. G., Ahmad, T., Buhroo, A. A., Hussain, B., Ignacimuthu, S. & Sharma, H. C. (2012). Mechanisms of plant defense against insect herbivores. Plant Signaling & Behavior, 7(10), 1306–1320.
- Takken, W. & Knols, B. G. J. (1999). Odor-mediated behavior of Afrotropical malaria mosquitoes. Annual Review of Entomology, 44, 131–157.

那須育ち。自然環境保全を専門学校で学び、卒業後は自然と関わりながら働く日々を送りました。今も生き物を見つけると仕事の手が止まってしまうほどの生き物好き。ゲジゲジだけは例外。子どもの頃に那須で過ごした原体験が、今の自分の土台になっていると感じています。だからこそ、この地の自然について正しい知識を伝えていきたい!まずはこの生き物はね、この植物はね、と話しかけるところから始めようと思っています。